コードギアス Hope and blue sunrise 作:赤耳亀
「な、なんだぁ!?」
バタララン・ドゥの砲口が、数え切れない程の赤い光によって破壊された。目の前には、背中から両肩にかけて設置されていたハドロンガトリングをバタララン・ドゥ向けた牙鉄の姿が見える。
「まさか、この至近距離で…!」
慌てて牙鉄から距離を取ろうとするバタララン・ドゥ。ルッジェーロのフォローを受けて何とかそれに成功するが、ビトゥルの顔は驚愕に染まっていた。
(もう少し近ければ終わっていた…あの野郎…!)
バタララン・ドゥの前に立つルッジェーロには、アレクサンダ・リベルテがヴァリスを掃射している。
「あーもう、近付かせてほしいなぁ。」
電撃を纏ったスラッシュハーケンをアレクサンダに放つも、その機動力によってリベルテは軽々とそれらを避けてゆく。
「以前の俺なら、死ぬ事を望んで突撃していただろう…だが、俺は平穏な世界を、俺達が静かに暮らせる世界をつくる!それを阻むのなら、俺自身の手でお前達を!」
リベルテの攻撃が徐々にルッジェーロを追い込む。だがルッジェーロの後方から、四基のスラッシュハーケンが襲いかかった。
「チッ…!」
岩壁を蹴って距離を取り、ハーケンを逃れるリベルテ。その姿を見たジンダーは、リベルテを撃墜すべく距離を詰める。
「今度こそぉ、葬ってあげるよぉ。ハンニバルの亡霊ぃ!」
電撃剣を振り下ろすルッジェーロ。だがその一撃は、牙鉄が繰り出した鉤爪状のMVSによって前腕ごと断たれていた。
「要は触れなきゃいいって話だ!今更ビビる程の武装じゃねえよ!」
牙鉄が復旧した右腕で、アッパーのようにルミナスコーンを振り上げる。ルッジェーロはギリギリでそれを躱すも、続けて繰り出されたリベルテによる斬撃までは避けることが出来なかった。
「こ、こんなとこで、終わりだなんてぇ!!」
それを見届けたビトゥルは、このままでは自身も殺される事を確信していた。
「チィッ…!こうなったからには…野郎ども!こっちに加勢しろ!」
月下や斑鳩からの攻撃から生き残ったものの、コーネリアが指揮を取る大部隊に殲滅されつつあったジルクスタン王国軍の量産機、ブランシュフォールの部隊から元々ビトゥルの部下であった者達が離脱し、リベルテと牙鉄の前に立った。
「最後の抵抗がこの程度か?随分と嘗められたものだな。」
「ああ、とっとと終わらせるとするか!」
リベルテと牙鉄は次々とブランシュフォールを撃墜してゆく。十機程いたブランシュフォールは、たった数分で全て破壊されてしまった。しかし、彼らが気付いた頃にはバタララン・ドゥの姿はどこにもない。
「まさか、逃げたのか?」
その直後、周囲を探索するアレクサンダに向かって、神殿の方向から新たなナイトギガフォートレスが突撃をかけてきた。
「よそ見してんじゃねえ!このサルゴーダーでてめぇらをぶっ潰してやるからよぉ!」
部下に時間を稼がせ、その間に戦闘力を大きく落としていたバタララン・ドゥからサルゴーダーへと乗り換えていたビトゥル。サルゴーダーはサザーランドジークをモデルにした機体と思われ、中心部からはブランシュフォールの頭部が見えている。
「さぁ、覚悟しやがれ!!」
サルゴーダーから大量のミサイルが放たれた。リベルテは後退しながら、ヴァリスでそれを撃墜してゆく。そのリベルテを追うように、サルゴーダーは大型スラッシュハーケンを放っていた。
「くっ…!面倒な…!」
ハーケンに気を取られたアキトとリベルテを、リニアカノンが襲う。咄嗟に回避行動に移るリベルテであったが、間に合わずにフロートの翼を破壊された。フラフラと降下してゆくアレクサンダに、サルゴーダーがもう一度リニアカノンを向ける。
「まずは、一機ぃ!!」
しかし上空から襲った衝撃が、リニアカノンの照準を狂わせた。ビトゥルが目を向けた先には、ハドロンガトリングを放ちながら急降下してくる牙鉄の姿があった。
「このっ…!」
「おおぉぉっ!!」
サルゴーダーがハーケンを放つよりも早く、牙鉄の鉤爪が機体を切り裂く。直後にその傷に向けてルミナスコーンがぶち込まれ、牙鉄は右腕を押し込んだ。限界ギリギリまでルミナスコーンで装甲を削ると、背中に収納されているハドロンガトリングを再度起動し、肩からその傷に向けて掃射する。それを受けて、サルゴーダーの各所は内部から小規模な爆発を起こしていた。
「…撃墜される?サルゴーダーが!?この俺が!?」
ビトゥルの叫びと同時に、サルゴーダーは大爆発を起こす。その様子を見て、リョウは彼に向かって呟いた。
