魔法科高校の訪問者 ~真紅の双子~   作:冬元 鈴

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夏休み編の構成考えてたら遅れちゃいました。







夏休み編
夏の休日


 

 

 

 

 

「………ほえー」

 

間抜けな顔をしてアーティがあんぐりと口を開けているのは、小笠原の無人島にあるとある別荘だった。

九校戦を終えそのまま夏休みへと入ったアーティ達だったが、雫の誘いによってバカンスに行くことになったのだ。そのバカンス地は雫の家の別荘なのだが、その立派さにアーティは驚いているのだ。

そのアーティの後ろには、ほのか、深雪、達也、レオ、エリカ、美月、幹比古の姿もあった。

 

「なあ、アーティ」

 

アーティほどではないが驚きを隠しきれない表情のレオがそっとアーティに耳打ちする。

 

「なんでこんな大勢で来たんだ?どうせなら2人で行きゃよかったのによ」

 

このようなバカンスに参加できることは嬉しいのだろうが、雫やほのかとレオ達は直接そこまで親しいわけではない。気後れするのも当然と言えた。

 

「んー、まあ考えなかったわけじゃないけど。オレはみんなと過ごしたいし。それに」

 

アーティが説明した経緯は以下のようなものだった。

雫とほのかは毎年ここに遊びに来るのが恒例になっており、今年に限ってほのかを誘わないということは雫には考えられなかったし、アーティもそんなことをさせる気はなかった。

そしてほのかが来るのであればほのかは達也たちにも来てほしい。ならばいっそ親しい友人を全て招こうという話であった、というものである。

 

「なるほどな。そんじゃあ、遠慮なく楽しませてもらうぜ」

 

自分たちに気を使っての招待でないことを確認したレオはコロッと顔色を変えて「遊ぶぞー」という表情になっている。

切り替えのいい友人にやれやれと小首を振っていると、

 

「こんにちは。君が工藤スチュアートくんだね」

 

アーティの背後から、聞き慣れぬ声がアーティの名を呼んだ。アーティが振り返ると、そこには実業家としての風格を漂わせる中年の紳士が立っていた。

 

「私は北山潮、雫の父親だ」

 

思わぬ相手の登場にアーティは慌てて頭を下げる。

 

「はじめまして、工藤スチュアートです。この度はお招き頂き、ありがとうございます」

「九校戦での活躍、見させてもらったよ。それに九校戦では、娘は随分と君に励まされたと言っていた。仲良くしてくれているようだね」

 

そう言いながらにこやかに差し出された右手を、しっかりと握り返す。

 

「ふむ。気弱な印象を受けたが、やはり芯は強いようだな。大事な時ほど頼りになりそうだ」

 

潮の手を握り返すアーティへの品定めの呟きは、目の前のアーティにすら聞こえないほど小さな呟きだった。

 

「うん。雫の目は確かなようだ。我が娘ながら、なかなかしっかりしているじゃないか」

 

そうにこやかに、今度はアーティにも聞こえるような大きさで呟くと、潮は握手を解きアーティに優しい視線を向けた。

 

「では、残念ながら私はもう行かなければならないが、雫のご友人の皆さん、自分の家と思って寛いでください」

 

雫から聞いていた通り仕事に少しだけ穴を開けてきていたようで、潮はそう告げると早々に立ち去ってしまった。

 

「アーティ、お墨付きだね」

 

そんな潮を見送るアーティを背後から茶化すのはエリカ。

 

「なっ、何のことさ」

「お義父上のお墨付きのことに決まってんじゃねえか」

 

急に顔を赤らめてエリカにとぼけるアーティに追い打ちをかけるのは、レオ。息ピッタリのこの2人のコンビネーション攻撃に「お前らのほうがお似合いだ」と叫びたくなるが、ここはぐっと堪える。

やいのやいのと馬鹿騒ぎをしているアーティ達を尻目に、女子たちは既に上着を脱いで水着姿になっていた。

 

「おわっとと。こうしちゃいられねえ。海一番乗りを譲るわけにはいかねえ」

 

そんな女子たちを見て訳のわからないことを言い始めたレオの後ろをアーティも走り出す。

 

「おっ、じゃあ女共のところまで競争な」

 

それを競争の合図と捉えたのか、一歩先を行くレオから年頃の少年らしい宣言が飛び出す。

アーティとしてはそんなつもりはなかったのだが、競争と言われては引き下がるわけにはいかない。

 

「おおっと、魔法はなしだぜ?」

 

慌てて魔法なしのルールを付け加えると、レオは砂を勢いよく蹴り出しスピードを上げる。それに負けじと長いストライドを生かしてぐんぐん速度を上げるアーティ。そんな彼等を見て、達也は

 

