魔法科高校の訪問者 ~真紅の双子~   作:冬元 鈴

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はじめまして。

サブタイトルの「真紅の双子」は「クリムゾン・ジェミニ」とお読みください。
本作は「お兄様、万が一深雪を失ったら世界滅ぼすよね(確信)」と「エイドスというものがあってそれを書き換えるのが魔法ならこの世界ではタイムトラベルができるな」という筆者の2つの感想から生まれたものです。
そのため理論がプロローグでは多くなりますが適当に読み飛ばしてください。本編で理論をくどくどするつもりはありませんのでご安心を。
ご興味ある方はお読みいただければ楽しめる内容になっているかと存じます。

それでは、完結まで末永くよろしくお願いします。


プロローグ

西暦2120年。地球文明はおおよそ滅びる運命となった。

20世紀前半の天才物理学者、アルベルト・アインシュタインは「第二次世界大戦は原子爆弾が用いられた。第三次世界大戦はどうなるかわからないが、第四次世界大戦についてならわかる。石と棍棒だろう」と述べた。しかしながら人類史上最も高い知能を持つこの学者の予言は外れることになった。実際に起こった第三次世界大戦においては、世界中の魔法師が尽力し熱核戦争への発展を阻止したからである。

しかしながら、皮肉にも人類史は一大戦遅れでこの物理学者の予言を辿ることになる。

そして皮肉にも、その発端となったのはそのアインシュタインが愛した日本であった。

 

 

 

「スチュアート」

 

愛称の「アーティ」ではなく、普段呼ぶことのない彼の本名を、父はしっかりと彼の顔を見据えて呼ぶ。その真剣な眼差しにスチュアートと呼ばれた少年は言葉を返すことすらできない。若い頃はプリンスとまで世間に呼ばせるほどの甘いマスクで通っていた彼も、今年(よわい)40を数え瞳の奥底に威厳を湛え日本最高峰の魔法師としての風格を漂わせている。

 

「スチュアート」

 

そして父に続いてその横に並び立つ母までもが彼の本名を呼ぶ。父の声とは反対に、慈愛に溢れた、それでいて凛とした声音が、少年の耳を撫でる。金髪に、青い瞳。父と同じく今年40を迎えたというのに、彼女の美貌は衰えることを知らない。しかし母の優しい声に触れても、少年は声を発するどころか、俯いてしまう。少年は知っているのだ。旧友(ライバル)を止めに行くと言いながら、彼を殺すことで彼を救うと言いながら、自分の両親が彼に敵わぬことを承知で死地に向かおうとしているのだと。そうすることでしか、自分の両親は今まさに世界を業火で焼き尽くそうとしている彼に報いることができないのだと。少年は弱冠15歳でありながら、決して口には出さぬ自分の両親の覚悟を敏感に感じられるほどに聡明であった。しかしながら、そんな愛する両親を正視し見送ることができるほど、彼は成熟してはいなかった。

 

「俺達では、深雪さんを守れなかった」

「ワタシたちでは、タツヤを救えなかった」

 

一人息子への愛であふれるこの両親は、いつもならそんな少年が俯く顔を上げられるまで何時間でも待っただろう。しかし、今ばかりは状況がそれを許さない。人類に残された最後の希望。それを彼が灼いてしまうのも時間の問題だった。一刻も早く彼と対峙し、時間を稼がなければ、人類に希望はなくなる。故に2人は唇を固く結び、俯きながら必死に涙をこらえる息子に想いを託すしかない。

 

「どうやるのかは、お前の自由だ。これまでお前には周りの人間のせいで残酷なプレッシャーを与えられ続けてきた。お前ならば、ヤツを殺せるだろう。ヤツも昔からあれほどまでに手がつけられなかったわけではない。何かと規格外だったが、今のお前とは比べるべくもない。お前が15歳を迎えた日、ヤツ自身がそう言っていた。だがお前なら別の方法も取れるはずだ。何もしなくてもいい。お前に与えてやれなかった『普通の生活』を、お前に与えてやれたことだけが、俺達の救いだ。同じ結末を迎えても、もうお前を責める奴はいない。自分の人生を、歩め。そのために編んだ、特別な魔法だ」