「でかいのの相手も、悪くはねぇな…!」
灰塵弐式が放ったクロムウェルの腹部をえぐるような強烈な左フック。肘でガードしながらルミナスコーンとなった左ストレートを返すが、灰塵弐式はすぐに後退するとクロムウェルの拳が元の位置に戻るのに合わせて再び懐へと潜り込んだ。
「はあぁっ!!」
頭部へのジャブ、そして右腕だけで振るわれた腹部への鋭い斬撃によって、クロムウェルは後退を余儀なくされる。
「かぁ~っ!!強いなぁ!!なんでそれだけの力があるあんたが、人の下についてんだ?」
クロムウェルの動きを止め、ロックに問いかけるケイン。彼にはロックがライに従っている理由が分からなかった。
「フッ…言っても分からんだろうが、あいつは俺よりも強い。」
「マジかよ…」
ロックの言葉に、ケインは単純に驚く。しかし、彼はロックの言葉の真意を理解していなかった。
「確かに、戦闘力だけなら俺の方が上かもしれん。だが、奴は自分以外の者の為に命を投げ出せる男だ。俺とて大事な者の為なら自分の命など厭わんが、あいつは全ての人々の為にそれが出来る。あれ程の信念の強さ、それを貫ける人間は見たことがない。俺が唯一人、認めた男だ。」
「へぇ、そこまでか…俺も闘ってみたかったなぁ。」
灰塵弐式に向かって、クロムウェルが再びファイティングポーズを取る。しかし、ロックはそれに反応しなかった。
「まだやるつもりか?お前では俺に勝てんし、万が一勝てたとしてもあいつのところに辿り着けるとは思わんが…」
「確かに、俺はあんたより弱い。でも、それが直接勝敗に結び付くかは別だ!」
灰塵弐式の背後から、スパルタクスがガトリングガンを放ちつつ接近する。手首に発生させたブレイズルミナスで防ぐも、その時にはクロムウェルが突撃をかけていた。
「…行かせない。」
モルドレッドがミサイルを放つが、すでにそこにはクロムウェルの姿は無い。
「オラアァァァァッッ!!」
「はあぁぁぁぁっっ!!」
クロムウェルとスパルタクスが同時にロックへと襲いかかる。しかし、灰塵弐式はそれを左右の腕で防いでみせた。
「これでも駄目なのかよっ!!」
「嘆いてる暇はないよ、ケイン!あたしらは、ここを生き延びて!傭兵としての立場を取り戻すんだろ!?」
続けて攻撃を放とうとするアリシアの目に映ったのは、それぞれが独立して個々に攻撃を放とうとするモルドレッドのシュタルケハドロンの姿であった。
「クソッ!」
退避するスパルタクスに対し、タイミングをずらしつつそれぞれのハドロン砲が放たれる。一発目、二発目はギリギリで回避が間に合う。しかし三発目がフロートを掠めると、アリシアは覚悟を決めて四発目をブレイズルミナスで受け止めた。
「流石は元ナイトオブラウンズってとこかい!」
スパルタクスは再度手首にブレイズルミナスを発生させて突撃する。しかし懐に潜り込んだその直後に、個々のハドロン砲の接続部が伸びて四方からスパルタクスを囲んだ。
「…おしまい。」
「なっ…!」
四門のハドロン砲が火を吹く。直撃を受けたスパルタクスは爆炎を上げながら落下していった。
「マジかよ!アリシア!応答しろ、アリシア!!」
必死に呼び掛けるケイン。ロックはマイクロメーサーキャノンをクロムウェルの付近に放つと、ケインの注意を自分へと引き戻した。
「何を…!?」
「餞別だ。俺とこいつの全力を見せてやる!」
灰塵弐式の緑色の眼球が赤く染まる。両腕にもエネルギーが充填されると、多量のマイクロメーサーキャノンが撃ち出された。
「ぐぉっ…!」
咄嗟にルミナスコーンを解除し、ブレイズルミナスを防御に回す。しかし次の瞬間には、灰塵弐式はクロムウェルの懐に入っている。
「うああぁぁぁぁっ!!」
咄嗟に繰り出した右ストレートは空を切り、灰塵弐式の怒濤の連撃をくらってしまうクロムウェル。ロックは一切手を緩める事なく攻撃を加え、連撃の最後として右ストレートを放った。
「Cの世界で自慢するがいい!この俺と闘えた事をな!」
右ストレートによって弾き飛ばされたクロムウェルに、灰塵弐式が肉薄する。ケインの目に最後に映ったのは、ブレイズルミナスソードをこちらに向ける灰塵弐式の姿だった。
「ここで、終わりか…」
「でえぇぇいっ!!」
灰塵弐式の斬撃を受け、クロムウェルは真っ二つとなって爆散した。
崩れ落ちてゆく爆炎を背に、ロックは灰塵弐式の中で誰ともなく呟く。
「さて…俺にはもう一つだけ仕事が残っているな。」
「…手伝う。」
だがそれを、灰塵弐式との通信を常にオンにしていたアーニャが聞き、自分も行くと伝えた。ロックは苦笑しながら彼女に返答する。
