コードギアス Hope and blue sunrise   作:赤耳亀

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episode51 ALL STANDARD IS YOU

ライがカレンの元へ戻ってから、一年程が経った。

 

「ロック、そのオレンジはまだ。そっち側の木から取っていって。」

 

彼の背中にしがみついたままのアーニャは、背中から彼に指示を飛ばす。

 

「…アーニャ、いい加減離れてくれ。動きづらい。」

 

「…嫌。私の事をちゃんと一人の人として、一人の女の子として見てくれるまで、離さない。」

 

アーニャのわがままに、ロックは苦笑する。

 

「そうは言うがアーニャ、俺は既婚者だぞ。例え死別であったとしても、心はまだカミラにあるんだ。それに、歳も離れている。ちゃんと自分の未来を考えられる相手を探せ。」

 

「……今は、それでもいい。でも、いつか振り向かせてみせるから。それに、姉さんだってロックの未来を心配してると思う。」

 

ロックの言葉に対し、自身の本当の思いを伝えるアーニャ。ロックは自分の頭をガリガリとかくと、中腰になって彼女を降ろした。

 

「とにかく、今は収穫を手伝え、アーニャ。話はまた、夕方にでも聞く。」

 

そう言って、また収穫を始めるロック。その背中に向かって、アーニャは呟いた。

 

「…絶対に、振り向かせてみせるから。」

 

二人の様子を、少し離れた所から、ジェレミアとロロが微笑みながら見ていた。

 

 

 

 

「紅月総司令、本日の訓練はこれで以上です。」

 

黒の騎士団に残ったアキトの言葉を聞き、頷くライ。彼は修復された斑鳩のブリッジにて、自身の仕事を終わらせた上で訓練の様子をモニターで見ていたのだ。

なお、星刻は療養の為に黒の騎士団を去った。ラクシャータの医療サイバネティック技術により、予定よりかなり長く生きられる可能性が出てきた為、今は治療に専念している。

それによって藤堂が一時的にトップに立ったのだが、彼は組織の骨格だけ作ると早々にその座を降り、新たな指令官にライを指名した。当初ライはそれを断ったのだが、藤堂の粘り強い説得もあってその座に着く事を決意した。それにあわせて、藤堂は副司令の位に着いている。

それに対して各国代表からの反対も多数あったものの、その一人一人を藤堂が粘り強く説得して回ったこと、実際にライと会ってその本当の人柄を知ったことで了承される運びとなった。

また、現在では黒の騎士団は戦争鎮圧だけでなく、要人の警護や、講和締結の仲介も行う、いわば世界の警備機構に近い状態の組織となっている。

 

「シミュレーターに誰かまだ居残っているな。」

 

モニターをそちらへ切り替えると、いつものように二人で競う朝比奈とルーンの姿があった。朝比奈はルーンをかなり気に入っているようで、修行という理由をつけてはルーンを連れ出している。そしてルーンも、満更ではないようだった。

 

「後は報告書を閲覧して、今日の業務は以上かな?久々に、家に帰れそうだよ、ジュリアス。」

 

ライは、後ろに立っている男に声をかけた。彼はジュリアス・キングスレイ。先日黒の騎士団の戦略顧問となった男で、黒い髪を背中まで伸ばし、大きめのサングラスをかけている。

 

「ああ、しばらく顔を見てないんだろう?今日は帰ってやるといい。後の仕事は、私がしておこう。ダモクレスも無事この星の衛星軌道を離れた今、やるべき事は余り無いがな。」

 

「助かるよジュリアス。それと、シャルルのコードは無事に継げたのかい?」

 

ライが問うと、ジュリアスはシャツのボタンを外し、胸元を彼に見せた。

 

「ああ、成功した。何故かギアスは使えるままだが…しかし、俺が黒の騎士団の戦略顧問でいるのはお前が総司令でいる間だけだ。後はC.C.と二人で、世界の行く末を観察させてもらうとでもしよう。」

 

ジュリアスは笑うと、自身の席に座ってパソコンを立ち上げた。その姿を見ながら、ライは彼に告げた。

 

