魔法科高校の訪問者 ~真紅の双子~   作:冬元 鈴

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日常をうまく描けるようになりたいものです。


九校戦編Ⅱ

懇親会の翌日にあたる今日は、九校戦初日の前日にあたる。懇親会が九校戦の初日の前々日に催されたのは、前日を休養に当てるためだ。全国から長い旅路を経て現地入りした高校生たちは、交通手段の飛躍的な進歩により所要時間は21世紀初頭と比べれば大きく短縮されたものの、少なからず旅の疲れを抱えている。その配慮から、前日は休養日としてスケジュールされているのだ。この英気を養う休養日は学校、選手によって様々な使われ方をする。

もとより現地まで大した距離がなく、体力に自身のあるアーティの過ごし方は体を動かしての練習だった。

 

「もっと発射間隔を縮めてくれ」

「………それは構わないが、本番の平均発射間隔より既に相当早いぞ?」

「本番より厳しい条件で訓練してこそ、本番で訓練通りのパフォーマンスが発揮できるというものだ」

 

スピード・シューティングに出場する予定の森崎の練習を手伝うアーティは、森崎のストイックさに舌を巻いていた。スピード・シューティングは、準々決勝未満の予選においては空中に発射された50個の標的のうち破壊に成功したスコアを競い、準々決勝以降は互いにそれぞれ紅白の標的のうち割り振られた色の標的の破壊を目指し、相手のスコアを超えることを目的とする、勝ち上がるとルールが変わるという性質を持った競技である。森崎はもともとアーティにこの競技で雪辱を果たすことを望んでいたが、アーティはバトル・ボードにエントリーすることになったので叶わなかった。

アーティが今行っているのは近くでスチームを炊き、大量の水蒸気を発生させた上で減速系魔法で水蒸気を氷に昇華させ移動系魔法で次々に発射する行為で、スピード・シューティングにて発射される破壊目標を擬似的に再現している。

 

「お前と戦えないのなら、せめて結果でお前に勝つ。そのためには恐らく、優勝しなければ望みはないからな」

 

既に本番のピーク時の発射間隔の1.5倍の速度でターゲットを発射しているのだが、森崎はそれをすべて撃ち落としながらもなお森崎は言葉を発する余裕を見せている。持って生まれた才能もなかなかのものだが、それ以上に森崎は努力の天才のようだ。アーティは心の中で本気で彼への評価を改めることになった。

 

「期待しているよ、森崎。もっとも、お前が優勝しても引き分けなんだけどな」

「もう優勝を確信しているのか。まったく、はっきり言ってお前がバトルボードと聞いたときには適正的に心配したんだが、心配ないようだな」

「そもそも今年の男子バイアスロン部は新入生は全員初心者だ。魔法実技も芳しく無く、バトルボードにエントリーしている中じゃオレが一番だ。バトルボードをまるっきり捨てるわけにはいかない。オレの適正的にはスピード・シューティングかアイスピラーズ・ブレイク、モノリスコードが良かったんだが、早撃ちはお前がいるし、棒倒しには三高の『プリンス』がいる。彼が棒倒しに出るという一高戦術部の読みは、見事に当たったな。確実に取れる優勝ポイントを取りに行った人選だ、期待には答えるさ」

 

得意種目ではないけれども優勝してくると言い放ったアーティの余裕に悔しさを感じながらも、絶対に負けるわけには行かないと意気込む森崎。彼にとって、アーティはよいライバルになっていると言えそうだ。

 

「ここに至って余裕をかませるのは大したものだが、アーティ。勝算はあるのか?」

 

最悪な形の出会いをした下級生たちの微笑ましい切磋琢磨に目を細めながら、彼等の上司、摩利が乱入してきた。

 

「委員長」

 

本戦の同じ種目に参加予定の先輩の登場に、尊大な態度でホラを吹いていたアーティは慌てて姿勢を正す。

 

「ああ。僕もお前がバトル・ボードの練習をするところをほとんど見ていない。お前が負けるとは思わないが、なにか作戦はあるのか?」

 

バトル・ボードは紡錘形のボードに乗って全長3kmの水路を3周する競技である。波形抵抗等が非常に大きな影響を及ぼす競技なので、ボードの寸歩に関しても長さ165cm、幅51cmと細かに定められている。

魔法による加速により選手はその最大速度は55~60km/hにも達する。この速度により選手は姿勢制御と方向転換、また風圧への耐久のために体力と魔法力を要求される、非常にハードな競技である。

 

「分かっていると思うが、他の選手を攻撃するのは禁止されているからな」

「オレを喧嘩屋か何かだと思っていませんか?委員長」

 

