魔法科高校の訪問者 ~真紅の双子~   作:冬元 鈴

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入学編Ⅸ

部活動による新人勧誘週間がようやく終了。

剣術部の一件で達也は特に一科生の上級生から目をつけられてしまったようで、「達也がトラブルを引き寄せているのでは」といういつぞやのアーティの独白は現実になり、達也に()()()を当てたいがために達也の近くで騒ぎを起こし、達也を狙うというケースが多発した。そのため途中からは安全を期すためアーティが付きツーマンセルを組んだのだが、それでも達也を狙う事案は無くならなかった。

昨日でようやく勧誘週間が終了し、CAD携行制限が復活したことにより、ようやく達也の安全は回復しそうなのであった。

 

そして部活の新入生勧誘のために短く切り上げられていた授業時間はようやく本来の長さに戻り、それに伴い魔法実習が本格的にスタートした。のだが。

魔法実習の授業に取り組む1-Aの面々の顔色は芳しくなかった。

 

「………ひどい」

 

思わずつぶやいたアーティに、横の深雪もほのかも雫も首肯を重ねる。

 

「入学試験の時も思いましたが、この学校の実習用のCADのノイズはひどいですね」

 

気分悪そうにほのかがこめかみに手を当てながらアーティの言葉に続ける。

 

「おまけに学校の試験以外、何の役にも立ちそうにない魔法実技。こんなことなら、お兄様と談笑している方がよほどためになるのに」

 

深雪のこの言葉には一同も流石に苦笑を返すしかないが、無為な時間を過ごしているという感覚は共有している。

このような経緯があるからか。

昼休み、達也から差し入れを頼まれたと席を立った深雪に、一同はついていくことにした。

先日知り合った達也の友人たちを労いたいと、そう思ったからである。

 

 

 

「やっと終わった~」

「ふう………ダンケ、達也」

 

エリカの完成と、レオのホッとしたような声。昼休みに居残りをしていた2人が、ようやく課題をクリアしたところだった。

笑顔を浮かべて歩み寄る深雪に、それに続くほのか、雫、アーティ。彼らもまた労うように軽く手を振っている。

 

「二人とも、お疲れ様。お兄様、ご注文のとおり揃えてまいりましたが………足りないのではないでしょうか?」

「いや、もう時間もあまりないことだし、このくらいが適量だろう。深雪、ご苦労さま。光井さん、北山さん、アーティもありがとう。手伝わせて済まなかったね」

 

深雪の懸念に問題ないと応じる達也。

 

「居残りと聞きまして。こんな酷い代物で無意味なことをやらされていると聞いたら、そりゃあなにかしたくなりますよ」

 

時間への配慮から少なめに指定された量ではあるが、美月、エリカ、レオ4人分のサンドイッチと飲み物となれば結構な重量のはずだが、彼が荷物持ちを買って出たのだろう、一人で二つの袋に分けて持ってきた彼らの昼食を達也に手渡す。

それを受け取った達也はもう一度礼を言いながらエリカとレオに向かってそのまま受け取ったものを差し出す。

 

「ほら」

「なあに?」

「サンドイッチ、か?」

 

唐突な手渡しに戸惑うエリカたち。

 

「食堂で食べてると午後の授業に間に合わないかもしれないからな」

 

そう言いながら、達也は深雪から弁当箱を受け取っていた。

達也の粋な気遣いに大げさに喜んで見せるエリカたちに苦笑を浮かべながら、達也も腰掛け弁当箱を広げる。アーティたち差し入れ組も飲み物を手に彼らの隣に陣取る。

二科生のクラスに一科生が差し入れを持ち込み、談笑する。なんとも奇妙な空間ができあがっていた。

 

 

 

 

 

 

 

部活動の勧誘期間が終わって数日経ち、あの喧騒の余韻が消え新入生たちも各々加入した部活が日常の一部になってきた、放課後の冒頭。アーティはMMA部の部室へと足を運ぼうとしているところだったが、その彼が文字通り飛び上がる出来事が起こった。

