コードギアス Hope and blue sunrise 作:赤耳亀
ダモクレスとそれを囲うブレイズルミナスの間では、ランスロット・アルビオンとトリスタン・ディバイダーの闘いが続いていた。
「例えどれだけ機体を強化しようと、君では僕に勝てない!」
真っ二つにされたものを海中から引き揚げ、改造して二刀としたエクスカリバーで、アルビオンの一閃を防いでみせる。
「言ってくれるね!」
ジノはまだ笑みを浮かべてはいるが、その顔に流れる大量の汗と息切れが、彼の劣勢を物語っていた。
直後、ランスロットの一閃が一刀の刀身を砕く。ジノは慌てて距離を取ったが、スザクはその隙を逃さず、トリスタンを腹部から両断した。
「…これが結果だ、ジノ。」
「いいや、こっちの役目は済んだ。」
その言葉に振り返ったスザクが見たものは、トリスタンのメギドハーケンがダモクレスのブレイズルミナス発生装置に突き刺さった姿であった。
「さぁカレン!」
「ありがとう、ジノ!」
スザクがブレイズルミナスに目を向けると、輻射障壁でブレイズルミナスに空いた穴を広げ、内部に侵入してくる紅蓮聖天八極式の姿が見えた。
「スザク、決着を着ける時が来たようね。私達のすれ違いに!」
攻撃力でも劣る。速度でも劣る。防御力でも劣っている。機体性能に圧倒的な差がありながら、それでもライとアドニスは絶妙なコンビネーションで互角の闘いを演じていた。二人の闘い方には共通点が多く、お互いがお互いの動きを予測できる事がそれに拍車をかけているのだ。
「フン…元ラウンズに狂王…。やはり、一筋縄ではいかんな。」
ブラストメーサーキャノンを避け、突き出されたMVSを躱して自身の剣を振るうビスマルク。ランスロット・クラブ・バーディクトはそれを宙返りして躱すと、その後ろから蒼焔がMVSを振るってきた。
「はあぁぁっ!!」
ライの全力の一閃を咄嗟に受け流し、アッシュズ・アトリビュートはすぐにその場を離れる。追いすがってきた二機は再度左右に別れると、挟み込むように、それでいて一瞬だけタイミングをずらして攻撃していた。
「これで!!」
「くらえぇっ!!」
しかしアッシュズは蒼焔のMVSを自身の剣で、バーディクトのMVSをブレイズルミナスを発生させた拳で受け止めると、すぐにその二機を弾き返した。
「どうした!?この程度か!?」
アッシュズが掌からのマイクロメーサーキャノンを放つと、それを避ける為に二機は距離を取る。直後にビスマルクはバーディクトに狙いを定めると、そちらに超高速で突撃した。
「チィッ!!」
アッシュズの連撃をなんとか受け流すアドニス。直後に蒼焔がアッシュズの下方から斬りかかる事で窮地を脱したが、闘いの行方は徐々にビスマルクに流れつつあるのが両者には分かっていた。
「アドニス、まだ諦めるなよ!」
「分かっている!貴様こそ、足を引っ張るなよ!」
両機はエナジーウイングを広げると、同時に刃状のブレイズルミナスを放つ。しかしその全てを捌いたビスマルクは、再度距離を詰めて蒼焔に向かっていた。
「そう来るだろうと思っていたよ!」
それを見たライも蒼焔を前進させてアッシュズとの距離を詰めるが、斬撃の直前で上空へと逃げた。そのすぐ後ろからは、バーディクトがアッシュズに迫っていた
「ぬっ!?」
「せぁっ!!」
一瞬動揺するビスマルクに、二刀のMVSを振るうバーディクト。それを受け止めたアッシュズの上空から、蒼焔が超高速で斬撃を落とした。
「甘いっ!!」
足首にブレイズルミナスを発生させ、蹴り込む事でそれを逸らしてみせるビスマルク。その直後に両機に向けて刃状のブレイズルミナスを放つ。蒼焔とバーディクトはなんとか躱すが、アッシュズは再度距離を詰めてきていた。
ダモクレス屋上庭園。階段を登り、そこへ上がってきたルルーシュは、ある理由からフレイヤの制御スイッチを見つけ、それによって車椅子へ戻ることの出来たナナリーと対峙していた。
「お兄様、ですね…」
「そうだよ。」
歩を進め、ナナリーの元へ近付くルルーシュ。徐々に近付いてくる足音に、ナナリーは制御スイッチを強く握った。
「お兄様の目的は、このダモクレスの鍵ですか?」
「ああ、それは危険なものだ。お前には…」
「だからです。もう、目を背けてはいられないから。」
ナナリーが、ゆっくりと両目を開く。その両目で、ルルーシュを真っ直ぐに見つめた。
(!!…あいつのギアスを破った!?自分の意思でか!?)