「何をしてるんだ、あいつらは……」

 

と呆れ気味に呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「砂浜をどうしてそんな早く走れんだよ………」

「魔法は使ってないからな」

 

100m以上砂浜の上を走りきった2人は流石に肩で息をしている。それでもアーティの方には少しばかり余裕が見えた。アーティが受けた訓練の中では悪路での走行も含まれている。体力自慢のレオとはいえ走り方を知っているアーティに敵うはずはなかった。

 

「2人共、大丈夫ですか?」

「大丈夫よ美月。勝手にバカやってただけなんだから」

 

肩で息をしている2人を心配そうに見つめる美月だったが、それを笑い飛ばしたエリカ。上着を脱いで既に水着姿になっている彼女たちは、年頃の少年にとっては些か以上に艶やかすぎた。

2人の水着姿にぎくりと固まったアーティの様子を見て、意地悪そうな顔をしながらエリカが近づいてくる。

 

「どう?アーティ」

「どう、って………」

 

返答に困るアーティをからかうようにエリカがグイグイと近づいてくる。派手な原色のワンピースは、彼女のビビッドな印象も相まって彼女の存在感を際立たせている。余計な飾りのないシンプルなデザインは、彼女のスレンダーな身体のラインをくっきりと浮き立たせている。

 

「スポーティなイメージがマッチして、よく似合っているよ……」

 

チラチラと目をそらしながらやっとのことで口にした讃辞だったが、それを聞いたエリカは思いがけずおおっ、というような顔をした。

 

「案外褒め上手じゃん……」

 

そう聞こえないほどの声で呟いた後、エリカは傍にいた美月を手招きで呼び寄せる。

 

「美月のは、どう?」

「ええっ、エリカちゃん、いきなり……」

 

エリカのキラーパスに戸惑う美月だったが、それでもアーティの感想が聞きたいらしく、口を噤んで上目遣いでアーティを見ている。細かな水玉模様のセパレートだが胸元の深いカットで彼女の大きな胸が強調されておよそ高校生のものとは思えない色香を醸し出していた。

 

「ええっ、柴田さんまで……その、大人の気品、っていうのかな……ちょっと意外だったけど、すごく似合ってるね」

 

これまたしどろもどろの褒め言葉だったが、美月は満足したのか、嬉しそうに俯いて下がっていった。

 

「エリカ、何をしているの?」

 

そこに深雪がやってくる。後ろにはほのかと雫までいる。思わぬ後続にエリカがニヤリと笑ったのを見逃さなかったアーティは即座に離脱を試みるが、エリカに足を踏まれ機先を制される。アーティが怯んだ瞬間にエリカが深雪に水を向ける。

 

「アーティに水着を褒めてもらってたの」

「まあ。わたしも、お兄様にお見せする前にアーティの感想を聞いておこうかしら」

 

エリカの言葉にニコリと顔を綻ばせた深雪が身に纏うのは、大きな花のデザインがプリントされたワンピース。体のラインを出しすぎないそのスタイルは、深雪が元来持ち合わせている妖精的な魅力を強調している。

 

「クールなイメージと可愛らしい花のギャップが刺激的ですね。達也さんもきっと気に入りますよ」

 

アーティも必死で言葉を選んだのだが、深雪には後半の言葉の意味のほうが大きかったようだ。そうですか……とだけ呟くと、自分の世界に閉じこもってしまった。

エリカの言葉を待たずに近づいてきたほのかに、流石に限界だと一緒に来たレオの方に助けを求める視線を送るも、レオは海に入るための準備体操に集中しているようだ。

 

「アーティ」

 

にこにこしながらほのかがアーティの名を短く呼ぶ。ここで何、と問い返すようなことはしない。

 

「ほのかのスタイルが完璧に活きているね。よく似合ってる」

 

もう半分自棄になって逆に冷静さを取り戻したアーティは短いながらもほのかが意識したであろうポイントを抑えた讃辞を送る。だが、その冷静になった心もそのほのかの後ろからひょこっと出てきた影によって再び、いや数秒前より遥かに熱せられた。

 

「……………」

 

雫の水着はフリルを多用した少女らしいワンピース。大人びた表情の雫にはどこか倒錯的な妖しい魅力を放っている。

 

「……………」

 

なおも押し黙る雫にアーティもどうしたものかと口を開きあぐねていたが、ほのかににこりと静かに微笑みかけられていよいよかと覚悟を固める。だが、覚悟を固めて正対するとアーティの言語野は全く機能せず、

 

「と、とっても可愛いよ……」

 

これだけ言うとアーティの羞恥心は限界に達してしまった。アーティは上着を脱ぎ捨てると海へと既に走っていたレオを追い抜き、猛スピードで海へと飛び込んでいった。

 