確かにアーティは戦闘向きの適性を持っているが、それにしてもあからさまな摩利の釘刺しに苦笑交じりで応じる。

 

「大丈夫、策はあります。それも、前代未聞のやつです。それ一本で予選から決勝まで、走り切りますよ」

 

そう得意げに宣言しながら、アーティは右手を摩利と森崎に向ける。

 

「?」

 

その意味がわからず摩利も森崎も小首をかしげる。

 

「5分、です」

「は?」

「ゴールタイムで5分を切ってみせる。そう、言っているんです」

「何だって?」

 

アーティの大胆な宣言に、森崎も摩利も一様に目を丸くする。9kmのコースを5分で完走するということは、平均速度でも100km/h超えの速度で走行しなければならない。その速度は、海上での単独航行を得意とするBS魔法師が記録した速度にも匹敵する速度だ。いわば異能力者がマークした世界記録レベルの速度を、この窮屈なコースで出してみせると豪語したのだ。この二人が言葉を失ったのも無理はない。

 

「ふふふ。本当に、今年の1年は面白いやつが多いな。楽しみにしているよ」

 

そう、心の底から楽しそうに笑うと、摩利は実に楽しげな足取りで立ち去ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

九校戦前夜。休養日として丸一日開けられた日程を思い思いの過ごし方で終えた一高チームも、夕食を取るときには一緒になる。そして、その後達也の部屋を訪れる深雪に級友であり達也に仄かな好意を抱いているほのかとその親友の雫がついていくのは、昨晩から続けてもうお決まりのパターンになりつつあった。昨夜はそれなりに達也も交えて談笑などしたものだが、今夜は前夜ということで達也が起動式のアレンジ作業に入るということで早めに彼女らは達也の部屋を辞し、彼女たちだけのガールズトークにほのかの部屋で花を咲かせていた。

ほのかはともかくいつもは無口な雫と浮世離れして見える深雪がそのようなガールズトークに興じるのは男子生徒から見れば少し以外に思えるかもしれないが、彼女らも年頃の少女である。どのようなパーソナリティであれ、多かれ少なかれ気のおけない友人との会話はこの上なく楽しいものである。そして彼女らは新入生であり、その試合日程は初日から始まるわけではない。翌日に備えて既に就寝している選手も多い上級生とは対象的に、彼女は時計の短針が「Ⅹ」を過ぎてもまだまだ活気を持て余していた。そしてそれはほのか、雫、深雪の3人に限った話ではない。同じように活気を持て余した新入生女子が闖入してくるのは当然と言える。

 

「あっ、私が出るよ」

 

突如部屋のドアから響いたノックに、立ち上がろうとする雫と深雪を制止しほのかが立ち上がりドアへ向かう。

 

「こんばんは~」

「あれっ、エイミィ。ほかのみんなもどうしたの?」

 

ほのかがドアを開けると、そこから顔をのぞかせたのは、ルビーのような紅い光沢が特徴的な、小柄な少女。その背後には4人の同級生。つまり、第一高校新人戦女子チームのメンバーがほぼ揃っていることになる。

 

「うん、あのね、ここって温泉があるのよ」

「……ゴメン、もう少しわかりやすく言って」

 

弾んだ声でエイミィと呼ばれた少女が返した言葉は、何が言いたいの分かるようでよく分からなかった。

 

「そういえばこのホテルの地下は人工の温泉になっていたわね」

 

もっとも、深雪にはこの少女、明智英美の言いたいことが理解できたらしい。

 

「そ、さっすが深雪、あったまいい~」

 

脳天気な声で無邪気にはしゃぐ英美。後ろの同級生たちも少し困ったような苦笑を浮かべている。

 

「そう、だから君たちもご一緒にどうかと思ってね」

 

助け船を出すように後ろから声をかけたのは里見スバルという少女だ。彼女の見た目は可愛らしいと言うよりは凛々しいとでも言うべき風格を漂わせ、その艶のあるアルトな声も相まって宝塚の男役、とでも表現できそうな雰囲気を纏っている。

 

「はいれるの?ここ、軍の施設だよ」

 

しかし、雫からもっともな指摘が飛ぶ。九校戦が行われる会場に隣接するこのホテルは国防軍の演習場に付属する施設である。予め使って良いと言われている場所以外、立ち入ることはできないはずだ。

 

「試しに頼んでみたら、許可くれたよ。11時までならいいって」

 

しかしその雫の懸念はすぐに否定された。軍の関係者に温泉を使っていいかなどという問い合わせをしてのけた英美に、3人とも神妙な面持ちで顔を見合わせることにはなったが。

