コードギアス Hope and blue sunrise 作:赤耳亀
あの戦いから二ヶ月後、ルルーシュ皇帝直轄領となった日本では、ブリタニア皇帝という立場と平行して黒の騎士団CEOとなり、超合衆国第二代最高評議会議長となったルルーシュによる反乱分子処刑前の戦勝パレードが行われていた。
ルルーシュを乗せた車両の周辺には、藤堂や扇などの黒の騎士団員、オルドリンやレオンハルトらグリンダ騎士団員やオルフェウス、シュナイゼルが磔にされている。
そして、彼の座る車両の前方部分には、手足を鎖で繋がれ、絶望の表情で座り込むナナリーの姿もあった。
「こんなの、ただの独裁だ…逆らう者は全て殺して…」
「シッ!誰かに聞かれたら、一族皆殺しにされるわ…」
そのパレードを眺める観衆は、小声ではありながらもルルーシュを否定する言葉を発している。それは、放送を行うスタジオでも同じであった。
「こんなものを正義として報道しなきゃならんとは…」
パレードの様子を映すモニターに背を向け、ミレイは涙を堪えていた。
また、沿道にはリヴァルとシャーリーの姿も見える。
「ルルーシュ、これがお前のやりたかった事なのかよ…世界を、みんなを支配して…」
「ルル…どうして…?」
リヴァル達がいる場所とは少し離れたビルには、ブラインドの隙間から様子を伺うコーネリアやギルフォード、ヴィレッタらの姿があった。コーネリアはシュナイゼルに撃たれた傷が癒え、ギルフォードは東京疎開でのフレイヤから辛うじて助かっていたのだった。彼女らはパレードに異変や隙があれば、飛び出してルルーシュを殺害するか、せめて人質だけでも救出する算段である。
「ハッ…!扇!!」
磔にされる扇の姿を見たヴィレッタが思わず飛び出そうとする。しかし彼女の肩を、コーネリアが掴んで止めた。
「今出ていけば奴等の思うつぼだ。」
「しかし…」
反論を口にしようとしたヴィレッタに、観衆の驚く声が聞こえる。再びブラインドの隙間からパレードの様子を観察する。その観衆達の視線の先には、黒いマントを羽織り、黒い仮面を被った男、ゼロが立っていた。
『…ゼロ!?』
ヴィンセント・ウォードに騎乗する兵士が思わず声を上げる。それに気付いた人質達も、その言葉につられてそちらを向いていた。
「ゼロ…?」
「嘘よ!ルルーシュはあそこに!?」
ナナリーに続き、カレンも驚きを露にする。彼女の視線の先では、ルルーシュも驚愕の表情である。
但し、それを見たカレンは何が起きているのかをほぼ正確に理解していた。
「まさか、ルルーシュ達がやろうとしたことって…」
彼女らの見る前で、ゼロは駆け出した。
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「ナナリー、大丈夫かい?」
収監されているナナリーの面会に訪れたのはライだ。彼は部屋に入って目の前の椅子に腰掛けると、目の前のテーブルに手を鎖で繋がれたナナリーに声をかけた。
「ライさん…これがあなた達の望みなのですか…?」
沈んだ声で、ナナリーが問い掛ける。ライはそれに答えず、自分が伝えるべきだと思った事だけを口にした。
「ナナリー、君には辛い思いをさせたね…けれどナナリー、君の優しさは強さだ。それを、ずっと忘れないでいてほしい。君は、この先の世界に必要な人間だよ。」
近々処刑されるであろう自分に向けて、ライがそう言った意味が理解できず、ナナリーは顔を上げた。その彼女の手に、ライは桜の折紙を握らせる。
「さようなら、ナナリー。」
ライは立ち上がると、振り返る事無く部屋を後にした。扉を閉めた彼に、警備兵が声をかける。それは隣の部屋にもう一人、彼が面会を希望した人物を連れてきたという知らせであった。
彼はその部屋の扉の前で立ち止まると、大きく息を吐いてから扉をノックした。
「……入るよ、カレン。」
扉を空けると、泣き続けたのか目の周りが腫れ上がったカレンが、ナナリーと同様にテーブルに手首を繋がれた状態で座っていた。
「…ライ、あなたは一体何を考えているの?」
カレンの言葉に、ライは真剣な表情で頭を下げた。
