魔法科高校の訪問者 ~真紅の双子~   作:冬元 鈴

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天敵が誰を指しているかお分かりになった方どれほどおいででしょうか。






天敵からの呼び出し

 

 

 

 

 

 

「ひ、卑怯なっ………」

 

四葉家の手の者に半ば拉致されるような出来事の翌日。自分の置かれた状況の整理もままならぬ状態でアーティは自分の情報端末が受信した一通のメッセージを睨んで歯噛みしていた。

 

「そもそもナンバーを教えた覚えは……委員長か……」

 

件のメッセージはパーソナル・ナンバーを教えていないはずの相手から送られてきたものだが、ナンバーの漏洩元についてはあっさり推理できた。

アーティが睨んでいるメッセージの文面は以下の通りである。

 

 

「工藤スチュアート君

 

数件、お話があって連絡しました。明日の部活には参加するのですよね?では部活後の17:00に生徒会室でお待ちしています。

 

七草 十文字」

 

十文字との連名なだけあっていつものような砕けた口調ではないが、手短に要件のみを書いているあたり遠慮の欠片も感じられない。

 

「会頭と連名じゃあ無視もできないし………」

 

ほとほと困り果てた表情で途方に暮れるが、どれだけ考えてもこれを切り抜ける妙案は出ない。覚悟を決めるしかないと半ば諦めるようにアーティは床に就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始め!」

 

翌日。本日のMMA部の練習メニューはスパーリングだ。開始の合図とともに闘技場内で同時に複数の組がスパーリングを開始する。

アーティは全身の力を抜いた状態から素早く重心を前に移し、膝を抜くようにして開始と同時に予備動作なく接近の初動を繰り出す。これを読んで開始とともに後ろに下がりながら、魔法使用のための時間を作るのは1年生でありながらMMA部内でも有数の実力を誇る十三束鋼だ。

 

「―――!」

 

後ろに下がりながら初撃を準備していた十三束は、アーティの寄せが予想よりも早いことに狼狽する。アーティは縮地で距離を詰めながら、加速魔法を用いて更に距離を詰めていたのであった。未だ開発途上の複雑な魔法式を構築しようとした十三束に対して、基礎単一魔法を拘束でキャストしたアーティ。十三束の魔法式が構築されるよりも早く、アーティの初撃が繰り出される。パラレルキャストで準備されていたアーティの拳を発動ポイントに設定した接触魔法が、基礎単一系の加速魔法に少し遅れて発動する。アーティの拳が十三束の肩口を穿ったことにより発動し、十三束の身体を更に後方に吹き飛ばすことは、なかった。

 

「レンジ・ゼロ」。十三束が持つ異名である。これは十三束が、体質として核が非常に強力で想子(サイオン)を強く引き付け、自分の想子(サイオン)を遠くに飛ばすことができないために遠隔魔法を使えないことを揶揄したものでもあるが、同時に近接戦闘においては無類の強さを誇ることに敬意を示す異名でもある。

この異名を持つ十三束は、自分の体内に超高濃度の想子(サイオン)を常に纏っている。これにより、彼の身体に作用しようとした魔法式はその大量の想子(サイオン)によって吹き飛ばされ、機能しない。「接触型術式解体(グラム・デモリッション)」と呼ばれる、最強の対抗魔法「術式解体(グラム・デモリッション)」の亜種だ。

 

アーティの拳を通して発動するはずだった魔法は不発に終わったが、加速魔法によりかなり重心の乗ったアーティのパンチそのものは十三束の肩口を抉っている。防具を着けてはいるものの衝撃は相応にある。並の魔法師ならば展開していた魔法式の展開に失敗しても不思議ではないが、十三束はここまでは既定路線と身構えていたからか十三束が準備していた魔法式は展開を終え、その効力を発揮する。その瞬間、十三束の体は左の肩口を殴りつけられた直後であるにも関わらずその衝撃に逆らって右足で中段に回し蹴りを放つ。

 

「―――っ!」

 

左肩に衝撃を受けてよろけながら右足だけを振り出したように見えるその回し蹴りは、そのような体勢から放ったとは思えないほど素早く、重い一撃だった。それに対して咄嗟に左腕を出し、左腕と頭の相対位置を硬化魔法により固定して耐える。そこに十三束が繰り出した右足を引ききらないままに右手での突きを繰り出す。およそ力を込められる体勢ではないが、その突きの鋭さはもろに受ければ大ダメージは必至の速度を兼ね備えていた。

 

