魔法科高校の訪問者 ~真紅の双子~   作:冬元 鈴

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13のローマ数字がないので普通にローマ字で打つことにしました。12までしかないんですね。


九校戦編XIII

 

 

「………勝った、わよね?」

「………勝ちました、ね」

 

独り言のような真由美の問いかけに、独り言のような口調で鈴音が答えた。

それが、合図になった。

誰かが歓声を上げた。それは2人、4人と呼応し、歓声の大爆発になった。一高が陣取るスタンドは歓声の大嵐だ。

それに遅れて、会場全てが、若き選手たちの奮闘を讃えて惜しみない拍手を送る。

アーティ達は惜しみない、温かい拍手に包まれながら退場した。

 

 

 

 

 

「それにしても」

 

お祭り騒ぎの中で落ち着きを取り戻し疑問を口にしたのは摩利だ。冷めているのではなく、それだけ今の戦闘が不可解なものであり、彼女の戦闘への好奇心が旺盛だということだろう。

 

「さっきのアーティの動きは何だ?」

 

だが摩利に見抜けないものがそうそう他の生徒に見抜けるわけもない。故に、克人の回答は摩利の意図した質問への回答にはならなかった。

 

「魔法障壁を上空に出現させ、三高陣地の方へ音速を超えて移動させ、音速を突破した際に発生するソニックブームで攻撃したのだろう」

 

真紅郎と三高ディフェンダーの防御を貫通し行動力を奪うほどのソニックブームを生み出すということは、発生させた魔法障壁は相当の大きさになる。それを超音速で600m以上移動させた事自体が信じられないというところだが、信じられないながらも摩利を始め半分近くの一高選手は理解していた。

 

「そうじゃない。その前だ。アイツは分身を一条選手に破られて倒されたんじゃなかったのか?そもそもあの分身は何だ?分身全てが熱や音まで発しているように見えたが」

 

アーティの分身を見た時にスタンドから熱探知を行っていたのは流石と言える。その問への答えは、以外なところからもたらされた。

 

「『纏衣の逃げ水』ではないでしょうか」

 

ないでしょうか、と断定の形ではないがその声音は自身に満ちている。深雪以外にアーティの術に心当たりのある者もいない。その場の全員が押し黙ったまま、深雪に続きを促した。

 

「兄が九重八雲先生の指導を受けていることは前にお話しました。その九重先生の秘術に、『纏衣の逃げ水』というものがあります」

「『纏衣の逃げ水』………?」

 

その術の名に心当たりのある者はいないようだ。

 

「私自身が九重先生の教えを受けているわけではありませんから、私もよく知っているわけではありません。ですが、兄が以前言っていたことによると、可視光の操作による幻影、赤外線の操作による幻温、加重系魔法による幻体、精神干渉系魔法による幻覚、無系統魔法といった様々な魔法を少しずつを組み合わせ足し合わせることで魔法を使っていること自体を覚らせない偽装魔法の極地だと。結果として、自身の分身を自分の位置とは異なる場所に出現させるという現象を生みます」

 

深雪の説明に、その場にいる者全てが息を呑む。偽装をするという目的のために古式魔法の粋を集めた究極奥義とも言える魔法を、無名の魔法師が使用した。その事実は、常識ならば到底考えられないことだ。

 

「ここからは私の推測ですが、アーティは一条選手との長期戦を嫌い、わざと距離を詰めて自分が不利になる状況を作り出し、そこで繰り出した分身魔法が本命の究極奥義ではなく苦し紛れの魔法であると思い込ませ、分身の一つのみに回避運動を行わせてそれを本体だと思わせ、ヘルメットを脱がせに来たところを至近距離で仕留める、という作戦だったのでしょう」

 

深雪の仮説に異を唱える者はいない。獲物にとどめを刺す瞬間が最も隙を見せる瞬間。そのことはここにいる者はこれまでの経験から多かれ少なかれ知っている。だが、疑問が全て氷解したわけではない。むしろ、術の正体が分かったからこそ生まれる疑問というものもある。

 

「だがなぜ、アーティがその魔法を使えるんだ?その『纏衣の逃げ水』は九重家の秘術なのだろう?」

「それは今、お兄様が本人に聞いていると思いますよ。お兄様たちの帰還を待ちましょう」

 