 

俯く少年の頭に手をやりながら、父は優しく少年に言い聞かせる。

 

「さあ、もう時間がないわ。アーティ、早くコフィンに乗り込みなさい。愛しているわ。()()()()()()()()()()()()。ああそうだ、できることならワタシの旦那さんは別の人がいいわね。カツト・ジュウモンジなんてどうかしら。あんな人の妻になってみるのもいいかもしれないわあ」

「おいおい、リーナ。それはないだろう」

「あら。アナタだって若い頃は随分と深雪にご執心だったじゃないの」

「そっ、それは…」

 

「ふふっ」

 

こんな場面でも夫婦漫才を繰り広げる両親に、少年は思わず笑ってしまう。不思議なものだ。さっきまでは握る拳に爪が食い込んで血が出そうなほど必死に涙をこらえていたのに、今は笑っているなんて。

少年の笑いを見て、ようやく彼の両親も安堵の表情を浮かべた。

 

「なんてね。マサキ。ワタシ達じゃないとアーティは生まれないじゃない」

「ああ。何にも代えられない、俺達の宝だ」

 

そう呟く二人の瞳は、すでに遥か彼方を見据えていた。

別れの刻は近い。ここにいる3人は皆、それを理解しながら、動けずにいた。

 

 

数秒か数分か、数十分かはたまた数時間か。一瞬とも永劫とも思える時を経て、最初に動いたのは意外にも少年だった。

 

「もう、行かないと」

 

それは、人類すべての希望を背負い、両親の想いを背負い、ただ独り歴史に挑む者として見せるべき覚悟だった。

少年は1歩1歩、さりとて着実に、彼を愛し、そして彼が愛する両親のもとを離れ、2120年の技術水準から考えてもおよそ見慣れぬ風貌の卵型の機械のもとへと歩みを進める。母親はすでに泣き崩れている。父親も母親を気遣い手を差し伸べながら、流れる涙を押し止められていない。そんな両親を振り返ることもなく、彼の母親がコフィンと呼称した卵型機械のハッチ部分を開け、迷いなく乗り込む。弱冠十五歳の少年が独りで乗り込むにしても手狭なコックピットに座った少年がハッチを閉じる際に見た両親の最後の姿は、彼の目の錯覚か、映像資料で見た若かりし頃の二人が立っているように見えた。

 

 

 

 

 

少年が乗り込んだ卵型の機械は大型の特化型CADである。その大型CADの名称は、開発の大部分に貢献した魔工技師の好きなクラシック・フィルムに登場するとあるマシンから「De Lorean」と名付けられた。

 

「『De Lorean』、起動(アウェイクニング)

 

少年は「De Lorean」に乗り込むやいなやその電源をONにする。今から両親は高速で「彼」のもとへ接近し、交戦し時間を稼ぐだろう。近接戦闘中は彼もその戦略級魔法を起動できない。いかに今の彼がすべてのリミッターから解き放たれその理性をも失い破壊の化身となっているとはいえ、少年の両親は、片や日本の魔法師の最高権力集団「十師族」の中でも最有力の「一条」当主、「クリムゾン・プリンス」と呼ばれた天才、一条将輝。そして片や、22世紀に入ってなお世界トップクラスの軍事力を誇るUSNA軍所属の魔法師集団、STARS総隊長を努めた戦略級魔法師、旧名・アンジェリーナ=クドウ=シールズ。名実共に世界最高峰の魔法師の一角を誇る二人が全力を賭して時間を稼ぐのだ。彼らの目が黒いうちは万に一つも少年に危害が及ぶことはない。しかし、一刻たりとも無駄にできる時間はない。少年は今から、世界初の快挙となる魔法を起動しようとしているのだ。その起動時間は有に三十分を超える。今まさに世界を滅ぼそうとしている最凶の魔法師、司波達也を前にはいかにこの二人とはいえどもどれだけ時間を稼ぐことができるかはわからないのだ。