 

『全校生徒の皆さん!』

 

うわぁという声とともに本当に飛び上がってしまったアーティに、途中まで同行する予定だったほのかと雫が思わず笑みをこぼす。だが、アーティが古典漫画のような反応をしてしまうほど、今の放送の音量は大きかった。

 

『―――失礼しました。全校生徒の皆さん!』

 

どうやら先程はスピーカーの音量調整を間違えていたようだ。常識の範疇の声量で同じセリフが放送される。

 

「何事でしょうか?」

 

ほのかが疑問に思ったことは音量調整のミスという初歩的なミスが起きたことに対してではない。明らかに、いつも呼び出し等で使用される時の放送の事務的な口調とは程遠い、不慣れな、緊張の成分を含んだ声に、ほのかは疑問を覚えたのである。

 

「二人とも、部活に行ってて。オレは放送室に行ってくる」

 

何をしに行くのか、とは聞かない。アーティがおもむろに取り出し腕に巻いた風紀委員の腕章が、彼が今から取る立場を示していた。

 

「頑張ってください」

「無理しないでね」

 

それだけの言葉に赤面し俯きながらも、じゃあ、と小さく手を振ってアーティは猛然と駆け出した。

 

 

 

 

 

 

「遅いぞ」

 

悠然と到着した達也と深雪に、摩利から形式上の叱責が飛ぶ。それにすみませんと、形式上の謝罪を返したところでようやく集結した風紀委員、生徒会役員、部活連の実行部隊の対策会議が始められた。

 

「明らかな犯罪行為じゃないか」

「そのとおりです。だから私達も、これ以上彼らを暴発させないように、慎重に対応すべきでしょう」

 

不可解な放送に、放送室前に集結した当校の治安維持部隊。その状況が物語るのは「放送室のハイジャック」であった。それに対して呟かれた達也の言葉に鈴音が同意を重ねる。

 

「こちらが慎重になったからといって、それで向こうの聞き分けが良くなるかどうかについては期待薄だな。多少強引でも、早期の解決を図るべきだ」

 

すかさず、摩利が反対の意見を挿し込んでくる。方針の対立が膠着を招いている。有事の対応としては、最も拙劣な状態だった。

 

「十文字会頭はどうお考えなのですか?」

「俺は彼らの要求する交渉に応じても良いと考えている。もとより言いがかりに過ぎないのだ。しっかりと反論しておくことが、後顧の憂いを断つことになろう」

「ではこの場は、このまま待機しておくべき、と?」

「それについては決断しかねている。不法行為を放置すべきではないが、学校施設を破壊してまで性急な解決を要するほどの犯罪性があるとは思えない。学校側に警備管制システムから鍵を開けられないかどうか問い合わせてみたが、回答を拒否された」

 

三者三様の立場を取る彼らの意見の相違に、完全に場は膠着していた。

 

「ならば、彼等に中から開けてもらえばいいんです」

 

おもむろに口を開いたアーティに、達也の情報端末を取り出しかけていた手が止まる。実は達也はこの状況を打開できるかもしれない手段を持ち合わせており、何もせずに待つならばとそれを行使しようとしたのだが、アーティの言葉に達也の動きが、いやその場にいる全員の動きが固まった。アーティの言葉にではなく、その声に。

 

「―――アーティ?」

 

思わず摩利が聞き返すがそれは小学生のような返答に対してではなく彼女が感じた違和感からとっさに出たものだろう。

 

「これ以上彼等が暴発し警察沙汰になるのが最も回避すべき事態。この認識は諸先輩方の間で共通のもので、差異はそのリスク評価とそれによる緊急性の評価の違いです」

 