アーティはその突きを先程十三束の右肩に叩き込んだ後引っ込めていた右手を差し出し顔の真横で受ける。右肩を前に半身の形になっていたアーティはその突きの威力で右肩が後ろに下がる形で、時計回りの回転をしながら十三束の突きの威力を()()()()()()受けきる。時計回りに回ったことで全面に出た左肩から、硬化魔法を解除し自由になった左手をまっすぐに伸ばして突きを放つ。そこにはアーティの膂力に加え十三束の突きの威力、さらにそれを古式魔法「転回」によって増幅した威力が乗っていた。

右腕を差し込む形でアーティに密着していた十三束の脇腹に重い一撃が入る。十三束はそのまま数m吹っ飛び、倒れ伏した地面で激しく咳き込んだ。

 

「今日は一段と容赦ないね」

 

少し申し訳無さそうな顔で倒れた十三束に手を貸すアーティに、十三束は拗ねたような顔で文句をつけてきた。

 

「そうか?」

「今日はいつもより殺気立って見える。何かあった?」

 

だが十三束は文句をつけたのではなくアーティを案じていたようだ。

 

「………いや」

 

十三束の言葉にこの後に控える気が重い用事を思い出し、苦虫を噛み潰したような顔で辛うじて否定する。

 

「その顔は明らかに何かあった顔だね」

 

かなり思い一撃を食らったはずの十三束はもうすくっと立ち上がってアーティの顔を覗き込みながら半笑いでアーティの肩を叩く。

 

「………これからあるんだよ」

 

それだけ言ってため息をついたアーティの肩を叩きながら、頑張れよと短く励まして十三束は去っていった。

 

「………はぁ」

 

もうすぐ部活も終わる。この後には逃げ出したくなるような用事が控えていることを思うと、アーティはため息が止まらないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか」

「来てくれてありがとう。ささ、座って座って」

 

時間丁度に生徒会室に入室したアーティを待っていたのは真由美と克人だった。相変わらず表情の読めない真顔でどっしりと構える克人と、楽しそうに手招きする真由美。アーティは不興を買わない範囲でできるだけゆっくりとした動作で椅子に座った。

 

「数点話があると伺いましたが」

 

無駄話は真由美の土俵だ。さっさと本題に入るに限る。多少強引ながらもアーティは本題に突入する流れを作った。

 

「うむ。単刀直入に言おう」

 

それに対して口を開いたのは、意外なことに克人だった。

 

「工藤。お前は、十師族の一員だな?」

 

唐突な質問の形をとった確認。アーティはこの質問の意図が読めず、隣に座る真由美をちらりと見るが、真由美も真面目な顔でアーティの答えを待っている。

視線を克人に戻すと、その視線は偽りや韜晦を許さない眼力が、克人からの視線に込められていることを感じ取った。

 

「いいえ。オレは十師族の一員ではありません」

 

克人の問いは、嘘を許さぬだけの重圧があった。それに対してアーティが否定を返すことができたのは、アーティが逡巡の結果自分は十師族の一員ではないと考えたからである。

自分の生まれは紛れもない十師族ではあるものの、今この時代においては自分は十師族としての立場を取る勢力の中にない。つい一昨日四葉への加入を約束はされたが、それも所詮口約束である。この場合、肯定を返すほうが嘘偽りに当たるとアーティが判断したがゆえの返答だった。

 

「………そうか」

 

しばしアーティの瞳を覗き込み、返答の真偽を測る克人。隣の真由美は克人の判断に委ねているようだ。

 

「ならば、師族会議において、十文字家代表補佐を務める魔法師として助言する。工藤、お前は十師族になるべきだ」

「…………」

「そうだな…七草なんか、どうだ?」

「………はい?」

「ええっ!?」

 

唐突に出された名前に、アーティも、名を出された真由美本人も素っ頓狂な声を上げる。

 

「………もしかして、結婚相手としてどうだ、という意味でしょうか?」

「そうだ」

 

恐る恐る発せられたアーティの確認に、ノータイムで肯定を返す克人。これには真由美も絶句している。

 

「……会長にはむしろ、十文字会頭のお名前が上がっているのではないのですか?」

「なっ!?ちょっ、あー君!?」

 

これはむしろチャンスだと瞳に悪戯な色を浮かべて切り返したアーティに、真由美が狼狽を見せる。

 

「確かにそういう話もあるな」

「十文字くん!?」

「会長はタイプではないのですか?」

「いや?七草はこれで中々、可愛いところがある」

「「…………………」」

 

この克人の臆面もない返答には、悪ノリをした当のアーティでさえ絶句を免れなかった。克人の隣に座る真由美は可哀想に真っ赤になって縮こまっている。

その様子に些か以上の憐憫を覚えたアーティは自分で蒔いた種を回収しにかかる。

 

