魔法科高校の訪問者 ~真紅の双子~   作:冬元 鈴

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閲覧してくださっている方が増えているようです。背筋が伸びる思いです。頑張ります。


九校戦編Ⅹ

 

 

 

 

 

同日。新人戦ミラージ・バットはまたもほのかとスバルのワンツーフィニッシュという華々しい結果に終わった。しかし、それへの歓喜はこれまでのものと比べると少し控えめなものだった。快挙に感覚が慣れたからではもちろんない。その日起きたあまりに痛々しい惨事に、思い切り喜ぶことも憚られたのだ。

特に、出場種目2種目優勝という快挙を果たしたほのかは、優勝を決めた直後はスバルと喜びを分かち合ったものの、それからはずっと暗い顔をしていた。クラスメイトの森崎とアーティが倒れ、そのことに親友が心を痛めている。心優しいほのかにとって、この状況はとても自分のことを喜べる状況ではなかった

 

「雫」

 

やっぱりここにいたんだ、と呟きながら、アーティの眠るベッドの横に座る雫の方へ歩み寄る。

 

「ほのか」

 

親友の来訪に顔を上げる雫の目は赤く泣き腫らしている。

 

「ミラージ・バット優勝、おめでとう」

「ありがとう」

 

そんな状態でも雫の口から紡がれた祝勝の言葉は穏やかで、親友の快挙を心から嬉しく、誇らしく思っていることが伝わってくる。ほのかには、そんな雫の気丈さが返って痛々しかった。

ほのかは何も言わず、部屋の隅から椅子を持ってくると、アーティのベッドの横に座る雫の隣に椅子を置き、静かに腰を下ろす。

 

「ほのか……」

「私はもう競技はないから」

 

そう短く返すと、ほのかは雫の頭をそっと静かに撫でる。ほのかはミラージ・バットの疲れから、雫は今日一日の泣き疲れから、いつしか2人揃ってアーティのベッドに突っ伏して眠ってしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はご苦労さま。期待以上の戦果を上げてくれて感謝しています」

 

呼び出しを受け本部に出向いた達也を迎えたのは、真由美の些か形式張った労いの言葉だった。

 

「いえ。選手が頑張ってくれましたので」

 

その賛辞にニコリともせず、達也は返す。真由美の横に控える上級生の面々、その能面のような表情に、おもしろい話ではないようだと内心ため息をつきながら続きを待つ。

 

「もちろん光井さんも里美さんも他のみんなもそれぞれに頑張ってくれた結果です。でも、担当した種目で事実上の無敗。これはやはり達也くん、貴方の貢献が大きいと言うのは、ここにいる全員が共有している事実よ」

「……ありがとうございます」

 

なおも続ける真由美の言葉に、少し間をおいて控えめに頭を下げた。そして視線を合わせぬまま、次に控える本題を待つ。だが真由美もなかなか本題に入ろうとしない。怪訝に持った達也が目を上げると、真由美が克人を目で抑えていた。真由美が言いづらいことを克人が変わりに切り出そうとしたが、それを真由美に止められた形だ。

何をそんなに言い出しにくいことがあるのかと一層達也は疑問を大きくするが、そこで真由美がようやく口を開いた。

 

「達也くん、貴方のおかげで新人戦のポイントは十分確保できました。このままモノリス・コードを棄権して、三高が2位以上にならなければ新人戦も当校が優勝。2位以上になったとしても、本戦の得点差から、当校の総合優勝は揺るがないでしょう」

 

真由美の言葉に、達也はますます疑問を募らせる。これは朗報でしかない。思わぬ落とし穴でもあったのだろうかと、達也は悪い想像をしそうになるが、

 

「でも、三高のプリンスと、それから達也くんなら知っているかもしれないけれど、カーディナル・ジョージ。この2人が組む三高が新人戦レベルでトーナメントを取りこぼすことはないわ。それでも、ここまで来たら新人戦も優勝したいと思うの」

 

続く真由美の言葉に達也はようやく真由美たちの思惑を理解した。

 

「だから達也くん………工藤くんたちの代わりに、モノリス・コードに出てはもらえませんか?」

「……2つほど、お聞きしてもよろしいでしょうか」

「ええ、何かしら」

 

想定した申し出に、分かっていることではあるが、一応はっきりさせておこうと確認を取る。

 

「怪我でプレーが続行不可能であっても、選手の交代は認められていないはずです」

「事情を鑑みて、特例として認められました」

 

明らかな四高のルール違反に加え、フライングを阻止できなかったこと、それから崩れやすい廃ビル内にスタート地点を設定したことによる被害拡大。何らかの特例を認めずして、モノリス・コードの続行は不可能だっただろう。だが、事情を理解しても、受け入れるかどうかというのはまた話が違う。