深雪はそう言うと大役を果たしここに戻ってくる兄を、喜びに満ちた表情でじっと待ち始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

深雪が予想したとおり、今アーティは達也の質問攻めに遭っていた。

 

「驚いたな。アーティが師匠の秘術を使うとは。弟子入りしていたのか?」

「実はそうなんです。達也さんにとっては弟弟子にあたることになります」

「だからアーティは達也に敬語を使っていたんだね」

 

アーティの答えに、幹比古は勝手に自分の疑問を解決している。その呟きを聞いて、これは使えると内心思ったアーティだったが、達也の追求は止まらない。

 

「お前の戦い方がどことなく俺と似ていると感じたのはこのためか。だが、何故隠していたんだ?」

 

達也の追求に迫力はない。あくまで勝利に酔う少年たちの、種明かし大会に過ぎない。だが、アーティは質問を重ねる達也の瞳に明らかな警戒の色があることを見逃さなかった。

 

「ひけらかすようなものでもありませんから。別に師匠に口止めされていたわけでじゃありませんが、『このほうが達也くんも驚くよ』と。実際、こうして驚いているでしょう?」

 

満足気に笑うアーティの顔の顔に達也は嘘の気配を見つけられず、また八雲の褒められない性格を思い出し、達也もひとまず納得したようだ。

 

(これは大師匠に話を合わせてもらわないとな……)

 

達也の瞳から警戒の色が消えたことに安堵しつつも、八雲に頼み事をしなければならないという自分の暗い未来(?)に、内心若干の憂鬱さを抱えながら、アーティは凱旋の路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一高テントに戦勝報告に行ったアーティ達は、熱狂的な祝勝に包まれた。特に、最大の難関だった決勝戦の試合内容がアーティの八面六臂だったという事実は、1年男子の一科生としてのプライドを癒やした。それ故に、アーティ達はこれ以上ないほどの称賛を得たのである。待ち構えるようにアーティの術について質問が飛び交ったが、アーティの想定よりは既に理解が進んでいたようだ。それが深雪の説明であることはアーティには明らかだった。

内心深雪に感謝しながらも、アーティは説明もそこそこにホテルへ戻ると言ってその場を辞した。

もっとアーティの話を聞きたがった同級生たちも上級生たちも名残惜しそうにしていたが、そもそも昨日倒れたばかりのアーティを引き留めるようなことはしなかった。

 

 

 

 

 

 

「やっぱりここか」

 

ホテルのロビーを通ったアーティを出迎えたのは、雫、ほのか、レオ、エリカ、美月だった。

 

「達也くん達は?」

「達也さんと幹比古はまだテント。アレは当分釈放されそうにないね」

 

他人事のように笑いながらそう言い放ったアーティに、一同も苦笑を返す。

 

「………アーティ」

 

少し間を置いて、雫が口を開く。アーティは少し照れくさそうにおずおずと雫に向き直る。

いつもならここでエリカあたりが茶々を入れそうなものだが、今日はアーティに花を持たせてくれるようだ。

 

「優勝おめでとう」

「ありがとう」

 

2人の間に交わされた言葉はそれだけだった。だがそれだけで十分なのだと、その場にいる全員が理解していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分を労ってくれた同級生たちと少しばかり会話を楽しんだ後、アーティはその場を辞した。アーティの体力を慮ってか、アーティを引き留める者はいなかった。彼等はアーティを見送った後達也と幹比古を労いに行ったようだ。

だが、アーティが部屋に戻った後に取った行動は休息ではなかった。

 

無頭竜(ノーヘッド・ドラゴン)。達也さんの話で聞いた気がするけれど……殆ど覚えていないな。大師匠様様だな」

 

アーティは部屋につくなり情報端末を取り出し、八雲から受け取ったフォルダを開く。未来を変えるために極力達也を目立たせないという第一目標については八雲も同意している。そのために達也は動きそうな案件については八雲が無条件に情報を提供してくれるという合意を得ている。

 

アーティは部屋の窓を開けると、そのまま飛行魔法を使用して夕闇の空へと溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずいぞ。第一高校は新人戦も優勝してしまった」

「このままでは、我々は大損失を出すことになる」

 