「まぁ、シャーリーやリヴァルには近い内に説明だけでもしてやってくれ、ルルーシュ。それにしても、コードを得たのにギアスが使えるとは…検証するわけにもいかないが…」

 

「まぁ、使える内は使わせて貰おう。シャーリー達の事は分かってはいるが、ルルーシュという名はもう捨てた。ジュリアス・キングスレイとして、彼らに会うのは、やぶさかではないがな。」

 

彼の言葉に苦笑すると、ライは後を頼むと告げてブリッジを後にした。

 

 

 

 

 

 

「まさか私の人生で、こんなものを着る日がくるとは…」

 

ウエディングドレスの試着に訪れているノネット。彼女は鏡を前に、自分の姿を凝視していた。

 

「これは、似合ってるのか?私にはよくわからんなぁ…おーい、アドニス!似合っているか見てくれ!」

 

ノネットは、パーテーションの向こうでタキシードを試着している筈のアドニスに声をかける。

 

「い、いやノネット、こういうのは式で初めて披露するもので、俺にこの場で見せたら意味がないだろう。」

 

パーテーションから出てこようとしないアドニス。それを受けて、ノネットはズカズカとそちらへ入っていった。

 

「いやいや、自分ではわからんのだよ。お前が判断してくれ、アドニス。」

 

アドニスの言葉を無視して彼の前に現れたノネット。彼女の純白のドレス姿を見て、アドニスは一瞬言葉を失った。

 

「あ、いや、その…ノネット。すごく、綺麗だ。」

 

「…そうか。ならこれにしよう!ああ、お前もその姿、似合っているぞ。」

 

ノネットの言葉に気恥ずかしくなり、顔をそらすアドニス。そんな様子を、ノネットは笑いながらさらに言葉を続けた。

 

「その調子で、マリーの時も誉めてやれよ。」

 

「俺には、未だにこれが正解なのか分からないんだが、本当に良かったのか?」

 

アドニスの問いに、ノネットは自分の意見と共にマリーベルの思いも代弁した。

 

「私もあいつも納得してるんだ。今さらお前が気にする事はない。それにシャルル皇帝の事を考えてみろ。あの方に何人妻がいたと思ってるんだ?」

 

「いや、それとこれとは…」

 

まだ何かを言おうとするアドニスを、ノネットは無理矢理遮った。

 

「いいのさ。別に自分達が納得しているなら周りから何を言われようと問題はあるまい。さ、ドレスも決まった事だし、あとは打ち合わせだな。」

 

ノネットが着替える為にパーテーションの向こう側へ戻ってゆく。このところ二人に振り回されているアドニスであったが、それも悪くないと思える自分をどこか気に入っているのも事実であった。

 

 

 

 

 

 

カレンは大学生になった。

彼女は消滅した東京租界から首都機能を移した横浜に部屋を借り、実家を出ている。意外な事に、それにかかる費用は全て彼女の父が負担してくれた。

なお、彼女の生母も保釈を許され、ここから程近いアパートに一人暮らしをしている。

当初はこの部屋でライと同棲するつもりだったのだが、彼が黒の騎士団総司令となったことで、なかなか生活を共にする事が出来ないのが彼女の悩みだ。

余談だが、日本の首相となったことで忙しくなった扇は、ライを自身の秘書官とするつもりでいた。しかし先に藤堂にライを取られてしまった事を、彼は非常に悔しがっていた。

現在はライが一週間程帰っていないので、部屋は散らかり放題だ。それでもこれから帰るという連絡が入ったので、カレンはどうにか部屋を綺麗にしようと奮戦していた。

 

「もう…整理整頓って本当に苦手だわ…」

 

ライが帰ってくれば、部屋の片付けは彼に任せてもいいのだが、今は忙しくしている彼に負担をかけない為に自分でどうにかしようとしていた。その最中、ふと自分の左手に目が行く。薬指には、照明を反射する指輪が光っていた。

彼女は手を止め、目を細めてその指輪を眺める。

 

(ライ、早く帰ってこないかな…?)

