コードギアス Hope and blue sunrise   作:赤耳亀

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「…大学に行くのに反対はしない。しかし…ここから出て暮らすというのには、まだやるべき事があるんじゃないのかな?」

 

形式上あくまで報告だけはしなければならないと考え、父であるヨアヒムに家を出る事を告げたカレンは予想外の言葉に戸惑っていた。彼女の反論を待たず、彼はさらに言葉を続けた。

 

「同棲するつもりなのだろう?これまで何をしているのか分かっていながらあえて自由にさせてきたが、私に断り無くするのは順番が違うと思わないか?」

 

「今更父親面して…」

 

ようやく反論を口にしたカレンを手で制し、ヨアヒムはさらに続ける。

 

「私は反対している訳ではない。お前の気持ちや考えも分かっているつもりだ。これまでこの家の中に居場所を作ってやれなかった事は確かに悪いと思っている。だが、かといって踏むべき手順を違えるべきではないと言っているのだ。まず、その彼を連れてきなさい。」

 

「…私は許可が欲しい訳じゃない。これはあくまで報告よ。」

 

怒気を含む彼女の言葉に、ヨアヒムは表情を変える事無く告げる。

 

「とにかく、まず会わせなさい。」

 

彼の言葉を受け、カレンは渋々ライに連絡を取った。

 

 

 

_________________

 

 

 

 

ライと彼女の父の都合が合ったのはそれから一週間程経ってからの事であった。現在黒の騎士団の小型航空空母を寝床にしている彼とはアッシュフォード学園の前で待ち合わせをして彼女の家に向かったのだが、学生服に身を包んだライは些か緊張した面持ちであった。

 

「ライは何も言わなくていいから。これはあくまで報告で、許可を得るつもりはないの。」

 

「でも、君のお父さんの言う事はもっともな事だからね。裏を返せば、僕から君に頼むべき事だったよ。」

 

話しながら彼女の家に着き、使用人が父の書斎へと案内する。扉を開けようとする彼女を制し、まずはライが扉をノックしてからドアノブを回した。

 

「失礼します。」

 

「…入りたまえ。」

 

彼女の父は奥の椅子に腰掛け、対面となる位置には二つの椅子が置かれている。

 

「私がカレンの父、ヨアヒム・シュタットフェルトだ。そこに掛けたまえ。」

 

「ありがとうございます。」

 

ライはまず礼を言い、頭を下げてから椅子に座った。そして、事前に考えていた自身が言うべきだと思う言葉を口にする。

 

「この度は時間を取って頂きありがとうございます。本来なら僕の方から…」

 

「口上はいい。そんな事を聞きたいが為に呼んだ訳ではないのだ。」

 

「ちょっと!そんな言い方!」

 

思わず父に食って掛かろうとするカレン。しかしそれを、ライが押し留めた。

 

「…カレン。早々で悪いが、彼と二人にしてはくれないかな?」

 

その様子を見たヨアヒムがカレンに告げる。思わずライの方へと目を向けた彼女であったが、ライはただ頷く事で彼女に自分の意思を伝えた。

 

「…失礼な事を言ったら、承知しないからね!」

 

大きな音を立てて扉を閉め、自分の部屋へと向かうカレン。それを確認して、ヨアヒムが深く息を吐いてから口を開いた。

 

「まぁ、見て貰って分かる通り、親子の仲は良好とは言えない。それは私が普段家を空けている事が多く、彼女の継母に当たる女性と生母の三人にしてしまう事が多かったのも原因だが…」

 

「それ以上に、ハーフである自分の生い立ちに不満や不安、苛立ちを感じていた、という事ですね。」

 

ライの言葉に、ヨアヒムは目を丸くする。彼女の心の動きを、自分以上に理解しているとは思っていなかったからだ。

 

「…僕もハーフなので、彼女の苦悩というか…思いは理解できるつもりです。ただ、僕も父とはあまり良好な関係といえるものは築けていませんでした。その父もすでにこの世にはいませんが…」

 

「…そうか。君は父君に対して、どういう感情を持っていたのかね?」

 

ライは顎に手をあて、当時の事を思い出す。母や妹と父の関係、自分から見ていた父への思いを。

 

「正直なところ、兄弟に疎まれ、蔑まれていた僕や母、妹を守ってくれない自分勝手な父だとは思っていました。ただ、父は亡くなる直前に、僕に対して母と妹を頼むと、弱々しい声で伝えてきました。その時、初めて向き合ってこなかったのは自分ではないのかという感情が芽生えたのは覚えています。父を孤独にしたのは僕らの方だったのかもしれないという後悔も…今はもう、伝える術がありませんが…」

 

ライは目線を落とし、自身の中に閉じ込めていた暗い感情を吐き出す。そして思い切って、自分の正体に繋がりかねない事柄を伝える決意を固めた。

 

「信じて貰えないと思いますが…僕の父は、200年前のとある軍事国家の王でした。常に多忙を極め、他国との戦に明け暮れ…その為に僕らは父と顔を合わせる事すらほとんど叶わず、特に僕は父に対して厳しい目を向けていたと思います。ただ、父からすればそうしなければ僕らを守れなかった、他国に蹂躙され、結果として僕らを殺してしまう事になってしまうような事だけはないようにとの思いがあったのだと思います。」