予想外の事態に驚きを隠せないルルーシュ。彼女が目を開いた事は、このような場面でなければ飛び上がって喜んだであろう出来事だが、今この場ではいかに彼女がルルーシュを止めたいと強く思っているか、ということの証であった。
「お兄様、私にもギアスを…使いますか?
8年ぶりにお兄様の顔を見ました。それが人殺しの顔なのですね…おそらく私も、同じ顔をしているのでしょうね。」
「では、やはり今までのフレイヤはお前が…?」
「はい。止めるつもりでした。お兄様を。例え、お兄様が死ぬことになったとしても!ですからお兄様にフレイヤを、このダモクレスの鍵をお渡しすることはできません!お兄様が…ギアスを使われたとしても!」
ナナリーの自身に対する意思の強さに、ルルーシュは思わず足を止めた。ナナリーの為に闘ってきた彼にとって、彼女にギアスをかけて、意思をねじ曲げるという選択肢を取る訳にはいかなかったからだ。
「カレン、どうしても邪魔をする気か…?」
ダモクレス外縁部で向き合う紅蓮聖天八極式と、ランスロット・アルビオン。
二人は最後の闘いを前にして、少しだけ言葉を交わす事を選んでいた。
「スザク、私はあなたを誤解していた。やり方は違うけど、あなたはあなたなりに、日本の事を考えていると思っていたの…」
「自分は…自分達には、やらねばならない事がある。」
紅蓮がゆっくりと右腕を持ち上げた。
「そう、そんなに力が欲しいの?だったら…」
アルビオンも、スーパーヴァリスを紅蓮に向けた。
「だったら?」
「あなたはここにいちゃいけない。あなたを倒し、ルルーシュを止め、ライを取り戻す!」
「それは、させない!」
両機はエナジーウイングを発生させると、同時に飛翔し、空中戦を展開した。
「お兄様に、この世界を手にする資格はありません。ゼロを名乗って、人の心を踏みにじってきたお兄様に…」
「では、あのまま隠れ続ける生活を送れば良かったのか?暗殺に怯え続ける未来が望みだったのか?お前の未来の為にも…」
ルルーシュの言葉に、思わずナナリーは車椅子から身を乗り出した。
「いつ私がそんなことを頼みましたか!?私は、お兄様と二人で暮らせれば、それだけで良かったのに…」
「しかし!現実は様々なものによって支配されている。抗う事は必要だ!」
「その為に!レジスタンスとして闘ってきたのよ!」
紅蓮が放つ多数のミサイルを、アルビオンはブレイズルミナスで防ぎつつ、距離を詰める。
「組織を使うという手だってあった筈だ!」
「その組織に、システムに入れない人はどうするの!?それは違うって、どうやって言えばいいのよ!?」
紅蓮のハーケンが、アルビオンのスーパーヴァリスを貫いた。
「高いとこから偉そうに言うな!!」
紅蓮の輻射波動砲弾をブレイズルミナスで受け流し、MVSを両手に構えて再び距離を詰める。
「組織に入るしかない人はどうなる!正義とは…!!」
MVSの一撃により、紅蓮のエナジーウイングを一つ破壊する。しかし紅蓮もほぼ同時に左腕でアルビオンの右ウイングを掴み、背中から引きちぎった。
ダモクレスに降り立った紅蓮とアルビオン。着地と同時に放たれた蹴りを受け、アルビオンは一段下の地面に叩き落とされる。