「………アーティったら。一番ちゃんと褒めなきゃいけないのに……」

 

むっと頬を膨らませながらアーティの後ろ姿を睨むほのかの肩に、そっとエリカが手を置く。

 

「いやいや、ほのか。あれはアーティの最大限の賛辞だよ。わたしたちには可愛い、なんて言わなかったじゃない」

 

やれやれ、と芝居がかった仕草で首を振ってみせるエリカに、横の美月もコクコクと頷いている。雫の嬉しそうな俯き顔を見て、ほのかは自分の勘違いに気付いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真夏の小笠原諸島といえども、夜中も海水浴ができるほど水温が高いわけではない。夕食を済ませたアーティ達は、別荘の居間で思い思いの過ごし方をしている。達也と幹比古は将棋、レオとエリカと美月と深雪と雫はトランプをしている。そして、アーティはと言うと、ほのかに連れられて別荘から少し離れた崖の上にいた。

 

「ここ、わたしたちのお気に入りの場所なの」

 

ほのかの目線は、星が映る水面に向いている。アーティもそれに倣って海を眺めてみる。

 

「小さい時に見つけた、小父様にも内緒の場所」

 

小父様、というのは潮のことだろう。アーティにはそのような場所にほのかにつれてこられた意味がわからなかったが、しかし不思議なことにアーティは自分がその理由を心のどこかで理解しているような気がした。

 

「綺麗だね」

 

アーティは思った感想を、何の言葉の飾りもつけずに口からこぼす。大気が澄んでいる無人島で見る、揺れる水面に映った星々は普段星に興味を示さないアーティにも格別美しいものに感じられた。

そんなアーティの言葉に、ほのかは頷きながらアーティの横に静かに並ぶ。

 

何分、2人揃って海を見ていたかはわからない。だが、ほのかが意を決したように口を開く。

 

「アーティ。雫のこと、どう思ってる?」

 

思いがけぬ質問にアーティは目を見開いてほのかを見る。隣に立つほのかは、いつになく真剣な眼差しでまっすぐにアーティの瞳を見つめていた。

 

「そっか。ほのか、幼馴染だもんね。そりゃ、分かるか」

 

バレちゃったか、と舌を出すアーティに、なおもほのかは目を逸らさない。

 

「好き、だよ。最初は褒めてもらえた嬉しさから、だったと思う。でも、クラスで話すうちに、部活の練習をしている彼女を見る度に、オレは雫から目が離せなくなった」

 

しみじみと語るアーティの言葉の切れ目にも、ほのかはいかなる言葉をも挟まない。

 

「それに、九校戦。あそこで雫は、オレに勇気をくれたんだ。敗北することを仕方ないと受け入れていたオレに、困難に立ち向かう勇気をくれた。オレにはやらなきゃいけないことがある。そのための勇気を、雫がオレにくれる。そんな気がするんだ」

 

ほのかには、アーティの言うことの意味は半分以上わからない。単にタスクがあるという意味ではなくとてつもなく大きな使命を感じさせる言葉の意味も、自分以上に華々しい成績を九校戦で残したアーティが受け入れていた敗北とやらも。だが、ほのかはアーティの言葉を真実と受け取った。親友を任せるに足ると、判断した。

 

「じゃあ、アーティからちゃんと気持ちを伝えて。雫も、それを望んでいるから」

 

ほのかの言葉にアーティは目を見開く。雫もまたアーティのことを想っているという事実もそうだが、目の前の友人が親友の気持ちを漏らすとは思えなかったからだ。

 

「それはできない」

 

本当ならば喜び勇みそうなほのかの言葉に返されたのは、思いがけない否定の言葉だった。

 

「え?」

 

ほのかは豆鉄砲を食らったような表情になるが、すぐに真顔に戻る。繕った、というよりはなにか心当たりがあるといった顔色だ。

 

「今のオレは雫に勇気をもらわないと覚悟が足りない。雫とは、相手を求める関係じゃなくて、相手に与える関係になりたいんだ」

 

やはり、アーティの言葉はほのかにはピンと来るものではなかったが、今目の前で真剣な面持ちで水面を見つめながらそう呟くように言った友人の顔が、親友のことを心から想っていることを感じて、ほのかは静かに頷いた。

 

「それはそうと」

「?」

 

ガラリと明るい、いつもの口調に戻ったほのかの切り出しに、アーティが首を傾げて先を促す。

 

「アーティの気持ちに気付いたのは別にわたしが雫の親友だからじゃないよ。もうみんな知ってるんだから」

 

にこにことほのかから投げられた爆弾により、夜の小笠原諸島の海岸線をアーティの悲鳴にも似た声がこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 







夏休み編は後数回あります。基本単話で区切りたいと考えています。



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