 

「さすがはエイミィ」

「言ってみるものよねっ」

 

ほのかの呆れ混じりの称賛も、英美にはまるで効果がない。だからこそこんな問い合わせができたのであろうが。

 

 

 

 

 

 

 

地下の大浴場は、一高一年女子の貸し切りだった。貸切状態、ではなく、貸し切りにしてもらえたのだ。11時まで、という制限付きではあるが。

入浴には水着が必要という規則が合ったが彼女たちは当然そんな者を用意しているはずはなく、湯着の貸し出しを受けている。その湯着の風貌は、純白のミニ丈甚平、ただし半ズボンなしという風貌で、異性に見せるにはとても頼りないものだったが、ここは気心知れた同性のチームメイトのみの空間。だから何も問題はない。はずだったのだが………

 

「わぁ………」

「な、なによ」

 

お湯に浸かろうとやってきたほのかを出迎える英美の視線と漏れ出たため息に、ほのかはどことなく羞恥心を覚える。思わず、胸元を握り合わせるように閉じていた。英美を努めて無視するように浴槽にその身を浸す。

 

「意外。ほのか、スタイル良ぃ~」

 

じりっ、とにじり寄る英美。後退するほのか。しかしほのかはすぐに浴槽の壁にぶつかり、逃げ場を失ってしまう。

 

「ほのか」

「何よっ?」

 

手をわきわきさせながら迫りくる英美に、ほのかの声はもはや悲鳴のようになっている。

 

「むいてもいい?」

「いいわけないでしょ!」

 

英美の目は笑っているが、冗談で済ませる気がないこともまた、その瞳が雄弁に物語っている。

ほのかは助けを求め浴室中を見回すが、彼女たちもまた、たった一人の例外を除いて同じように笑っている。

 

「雫、助けて!」

 

たまらず、たった一人の例外であり親友である雫に助けを求めたが、

 

「いいんじゃない?」

 

雫はおもむろに立ち上がるとそう一言言い残して湯船の外へ歩きだしてしまった。

 

「なんで!?」

 

親友の裏切りに悲痛な悲鳴を上げるほのか。

雫は一瞬、悲しげに自分の胸を見下ろして、

 

「ほのか、胸、大きいから」

 

そう言い残して、個室サウナへと入ってしまった。浴室にはほのかの悲鳴がこだました。

 

 

 

 

幸い、ほのかが無情な同級生たちによってひん剥かれてしまうようなことにはならなかった。後から入ってきた深雪に皆の目が釘付けになってしまったのだ。

性別など関係ない気がしてくるとまで言い切ったスバルの言葉から、何やら怪しげな空気になりかけた浴室だったが、ここぞとばかりに深雪の援護に回ったほのかの援護により、彼女らは冷水浴をせずに済んだのだった。

 

話の流れを全く知らない雫が加わると、そこはもう普通の年頃同士の女の子同士の会話が繰り広げられていた。

 

「そういえばさ、三高に一条の跡取りがいたよね」

 

年頃の女の子の話題といえば、ファッションか色恋の話とだいたい相場が決まっている。

 

「あっ、見た見た。結構いい男だったね」

「うん。男は外見だけじゃないけどさ。外見も良ければ言うことないよね」

 

一条の跡取り息子、一条将輝といえば、彼女たちと同い年で「クリムゾン・プリンス」の異名で呼ばれるこの歳にして高名な魔法師である。彼は佐渡侵攻の際、父とともに弱冠13歳でありながら多数の敵を屠った逸話とともに、その甘いマスクもあって「クリムゾン・プリンス」と呼ばれ恐れ、親しまれている。この場合、同年代の女の子がこの異名を呼ぶ場合は圧倒的に親しみの色が濃いわけだが。

 

「三高の一条くんっていえばさ、彼、深雪のことを熱い眼差しで見てたね」

 

懇親会での様子を覚えていた英美が深雪に話を振る。

 

「えっ、そうなの?」

「もしかして一目惚れなのかな?」

「いやいや、前から知り合いなのかも」

 

女の子たちは深雪の返答を待たずして勝手に盛り上がっている。そんな黄色い歓声に混ざらなかった雫が、静かに深雪に問う。

 

「深雪、どうなの?」

「真面目に答えさせてもらうけど、一条くんのことは写真でしか見たことがないわ。会場のどこにいたのかも分からなかった」

 

聞きようによっては冷たいとさえ言える深雪の返答に、しかし女の子たちは肩を落とすようなことはない。あくまでこれは彼女たちの雑談、一条将輝という大物であれど今の彼女たちにとっては話の種でしかない。

