コードギアス Hope and blue sunrise 作:赤耳亀
「いやいや…僕達ごと殺すつもりか!?」
降り注いだブレイズルミナスに、大慌てで逃げ惑うライとルーン。なお、スザクはライが、サーシャはルーンが咄嗟に抱えている。
「いちいち狙いをつけるのが面倒だっただけだ。それに、お前達なら避けられるだろう?」
ライには見えていないが、ランスロット・クラブ・レインの中で皮肉そうな笑みを浮かべるアドニス。ライ達は必死に走り回り、刃状ブレイズルミナスを逃れていた。
「ひどい目にあったよ、本当に…アドニス、こんなに崩れていたらもう遺跡に入れないじゃないか。」
ライの視線の先には、無惨に崩れ去った大監獄の姿があった。
「ギアス関係の遺跡か?ならば、敵にこれ以上利用されずに済む。むしろ礼を言って欲しいものだな。というか、どれだけ待たせるつもりだ?お前達がダラダラと捜索なんぞしているから、俺はずっと金剛で待っていたんだぞ。」
「男のツンデレに需要はないんだけど…」
「八つ当たりじゃないか…。今回の事を治めたら、まだここには用事があったのに…。まぁいい、とにかく今はナナリーを…」
不満を口にする二人。しかしライが言い終わる前に、彼の後ろに積み上がった瓦礫が崩れ、その中から満身創痍のシェスタールが現れた。
「ぐぅ…はぁっ…はぁっ…貴様ら…」
ライは彼に向き直ると、自身の求める情報を問い質す。
「シェスタール、ナナリーはどこかな?他の監獄?それともまだ別に遺跡があって、そこにいるのかな?いや、そのシャムナという者の所か?」
ライは問いかけながら、シェスタールの反応を注意深く観察する。すると、最後に挙げたシャムナの元という言葉に、彼の瞳は大きく揺れ動いた。
「成程、王城か。なら、これは実質的なジルグスタン側の宣戦布告だ。そうなった以上、我々も総力をもって攻め込ませてもらうしかない。」
ライが顔を上げる。シェスタールには何故ばれたのか理解が出来ておらず、次いでライの視線の先から雲を割って小型航空空母、金剛が降下してきたのを見て、ようやく自身の置かれた状況を理解した。
「シェスタール、君が単純な人間で助かったよ。」
ライはそう言うと彼の前を去り、金剛から発艦して着陸した小型機に乗り込み、乗組員にスザクを預けた。ルーンもその後に続いている。
「おのれぇ……おのれええぇぇぇぇ!!」
瓦礫を掻き分け、なんとかライの元へとたどり着こうとするシェスタール。しかし彼のすぐ横に、レインが着陸した。
「もう貴様に用はない。」
レインのスーパーヴァリスⅡが、シェスタールを貫いた。
「姫様、フォーグナーです。こちらに王、シャリオ様がおられると聞きまして。」
「入りなさい。」
王城では、シェスタールの父であり褐色の城壁の異名を持つ、ボルボナ・フォーグナーがシャムナとシャリオの元に訪れていた。
「王シャリオ様…我が息子シェスタールが死んだというのは、真でありますか?」
ボルボナの問いにシャリオが車椅子を反転させ、彼の方を向いてから答えた。
「ああ、先程獄長のビトゥルから報告を受けた。」
「ビトゥル、シェスタールが死んだのはいつのことですか?」
シャムナに問い掛けられたビトゥル、大監獄で囚人達と共に牢へと入っていたベルク・バトゥム・ビトゥルが答える。
「昼でさあ。11時頃かと。まさかあそこまでヤバい相手とは思わず…見た目はただの銀髪の優男だったんですが…」
シャムナは彼の言葉を聞き、目を細めて呟いた。
「そう…それでは6時間以上経っていますね。しかし、銀髪の優男とは…伝承と一致する…」
自身の思考に没頭するシャムナを、シャリオが不思議そうに見上げる。その二人に向かって、ボルボナが言葉を発した。
「王よ、私に命じて下さい。超合衆国を、黒の騎士団を潰せ、息子の仇を取ってこいと!」
「大将軍よ、そなたの武力に疑いはない。だが敵には、ギアスに関わる者がいるやもしれぬ。」
「はっ…」
シャムナはボルボナの力と思いを認めつつ、それでも国を守る為に彼を最前線には出さないという決断を下した。
「姉さん、相手がギアスを持っていた場合…」
「大丈夫、私が予言をすればどんな相手にでも勝てる。それよりも早く、こちらを完成させなくては…」
シャムナが視線を上げたその先には、液体が詰まった二メートル程のポッドがある。そしてその中には、ナナリーが拘束されていた。
「全ては、あなたのお兄さんがCの世界の理を壊してしまったから。代替わりをし損ねたシャルル、その波長に近いあなたを使えば…そして、あなたを使って狂王を誘き寄せれば、私はCの世界の先に行ける…」
ジルクスタンの国境沿いを飛行し、首都近くまで進軍した金剛率いる黒の騎士団。彼らは作戦開始時刻までの間、とある村へと艦を下ろしていた。ライが村の人々に許可を取ると、別動隊として部隊を率いてきたコーネリアと合流した。金剛からは、藤堂とC.C.、アキトらも姿を現している。
「ナナリーの居場所は掴めたのか?」
ライに歩み寄るコーネリア。彼の横を歩いていたアドニスは、以前の癖で思わず頭を下げる。
