魔法科高校の訪問者 ~真紅の双子~   作:冬元 鈴

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本編通りってトコ飛ばしてるんですが、ブチブチに切れてしまって見にくい気がする…


九校戦編Ⅶ

 

―――一高工藤スチュアート選手、飛行魔法にてバトル・ボード新記録をマーク―――

この知らせは、アーティがゴールをした直後、各校の情報網を用いて即座に伝えられ、他の選手がゴールをしたときには既に各校首脳陣でこれを把握していない者はいなかった。

そしてこの知らせに、一高首脳陣は完全にお祭り騒ぎだった。

 

だが、当のアーティ本人はというと。

本部に報告にいく気もさらさらなく、まっすぐに新人戦女子スピード・シューティングの会場に向かっていた。アーティの予選は第1試合、それをわずか5分でゴールしたアーティは雫の第一試合は見られなくとも、それ以降の試合を観る時間は十分にある。アーティの足取りは浮かれているが、自らの勝利に浮かれているというよりは今から雫の試合を観に行くことができるという事実に浮かれている一面が色濃かった。

 

アーティが到着すると、新人戦男子バトル・ボードほどではないものの、ここもまたお祭り騒ぎだった。聞けば、雫が達也考案の新魔法・「能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)」で見事パーフェクトを叩き出したと言う。

その知らせを聞きいても立ってもいられなくなったアーティは、迷わず選手控室に駆け込んでいた。

 

「―――アーティ?」

 

肩で息をしながら扉を蹴飛ばすように駆け込んできたアーティに最初に反応を返したのは達也だった。あまりに早い到着にさすがの達也も面食らっているようだ。

 

「………予選はどうだったんだ?」

 

切り出し方に困っているアーティに達也が助け船を出す。達也はアーティの様子から予選の結果など分かりきっていたが、今なおアワアワと所在なさげに手を動かしながら何も言えないでいる雫は気になっているだろうから、というのも大きい。

 

「…5分16秒」

 

得意げなサムズアップとともにアーティの口から出たのは予選のゴールタイムだった。大会記録を8分以上縮めた記録に、達也も雫も絶句する。その表情に、もうほぼ息を整えつつあるアーティは満足げだ。

 

「コースの寸法を測るのに、スタート直後15秒くらいは止まってましたから。次は確実に、5分を切ってみせます」

 

次、というのは明日の準決勝と決勝のことを指しているのだろう。今回のタイムから単純計算すれば5分というのは十分狙えるタイムだ。今頃本部は大騒ぎだろうと、達也はその喧騒を想像してくすりと笑った。

 

「………雫」

「………はい」

 

自慢げな表情を引っ込め、小銃型のCADを小脇に抱える雫に向き直るアーティと、未だ興奮の色を隠せないながらもアーティに向き直る雫。

 

「頑張ってね」

「ウン。絶対優勝するから」

 

もういつものクールな表情に戻っていたが、その声には少しばかり力がこもっていた。思いがけずいい気合が入ったと、内心アーティに感謝しながらも、達也はわざとらしい咳払いを一つして、

 

「さて。ならば部外者には観客席に戻ってもらおうか」

 

わざとらしく他人行儀に、こう告げた。

その言葉に、選手控室への乱入という自分の行為を認識したアーティがみるみるうちに縮こまっていく。

 

「し、失礼しましたっ!」

 

最後にはペコリと頭を下げそう謝ると猛然と控室から飛び出していったのだった。そんなアーティを見送った達也が雫に視線を戻すと、雫はもう会場への入り口に目を向けている。キッと一文字に結ばれたその唇は雫の気合の入り方を雄弁に物語っている。

 

(こういうのは逆に気が抜けるタイプも多いんだが…この2人は大きくプラスに働くタイプのようだな)

 

そう思えばこの2人の甘ったるい雰囲気もいくらか許せるな、と半ば自分に言い聞かせるようにして、会場に入る雫を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、アーティ」

 

選手控室を飛び出して観客席入口の前にいたアーティを、深雪達観戦組が見つけ、いの一番にエリカが声をかける。

 

「もう。どこ行ってたのよ。探したんだから」

 

そう怒ったようなことを言うエリカだが、先程の興奮が抜けないのか、どうにも怒っている感じがしない。やっと見つけたという喜びのほうが先に伝わってきそうな、そんな表情だ。

 

「まさか、雫のところへ?」

 

ほのかにまだ赤みが抜けない耳の色を見て深雪がその推測を口にする。ギクリと固まったアーティの様子は、子供が見ても図星を突かれたと分かるだろう。その様子に、その場にいる全員が深い溜め息を漏らした。

 

「……応援した俺らへの報告もせずに選手控室に乱入してたのかよ」

 

ここで拗ねたような表情を作ってこんな事を言うレオは、些か意地が悪いのかもしれない。

 

「いや…その…つい…」

 

そんなレオのキラーパスに、きまり悪そうに頭をポリポリとかきながら困ってみせるアーティは、些か以上に単純な性格なのかもしれない。

 

「でもそれはそうと、飛行魔法、すごかったわね。ぶっちぎりだったじゃない!」

 