 

「なぜ自分が選ばれたのでしょう」

 

これは質問の形をとってはいるが、これは遠回しの拒絶である。

真由美もこれは予想済みなのだろう、だからこそなかなか言い出せず、今もこうして苦笑いを浮かべている。

 

「達也くんが最も代役にふさわしいと思ったからだけど」

「実技の成績はともかく、実戦の腕なら君は多分、残ったメンバーの中ではナンバーワンだからな」

「モノリス・コードは実戦ではなく、肉体的な攻撃を禁じた魔法競技です」

「……魔法のみの戦闘力でも、君は十分ずば抜けていると思うのだがね」

 

説得に加勢した摩利だったが、達也の的確な反論に遭い達也を「陥とす」には至らない。

 

「自分は選手ではありません。代役ならば、1種目にしか出場していない選手を立てるのがふさわしいかと。一科生のプライドはこの際脇においておくにしても、代わりの選手を無視してスタッフから代役を選ぶのは後々しこりを残すかと思われますが」

 

達也の畳み掛けるようなこの言葉に、真由美たちから反論はない。ならばこの話は終わりだと、明確な辞退を口にしようと思った、その時。

 

「甘えるな、司波」

 

克人の重量感のある声が響いた。

 

「お前は既に、チームの一員だ。1年生200名から選ばれた、21人のうちの一人。そのお前を、チームリーダーである七草が代役に選んだ。チームの一員である以上、メンバーとしての務めを果たせ」

「しかし……」

「メンバーである以上、リーダーの判断に逆らうことは許されない。その判断に問題があるならば、リーダーを補佐する我々が止める。我々以外のメンバーに、異議を唱えることは許されない。そう、誰であってもだ」

 

なおも反論しようとした達也だが、今後このことでいかなるしこりが残ろうとも、それらの責を全て自分が負うと言外に言った克人の意図を理解し、言葉に詰まる。

 

「逃げるな、司波。例え補欠であろうとも、選ばれた以上、務めを果たせ」

 

逃げ道を全て塞がれた達也は、ここまで言われて、逃げるつもりもなくなっていた。

 

「分かりました。義務を果たします」

 

真由美と摩利の顔が安堵に弛む。克人はその達也の言葉に、しっかりと頷いてみせた。

 

 

 

「それで、俺以外のメンバーは誰なんでしょうか」

 

やると決まれば必要なことの確認だ。達也はチームメイトについての問いを克人に投げる。

 

「お前が決めろ」

「はっ………?」

 

だが、この思いがけない言葉に達也も絶句してしまった。

 

「残り2名の人選は、お前に任せる。今ここで決められないのなら、1時間後にここに来てくれ」

 

同じ内容を言葉を変えて言った克人の言葉に、達也は相変わらずだと感じた。

ブランシュのアジト突入、何者かによって既に殲滅された後だったが、あの時も下級生に決定権を委ねてまるで気にする様子がない。これが責任を下に押し付けるための方便ならば姑息なものだが、克人は責任は自分が持つと言うのだ。この度量は高校生とは到底考えられないものだ。十師族に生まれたことを差し引いても、この人物は天性の人の上に立つ度量を持ち合わせていると言える。

 

「……いえ、選ぶだけなら時間を頂く必要はありませんが。相手が了承するかどうか」

「説得には我々も立ち会う」

 

少し間を空けた達也が放った言葉に、間を置かず克人が応じる。つまり、達也に白羽の矢を立てられた者は拒否権を持たないということだ。

 

「誰でもいいんですか?チームメンバー以外から選んでも?」

 

思いの外強引な克人のやり方に愉快さを覚えてしまった達也は、悪ノリとも言える言葉を口にする。

 

「えっ?それはちょっと……」

「かまわん。どうせ例外に例外を積み重ねているのだ。あと一つや二つ、例外が増えても今更だ」

「十文字くん………」

 

真由美が呆れ顔で軽い非難の目を向けたが、克人の表情は揺るがない。

 

「では、1-Eの吉田幹比古と同じく1-Eの西城レオンハルトを」

「おいっ、司波!?」

 

チームはおろか一科生ですらない達也の指名に、服部が口を挟もうとするが、鈴音に手で制止される。

 

「いいだろう。中条」

「は、はいっ!」

 

克人の声に過剰な反応を見せたあずさにも、克人はまるで気にした様子がない。

 

「その二人をここに呼んでくれ。たしかその2人は、応援メンバーとは別口で、このホテルに泊まっていたはずだ」

 

豪放で大胆な克人だが、このような細部にまで意識を向けて把握していた克人に感心する達也だったが、その達也の意識を、いやその部屋にいた者全ての意識を遮ったのは、思いもよらぬ人物の登場だった。