 

「『De Lorean』、起動に成功。魔法式出力システム、全て異常なし」

 

少年はシミュレート通りに一つ一つ声を出しながらコフィンの作動状態をチェックする。膨大な数のシステムの複合体であるこのマシンは、その構成システムのうちたった一つでも正常に働かなければ今から使用する魔法は起動できない。加えてこのマシンは極力機構を少なくするためにそれぞれのシステムの状態を操縦者にフィードバックする機能が搭載されていない。そのため、操縦者は電子系の魔法を自分で使用し搭載されているシステムを走査しながら点検していかなければならない。数万個に及ぶ構成機構のチェックは、一流の魔工技師でもきちんとした計測機器を用いて計測したのでは丸一日以上はかかる。それを、少年は電子走査系の魔法を使用することで体系的に、超高速で点検を済ませていく。また少年の魔法行使により想子(サイオン)がマシン全体を駆け巡ったことにより、マシン全体に彼の想子(サイオン)通り道(パス)が出来上がり、マシンの稼働効率を高める効果も副次的に生み出している。()()()()()()()()()()()、少年はこの技術を世間に公表し一躍時の人になっていたであろう。

 

「『De Lorean』、速度定義変更術式を構築準備…開始」

 

20世紀前半、物理学はたった2つの問題を残して完成を迎えた。残された問題は、光の速度と、高温に熱せられた物体から発せられる光についてであった。そして、その時点で知られていた物理学は「古典物理学」、光の速度については「特殊相対性理論」、高温に熱せられた物体から発せられる光については「量子力学」と呼ばれ、それぞれ体系付けられた。

 

「『De Lorean』、速度定義変更範囲を『De Lorean』本体及び内部空間に設定…完了」

 

この「De Lorean」が用いる物理学はそれらの物理学のうち特殊相対性理論である。

光というとてつもない速さで進むものの速度を計測するという難題を回転する歯車の間を通り抜ける光を観測するという方法で解決した当時の物理学者は、その結果から導き出されたある法則に頭を抱えることになる。

その法則とは、「光速度不変の原理」である。

速度とは相対的なものである。電車にただ座る者からすれば自身の速度はゼロで、周りの風景こそが60km/hやそこらで後ろに移動することになるが、踏切で電車を見送る者にとっては当然電車と乗客が60km/hで移動していくように見えるし、30km/hで走行する自動車からはこの電車は30km/hで自分を追い抜いていくように見える。

つまり、広く知られている光の速度はおよそ30万km/sであるが、仮にその半分の速度、15万km/sで移動する物体から同方向へと進む光の速度を観測した場合、差し引き15万km/sの速度で進むように見えるはずだが、驚くことに変わらず30万km/hで進んでいることが発覚したのだ。

 

「『De Lorean』、速度定義基準点を現地点から23億光年先のポイントに設定」

 

このことから、時間の流れが一定でないことが判明した。光の速度の半分の速度で進む物体の中では、静止している物体の半分の速度で時間が流れているがゆえに光の速度が期待される速度の2倍の速度で観測されたのだ。つまり、物体が移動する速度が光速に近づけば近づくほど、その物体を流れる時間は限りなく静止している状態に近くなる。仮に光速に達したならば、その物体の時間は完全に静止することになり、光速を超えれば時間は逆行することになる。この原理を利用した時間旅行装置、いわゆる「タイムマシン」の構想は20世紀から存在した。しかしながら、光速に近づけば近づくほど時間が遅くなるということは、その物体にとっての自身の速度は無限に近づくということであり、無限の速度に到達するためには無限のエネルギーが必要になるため、タイムマシンの実現は不可能であると結論付けられた。

 

「『De Lorean』、術式の効果時間を0.87秒に設定」

 

