コードギアス Hope and blue sunrise 作:赤耳亀
斑鳩艦内の医務室、少し前まではライが寝かされていたその部屋に、今は藤堂の身体が横たえられていた。周囲には騎士団の主要メンバーが集まっている。
「藤堂さん、申し訳ありませんでした。僕の判断ミスで、あなたを命の危険に…」
ライの言葉通り、藤堂は拷問を受けた為に全身傷だらけだ。だが幸いにも、ライ達がすぐに戻って攻勢に転じたことにより、指や手足等は切り落とされずに済んでいた。
「いや…ナナリー名誉顧問救出が目的な以上、あそこで正面突破以外の選択肢が無かったのは私も同意する。それに、君は以前私の為に命をかけてくれた。その恩を、返しただけだ…」
弱々しくもしっかりとした口調で、藤堂はライの言葉に返答する。彼はルルーシュを、そしてライを裏切った事をずっと後悔しており、今回こうして彼の命を助けられた事によって少しでも贖罪が出来た気がしていた。
「藤堂さん…ありがとうございます。むしろ今回の事で、僕はあなたに大恩が出来ました。この恩は、必ずお返しします。」
ライが深く頭を下げる。その彼に向かって、藤堂がゆっくりと左手を差し出した。
「ライ君…これからも、黒の騎士団をよろしく頼む。我々を、導いてくれ。」
ライは両手で彼の左手をしっかり掴むと、藤堂をまっすぐ見つめて言葉を返した。
「全力を尽くします。助けてくれた人達や、犠牲にした数多くの命の為にも…」
藤堂は彼の真摯な瞳を見て、微笑みを浮かべた。
藤堂が眠った事で医務室を後にしたライを待っていたのは、ナナリーと、ゼロの格好に戻ったスザクだ。二人の少し後ろにはサーシャの姿も見える。ナナリーとゼロはそれぞれライに近付くと、同時に頭を下げた。
「ライさん…今回は本当にご迷惑をお掛けして…でも、助けて頂いてありがとうございます。久々にライさんに…お兄様にも会えてとても嬉しかったです。」
ナナリーは顔を上げると、再会できた喜びを隠さず彼に笑顔を向ける。
ライはナナリーの前に膝をつくと、彼女に視線を合わせてそれに答えた。
「ナナリー、今回のことは君のせいじゃない。それに、君が無事で良かった。ジュ…ルルーシュとはもう話したかい?」
「はい、先程お兄様の私室にお邪魔させて頂きました。私も、沢山お伝えしたいことがありましたから。」
ナナリーが満面の笑みを見せる。ライもそれにつられて笑顔になった。そしてゼロに目を向けると、今度は彼に視線を合わせる為に立ち上がった。
「ライ、ナナリーを守れなかったのは僕の考えが足りなかったせいだ。君にその尻拭いをさせ、怪我を負わせてしまった事…本当にすまない。」
再び頭を下げようとしたゼロであったが、ライは慌ててそれを止めに入った。
「スザク、ゼロとして世界を、監視者としての人生を押し付けたのは僕の方だ。君が謝罪する必要なんてどこにもないさ。それより…」
ライはそこで一度言葉を切り、一歩下がって再び二人に視線を合わせた。
「ナナリー、ゼロ。非公式で構わないから、黒の騎士団に所属する気はないかい?」
「「…えっ?」」
ライの提案に、ナナリーとゼロは同時に驚きの声を発した。ライからの提案は彼らにとって予想外のものであったからだ。
「君達の立場上、こういった軍事組織に所属するのはまずいという事は分かっている。だが、そうして貰えれば有事に備えて団員達を護衛として着ける事も可能だ。それに、ナナリーはルルーシュといつでも会えるようになるし、ゼロ、君はここでなら仮面を外す事ができる。」
ライの言葉に、ナナリーとゼロは少し考え込む。数分後、まずナナリーが答えを口にした。
「ライさん、心配して頂いてありがとうございます。私もお兄様と共に暮らしたいのは事実なのですけれど…でも、まだもう少し自分の力で何が出来るかを探ってみようと思うのです。」
ナナリーに続き、ゼロもそれに同調する。