「これは…お久しぶりです。コーネリア皇女殿下。」
「もう皇族ではないぞ、アドニス。それに、今の立場はお前の方が上だ。」
コーネリアの言葉に、アドニスは苦い笑みを返す。
「そうだとしても、癖というのは中々抜けないものですよ。」
コーネリアも彼の言葉に少しだけ笑い、ライへと向き直る。ライは真剣な眼差しで、先程の質問に答えた。
「シェスタール・フォーグナーの言葉とこちらからのハッキングによって、ナナリーの居場所は首都中心部の王城だと絞り込めました。襲撃作戦はほぼ完成しましたが、最後の詰めをジュリアスが行っています。」
ライの視線の先では、建物の屋上でタブレットを手に、何事かを考えているジュリアスの姿があった。その姿を見て、コーネリアは一つため息をつく。
「その呼び名には未だに慣れないが…それに、私は奴を許した訳ではない。だが、ナナリーを救う為なら手は惜しまないと誓おう。何でも言ってくれ。」
コーネリアの言葉を受け、ライは深く頭を下げる。その姿を見たコーネリアは隣にいたギルフォードに声をかけると、補給の指示を出しながら彼の前を去っていった。
「ルル…いや、ジュリアス。」
右手にタブレットを持ち、左手で腰を押さえるジュリアスに声をかけるスザク。満身創痍だが歩けている彼を見て、ルルーシュは安心したように息を吐いてから答えた。
「無事で良かったよ、スザク。いや、ゼロ。」
スザクはその言葉に頷くと、自身の思いを口にした。
「またこうして、君と肩を並べて闘うとはね…」
「いや、お前にはすまないと思っている。俺と違って、ゼロという重荷を背負わせる事に…そうでなければ、こんなことにはならなかった筈だからな。」
今なお自分を攻めているジュリアスの姿を見たスザクは苦笑する。
「かまわない。ライとの約束だからね。それに…」
「ん?なんだ?」
「僕はもう、君を、許しているから…」
スザクの言葉に、ジュリアスは大きく目を見開いた。彼の口からそのような言葉が聞ける等、永遠にないと思っていたからだ。
「スザク、お前…」
「ほら、作戦を伝えなくちゃいけないんだろう?彼らのところへ行ってやりなよ。」
スザクが指差す先では、樽に腰掛けて話をするライとアドニスの姿があった。
「どうするつもりだ?首都には一万二千人の兵が割かれているというぞ。こちらは圧倒的な寡兵だ。ナイトメア性能では勝っていても…」
右手で黒いバンダナを弄んでいるアドニスがライに問う。真正面から攻め込めば、ナナリーを救うどころかこちらが大損害を受けかねない。また、ナギドのような高い機能をもつナイトメアも確認されている為、必ずしも性能面で勝っているとも言えない状況ですらあった。
「一応、進軍方法は考えているよ。だけど僕からすれば、君がこうまですんなり協力してくれるとは思ってなかったんだけどね…」
「フン…過去はどうあれ、今の俺はお前の親衛隊隊長だ。それに、約束を果たさないまま死んで貰っても困るしな。」
アドニスの言葉を聞いて、ライは目を丸くする。
「アドニス、あれ本気で言ってたの?今後も騎士団に所属する条件は全快した僕との一騎討ちって…君なりの照れ隠しか何かだと思ってたんだけど…」
「お前……まあいい、今は言うまい。しかし、良かったのか?紅月…いや、カレンを呼ばなくて。」
アドニスの言う通り、ここにカレンは来ていない。総力戦と言いながらも、ライは戦力の一部だけをこちらに移しているだけだ。
「彼女は今大学生だからね。血生臭いことからは、できるだけ遠ざけてあげたいんだよ。それより、ノネットさんの体調はどうだい?」
今度はライが質問する。数ヵ月前に妊娠したとの報告は受けていたが、悪阻がひどい為にとても会えるような状態では無かった。
「ようやく安定期に入って、ずいぶん楽になったようだ。子どもの為にも、平和を維持しなければな。」
アドニスの言葉が終わると同時に、二人の前にジュリアスが現れる。しかし彼の歩みはどこか心許ないものであった。
「詰めは終わった。いくつか変更させて貰ったが、概ねお前の立てた作戦でいくつもりだ。」
ジュリアスは二人に伝えるが、ライはそれよりも彼がふらついている理由の方が気になった。
「いや…どうしたのさジュリアス?なんでそんなにフラフラなの?」
「ああ、いや…コードを手に入れたと言えど、それに頼っていてはいつまでも昔のままだと思ってな。ここしばらく藤堂に剣を教えて貰っていたのだが…しかし、やはり俺に運動は合わないな。」
「ただの筋肉痛?心配して損したよ…普段から身体を動かしていないからだよジュリアス。」
ライの忠告に、ジュリアスは慌てた様子で言葉を返す。
「う、うるさい!お前達怪物クラスと一緒にするな。俺は普通より少し、運動神経が発達していないだけだ!」
ジュリアスの言い訳とも取れる言葉に、今度はアドニスが反応した。
「そこは認めるんだな…まあ、鍛えておいて損ということはない。お前も自分の身は自分で守れるくらいにはならんとな。それより、その作戦とやらを聞かせてくれ。」