魔法科高校の訪問者 ~真紅の双子~   作:冬元 鈴

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九校戦編Ⅸ

 

 

モノリス・コード。

2095年度の九校戦の種目の中で唯一チーム戦の形を取る競技で、女子のみのミラージ・バットと対をなす男子のみの種目である。

内容は敵味方各々3名の選手によって「モノリス」を巡って魔法戦闘を行うというものである。

両チーム開始位置に自分のモノリスを持ち、相手のモノリスに予め受領している起動式を打ち込むことでモノリスが開き、そこに書かれているコードを読み取ることが勝利条件となっている。また、相手チームを全員戦闘続行不可能に追い込むことでも勝利となる。魔法以外での直接戦闘行為は禁止されているものの、その過酷な内容から男子のみ、となっている。

その過激な内容から九校戦で最も人気があり、白熱する種目となっている。

 

 

 

 

 

「なあに?アーティのあのカッコ………」

 

今回乱数によって岩場に設定されたステージに入ったアーティの服装を見て、エリカが怪訝そうな声を漏らす。それもそのはず、アーティはその身を真っ黒なローブに身を包んでいた。

 

「持ち込みが許可されているということは、何かの魔法の発動媒体ってことじゃないのか?アイスピラーズ・ブレイクじゃねえんだから、単なるコスプレってことはねえだろうよ」

 

アイス・ピラーズブレイクをコスプレショーのように言い切ったレオに女性陣の非難の視線が集まるが、しかし言っている内容は正しいので反論する者もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

アーティ率いる一高チームは、振動系魔法の扱いに長ける山中が自陣防衛を務めながら得意魔法「ソナーレーダー」で敵の位置を把握、それを逐次2つのポイントから指向的に発される信号をアーティと森崎の地点で交差させることで2人にのみ信号を伝える「デュアル・エニグマ」で知らせる、というもの。アーティは先鋒を務め、可能な限り各個撃破を繰り返し、敵陣の防衛戦力を引きつける。その間に森崎がモノリスのコードを読み取るか、アーティと挟撃の形を取り全滅を狙う、という2-1の攻撃的な布陣を敷いている。アーティと森崎の優れた攻撃能力、それに山中の正確な探知能力によって実現できる布陣である。

 

第五高校との一戦目。事前の打ち合わせ、練習通り、開始と同時にアーティと森崎が自陣を出る。アーティは出発から十秒後自己加速術式を用いて高速移動を開始するが、森崎は魔法での補助を用いずに遅れて更にルートをずらして敵陣に迫る。

魔法行使による想子(サイオン)波の余波は、特に隠蔽のための方策を講じなければ容易に探知に引っかかる。開始直後に使用しなかったのは自陣モノリスの位置を簡単に特定させないためであり、アーティだけが自己加速術式を使用したのは言うまでもなくアーティが敵を引きつけるためである。

 

高速でステージを駆け回るアーティを起点として、山中の「ソナーレーダー」のアクティブソナーが発信される。自陣から動かない山中がステージ中を網羅するほどの強い超音波を放つことは相手の探知に引っかかる可能性を鑑みて得策ではなく、故に尖兵として送り出したアーティを発信源とすることで自陣モノリスの位置を特定されることなく相手選手の位置を特定できる。

 

(動いている人体サイズの反応が2つ。狭い範囲をゆっくりと動いている反応が1つ。この動きの小さい反応の近くにモノリスがある)

 

アーティが受けた反響音の情報をそのまま受信した山中はその解析結果を即座に「デュアル・エニグマ」で発信する。現時点で情報において圧倒的優位に立ったのは一高サイドだが、五高もこれを座視していたわけではない。

これに対する五高のアクションを、山中のレーダーは捉えていた。

 

山中が発信した敵の位置情報の一つに猛然と接近しているアーティに対し、五高サイドは陣地防衛に回していた1人も含めて今現在魔法行使の余波を隠そうともせず、超音波をだだ漏れにしながらエリア内を駆け巡るアーティに戦力の全てを差し向けたのだ。戦力を分散した一高サイドに対して、五高側の採った戦術は戦力集中による各個撃破。戦術的には正しい。例えそれが一高サイドが計算した上での陽動作戦であったとしても、1対3で陽動が務まるほどの時間持ちこたえられるはずがない。三高の「プリンス」ならばともかくとして、十師族でもない無名な選手にそこまでの実力があるとは思わない。その前提が正しければ、正しい戦術だっただろう。

