魔法科高校の訪問者 ~真紅の双子~   作:冬元 鈴

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ついに本編です。
原作との細かい差異ございますが、原作コピーはアウトなのでわざとです。
予めご了承ください。


入学編
入学編Ⅰ


「腑に落ちない…っ!」

 

俯きがちにボソボソとぼやきながら歩く少年が身にまとうのは、真新しい制服。

ここ、国立魔法大学附属第一高校の周りでは毎日目にする、通称「一高生」の制服である。

その制服の胸と肩に堂々と咲き誇る八枚花弁のエンブレム。

それ自体は決して珍しくもなく事実この高校に通う生徒の半分はこのエンブレム付きの制服を身に纏い通学している。

しかしこの少年が自覚なく周囲の注目を集めているのは、その制服のブレザーから上に伸びる首から上であった。

真紅と言って差し支えないほど鮮やかな赤色の髪。かなり日本人らしい顔つきには似つかわしくない深い蒼色の瞳。それでいて違和感なく、やや中性的に美しく仕上がった顔立ち。この顔で目を合わせてウインクなどしようものなら道端から黄色い悲鳴が湧き上がること間違いなしである。

そんな美少年が今にも地団駄を踏みそうな様子でぼやきながら歩いているのだから、周囲の注目を集めてしまうのは必定と言える。

 

「あんな粗悪な機械で入試成績を決定するなんて…審査項目もまったくもって魔法技能の評価すべきポイントを抑えていない。これが25年前とはいえ名実ともに日本一の魔法科高校だなんて…こんな入試で総代を決めるだなんて本当に納得がいかない!いや、深雪さんから総代を奪うつもりなんてなかったけどさ…それとこれとは話が別じゃん!」

 

もはや途中からぼやきではなくまるで隣に人がいるかのような声量でブツクサと文句を垂れる少年の姿に、初めの方はその見目麗しい姿から二度見していた通行人も努めて彼と視線を合わさないようにしていた。

 

「今更入試制度の文句を言っても始まらないな…かなり早めだけどもう構内に入っちゃおう。先輩方が見つかれば時間も潰れるんだけどなー」

 

驚くべき速度で機嫌を直した少年は先程とは打って変わった軽い足取りで一高の門をくぐる。

今日は国立魔法大学附属第一高校の入学式。魔法の才能を認められたエリートたちが華やかな未来を手にするためにそのキャリアの第一歩を踏みしめる、門出の日である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「納得できません」

「まだ言っているのか…?」

 

入学式開会の二時間前。入学式の会場となる講堂を前にして、真新しい制服に身を包んだ一組の男女が何やら言い争っていた。

誰が見ても見目麗しい、いやこの歳にして絶世の美女と称賛されても誰も異を唱えないであろう女子生徒の胸には、先程の赤髪の男子生徒と同じく八枚花弁のエンブレム。

しかしピンと伸びた背筋と鋭い目つき以外取り立てて特筆すべき点のない、彼の目の前の少女と比べれば平凡な男子生徒の制服には、そのエンブレムがない。

 

「なぜお兄様が補欠なのですか?入試の成績はトップだったじゃありませんか!本来ならばわたしではなく、お兄様が新入生総代を務めるべきですのに!」

「お前がどこから入試結果を入手したのかは横に置いておくとして…魔法科高校なんだから、ペーパーテストよりも魔法実技が優先されるのは当然じゃないか。俺の実技能力は深雪も良く知っているだろう?自分じゃあ、二科生とはいえよくここに受かったものだと、驚いているんだけどね」

 

どうやら女子学生が男子学生を「お兄様」と呼んでいるところから、2人は兄妹なのだろう。二人とも身に纏う制服は真新しいので、双子か、ギリギリ学年が離れなかった兄妹か。親しい親戚である可能性も排除はできない。

だが兄妹だとするならば、あまりに似ていない兄妹だった。

 