テーブルを囲って青い顔で今にも震えそうな面持ちで話し合っているのは、今回の九校戦に工作を働いていた犯罪シンジケート無頭竜(ノーヘッド・ドラゴン)の幹部たちだ。

犯罪シンジケートと言ってもただの犯罪組織ではなく、魔法を用いた魔法犯罪を企てる組織であり、幹部に取り立てられるにはある程度優れた魔法師であることが条件となる。

故に一定水準以上の魔法師たちが密集し、更には魔法行使のみを行うために改造された「ジェネレーター」も護衛に当たるこのオフィスが、単身乗り込んできた魔法師の襲撃を受けることなどありえないことだった。

 

「!?」

 

突如として入口付近に立っていたジェネレーター2人が爆散する。その直後、重厚な自動扉が風に舞うティッシュのように吹き飛ぶ。幹部の一人は飛んできた扉を避けられずそのまま絶命した。

 

「何事」

 

だ、まで言い切れずにまた幹部の一人が爆散する。人体内部の水分を発散させその体積変化によって内部から爆発する。一条家の固有魔法、「爆裂」。だが、目の前でそれを行使する少年は、一条家の跡取り「クリムゾン・プリンス」ではなかった。

 

扉の反対側、窓際を固めていたジェネレーターが即座に反撃の魔法を行使しようとするが、ジェネレーターの情報強化を容易く無視して「爆裂」によりジェネレーターの身体は爆発四散し、その反撃は未発に終わる。

 

「質問だ」

 

そう冷たく言い放った少年が何より不自然なのは、ここまで一切CADを使っている様子がないことだ。それでいて、ジェネレーターの魔法行使の速度を遥かに上回っている。既に血で濡れていない場所がないほどの地獄と化した部屋を這いずり回る幹部の男も、反撃を試みなかったわけではない。だが、一切魔法を発動することは叶わなかった。目の前の少年の強力な「領域干渉」により、あらゆる自分の魔法が効力を発揮しなくなっていた。

空間全体にかけられた干渉力に対し、局所的に集中させた干渉力ですら対抗できない。その事実に、生き残った幹部は全員戦意を喪失していた。もとい、対抗手段を喪失していた。

 

「お前達に助力していた式神遣いはどうした」

 

少年は質問を投げた瞬間に幹部の一人をまた爆発させる。

 

「き、貴様っ!なぜその魔法、『爆裂』を使える!何者だ……っ!」

 

その光景にもはや幹部たちはアーティの質問に答える気力もない。ただ何者なのだとうわ言のように呟きながら奥歯をガタガタ鳴らしている。

 

「質問をしていいのはこちらだけだ」

 

そう言うとアーティは1人の幹部を残して生き残っていた幹部の男全員を爆散させる。

 

「さて。お前は最後に残した期待に応えてくれるよな?」

 

アーティはそう呟くと1人残った幹部の男の方をゆっくりと振り返る。男は他の幹部よりはいくらか理性の残っている表情だ。

 

「なぜ、式神遣いのことを?」

 

そう問を返した男の左手が破裂する。

 

「言ったはずだ。質問をしていいのはこちらだけだと」

 

「爆裂」は効果範囲を絞ることで人体を部分的に破壊することも可能だ。失血で意識を失わぬよう即座に傷口を焼き、アーティは「質問」の答えを求める。

 

「………式神遣いは死んだ。5日前に連絡がつかなくなって、3日前に死体で発見された」

 

痛みに歯を食いしばって耐えながらもたらされた答えに、アーティは動揺を禁じ得なかった。

 

「嘘をつくな」

 

アーティはその動揺を隠すように男の右手を同じように吹き飛ばすと、即座に傷口を焼き固める。

 

「………っ!う、嘘ではない……貴様が殺したのではないのかっ……!」

 

質問に答えたのに理不尽に右手まで吹き飛ばされ、男は恨めしそうにアーティを見上げる。

 

「………式神遣いの男の仲間は?」

「ヤツに仲間がいることは聞いていない。そもそも素性がわからず我々もヤツを信用はしていなかった」

 

アーティは拷問の結果得られた情報の少なさに失望していた。あわよくば未来からやってきた刺客を一網打尽にすることまで考えていたのだが、あまりの情報の少なさに無頭竜(ノーヘッド・ドラゴン)東日本支部を壊滅させる以上のことはできそうになかった。

 

「ご苦労」

 

忌々しげにそう呟くと、アーティは目の前の男を爆散させ、窓を加重系魔法で破壊するとその窓から再び夜闇へと溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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