 

「ちょっと待って下さい」

「お、お前はっ!?」

「あー君!?なぜここに?」

 

部屋のドアを開けドアノブにより掛かるようにして立つアーティの登場に、摩利と真由美が真っ先に反応する。

 

「七草会長…そのあだ名はやめてくださいと何度も…」

 

そう言いかけてバランスを崩したアーティを、幹比古とレオを呼ぶためにドアの近くまで来ていたあずさが慌てて支える。

 

「すみません…中条先輩…」

 

長身のアーティを小柄なあずさが支える形になり周囲の心配は一瞬あずさに向いたが、アーティは重心をあずさにかけることなく体勢を立て直し、克人たちのいる方へ向き直る。

達也への打診の時には能面のような顔をしていた服部も、今はかなり心配そうな面持ちでアーティを見つめている。

 

「待て、というのはどういうことだ工藤」

「モノリス・コードのメンバーの入れ替えを待って頂きたいということです。森崎と山中は動けませんが、オレはやれます」

「そんな、だって工藤くん、あなたは」

 

克人の言葉に威勢のいい言葉を返すアーティだが、その顔色は悪く額には汗も浮かんでいる。そんな様子に真由美が心配そうに口を挟もうとするが、克人に手で制止される。

 

「お前は自分の魔法の暴走で重症の熱中症に陥った。どうやってここにたどり着いたのかは知らないが、本来お前はベッドの上で絶対安静だ。自分の状態をわかっているのか?」

「回復したから、ここに来られたんです。明日には試合ができるくらいには回復しています」

 

克人の言葉に答えるアーティだったが、それが虚勢であることは誰の目にも明らかだ。

 

「ダメだな。本調子に戻らずに無理をして、また魔法が暴走でもすれば、最悪の場合命に関わる。チームリーダーを補佐する者として、お前の出場を認めるわけにはいかない」

 

そんな虚勢に対して放たれた、明確な却下の言葉。この克人の言葉は隣で聞く真由美ですらも取り付く島がないと感じるほどの、明確な意思を含んだ言葉だった。真由美や摩利とは違うカリスマを持つ克人の言葉に、あずさも事態は決したと確信し、2人を呼びに部屋を辞そうとした。その時。

 

「……です」

「何?」

「イヤです!!!」

 

アーティから放たれたのは、拒絶の言葉。十文字克人という絶対的なカリスマへの反抗の言葉に、控える上級生たちも目を丸くする。

 

「達也さんも、吉田も西城も、オレは知っています。彼等に任せるのが嫌だということじゃない。でも、森崎や山中と一緒にこの競技のために研鑽を重ねてきたのはこのオレです。特に森崎の情熱は凄まじかった。アイツらの想いを、悲願を果たせるのは、オレだけです。達也さんにも、幹比古にもレオにも、アイツらの代わりは務まらない……せめてオレだけでも出ないといけないんです」

 

アーティが一科生と二科生という区分に対してこだわりを持っていないことを知る者はこの場に多い。何よりそれを入学前に知り摩利に風紀委員として推薦した経緯のある克人は、アーティの言葉が真実であることを理解している。だが、克人の口から紡がれたのは、却下の言葉だった。

 

「チームメイトの想い、か。だがそれでは前途あるお前が魔法師生命を賭ける理由には薄すぎる」

「おい、十文字」

 

今度は厳格すぎる克人の言葉に摩利が口を挟もうとするが、またも克人に手で制止される。

 

「………アイツらのためっていうのは嘘じゃありません。でも本当の理由は、オレのためなんです。敗者としての立場を受け入れつつあったオレが、今回のモノリスでは諦めないって決めたんです。あるいは、ずっと目が覚めずに、目が覚めたら達也さんたちが代役を務めてくれたって聞いたら、スッキリしたかもしれません。でも、目が覚めてしまったんです。身体は動くんです。なのに彼等に任せたら、諦めじゃないですか。逃げじゃないですか。ここでそれを受け入れたらオレはこれから先ずっと困難な状況を諦め続けることになる」

 

そうなれば、自分が背負う使命も果たせずに、どこかで諦める。その確信が、今のアーティを突き動かしていた。

 

「……司波」

 

アーティの言葉には応えず、克人は達也の方へ向き直ると、

 

「朝三暮四ですまないが、補充要員はお前とあと一人だ。吉田と西城、どちらか一人にしてくれ」

「十文字くん!」

 

そう静かに告げた。即座に真由美が食い下がるが、

 

「七草。男には、逃げてはならない場面がある。工藤にとって、それは今だ。我々にできることは、一刻も早く工藤を病室に連れ戻して少しでも回復させることだけだ」

「十文字くん……」

 