「そんな覇気のないことでどうしますか!勉学も体術もお兄様に勝てる者などいないというのに!魔法だって本当なら」

 

兄の弱気な発言を妹が厳しく叱咤する。が、

 

「深雪!」

 

その先は禁句だった。自分よりさらに強い語気でたしなめられ、深雪はハッとした表情で口を噤んだ。

 

「わかっているだろう。それは口にしても仕方ないことなんだ」

「………申し訳」

 

深雪が項垂れながら謝ろうとした刹那、その動作は第三者の闖入により中断させられた。

 

「しまった!どいてください危ないっ!」

 

二人と同じく真新しい制服に身を包んだ男子生徒が相当な速度で突っ込んできていた。男子生徒が突っ込んできた方向は深雪と呼ばれた少女が兄と呼んだ少年の背後。故に完全に死角のはずだが、

 

「っ、と」

 

ひらりと身をかわしつつ肘を当てることで突っ込んできた男子生徒の進行方向を変え、目の前の妹を見事に守った。

自分を止めるものを失った男子生徒はというと…

 

彼もまた、見事にわずか数メートルで静止を成功させていた。

 

「いや、すみません。慌てて逃げてきたもので。気づいたらぶつかる寸前だったんですよ…って、新入生?」

 

ぶつかりそうになった男子学生が胸を撫で下ろしながら謝罪をする。ぶつかられかけた兄妹が身に纏っている制服が真新しいことに気付いたようだ。

 

「大丈夫です。大事には至らなかったので。…あなたも新入生ですか?」

 

形式張った謝罪ではないが、ひどく恐縮しているので兄と呼ばれた少年も社交辞令で返す。

 

「そうです。よかった。先輩だったらどうしようかと…ああいえ、同級生ならぶつかりそうになってもいいとか、そういうわけではなく!」

 

どうやら突っ込んできた男子学生は相当落ち着きのないタイプのようだった。………構内で走って人にぶつかりそうになるくらいだから、それは自明とも言えるのだが。

しかし外見はとても特徴的だ。まず燃えるような真紅の髪がよく目を引く。柔らかい髪質を綺麗に、自然体に流し、彼の第一印象をとても清潔感のあるものにしている。そして顔のパーツもなんとも秀逸だ。線が細く色白でやや中性的だが日本人にしては相当高い鼻と、早朝の青空のような深い蒼色の瞳が見せる鋭い眼光は、彼の顔立ちに凛々しい印象をもたらしている。瞳の色、白い肌、高い鼻、かなり高い身長にスラリと伸びた手足。純系の日本人には見えない。ハーフかクォーターではないかと、ぶつかられかけた男子生徒は狼狽える目の前の少年を冷静に観察する。

 

「オレ、工藤スチュアートって言います。クドウは十師族の九島じゃなくて、大工の工に藤の花の藤と書いて工藤です。みんなにはアーティって呼ばれてます。同じ新入生同士なんで、仲良くしましょう!」

「俺は司波達也だ」

「私は司波深雪です。アーティさん、よろしくお願いしますね。………アーティさん?」

 

達也と深雪が自己紹介を返すやいなや、アーティと名乗る少年はその動きをピタリと止めた。あまりにフリーズしている時間が長いので、深雪が心配して声をかけたのだ。

 

「……………あまりに若かったのと慌てていたので気づかなかった………………」

「え?なんですか?」

 

アーティの聞こえないくらいの声量の独白に、深雪が聞き返す。

 

「ああ、いえ、なんでもないですっ!ではオレは入学式があるのでこれでっ!」

 

ようやく我に返ったアーティは逃げるようにこの場を立ち去ってしまった。

 

「………新入生総代で答辞のリハーサルがある深雪ならともかく、入学式までは後二時間もあるのだが」

 

呆れるようにひとりごちた達也のツッコミに、深雪も不思議そうな表情で頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まさか……まさかこんな………早めに行って色々見て回ったら達也さんと深雪さんに会うなんて…っ!しかもこんな失礼な会い方…あああ最悪だぁ~)