そんなアーティに出されたエリカからの助け舟に、みるみるうちにアーティはその顔色を得意げに変え、

 

「ありがと。でもアレは実は飛行魔法じゃなくて…」

「圧縮空気を硬化魔法で固定した両翼の形成と、水面効果による揚力上昇での飛行。本当に、お見事でしたね」

 

ドヤ顔で解説しようとしたところに、深雪によるネタばらし。得意げに自分の魔法を解説するはずが、すでに深雪に看破され全員にバレていると知り、アーティはがっくりと肩を落としてしまう。百面相のように表情をコロコロと変えるアーティに、一同は笑いを禁じ得ないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーティたちが見守る中、雫は汎用型CADと特化型CADの照準システムの組み合わせという、技術的に大きな意味のある新技術を携え、結果として、一高は新人戦女子スピード・シューティングの表彰台を独占するという快挙を達成、先刻の飛行魔法(ほとんどの者たちはアーティの魔法の実態を理解していない)に引き続いての朗報にもはや半狂乱であった。

この快挙には、雫たち選手の尽力はもちろんのことだが、達也が行ったCADの調整が非常に大きく貢献していることは誰の目にも明らかであった。この事自体は非常に喜ばしいことなのだが、一高の一部の選手、特に達也を拒絶した1年生男子たちにとっては必ずしも面白いことではなかった。達也の力を借りずとも結果を出してみせる。その力みが、1年生男子たちの足元を掬うことになることまでは、達也でも見通せていなかったであろう。

 

午後の新人戦男子スピード・シューティングでは森崎が準優勝と奮闘したが他の2人は予選敗退、アーティの快挙に湧いていたバトル・ボードにおいてもアーティの他の2選手は予選敗退を喫していた。

そして一方の女子はほのかのあっと言うような作戦勝ちを始めとし、バトル・ボードにおいても2人予選突破を見せ、男女でくっきりと分かれてしまった明暗に一高首脳部は少なからず頭を抱えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!」

 

同日、夕刻。一高テントの外れで地団駄を踏む少年の姿があった。新人戦個人種目準優勝。彼が今日掴み取った結果は、決して誇ることはあっても地団駄を踏んで悔しがるようなものではない。それでも心からの悔しさに歯噛みしながら地団駄を踏んでいるのは、彼の高い向上心故か。それは称賛されるべき美徳かもしれないが、もう一つ出場種目を残している彼に限っていえば、あまり良くない精神状態かもしれない。

 

「………森崎」

 

ともすれば拳から血が出るまで地面を殴りつけかねない少年を制止したのは、テントから音もなく歩いてきたアーティであった。

 

「……工藤か」

「準優勝、おめでとう」

 

アーティからすればこの言葉は紛れもない賞賛の言葉なのだが、この賞賛の言葉を受け取っても森崎が喜ばないことを分かりきっているが故に、アーティの口調も控えめなものになる。しかし森崎も感性の鈍い少年ではない。アーティのそういった気遣いというものを汲み取り、八つ当たりをするような真似はしない。

 

「工藤こそ、予選を楽々突破したようだな」

「……ああ」

「飛行魔法を使ったんだって?」

「アレは厳密には飛行魔法ではないが。空を飛んでタイムを大幅に縮めたという意味ならば、そうだ」

「……?」

 

周囲の騒ぎっぷりからアーティの魔法が飛行魔法だと思いこんでいた森崎はアーティの部分否定に首を傾げる。アーティは森崎を良い友人だと思っているが、ここで時間を使って自分の魔法を解説しようと思うほど彼に友情を感じている訳でもなければ、まして今の精神状態の森崎に自分の魔法を得意げに解説することが森崎にとっていい影響を与えるとも思っていなかった。

 

「………まあいい。アレを使えば、優勝は間違いないだろう。現行のルールでお前を止める手立ては存在しない」

「そうだな」

「……またも、僕はお前に負けたわけだ」

「……直接戦ったわけじゃない」

 

森崎が指しているのは、九校戦前日、森崎のスピード・シューティングの練習に付き合っている際に交わした約束のことだ。お互いの結果で勝負をする。優勝は揺るがないアーティへの森崎の敗北宣言へのアーティのフォローは、苦しいものだった。

 

「直接戦ったとしてもだ。お前がスピード・シューティングに出ていて、僕と当たっていたら、僕は………」

「森崎」

 

先程まで気遣いながらフォローを返していたアーティだったが、打って変わってピシャリと森崎の言葉を静止する。

 

「事実は事実だ。だがそれ以上にくよくよするものじゃない。()()()()オレのほうが上。それだけの話だろ?」

「………フン。お前には、敵わないな」

「………………」

「だがいつまでもそうはいかない。必ずお前を超えてみせる」

「その前に、今は目の前のモノリス・コードだ。優勝を狙うなら、今度こそプリンスとの激突は免れない。プリンスはオレがマークするが、お前の担当の吉祥寺真紅郎も相当の使い手だぞ」

「カーディナル・ジョージか。不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)。どう対策したものか………」

 