 

指輪を眺めながら、片付けが終わっていない事も忘れてカレンはライの事を考える。すると、玄関の扉の鍵を開ける音が彼女の耳に入った。思考を中断し、玄関へ迎えに出るカレン。

 

「ただいま、カレン。」

 

「おかえり!ライ!」

 

彼の姿を認めたカレンは、早足で駆け寄っておかえりのキスをする。ライも空いている左手で彼女の顔に手を回し、それに応えた。

唇を離すと、カレンは少し頬を染めて視線を逸らし、右手で自身の唇に触れる。その仕草に一瞬心を奪われつつも、ライはまず謝罪の言葉を口にした。

 

「しばらく帰れなくてごめんね。それと、夕飯の材料は買ってきたから。」

 

右手に持つ買い物袋を示すライ。二人で食事を取る時は其々が交互に料理をすると決めており、今日はライの番だったのだ。カレンは忙しくしている彼の為に自身の手料理を振る舞おうかとも考えていたのだが、一方でライの作る料理は彼女の中でも楽しみの一つになっている。なので、当番を変わって欲しいと言われた時以外は彼に任せる事にしているのだ。

ちなみにだが、両者の休日が被った際は仲良く二人で作っている。

 

「とりあえず、手を洗ってくるよ。そのあと夕飯の支度をするから、少し待っててくれるかな?」

 

「ありがとう。楽しみにしてるわ。」

 

そうライに伝え、片付けの続きに取り掛かるカレン。しばらくしてふとキッチンを見ると、中腰になって足元のフライパンを取ろうとしている彼の姿が目に入った。カレンはその後ろ姿に吸い寄せられるように、ライの元へと近付いてゆく。

 

「うぉっと…!ビックリしたよ。」

 

中腰のライに後ろからのしかかるカレン。その体勢で満面の笑みを浮かべる彼女を見て、ライもつられて笑顔を浮かべた。

 

「ねえライ。あなたを愛しているわ。」

 

「僕も君を愛しているよ、カレン。」

 

二人は手を取り合うと、再び唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

黒の騎士団

総司令 兼 斑鳩艦長 紅月 ライ

副司令 藤堂 鏡志朗

事務総長 南 佳高

戦略顧問 ジュリアス・キングスレイ

参謀長官 周 香凛

作戦補佐 レイラ・ブライスガウ

技術開発室室長 ラクシャータ・チャウラー

軍事総責任者 兼 零番隊隊長 アドニス・ウィル・ブリタニア

一番隊隊長 朝比奈 省吾

二番隊隊長 千葉 凪沙

三番隊隊長 ジノ・ヴァインベルグ

四番隊隊長 日向 アキト

五番隊隊長 杉山 賢人

六番隊隊長 ルーン・ウォーカー

七番隊隊長 佐山 リョウ

八番隊隊長 アシュレイ・アシュラ

九番隊隊長 オルドリン・ジヴォン

十番隊隊長 レオンハルト・シュタイナー

十一番隊隊長 マリーベル・メル・ブリタニア

他十五番隊まで

 

第一特務隊隊長 ノネット・エニアグラム

第二特務隊隊長コーネリア・リ・ブリタニア

第三特務隊隊長 オルフェウス・ジヴォン

第四特務隊隊長 篠崎咲世子

 

特別協力者

紅月 カレン

ロック・エニアグラム

ジェレミア・ゴットバルト

アーニャ・アールストレイム

ロイド・アスプルンド

セシル・クルーミー

ロロ・ランペルージ

皇神楽耶

シャーリー・フェネット

ゼロ

 




当初はライが死んで、そのおかげでルルーシュ達がおおっぴらにではないにせよ平和を謳歌でき、ライの事を思い出したカレンがずっと彼を忘れないという形で終わりにしようと考えていたのですが、ちょっと暗すぎるなと感じたのでこういった形に変更しました。これで良かったのか自分では迷うところですが、2人には幸せに暮らして欲しいという望みも込めて、この形にさせて頂きました。
あと二話ほど小話を投稿させて頂きます。

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