 

3人がかりで超音波を発しながら岩の隙間を駆け回る一高選手に五高選手が追いつくのにかかった時間は決して長くない。五高選手がローブを翻しながら逃げる影に付近の石礫を大量に移動魔法でぶつけその動きを止めるまでにかかった時間は、五高の防御を任された選手が攻撃戦力との合流を図り自陣のモノリスを離れてから3分と経っていない。3人で追い込む形で迅速に撃破を果たした五高選手が石礫を受け動けなくなっている人影を確認する。残りの2人も倒れた人影に歩み寄る。戦闘不能を確認し、すぐにでも持ち場に戻り2対3の試合に持ち込むつもりだったのだが。

 

「クソッ!どういうことだこれは!」

 

人影を仕留め真っ先に確認に向かった五高選手が地団駄を踏む足元には、今なお超音波を放ち続ける真っ黒なローブが落ちていた。隠すつもりもなく超音波を発しながら移動するアーティに対して、五高選手側が探知の手段を講じる必要はない。超音波の発信源をたどれば相手の位置はわかる。その心理をついたダミー作戦は、初見というのもあって見事に成功していた。そして、ダミー作戦で使用されるダミーには、大抵の場合トラップが仕掛けられているものである。

この様子を岩陰から見ていたアーティがCADを操作すると、ローブのもとに集まっている3人の目の前で、ローブに織り込まれているマグネシウムが発火する。マグネシウムの発火は非常に強い発光を伴う。それをさらにローブに黒い糸で目立たないようにあしらわれていた刺繍による刻印が大幅に強化する。

結果として。

強烈な光に目を焼かれ五高選手全員が動けぬ間に、森崎がモノリスを割りコードを打ち込み、戦闘らしい戦闘を行うこともなく新人戦モノリス・コード第1戦は第一高校の勝利となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………悪辣だなオイ」

「………アーティって根っこは達也くんと同じ?」

 

この作戦がアーティの立案とは限らないのだが、レオもエリカも揃ってアーティのものだと確信しているあたり、アーティの日頃の行動にどこか悪辣な性根を感じさせる部分があるということだろう。横で見ていた美月が反論しないことからもそれが事実であることを示しているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新人戦モノリス・コード第2戦は、四高との試合。ステージは、市街地ステージに設定された。

アーティは、森崎、山中とともに今回用いる作戦を軽く確認しながら、初期位置の廃ビル内で開始の合図を待っていた。

 

「開始位置が屋内なのは運がいい。山中の得意なトラップがふんだんに使える。防衛は任せたぞ」

「ああ。工藤も森崎も、次に響く怪我をするなよ」

「わかってる」

 

短く言葉をかわすと、開始を予告するサイレンが鳴る。次にブザーが鳴らされれば、試合開始だ。

試合開始に備え身構えたアーティは、不意に「見られている」感覚を覚えた。

 

「!?」

 

アーティはこのような感覚を「気の所為」だとは思わない。そのために幼少から訓練を受け続けていたのだ。

人間は第六感とも言える「気配」をある程度感じることができるが、これは第六感などというものではなくその殆どが聴覚によるものだという仮説は20世紀末には立てられている。意識内では「聞こえている」と認識できないような衣擦れの音、呼吸音、果ては相手の心拍音を、無意識で感じ取りそれを「何かがいる」という気配として意識領域に返す。

アーティは、意識下では知覚できないレベルの魔法行使の兆候を無意識で感じ取りそれを「何かが来る」という気配として意識領域に返すことで、何らかの魔法行使を探知できる範囲を大幅に広げている。

 

「退避しろっ!!!」

 

山中と森崎にそう発した警告は、しかし開始を告げるブザーによってかき消された。

アーティの形相に疑問を感じた森崎と山中はブザーによってかき消されたアーティの言葉を聞き返そうとするが、それは叶わなかった。

その場にいる全員が、突如として崩れ始めた天井に気付き呆然としたからである。

 

(破城槌だと!?フライングの探知に、オーバーアタックとはっ!)

 

廃ビルの窓まで、12メートル。アーティの身体能力をもってしても、間に合う距離ではない。咄嗟にCADを操作しようと考えるが、

 

(――――間に合わない!)