「…まだ世界には、僕らの力だけで変えられる事もあると信じたい。それに、この仮面は僕の罪だ。今更外すつもりはないよ。だけど…君の提案は最もだ。だから、スケジュールは共有するよ。何かあれば、また君達を頼りたい。」
スザクの言葉を受け、ライは彼に右手を差し出した。
「いつでも頼ってくれ、すぐに駆け付けるから。僕らは共犯者だろ?」
ゼロはライの手を握り返すと、彼の言葉に大きく頷いた。
去り行く彼らを見送るライの後ろから、ジュリアスが彼の肩に手を置きながら声をかけた。
「ナナリーは俺がいなくとも、自分の道を歩ける。それに、スザクもついている。だから、大丈夫だ。」
そう語る彼の瞳はどこか寂しそうだ。ライはそれに気付くがあえて触れず、別の話題を切り出した。
「ジュリアス、君のギアスは…」
「ああ、起動できなくなった。どうやら俺とシャムナに分かれていたコードが一つとなったことで、完全なコードマスターになったようだな。お前も、ギアスを使えなくなったのだろう?」
ジュリアスの言う通り、ライはCの世界に入る為にギアスを使って以降、ギアスが全く使えなくなっていた。そのことを彼は、力を使いきった為だと考えている。
「僕は結局、この力を使いこなす事が出来なかった。だから、これでいいんだ。」
ライはこれまでギアスに助けられてきたが、同時に振り回されてきた事も事実であった。だからこそ、その力を失った事にどこか安心を覚えていた。
「これでようやく、200年の呪縛から逃れたのかな…?後は、世界の為に僕達が何を出来るか考えないとね。」
「そうだな。世界には、これからもお前の力が必要だ。」
ジュリアスの言葉に、ライは自身が考えていた事を見透かされたような思いになり、苦い笑みを浮かべる。
「今回のようなことがなければ、総司令の座はレイラに譲ろうと思ってたんだけど…まだまだ問題は山積みだ。君の力も貸してもらうよ、ルルーシュ。」
その言葉に、今度はジュリアスが苦笑した。
「その名は呼ぶなと…まぁいい。とりあえず、タカムラ博士を国際法廷に出廷させる手続きをしてくるよ。」
「…頼んだ。」
タカムラに対する様々な感情を押し殺し、ライはいつも通りを装ってジュリアスに返答した。
「だから、あそこで省吾さんがもう一歩踏み込んでくれていれば、私がフレイヤを撃たれることもなかったと言ってるのよ。」
斑鳩艦内にある食堂の椅子に腰掛けて優雅に紅茶を飲みながら、ニヤニヤとした笑いを浮かべたルーンが朝比奈に告げる。それを聞いて、朝比奈はガクッという音が聞こえそうな程の勢いで肩を落とした。
「それってつまり僕に死ねってこと…?確かに、君を守れなかったどころか、足を引っ張りかけたのは事実だけど…」
落ち込む朝比奈の様子を見て、ルーンは笑みを深める。それに気付かず、朝比奈はさらに言葉を続けた。
「あれからずっと君に修行をつけてもらっているけど、未だに一度も勝てていないのもその通りだ。だけど、そこまで言わなくたっていいじゃないか。」
朝比奈の落ち込みように満足したルーンは、そのニヤニヤとした笑顔のまま、先程の自身の言葉を否定した。
「フフフッ…冗談よ、省吾さん。あなたって時々すごく卑屈ね。あの時、これからはお兄様じゃなく自分が守るから付き合って欲しいって言った男気はどこへ行ったの?」
「それはっ…」
朝比奈が何かを言おうとしたその時、彼の後ろをライが通りかかった。
「あっ…!ラ、ライ君、これは…!」
ルーンと付き合い始めた事をライに報告していなかった朝比奈はその状況に大慌てする。一方、ライがこちらへ来ている事に気付いてあえてそれを口にしたルーンは、余裕の表情だ。
「と、とりあえず、聞いて欲しい。僕は…」
「朝比奈さん、本当にルーンでいいんですか?」
言い訳をしようとした朝比奈を遮り、ライは怒りの感情など微塵もないような、むしろ不思議がっているような表情で彼に問い掛けた。