 

達也と深雪から逃げるようにその場を離れたアーティは、物陰に入ると直ぐに頭を抱えてへたり込んでしまった。

 

(()()()にも見つかって追いかけられるし…25年後でも苦手だったけど、三つ子の魂百までとはよく言ったものだなあ…この頃からそんなだったなんて)

 

達也とぶつかりかける少し前まで逃げていた相手に毒を吐く。

 

(もう挨拶も済んだことだし、思いの外時間が余っちゃったなあ。現代の魔法理論について少しでも予習しておかないと。未来の理論を口を滑らそうものならどうなるものかわかったもんじゃない)

 

どうにもポンコツであるという印象を拭いきれないこの未来から来た少年は、とはいえその未来では世界を救う役割を期待された聡明な少年である。切り替えの速さは同年代の少年少女とは比べるべくもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーティが情報端末で魔法理論を読んでいる間に、校門の人通りも増えてきた。入学式に参列する新入生が続々と投稿してくる時間になったのだ。

新入生の制服は大きく2種類に分かれている。男子用のスラックスと女子用のロングスカートの違い、ではなく。先程の達也と深雪の制服の違いのように、八枚花弁のエンブレムが制服の肩と胸についているか否か、である。

 

―――ああ、あれがウィードか。本当にエンブレムがないんだな。

―――補欠とはいえ、残酷よね。こんな目立つ形で差をつけるなんて。

―――でも、仕方ないじゃない。魔法師の世界は実力主義。文句を言う資格なんて与えられないのよ。その社会の縮図なんだわ。

 

こんな会話が、聞えよがしに、ではないが決して遠慮を感じさせることもなく風にのって聞こえてくる。

内容はともかく明るく会話を弾ませながら校門をくぐる、八枚花弁のエンブレムのある制服に身を包む一科生(ブルーム)の新入生とは対照的に、エンブレムのない制服を身に纏う二科生(ウィード)の新入生たちはなにかに遠慮するように、会話をすることもなくそそくさと校門を通り抜けていく。

 

(上に立つ者の差別意識も現時点でかなりあるけど、自分が下であると卑下する者たちの被差別意識のほうが根が深いってのは本当なんだな)

 

そんな愉快とは言えない風景を眺めながら、そんな感想を抱いたアーティは情報端末を鞄にしまい自分も入学式会場の講堂へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………失敗した。かえすがえすも失敗した。今日は厄日か?)

 

アーティはまたも呆れ気味にひとりごちる。

アーティが講堂に入ったときにはすでに新入生はまばらに席についていたが、そこに規則性を見つけられるほどの数はまだいなかった。そこでアーティは何も考えずに後ろ三分の一くらいの席に座ったのだ。そのことが今、彼を猛烈に後悔させている。

彼は厳密に言えば間違いを犯したわけではない。彼の行動が間違いだというのならば、入学式の会場にはそのような指示が出されていて然るべきだし、何ならむしろ彼にとっては彼の行動が明確に間違いであったほうが良かったのだ。

つまり今何が起きているかというと。

彼のあとに入ってきた新入生たちは皆誰に言われるでもないのにある規則に従って席についていったのである。その結果前半分は一科生、後ろ半分は二科生というふうにきれいに分かれたのである。

その後ろの二科生の領域(テリトリー)の中に一点。場違いに座る一科生と、その左右2人分の空席という異様な空間が出現する結果になった。

 

(校門での様子を見れば容易に予想がついたことだ。本当に今日は厄日なのかもしれない)

 

ため息をつき右手を額にやるが、それだけの仕草で2人分離れて座っている女子生徒に「ヒッ」と短い悲鳴をあげられる。その様子にアーティはまたもため息をつきたくなるが、ぐっと堪える。

ここまで新入生が席についてしまった状態で前の方に移動しようとすれば辺りは騒然となる。今座っている席を立ち前に移動するということはクラスも発表されていないのに二科生を後ろに追いやるという差別的な並び方を積極的に肯定することにもなる。