ようやく目の前を向いた森崎に、アーティは内心やれやれとため息をこぼす。この向上心旺盛な友人は、その飽くなき向上心と高いプライドから先程のように精神状態がひどく落ち込む時がある。どうにも扱いづらい節があるが、他ならぬ自分が森崎に一番意識されているのもあってアーティ自身は森崎を比較的制御できる位置にいることは、アーティにとって幸運だった。

 

「オレは明日のバトル・ボード本戦があるから。それが終わったら山中も交えてモノリスの打ち合わせをしよう」

 

最低限の仲間のメンタルケアを終えたアーティはそう告げると、返事を待たずにテントへと引き上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

九校戦5日目。新人戦2日目。

今日は朝から新人戦女子アイスピラーズ・ブレイクと新人戦女子バトル・ボード本戦、午後は新人戦男子アイスピラーズ・ブレイクと新人戦男子バトル・ボード本戦が予定されている。

 

「良かったわね、アーティ。今日はお互いの試合が被ってなくて」

「うん。やっぱり、直接応援できるからね」

「アーティ君、そういうことなんですよ。それを録画がどうとか言うから…」

 

エリカに水を向けられ心底嬉しそうにはしゃぐアーティに、昨日の一幕の答えを優しい美月はそれとなく教えてあげたのだが…

 

「ん?録画?何のこと?」

「……もう!アーティ君のことなんて知りません!」

 

ついに美月にまで見放され、呆然とするアーティに、レオとエリカはもはや隠す気もなく大笑いしていた。

 

 

 

 

 

 

 

新人戦2日目も一高にとっては快挙の日となった。女子アイスピラーズ・ブレイクにおいてまたも1位2位3位独占という快挙を成し遂げたことになる。これで達也は自分がCAD調整を手掛ける2種目で表彰台を独占したことになる。

この前代未聞の快挙に、一高に上位3位のポイントを付与する代わりに英美・雫・深雪の3名を同率優勝としてはどうか、という異例の申し出がなされた。元々寝不足気味で棄権するつもりだった英美はこれを快諾したが、雫が深雪との決勝戦を希望。普段クールな印象が強い雫のこの言動は周囲を驚かせた。

 

アーティはこの知らせを聞いて驚かなかった数少ない人間の一人だが、今は達也からの呼び出しに選手控室に向かっているところだった。

 

「どうぞ」

 

控室をノックして返ってきたのは呼び出した達也ではなく雫の声。その声に、アーティはそっとドアを開け中に入る。雫は今日ずっと着ている、振袖姿。アーティはずっと観客席から見ていたが、遠くから眺めているのとこうして間近で見るのでは全く見え方が違う。いつものアーティなら赤面し会話になっていなかっただろうが、ピリッと張り詰めた空気を察してか、アーティも顔色ひとつ変えることはない。一方の雫はといえば、アーティの来訪は思いもよらぬものだったようで、一瞬意外そうな顔を見せたが、すぐにいつものクールな顔に戻る。

 

「達也さんは?」

「深雪のとこ」

「そうか」

 

自分を呼び出した達也の居所を尋ねたアーティの質問に、短い返答。その後には、長い沈黙。だが、その沈黙は心地の悪いものではなかった。言葉を探しているのでも、間が持たないのでもない。二人は今、沈黙という言葉を交わしているのだった。

時間にすれば数分だろう。だがその数分の沈黙で、雫の深雪との勝負に掛ける思いは、余すところなくアーティに伝わった。

 

「そろそろかな」

「うん」

 

雫の支度が終わる時間を見計らって達也はアーティを呼んでいる。もともと時間は多くなかった。新人戦女子アイスピラーズ・ブレイク決勝、その時間はもう目の前に迫っていた。

 

「雫」

 

アーティは裾に皺を付けないように綺麗に足を折りたたんで椅子に座っている雫に近づきながら、その名を呼ぶ。

そのまま、アーティは雫の両耳の付け根に手をやり、かがむようにして雫の額に自分の額をくっつけた。

そうしている時間は数秒か、数十秒か。しかし、雫に不思議と狼狽は生まれなかった。

 

「これ、オレの姉さんが昔よくやってくれたおまじない」

 

額を離したアーティは、そのまま手を話して後ろに半歩引きながら、はにかみながらそう言った。

 

「アーティ、お姉さんいたんだ」

 

そう言いながら、アーティに姉がいることをずっと前から知っていたかのような感じがすることに雫は気付いたが、今の雫は気にも留めない。

 

「うん。今度話すよ」

「うん。聞かせて」

 

そう笑顔でいうと、スタッと器用に重心移動だけで椅子から立ち上がり、雫は会場への扉に手をかける。

 

「アーティも、本戦、頑張って」

 

そう振り向かずに言い残すと、雫は勢いよく扉を開け会場へと入って行った。

 

「………もちろん」

 

雫を送り出し閉まった扉に向けて、アーティは人知れずそう呟くと、踵を返し男子バトル・ボード本戦の会場に向かったのであった。

 

 

 

 




妹がいなくて姉がいる人は妹に夢を見るし、妹がいて姉がいない人は姉に夢を見ますよね。私は後者です。
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