 

一瞬の刹那にもう崩れ始めている天井を見てそう判断する。

 

(やむを得ん)

 

試合を観ている者の意識はこのオーバーアタックに向くはずだ。希望的な願望を脳裏によぎらせながら、アーティはCADを使わず一瞬で自己加速術式のキャストを終え、その次の瞬間には廃ビルの窓を突き破り脱出を果たしていた。

 

4階の高さから肉体的な受け身のみで着地を果たしたアーティは、自分が脱出したビルの惨状を目の当たりにし、呆然としていた。いくら軍用の防護服を身に着けていたとしても、これでは気休めにもなるまい。最悪の事態が頭をよぎる。

そしてアーティは思い出す。この九校戦に森崎が懸けていた思いを。山中がどれだけこの種目のためにこの短期間で研鑽を重ね力量を上げたかを。そして、自分が雫と交わした約束を。

自分の背負う大役から考えればその手段に過ぎない高校生としての生活。その一部に過ぎぬ一つの行事だが、それをそれだけで済ませられるほど、アーティは自分の人生に達観していない。片時も責務を忘れたことはないが、全力でこの日常を謳歌していた。それこそが両親の心からの願いだと心のどこかで理解していたのかもしれない。

そんなアーティにとって。

この理不尽は。

それも、この大会の裏で蠢く悪意の存在の片鱗を知るアーティには。

地獄の業火の如き怒りを引き出すに足る出来事だった。

 

「――――――っ!!!」

 

怒りに身を震わせるアーティの周囲の温度がみるみるうちに上昇していく。アーティが無意識の内に自分にかける情報強化によりアーティ自身への加熱は阻害されていたが、文字通り地獄の灼熱と化した大気の中で意識を保ち続けられるはずもなく、アーティの意識は泡沫のごとく弾けとんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼寝を終えて競技エリアに戻った達也は、会場が動揺に包まれているのを感じ取った。

パニック一歩手前の空気が各校のテントを覆っている。その中心は、騒動の渦中にある第一高校のテントだった。

 

「お兄様!」

 

テントに入った達也に、深雪が真っ先に駆け寄ってきた。その奥では雫が花音に介抱されている。

 

「まさか…モノリス・コードで事故か?」

 

先程から感じていた会場の同様。失神した雫。その光景から立てられる仮説は一つしかない。

 

「はい………あれは…事故、といいますか…」

 

そう言い淀む深雪の頬は明らかに怒りで紅潮している。

 

「単なる事故とは考えにくいけれども、今は確信的な事は言うことができないわ。今言えるのは、一高チームが開始直後に破城槌を受けたということだけ」

 

上級生らしく説明を引き継いだ真由美の顔は、深雪よりいくらか落ち着いて見える。いつもの振る舞いからどうにも誤解してしまう節があるが、やはりこの人物はさすが生徒会長を務めるだけのことはある。そんな場違いの感心を覚えながら、しかし達也はそれをおくびにも出さずに淡々と言葉を返す。

 

「怪我の程度は?」

「……それが」

 

言いにくそうに目を伏せた真由美に達也は最悪の事態を想像する。だが、それを否定する言葉は目の前の真由美ではなく摩利からもたらされた。

 

「命に別条はない。だが重症だ。なにせ瓦礫の下敷きになったのだからな。山中と森崎は全身骨折で魔法治療でも全治2週間、3日間は絶対安静だ」

「………アーティは?」

 

摩利の言葉は十分に重大なものだったが、それでも真由美が言い淀むほどのものではない。だが、その理由に摩利が除外した人物の名にあると踏んだ達也は続けて問いを投げる。

 

「アイツは……魔法を暴走させてな。気持ちは分かる。真由美は立場上迂闊なことは言えんが、これは明確なルール違反だ。だがその暴走具合が凄まじくてな。エリア一帯を、立会人の対抗魔法をも退けながら加熱し続けた。人間の体はあれほどの高温に耐えられるようにはできていない。救出された瞬間はかなり危ない状態だった」

 

言いにくそうにしながらも気丈に為された摩利の説明は、真由美に言い淀ませるだけの内容と言えた。自分が倒れるほどの魔法の暴走。これは極めて高い事象干渉力を示すが、同時に魔法制御の拙さをも示す。口ぶりからしてある程度は回復したのだろうが、救出されたときは本当に危険な状態だったのだろう、その時のショックがテント中にいまだに残っているのを達也は感じ取った。

 

 

 

 

 

 

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