「あら、もう少し嫉妬…じゃないけれど、嫌がるんじゃないかと思っていたのだけれど…」
ライの反応が少し予想外だったルーンもそう口にする。その言葉にライは苦笑すると、自身の考えを二人に伝えた。
「そこまで器が小さいつもりはないけど…でも朝比奈さん、分かってはいるでしょうけどルーンは中々強烈な性格の持ち主です。この先色々あると思いますけど…それを許してやってくれますか?」
「強烈な性格って…自覚はあるけどいざ実の兄からそれを指摘されるとヘコむわね…」
大袈裟に頭を抱えてみせるルーン。しかし朝比奈は半ばそれを無視して、自分の率直な思いをライに告げた。
「僕は…確かにシミュレーターでは手加減なしでボコボコにされたり、日常でも色々意地悪な事も言われたりしてるけど、でもその裏にある彼女の真面目さと優しさが、僕は好きなんだ。だ、だから…」
真剣な目をライに向ける朝比奈。ルーンも彼の言葉を受けて、珍しく下を向いたまま恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。
「……分かりました。朝比奈さん、こんな妹ですがどうかよろしくお願いします。」
ライが朝比奈に頭を下げる。朝比奈が慌ててそれを止めると、その状況が可笑しく思えた三人はその場で声を上げて笑いあった。
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「アドニス、本当にやるのかい?なんで敵じゃなくなったのに闘わなくちゃならないのか全然分からないんだけど…」
ジルクスタンでの闘いから数週間が経った。戦後処理も全て終わり、ジルクスタンの国民の亡命先も決まった。それによってようやく休めると考えて意気揚々と帰路につこうとしたライをアドニスが呼び止め、黒の騎士団基地内の修練場まで連れてきたのだ。アドニスの手にはトレーニング用の剣が握られており、その内の一本をライに投げ渡しながら彼の質問に答えた。
「ハッキリとした決着を着ける。それが、お前が黒の騎士団総司令になったときに、俺が残る条件だった筈だ。その約束はしっかり守って貰う。」
アドニスはすでに額に黒いバンダナを巻いており、本気モードだ。だがその彼に、横から文句を言う人物がいた。
「アドニス、この後ライとデートするんだから早く終わらせてよね。」
それはライを迎えに来ていたカレンだ。彼女はこのあとの予定をアドニスに潰された事で、自身の機嫌が悪いことを隠そうともしない。
「黙れ。そもそも以前から約束していた事を反故にし続けていたこいつが悪い。それに、真剣勝負に口を挟むなら追い出すぞ。」
アドニスの言葉に、カレンは唇を尖らせて不満を露にした。そして、二人に聞こえるか聞こえないか程度の声で、アドニスの言葉に返答する。
「はいはい。チェッ…自分がライを認める理由が欲しいだけで、勝つ気なんてない癖に…」
ギリギリで聞き取れたアドニスの目が、カレンを鋭く睨み付けた。
「何か言ったか?」
「いーえ、なんにも!」
二人のやりとりを黙って見ていたライであったが、頃合いと考え剣を構える。それに気付いたアドニスも、剣をライに向けて構えを取った。
「分かったよ…。僕の負けだよアドニス。本気でやろう。」
「ああ、望むところだ!」
ライとアドニスは、同時にお互いへ向けて駆け出した。
これでこの物語は終わりです。
こんな自己満足以外の何ものでもない駄作にお付き合い頂いた皆様、本当にありがとうございました。また、前回こちらの甘い考えが原因となって連載途中で非公開としたことを合わせてお詫び致します。ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。
ライ以外にこんなに好きなキャラはいないので、また何かを書こうという気になるかは分かりませんが、もしその時がありましたらまたお付き合い頂けると幸いです。
本当にありがとうございました。