摩利の言葉を無視して、といっても返答を期待してものものではなかったが、滔々と言葉を連ねていくアーティ。その声音はいつもの身長に似合わず少し高めで明るくかつ利発的な印象を受けるものではなく、むしろ少し低く落ち着いた、それでありながら妖艶な印象を受ける声音になっている。聞く者の心を見えざる手で優しく撫ぜながら鷲掴みにするような魔力を秘めた声に、その場にいる者は誰ひとりとして言葉を発しようとはしない。

 

「既に行われた不法行為に対して、警察の出動を回避するという思惑。これは学内で生じた不法行為を自己解決することにより隠蔽するとも言い換えることができます」

 

隠蔽という穏当ではない言い方に、いつもなら切り返しが来るところだが、アーティの言葉の切れ目に何かを言おうとするものは現れない。

 

「なら、その解決手段に()()問題があろうと、隠蔽すべきことが1つ増えるだけのこと」

 

そう独り言のように言い終えたアーティは()()()()()右手を放送室のドアに向ける。

 

「―――――待て!」

 

独断でドア内部の占拠を実行している生徒たちに魔法攻撃を仕掛けるという暴挙に出たアーティに、我を取り戻した摩利が制止をかける。

 

「ドアが開きます。突入の準備を」

「何?」

 

摩利の反駁にアーティは何も言わない。アーティの言葉の意味を理解しない一同であったが、不思議と彼の言う通り突入の態勢を整えていた。

 

果たして。

突入の準備を整えた彼等の目の前のドアが、静かに開いた。後数秒、ドアが遅れて開いていたら、彼等はなぜ自分が突入態勢を整えていたのかという疑問に足を止めていただろう。しかし絶妙なタイミングで開いたドアに、彼等は条件反射のように突入を開始した。呆気にとられたまま突入態勢を取らなかった達也と深雪を残して。

 

「おい、何してる!」

「なぜ扉が開くんだ!!」

「迎え撃て!締め出してもう一度施錠するんだ!」

 

突如としてなだれ込んできた一高屈指の実力部隊に放送室内は騒然となったが、ものの数分で片が付き、かくして学内での不法行為は警察の出動を見ることなく鎮圧されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

放送室の不正占拠という暴挙に出た彼等はそのまま部活連会頭たる十文字によって処分を受けようというところだったのだが、そこを真由美の制止により解放(実情を鑑みれば、保釈という言葉がこの状況を説明する熟語として最もふさわしい)され、彼等の求める交渉について真由美と壬生という生徒で取り決める運びとなり、達也と深雪を始めとする新入生たちは帰宅を許されたのであった。

 

いつものように仲睦まじく下校する達也と深雪に、しかしいつものような他愛ない会話はなかった。沈黙の理由は、放送室の占拠などという学校生活の物差しで見れば重大な事件が起きたことに対するショック、ではない。たしかに一般の高校生にとっては衝撃的な出来事かもしれないが、この二人に限ってこの程度のことで心を揺さぶられたりはしない。

 

「………お兄様、やはり、あれは」

 

深雪が重い口を開く。下校を許された達也たちは別れ際、アーティにあのとき使用した魔法について尋ねたのだが、「よく覚えていない」とはぐらかされた。そのような幼稚な誤魔化し方に引き下がるような2人ではないのだが、あまりにそのとぼけ顔が真に迫っていたので何も言えずに別れてしまったのだ。達也の見立てでは、およそアーティはうまく嘘をつけるタイプの人間ではない。その評価故に彼の誤魔化し方は稚拙極まりないものだったがその真に迫った「何も知らない」という顔に呆気にとられてしまったのである。

 

「ああ。別のことに気を取られてすべてを具に『視る』事はできなかったが、あれは間違いなく、系統外魔法だ」

 

達也の返答に、深雪が目を丸くする。一つは系統外魔法というワードに、もう一つは自分の兄が認識をそらされていたという事実に。

そして達也の言葉に動揺を隠せないでいる深雪の横で、達也もまた一つのことが気にかかって仕方がないのだった。

 

(あの時感じた違和感…アーティの、何に抱いたのだったか)