しかし魔法という技術の出現によりこの不可能な技術は実現可能になった。魔法とは現実の物質の「情報を書き換える」行為である。加速系の術式はその物体の速度に関する情報を書き換えることで実現している。この加速の対象単位が分子レベルであれば分子運動が加速し温度が上がる加熱魔法になり、対象単位が物体そのものであれば加速魔法になる。

先述したとおり速度とはあくまで相対的なものである。電車の例を用いるのであれば、踏切で電車を見送る者にとっては電車の移動速度は60km/hであるが、自転する地球を宇宙空間から眺める者にとってはその電車の速度はほぼ地球の自転の速度と等しい速度になる。更に付け加えるならば、宇宙空間自体は光速を超えて膨張していると考えられるので、空間の伸長によって移動しない宇宙空間の定点から観測したならば、その電車の速度は光速を優に超えることになる。

 

「『De Lorean』の到達日時を予測…2094年10月3日13時27分30秒と予測。誤差36.5秒。誤差を許容範囲と評価」

 

つまり魔法師は速度に対する干渉を行う際、当然の事として「地表に対する」相対速度を基準として速度情報の改変を行う。「De Lorean」は、エイドスの速度に関するより深い部分の情報を書き換えることで、宇宙空間における任意の点を基準点とし、「De Lorean」の運動情報の再定義を行う。これにより、「De Lorean」は超光速移動が概念的に行えるようになり、時間の遡行が可能になる。現在の宇宙から「De Lorean」を観測した場合、違う速度軸の上に乗ることにより瞬間的に光速を大きく超えた「De Lorean」は瞬く間に逆向きの時間が流れ、「De Lorean」は組立前の部品どころか構成元素レベルにまで時間を逆行、中にいる少年も胎児への逆行を一瞬で通り過ぎ構成元素レベルにまで時間を逆行し瞬時に消滅する。しかし「De Lorean」から見ればこの星自体が超光速で宇宙空間を移動しているように観測されるためこの星の時間のみが逆行していき、少年と「De Lorean」のみが時間の逆行から取り残されることになる。

 

「『De Lorean』、速度定義変更術式の構築準備…完了。続いて、速度定義変更術式、ロード」

 

すなわち過去への転移が現象として起こるのである。

 

 

 

 

 

少年がコフィンに乗り込んでから25分。

コフィンの周りの状態は遠隔でモニタリングされ今まさに交戦中の将輝とリーナの手元に映し出される。達也との死闘の中で意識を向ける余裕は皆無に等しいが二人は視界の隅で常に遠く離れたコフィンの状態を気にしていた。コフィンが突如消滅すれば、時間転移が行われたことになる。果たして彼らの息子が無事に時間旅行を終えたのかは彼等には知る由がないが、彼等の仕事はそこで終わる。2人は持てる力すべてをもって達也と交戦していたが、ついに力尽きようとしたその時、2人は同時に手元のディスプレイからコフィンが消滅するのを目にした。

 

「ねぇ、サラ…いるのなら、どうかあの子を守ってあげて」

 

そんな言葉が紡がれたのと、2人の身体が達也の雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)によって消滅したのがどちらが先かは定かではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大亜連合による大兵力派兵を伴う四葉深雪暗殺に端を発する司波達也暴走、それにより瞬時に熱核戦争へと発展した第四次世界大戦は、人類最後の有力魔法師の消滅により、人類史の終焉という形で幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




De Loreanは映画「BACK TO THE FUTURE」に登場するタイムマシンで、開発を手掛けた魔工技師がこの映画を気に入っているという設定です。

滅亡する運命を変えるというコンセプト柄非常に鬱展開になりましたが、本編は明るい展開を心がけますのでご安心ください。

今後の投稿についてですが、序盤に関しては毎日投稿できるように心がけていきます。一段落したら毎週投稿に切り替えるかもしれません。

それでは、本日はこのあたりで失礼いたします。
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