 

「あ、そうそう。一条くんで思ったんだけどさ、うちの学年の工藤君。彼、どことなく一条くんに似てない?」

 

そう切り出したのはスバル。彼女の言葉に、えー、だとか確かに、だとか様々な声が上がる。

 

「髪色はそっくりだけどさー。その印象に引っ張られたんじゃない?」

 

スバルの言に否定的な英美が否定にかかる。

 

「目元とかも似てると思うんだけどなー」

「アゴ周りも似てるよ!もしかして、親戚なのかな?」

「だとしたら、工藤くんも十師族の関係者ってこと?」

「ならあの魔法力にも納得だよね」

「えー。そんなことあるのかなあ」

 

思い思いの意見を口にする彼女たちを見ながら、深雪は写真で見た将輝とアーティを見比べていた。深雪から見ても、確かに似ている。それでも一条の縁者がいれば兄が把握しているはずだと、深雪は他人の空似だと結論づけた。

 

「あ、そうそう!工藤くんっていえばさ、もうアレ完全に雫にゾッコンだよねー」

 

一条将輝と工藤スチュアート似ている論争に否定的でつまらなそうに見ていた英美が、思い出したように爆弾を投げ込む。男の子の品評会も、他人同士の色恋も彼女たちの大好物だが、その当事者が自分たちの中にいるとなればその盛り上がりは別格のものとなる。

 

「えっ!?」

「そうなの!?」

 

雫たちとクラスの違う彼女たちにとっては初耳なようで、異様なまでの食いつきを見せる。

 

「どうなのよ、ほのか。いつも一緒にいるんでしょう?」

 

雫とセットで行動しているほのかに問い合わせがこうして集中するのも当然のことだが、残念なことにほのかはそのことに気が付いていない数少ない一人だ。

 

「え、えーっと、そんなことはないんじゃないかなあ?」

 

彼女たちの異常なテンションの変化に半ば気圧されながらも、ほのかは曖昧な答えを返す。

 

「じゃあ深雪!深雪はどう思う?」

 

ほのかがだめなら同じくクラスメイトの深雪。その流れは極めて自然なものである。雫の前で明確に答えることは避けたいが嘘を付くことも憚られた深雪は、

 

「そういうことは、本人たちの問題だと思うから………」

 

ほぼ肯定と取られてしまうような曖昧な答えを返すしかなかった。その答えに、またもやキャーという黄色い歓声が上がる。

 

「ねえねえ、雫!雫は彼のことどう思ってるの?」

 

彼女らの問いに、雫は最後まで答えを返せなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

温泉の使用時間が終わり、日替わり前。翌日からは先輩の試合が始まる。それを見るためにも、そろそろ寝る時間だ。楽しかったガールズトークの時間も終わり、彼女たちは各々の部屋へと戻っていく。

先までの喧騒が嘘のように静まり返った部屋で、既に消灯を終えたほのかと雫は寝る前の会話を交わしていた。

 

「明日から、始まるね」

「そうだね」

 

自分の試合はまだだと言うのに緊張した声音のほのか。雫はこの友人が昔から緊張しやすく本番に弱いことを知っている。

 

「実力を発揮できれば、ほのかは負けない」

「そう……かな」

 

雫の言葉にも、不安そうな声音を返すほのか。

 

「ミラージ・バットは達也さんがCADの調整をしてくれるんでしょ。鬼に金棒。わたしが言うんだから、間違いない」

「そう……だね」

 

いつになく強い語気で言い切る親友の言葉に、ほのかも考えることをやめたようだ。

ほのかもなんだかんだと疲れていたのだろう、緊張の糸が切れるとすぐに安らかな寝息を立て始めた。

一方で雫は、大浴場での会話が気になって未だに寝付けないでいた。

 

(アーティが…わたしのこと?)

 

ほのかの達也への淡い思いは知っている。それが恋と呼ばれるものであることも。だが今現在一高で最も仲が良い男子生徒が自分に対してそれと同じものを抱いているかなど。

 

(分かるわけない)

 

そう結論を出し、雫は眠りにつくことに決めた。だが、温泉の熱が抜けきらないのか、心なしか火照りが収まらずなかなか寝付けない雫であった。

 

 

 

 

 

 




最後の行、火照るという表現を使った私の脳裏を、化物語の火憐ちゃんが「体が火照るってエロくない!?だって体がHOTELなんだよ!!」と言っていたシーンがよぎり、表現を変えようか散々迷ったのですがこのままにしました。
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