 

()()()()()()()、記憶を違えることのありえない自分がその時抱いた違和感を忘れ去りつつあることに、達也は強い危機感を感じていたが、それも深雪とともに自宅の玄関をくぐる頃には自然と、見方を変えれば不自然に消え去っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学内の差別撤廃を目指す有志同盟」と生徒会会長による、公開討論会当日。

 

「赤と青に縁取られた白いリストバンドをしている生徒をマークし、有事の際には即刻取り押さえよ」との司令を受け、風紀委員は講堂各所に立ち、見張りを務める。アーティは単独で講堂内、向かって左翼後方の警備を任されていた。

 

(赤と青に縁取られた白いリストバンド。大師匠によればそれは反魔法運動団体、エガリテ。表向きにはブランシュとの関わりはないとされるものの、その実情は政治色を嫌う若者をターゲットにした下部組織)

 

達也に対してもそうだが、九重八雲という人物は支援しようとした相手に1から10までを教えることはしない。一つのキーワードを教え、それに対する注意喚起を促す。新入生勧誘にアーティが従事することになったと八雲に話した際にアーティが八雲から受け取った忠告は「エガリテ」に気をつけろというものだった。そこから自分の知っている情報と、自分で調べられる範囲で調査をしてきたが、どうにもそのブランシュの下部組織のエガリテが自分たちにどう干渉してくるのかを掴めずにいた。

 

(だが、ブランシュの背後にいるのは大亜連合。それは25年後の未来では既に白日のもとに曝されている、周知の事実だ)

 

反魔法勢力に対し情報秘匿の立場を取り続け水面下での押さえつけを図ってきた日本政府であったが、何度鎮圧しても新たなリーダーを立て復活するブランシュに対して日本政府は立場を180度変え、大亜連合のテロ組織への支援を指摘し批判、2116年についにブランシュの撲滅に成功する。これは大きなニュースになり、アーティも知るところとなっていた。

 

(大亜連合。深雪さん殺害を企て、達也さんの暴走を招き世界の滅亡を引き起こした諸悪の根源)

 

アーティの脳裏に、自分を見送る両親の姿が蘇る。日本魔法師界きっての実力者の父。その胆力を敬わぬ者はおらず、威厳と優しさを併せ持った理想の人格者。その父を相手に家庭内で常に優位に立ち続けた、愛すべき間抜けさは否めないものの世界水準で見ても間違いなくトップレベルの実力を誇る母。その父が涙した。その母が泣き崩れた。その光景は今でも毎日夢に見る。

彼の怒りは、滅ぼされた世界すべての怒り。その怒りは、大亜連合という一つの国に対して注がれているのであった。

 

「工藤」

 

アーティの思索は、よく知る声と肩に置かれた手により中断される。

我に返ったアーティは、自分が今注目を浴びていることに気がつく。

声の主は、隣のエリアの警備にあたっていた森崎だった。

 

「とりあえず魔法を抑えろ。できるか?」

 

アーティは森崎の言葉をすぐには理解できずにいたが、森崎の額に浮かぶ季節外れな汗に遅れて事態を理解した。怒りに煮えたぎっていたアーティは無意識のうちに加熱魔法を発動させてしまっていたのだ。

 

「やれやれ。無意識でCADなしで魔法を発動させるとは。事象干渉力がよほど強いんだな」

 

慌てて魔法を打ち消したアーティに、森崎が呆れ声で肩をすくめてみせる。

 

「何があったのかは知らないが、任務に集中しろ。今回の委員長のあの警戒っぷり、この討論会で何かが起きると懸念しているに違いない」

 

踵を返した森崎はそう肩越しに言いながら自分の持ち場に戻っていく。周囲の視線に居心地悪さを感じながら、アーティも雑念を振り払い周囲に注意を払うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回で入学編書き終えるつもりでしたが10000字を超えそうなので次回に持ち越しです。
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