「カレン、僕はただ守りたかっただけなんだ。自分が大切だと思う人達を…だけど君には、手遅れだとしても謝っておきたかった。君を裏切ったこと、そして君の敵に回ったこと…結局こうなってしまったのは、全て僕のせいだ。でも…」
ライはそこで、一度言葉を切る。彼女に自身の本心を伝える為、大きく深呼吸をした。
「信じてもらえないと思うけど、僕は君を心から愛している。君には幸せになって欲しいと、本心からそう思っている。そしてそれには、僕の存在が…」
「何を…」
カレンが顔を上げると、ライの目にはギアスが宿っていた。
「…だから、さよならだ。カレン。」
「嫌よ……嫌!やめて!!私からあなたを奪わないで!!ライ!!」
彼女の抵抗を無視して、ライは自分の事を忘れるよう、彼女にギアスをかけた。
「ダメ…忘れたくない!!どうして…!!ライッッ!!」
そのギアスに、カレンはなんとか耐えようとした。しかし数秒の間を置いて、彼女は何事も無かったかのように顔を上げる。ライの顔を見ると、カレンは眉を上げて睨み付けた。
「…何よ、こんな所へ連れてきて。今更聞きたい事なんてないでしょ!?」
ギアスが効果を発揮した事を確認すると、ライはゆっくりと席を立った。
「さようなら、カレン。」
彼女に背を向け、扉の前でライは呟いた。
「……大丈夫か?」
部屋を出ると、そこにはC.C.が立っていた。彼女は右目を押さえるライに向けて、心配の言葉を口にしていた。
「これでギアスを使うのは最後だ。暴走したとしても…」
「そうじゃない。……カレンの事だ。」
彼女に指摘され、ライは自身が涙を流している事に気付いた。
「……仕方ないさ。あの時から覚悟していた事だ。それより、ルルーシュ達は…?」
ライは涙を拭くと、C.C.に尋ねた。彼女は出口を指差すと、ライの問いに答えた。
「この先の教会だ。しかし、本当にお前は…」
「ああ、これは僕がやるべき事なんだよ。だから、君ともお別れだな…Cの世界で、また会えるといいけど。」
出口に向かうライの背中を、C.C.は無言で見つめ続けた。
「やるのか?どうしても…」
「予定通り、世界の憎しみはこの俺に集まっている。後は俺が消える事で、この憎しみの連鎖を断ち切るだけだ。」
教会の中では、ルルーシュとスザクが向かい合っていた。ルルーシュは手に持ったゼロの仮面を、スザクに向けて差し出す。
「黒の騎士団には、ゼロという伝説が残っている。シュナイゼルもゼロに仕える…これで世界は軍事力ではなく、話し合いというテーブルにつく事が出来る。明日を迎える事が…」
スザクはそれを受けとると、仮面を見ながら言葉を返した。
「それが…ゼロレクイエム…
Cの世界で僕らは知った。人々が明日を望んでいることを。」
「フッ…なぁスザク、願いとは、ギアスに似ていないか?」
「えっ…?」
「自分の力だけでは叶わないことを、誰かに求める。俺は人々を、願いという名のギアスにかける。世界の明日の為に…」
ルルーシュはそこまで言うと、スザクに背を向けた。教会の扉を開けて外へ出た所で、彼を待っていたライを見付けていた。
「ライ、お前には最後まで苦労をかけたな…カレンの事も、結局は俺のこれまでの行いが原因だ。」
「それは違うよルルーシュ。僕が選んだ事さ。君と供に、歩む道を…」
ライは彼に微笑んでみせる。つられてルルーシュも口の端が上がるが、直後にライは表情を引き締めた。
「だから…」
ルルーシュが気付いた時には、ライの拳が自分の鳩尾にめり込んでいた。
彼の行動が理解できなかったルルーシュは、その腕を掴みながら口を開く。
「ライ…お前っ…」
しかし、そこで気を失うルルーシュ。ライは彼の身体を抱き止めると、待機していたロロを呼び、ルルーシュを預けた。
「ロロ、ルルーシュを頼んだよ。」
「ライさん、これでお別れなんて…」
目に涙を溜めるロロに、ライは彼に伝えるべき言葉を告げる。
「ロロ、君は、これからは自分を大事にして生きて欲しい。ルルーシュと供に生きるのも、別々に生きるのも君の自由だ。君の人生は、君だけのものなんだから。それを、ずっと忘れずにいてくれ。」
ロロは頷いて、ルルーシュを担いでその場を後にした。それを見届け、その場を去ろうとしたライに、教会から出てきたスザクが声をかける。
「本当にいいのかい、それで…?」