「つまらん仕事だぞ。」
「別にいい。暇よりは。」
ロックとアーニャは、それぞれの機体を王城に向けて加速させた。
レオニダスの斬撃をレインが受け流す。斬撃を返すと見せかけて放った蹴りを、レオニダスはしっかりと防御した。
「どうした?銃を使ってもいいのだぞ?」
フロストの挑発に、アドニスはいつもの皮肉そうな笑みを浮かべたまま答える。
「フン…そんな事、俺のプライドが許さん。それに、剣だけでも貴様に勝ってみせるさ。」
再び高速でぶつかり合い、剣を振るいあう両機。機動力ではややレオニダスが勝っているものの、闘いは互角の様相を呈していた。
「枢木スザク!君はすでに過去の人間だ!そんな君に…!」
「僕らは、明日を目指して闘ってきた!ライも、ルルーシュも!君が僕を過去の人間だと言うのなら、ここで僕を倒してみろ!!」
ナギド・シュ・メインとランスロットsin では、機体性能はややランスロットが勝るが、しかしスザクは怪我の為に本調子ではない。故に、この闘いもアドニス達と同じく膠着状態が続いていた。しかし、シャリオの身体能力を強化する薬物の効果が徐々に低下してきたことにより、その流れはスザクへと傾き始める。
ナギドの曲刀を弾き返したランスロットは、至近距離から刃状ブレイズルミナスを放つ。大きく飛び下がって避けたナギドに、今度はランスロットが斬りかかった。
「くぅっ…姉さんの、予言さえあれば…!」
「そんなものに頼っていては、君はいつまで経っても最強の騎士などにはなれはしない!!」
剣をぶつけ合いながら、上空へと舞い上がっていく両機。ナギドのコックピット内では、その動きに耐えられなくなってきたシャリオの目や鼻から血が流れ出している。それでもシャリオは操縦桿を動かし、横回転しながらランスロットへと斬撃を放った。それをしっかりと受け止めたランスロットは、前蹴りを放ってナギドとの距離を取った。
「くっ…まだ、ここから!」
再度距離を詰めようとするナギドに、アンチマテリアル・ヴァリスを放つ。腹部に直撃し、上半身と下半身を切断されるナギド。だがシャリオは諦めず、残された上半身だけでランスロットへと斬りかかった。
「姉さんの願いは、僕が!!」
曲刀を振り上げたナギドを、無数の刃状ブレイズルミナスが貫いた。
「僕は…民の、為に…」
「これが結果だ。」
飛び去るランスロットの背後でナギドは落下し、その途中で爆発した。
「アドニス!」
「邪魔するなよスザク!こいつは、俺が倒す!」
アドニスに加勢しようとしたスザクだったが、アドニス本人にそれを拒絶された。彼は自身の剣技のみでレオニダスに勝つつもりである。
「…分かった。僕は残存兵力を潰してくる!」
「ああ、しくじるなよ。」
そう言いながら、アドニスはまるで全身をリラックスさせるかのように、柔らかな構えをレインに取らせた。レオニダスが苛烈な斬撃を放つが、レインはそれに逆らうことなくまるで流水のようにゆったりと受け流す。さらにレオニダスが連撃を繰り出すが、その全てを同様に受け流してゆくレイン。そして連撃の合間に、自然な動きで反撃を加えてゆく。その流麗な動きに、フロストは突破口を見出だせずただただ攻め続けた。
「これほどの、腕を…!」
「言っておくが、俺に勝てんのならあいつにも勝てんぞ。」
先程の互角の闘いから一転、一方的に傷を負わされてゆくレオニダス。この流れるような剣は、アドニスが最も得意とする剣術の型である。これまではその型をナイトメアで再現するまでには至っていなかったのだが、ここに来てアドニスはようやく、それを再現するのに成功したのだった。しかし、フロストは攻めの姿勢を変えることなく剣を振り続ける。
「それでも、私は私の為に闘う!組織を、国を!世界を敵に回してでも!」
「自分達の為だけに闘うお前達と、世界の為に死のうとした奴の違いが、貴様には理解できるか?その違いとは、覚悟だ!だからこそ!あいつらが築いた世界を!平和を!壊そうとする貴様らを許すつもりはない!どんな理由があってもだ!!」
レオニダスの剣を受け流し、その勢いのまま横回転してコックピットに剣を突き刺す。パイロットを失ったレオニダスは、フラフラと降下しながら岩壁に激突するとそのまま壁面を転がり落ちていった。
灰塵弐式
体高7.16メートル
重量16.1トン
灰塵壱式をラクシャータが改修した機体。エナジーウイングが二対になったことと、長刀型のMVSが形はそのままブレイズルミナスソードに変更になったことが最大の特徴。全体の出力も見直され、新生黒の騎士団ではトップクラスの戦闘力を誇る。