 

「…200年?どういう事かね?」

 

ヨアヒムは眉を寄せながら彼の言葉を聞いていた。それに対して、ライは隠す事をせずに正直に自分の事を伝えた。

 

「僕は…頭がおかしいと思われるかもしれませんが、伝承にある狂王本人です。訳あって、この時代まで生かされていました。父との仲は、伝承に残っているものよりさらに淡白でした。そしてそれを、後悔しています。」

 

彼の真剣な瞳に、ヨアヒムは思わず頷く。ただ、彼の言葉を信じていない訳ではないようであった。

 

「……狂王?あの狂王だと言うのかね?…いやしかし、娘が選んだ君がそんな何の得にもならない嘘をつくとは思えない。信じられないような事だが、真実なのだろうな。その上で、君は今後彼女と上手くやっていけると思うのかな?父である私や継母との関係は、嫌でも着いて回るだろう。その事について…」

 

「お義父さんは…失礼、シュタットフェルト卿は…」

 

ライの言葉に、彼女の父は思わず笑い掛ける。

 

「父と呼んで構わんよ。口にはしないが、結婚するつもりなのだろう?娘を見ていれば分かるよ。で、先程の質問だが…」

 

「…ありがとうございます。僕と彼女では少し状況が違いますが、それでも僕がしているのと同様の後悔を彼女にして欲しいとは思いません。幸い僕の時とは違って、彼女の周囲には僕だけではなく、信頼できる友人や仲間がいます。関係を修復するのは、今からでも遅くはない…時間はかかるでしょうが、僕も出来る限り協力させて頂きます。」

 

ライの言葉に、少し目を赤くしたカレンの父は目線を落とす。そして彼に向き直ると、笑顔を浮かべて自身がこれまで閉じ込めていた感情を伝えた。

 

「…情けない話だが、この状況を招いてしまったのは自分自身だと分かっていても、娘との接し方が分からんのだよ。私よりも遥かに若い君に…おっと、200年前の人間と言ったね。ならば私よりも歳上か…」

 

「あ、いえ…説明が難しいのですが、仮死状態にされていたに近いので、年齢は彼女と同じです。

…ただ、彼女には自分の生い立ちは話していますが、先程話したような自分の父に対する後悔に関しては話した事がありません。それを話した上で、僕が間に立って良いのなら…」

 

その提案にゆっくりと頷いたヨアヒムは、ライに感謝の言葉を伝えた。

 

「そう言ってくれて助かるよ。本来なら私は父親面をしていい人間ではないのかもしれないが、娘を愛しているのは本心なのだ。だからといってこの家に縛り付けるつもりはないがね。自由にさせてやりたいが、心配なのも親心なのだよ。…ああ、同棲する件については許可しよう。君なら、任せても大丈夫そうだ。」

 

ヨアヒムの言葉に、ライは立ち上がって深々と頭を下げた。

 

「…ありがとうございます。その信頼を裏切る事がないよう、彼女と向き合っていきます。」

 

「…娘を、カレンを頼むよ。…それにしても、狂王か。あの伝承に残っている人物ならさぞ残酷な人間なのかと思ったが…」

 

ヨアヒムの言葉に、ライはようやく笑顔を見せた。

 

「怒りに任せて行動した事もあったのは事実です。ただ、それがトラウマになるような結果に繋がっているので…」

 

「そうか。私など想像もつかぬような経験をしたのだろうな。…っと、あまり長々と話していても心配させてしまうな。カレンを呼ぼうか。」

 

そう言うと彼は内線で使用人に連絡し、カレンを呼ぶように伝えた。

書斎へと戻った彼女は、訝しげな目をヨアヒムに向ける。

 

「ライに失礼な事を言ってないでしょうね…?」

 

その問い掛けにヨアヒムは苦笑いを浮かべるが、ライが再び彼女を制止した。

 

「許可はして下さったよ、カレン。それと…お義父さん、今ここで話しても構いませんか?」

 

ライの問い掛けに、ゆっくりと頷くヨアヒム。二人の様子が先程と全く違う事に気付いたカレンは戸惑いを隠せず、視線を二人の間で何度もさ迷わせた。

 

「お義父さん…?え、どういうこと?」

 

二人の間にどのようなやり取りがあったのかを知らないカレンに、ライは自身と父との関係、それに対する後悔を伝えた。そして自分とは違い、彼女はまだそれを取り戻せるという事も。

初めは訝しげな目で聞いていたカレンであったが、途中で目を押さえて下を向いたヨアヒムの姿を見て、自身がずっと心の奥に閉じ込めていた感情が溢れ出てくるのに気が付いていた。

 

「い、今更…何を…」

 

自身も下を向き、目に涙を溜めるカレン。そんな彼女を優しく抱き締め、ライは続けて自分の思いを伝えた。

 

「無理にとは言わないよ、カレン。だけど、君が後悔するかもしれないと思うのなら…まずは僕を挟んで、自身の思う事やこれまでの事を、一旦話し合ってみないかい?勿論、強制するつもりはないけど、本当に今のままでいいと、少しでもそう思わない心があるのなら…」

 

ライの提案に、カレンはおずおずと頷いた。道を違え続けた父と娘が、お互いの溝を埋める為の一歩を踏み出した瞬間であった。

 


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