「人は、世界は…こんなにも思い通りにならない!」
体勢を建て直したアルビオンは、両腕のMVSを構える。
そこへ紅蓮がハーケンを放ち、MVSをどちらも弾き飛ばした。
「だから、思い通りにしようって言うの!?それは!!」
「それは卑劣なのです。人の心をねじ曲げ、尊厳を踏みにじるギアスは!」
ナナリーはルルーシュを否定する。しかしルルーシュも、ここまで来て退く訳にはいかなかった。
「ではダモクレスはどうだ?強制的に人を従わせる、卑劣なシステムではないのか?」
「ダモクレスは、憎しみの象徴になります。」
「えっ…?」
ナナリーが考えている事に、自身が何を考えてスザクやライ達と世界を手に入れようとしているのか、それに通じるものを感じたルルーシュは思わず目を見開いた。
「憎しみは、ここに集めるんです。みんなで明日を迎える為にも…」
(そうか…ナナリー、お前も…なら!)
ルルーシュは、両目のコンタクトレンズを外した。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる!ダモクレスの鍵を渡せ!!」
ギアスが発動し、ナナリーの腕は彼女の意思とは関係なく、ルルーシュへ向けて持ち上がろうとしていた。それに気付いたナナリーは、抵抗する意思を見せる。
「い、いや…お兄様に、渡してはいけない!これ以上、罪を…!!」
しかし、ついにギアスが彼女の意思を支配した。彼女は微笑みを浮かべ、鍵をルルーシュに差し出した。
「どうぞ、お兄様。」
「分かっている筈だぞアドニス。私を倒したところで、そのあとに待っているのはシュナイゼル殿下の治める世界だ。恐怖で人を支配し、世界中の人々を駒として定めた世界。そんなものを認めるのなら…」
「だからと言って、消去法で貴様の理想とする世界を受け入れるつもりはない!貴様が今手にしているものは、恐怖による支配の象徴ではないか!」
バーディクトから四基のハーケンが放たれる。アッシュズはそれを難なく避けるが、そのハーケンにさらに別のハーケンがぶつかり、もう一度アッシュズへ向けて飛来した。それをブレイズルミナスで防御したビスマルクは、別のハーケンを放った人物、ライへと目を向けた。
「貴様もだ、狂王よ。貴様は狂王と呼ばれる以前に皆が平等に暮らせる国を作ろうとしていた筈。何故シャルル皇帝が目指した等しく優しい世界を否定した?」
言いつつ、蒼焔に突撃するアッシュズ。ライは流麗な動きで攻撃を受け流しながら、彼の問いに答えた。
「シャルル前皇帝にも言ったが、嘘のない世界とは、理性のない世界、ただの退化だ!それを未来とは言わない!ただの、昨日の繰り返しだ!」
「だが、貴様やルルーシュの行いも一方的な押し付けではないか!私がかのコードを引き継いでみせる!そののちに実現せんとする世界を!否定する権利が貴様にあるのか!?」
アッシュズの拳が蒼焔を捉える。ライはそれに抵抗せずに後退すると、横回転しながらMVSを薙ぎ払った。同時に、アッシュズの後方からバーディクトがMVSを振り下ろしている。
「私の世界を否定したくば、勝ってみせろ!帝国最強の騎士である、この私に!」
アッシュズは両機の攻撃を受け止め、簡単に弾き返した。
朝方に目が覚めたので更新します。