威圧する言い方ではないが、はっきりと譲るつもりのない声音で告げられ、真由美も諦めの表情を浮かべた。

 

「……わかりました。チームリーダーとして、工藤くんの出場を認めます。実行委員会の方には、思いのほか早く回復したとと伝えておきます。達也くん、もうひとりのメンバーは決まった?」

「はい。吉田に任せようと思います」

 

達也の返答を受け、今度こそとあずさが幹比古を呼びに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あずさに呼ばれ目を白黒させながら連行された幹比古と、達也に支えられて病室に戻ってきたアーティを待っていたのは、今なお眠ったままのほのかと雫だった。

 

「アーティ、この2人を置いてきたのか」

 

ベッドにアーティを降ろしながらそう問う達也の声には少なからず批判の色がある。

 

「起こしたら絶対、止められますからね」

 

そう苦笑いしながらベッドに腰掛けると、力尽きたようにベッドに倒れ込む。その衝撃で、ベッドに突っ伏して寝ていた2人が目を覚ます。

 

「……?」

「わっ、達也さん!どうしてここに!?」

 

まだほとんど目を開けられていない雫と対象的に達也の姿を目にして狼狽するほのか。隣でほのかが素っ頓狂な声を上げたからか、雫もハッとしたように意識を覚醒させる。

 

「―――!」

 

ベッドの上で横になってはいるが、そんな雫とほのかを微笑みながら見ているアーティに気付き、雫はその瞳にみるみる涙を溜める。

 

「心配懸けて、ごめ―――」

 

そんな雫にかけようとしたアーティの謝罪の言葉は、雫によって中断させられた。

 

「――っ!」

「………心配したんだから」

 

ひしと抱きつき、息を呑んで言葉を打ち切ったアーティの胸に額を押し付けながら、雫は怒っているような、それでいて少し嬉しいような声で小さく、されどもここにいる全員が聞き取れるような声で囁く。

 

「はわわわわ……雫、大胆………」

 

目の前でアーティに抱きついた親友を前にして、ほのかは顔を真っ赤にしながら手をアワアワとさせている。幹比古も顔を赤くして気まずそうに目をそらしている。その中で唯一平気な顔をしている達也が、雫に半ば面白がるような色を含んだ声音で告げる。

 

「雫。そのくらいにしてやれ。また体温が上がったら明日までに回復できない」

 

達也の生暖かい視線の先ではアーティが既に耳まで真っ赤にして目を回している。

 

「………明日?」

 

雫は達也の言葉にゆっくりとアーティを再びベッドに寝かせながら達也の言葉に紛れていた不可解な言葉に疑問を投げる。

 

「ああ。アーティのたっての希望でな。明日のモノリスの試合、ここにいる幹比古と一緒に、アーティも出場することになった」

「!?」

「そんな、無茶ですよ」

 

達也の言葉に雫もほのかも顔色を変える。既に安らかな寝息を立てるアーティと達也を交互に見ながら、達也に先を促すのは雫。

 

「もちろん、無茶だ。七草会長も十文字会頭も、そう言って止めた。だが、ここで諦めるわけにはいかないと。そう言って聞かなかったんだ」

「そんな………それでも、無茶ですよ。昨日の今日なのに……」

「ほのか」

 

ほのかの反応ももっともなものだ。アーティの無茶は医者がふんじばってでも止めるほどのものだ。故に、そのほのかを雫が遮ったのは達也にとって意外なことだった。

 

「アーティが決めたのなら、わたしたちにできるのは信じて応援することだけ」

 

そう言って眠るアーティの顔を見つめる親友の横顔に、ほのかは何も言えなくなってしまった。

 

「幹比古。作戦会議は明日にしよう。少しでもアーティを回復させるために、ここで作戦会議を行う。朝の7時でいいだろう。それまで幹比古も体力を養っておいてくれ」

 

達也は未だ気まずそうに顔を背けている幹比古にそう告げると、これ以上この場にいてたまるかと言わんばかりにそそくさとアーティの病室を後にした。

 

「………じゃあ、光井さんも北山さんも、無理しないでね」

 

幹比古は気恥ずかしい気持ちを消せないままほのかと雫に別れを告げると、彼もすぐにアーティの病室から去っていった。

 

「えっと……」

 

留まったものか出ていったものか決めあぐねているほのかの手を、雫がそっと握る。

 

「ほのかさえ良ければ、一緒にいてほしい」

 

そっと紡がれた雫の言葉に、ほのかは黙って頷くと、2人はアーティの病室でその夜を過ごしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






エッチなことしたんですね?(してません)



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