 

(これが入学式のルールなら間違えましたと言って移動もできるんだが)

 

あるいは近くの二科生に「もっと前に行ったらどうですか」とでも言われれば堂々と前に移動できるが、先程の様子では期待もできない。

だが毎年一高の新入生入学者数は一科生100人、二科生100人と決まっている。椅子も当然、ピッタリしか用意されていない。つまりいつかは、この不自然な空席に着く二科生が否応にも現れる。

 

「すまない。隣は空いているかな。もしよければ詰めてもらえると助かるんだが」

 

場違いに座る一科生に声をかける二科生が現れ、周囲は騒然となる。幸い式の開始までまだ20分以上あり、ここの騒ぎが教師陣に見咎められる心配はない。

 

「は、はいっ!もちろんです!今詰めますねっ!」

 

声をかけられた一科生の反応は思いもよらぬものだった。騒然としていた周囲はしんと静まり返り、皆目を丸くしてその一科生と二科生のやり取りを見ていた。いや、見ていたというより信じられないものを目にして固まっていたと言うべきか。

 

「たしか君は、アーティだったか。偶然だね。同級生なのだから、そこまでかしこまらないでくれ」

「はいっ、達也さん、今詰めましたのでおかけください!」

「いや、だからだな………」

 

周囲の目は茫然自失から達也への好奇の目に変化していた。一科生に礼を尽くさせる、いや心底ビビらせるほどの二科生。一科生への劣等感にまみれ後ろの席を選んだ彼等にとって、達也の存在はあまりに奇異に映った。

落ち着き払った様子の達也だが、この状況が彼にとって居心地の悪いものであることは自明である。しかし幸いなことに、その時間は長く続かなかった。

 

「あの、お隣は空いていますか?」

 

今度は詰めたアーティの横に座った達也に女子学生の声がかけられる。

 

「どうぞ」

 

達也の返答を聞いて声の主はありがとうございます、と会釈を返し達也の隣に腰を下ろした。

その横に次々と二人の女子学生が腰を下ろす。

どうやら三人組で座れるところを探していたようだ。

 

「あの……」

 

達也の隣の女子学生が達也に声をかける。女子学生は眼鏡を掛けている。25年前の現代でも眼鏡は珍しかったはずだ、と達也越しに彼女の眼鏡に気付いたアーティはひとりごちる。

 

「私、柴田美月っていいます。よろしくお願いします」

「司波達也です。こちらこそよろしく」

「あたしは千葉エリカ。よろしくね、司波くん」

「オレは工藤スチュアート。アーティって呼んでください」

 

眼鏡の少女を皮切りに始まった自己紹介の波に乗ってアーティが達也越しに自己紹介を返すと、美月とエリカだけでなく達也までもが目を丸くしていた。

 

「……………??」

 

彼等の反応の理由がわからないアーティは、じっと彼女たちの顔を見比べることしかできない。

 

「………いや、一科生のエリートくんがあたしたちに自己紹介を返してくれるなんて思わなかったから。こんなところにわざわざ座るなんて、どんだけイヤミなヤツなのよとか思ったけど、アーティってもしかしてただのおっちょこちょいだった?」

 

一番早くフリーズ状態から再起動を果たしアーティに軽口を叩いたのは千葉エリカと呼ばれた女子生徒だった。

 

「おっちょこ………って、ひどいな君は。見かけ通り開放的な性格なんだな、君は」

 

突然初対面の相手におっちょこちょいとまで言われ思わず嫌味を返したアーティだったが、エリカは気にすることもなくもうひとりの女子学生の自己紹介を促した。一通り自己紹介を終えた辺りで、入学式が始まるブザーが鳴ったので、彼等も会話をやめ前に向き直ることにした。

 

 

 

 




5000字を超えたのでぶつ切り感出てしまいましたがここで切りました。
次話以降もよろしくお願いいたします。
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