「………今のオレには十師族の女性と結婚するという事は考えられません。これでも、心憎からず思っている相手がおりますので」

 

アーティの身を切る助け舟に、真由美がはっと顔を上げる。感激したような瞳を向けられ、アーティは少しばかり心が痛む。

 

「そうか。だが、覚えておけ。十師族の次期当主に正面からの1対1で勝利するということの意味は、お前が考えているよりずっと重い」

 

アーティはこの言葉でようやく克人の意図を知った。将輝を倒したことで工藤スチュアートという魔法師の立場は十師族でないがゆえに危うく不安定なものになる。そういったものから守るために、十師族に名を連ねることを言葉通り助言しているのだ。

 

「肝に銘じておきます」

 

アーティの姿勢を正した返事にうむと頷くと、克人はその視線を真由美に向ける。

 

「それでは七草。もう一つの要件はお前から頼む」

「ええ」

 

先程まで慌てふためいていた真由美だが、アーティの助け舟により正常に戻っている。もう一つの要件とやらを切り出そうとアーティに向き直る真由美を見ながら、若い真由美さんはまだ素直なところが残っているんだなあなどと失礼なことを考えていた。

 

「あー君。今度の生徒会選挙のことなんだけど」

 

真由美が会長を務める生徒会は、この秋に任期が終わる。当然次期生徒会を指名する生徒会長を選ぶ選挙が行われる。真由美の話題はそれについてだった。

 

「貴方に、生徒会長に立候補してほしいの」

 

真由美の言葉は、アーティが予想もしない内容だった。目をパチクリさせながら真由美を見つめるが、真由美は至って真剣な眼差しでアーティを見返している。冗談ではないようだ。

 

「………オレは1年生ですが」

「前例がないわけじゃないわ」

「そういう意味で言ったのではなく。今年の2年生に適任者がいるのでは、ということです」

 

真由美の言葉を聞いてアーティが思った正直な感想は「やりたくない」であった。来年ならまだしも、2年生を差し置いて生徒会長になったという目で見られるのは正直御免だ。

 

「そのことなんだけどね………」

「?」

「はんぞー君は部活連次期会頭、そしてあーちゃんは固辞してて……」

 

困り顔で呟いた真由美の言葉は頷けるものだった。部活連は何かと腕が立つほうが務まるだろうし、あずさが自分には務まらないと尻込みするのも容易に想像できる。そしてアーティとしてはこの2人意外に生徒会長が務まりそうな人材がいなかった。

 

「それで1年生に話が行くのは納得したんですが、なんでオレなんですか?新入生総代の深雪さんではなく?」

「あー君にお願いしたのは、一科生と二科生の差別意識について、わたしの政策を引き継いでもらえると思うからよ。わたしの後釜に差別的な会長を置いても、逆戻りするだけだもの」

「それなら深雪さんも同じですが」

「もちろん、深雪さんについても達也くんを通じてお願いするつもりよ。ただ……」

「ただ?」

「差別撤廃を推し進める上で、会長を務めるのは深雪さんよりもあー君の方が都合がいいの」

「?」

 

なぜ深雪がダメで自分ならいいのか、心当たりのないアーティは小首をかしげる。

 

「深雪さんが主導でやると、どうしても達也さんのためっていう印象を拭えないのよね」

 

それに答えた真由美の言葉に、アーティはあー、という声を漏らす。

 

「それに、選挙をやるのだから、深雪さんの信任投票より候補者が複数いたほうが健全だと思って。お願いできるかしら?」

 

候補者が一人であれば選挙は信任投票になる。信任投票では、どうしても生徒間に「自分たちが会長を選んだ」という意識が芽生えない。それを避けるために候補を複数立てるというのはアーティにとっても頷ける話だった。

 

「分かりました。1つだけ条件をつけます」

「何かしら?」

 

アーティは生徒会選挙に出馬する覚悟を決めた。だが、このくらいの我儘は許されて然るべきだろうと、たった1つの条件を口にする。

 

「金輪際オレをあー君と呼ばないでください」

「………そんなに嫌だったの?」

 

小首をかしげてみせる真由美に、アーティは大仰に首を縦に振ってみせる。

 

「わかったわ。アーティ、でいいかしら?」

「それでお願いします」

 

かくして、生徒会選挙に出馬することと引き換えに、アーティは幼少期から付けられていたあだ名を消し去ることに成功したのであった。

 

 

 

 

 

 

 







十文字先輩の天然設定が私は好きです。
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