「未練はある。だから、未練はない。僕は、この二年間で僕を助けてくれたみんなの為に、この命を使うと決めたんだ。それに…結局は君に一番辛い役割を押し付ける事になる。」
スザクはライの言葉に無言で首を振る。その姿を見たライは、右手を上げて彼の肩を軽く掴んだ。
「スザク、今までありがとう。それと、もう少しだけ僕の我儘に付き合ってくれ。」
「…ああ。僕らは、共犯者だから。」
スザクの言葉に頷くと、ライはゆっくりとその場を後にした。その彼を追うように、ロックとルーンが彼の横に並ぶ。
「これは、本当にお兄様がやるべきことなの?私には…」
「僕は、君やロック、スザクやルルーシュも、そしてカレンにも生きて欲しい。その願いを叶える為には、こうするのが一番なんだよ。だからルーン、これでお別れだ。」
ライの言葉を受け、いつものふざけた調子を見せるどころか泣いて彼にすがり付くルーン。彼女の頭を撫でながら、ライはロックに視線を移した。
「ロック。君にも、世界の事を頼みたい。この後に一時的な平和が訪れたとしても、それを拒む人達だっている筈だ。そうなれば、君やスザクの力は必ず必要になる。だから、君にはまだ闘って貰いたい。」
ロックは彼の言葉を受け、その場に膝を付いて頭を下げた。
「イエス・ユアマジェスティ。」
その様子を確認したライは、彼に対しても別れの言葉を口にする。
「さようなら、ルーン、ロック。」
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ウォードから放たれたアサルトライフルの弾丸を、走りながら避けるゼロ。彼はウォード隊の間を飛び抜けると、ルルーシュが乗る車両の前に降り立った。それを見たジェレミアが、部隊に命令を下す。
「撃つな!私が相手をする!」
しかしゼロは、駆け寄ったジェレミアを踏み台にし、ルルーシュの前に降り立った。
(ゆけ、仮面の騎士よ…)
ジェレミアの視線の先では、ゼロがルルーシュの構えた銃を弾き飛ばしていた。
そしてゼロは剣を引くと、彼の胸にその剣をゆっくりと突き刺した。
「…スザク、世界と、ルルーシュを頼んだ。」
ルルーシュの仮面を被ったライが、ゼロの仮面を被ったスザクに告げる。彼は自身が過去に作ってしまった今の世界の基盤を、自身がルルーシュの代わりに死ぬ事で憎しみの連鎖を断ち切り、そして新たな世界の基盤となるべく行動したのだ。そして一人でも多く、自身が大切に思う人を生かす為の選択でもあった。
「君だけを救えなかったのが、僕にとっては…君には、すまないと思っている。しかし、君にしか頼めない。人並みの生活を捨て、枢木スザクという名前も捨て、ゼロとして…この世界をずっと…」
「そのギアス、確かに受け取った…!」
スザクは彼から剣を抜くと、彼の横に移動した。ライはフラフラと歩くと、ナナリーの元へと転がり落ちていった。
「…お兄様?」
ナナリーは彼の手に触れる。目が見えなかった事により、触れる事で他者の思いや感情を読む力を持つ彼女は、目の前の人物の正体や彼らが起こした行動の理由を理解していた。
「ライさん…?どうして!?それは、私が背負うべきものなのに!まだ、まだ何もあなたに!何も返せていないのに!!」
ナナリーは懐から桜の折紙を取り出すと、それを彼の右手に握らせる。
「ナナリー…ごめんね…ルルーシュを、たのんだ…」
ライは左手を空に向けてゆっくりと上げると、最後の言葉を口にした。
「ああ…世界は、こんなにも…きれい、で…」
ライの左手が力なく落ち、それと同時に彼は意識を失った。その直後、コーネリアに率いられた部隊が突撃をかける。ライの身体をその場に残し、ジェレミアは即座に部隊を撤退させた。
コーネリアやヴィレッタは、次々と人質を解放してゆく。そんな中で一人だけ、フードを被った男がライの元へと歩み寄った。
「ライ、君は幸せになれたのかな?君の世界は、最後まで色を保っていたかな…?私の願いを…人々が幸せになる為に抗う姿を見る事が私の…」
彼はライの前に立つと、淡々と言葉を投げ掛けた。ライが動かない事を確認すると彼の身体を背負い、誰にも気付かれる事なくその場を後にした。そこに、狂王という呼び名だけを残して。