魔法科高校の訪問者 ~真紅の双子~   作:冬元 鈴

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騒乱編突入です。





横浜騒乱編
横浜騒乱編Ⅰ


 

 

 

 

 

 

「七草先輩!話が違うじゃありませんか」

 

珍しくかなりの剣幕で真由美に詰め寄っているのはアーティだ。背の高いアーティが壁際に真由美を追い込み、上から覗き込むように迫っている今の状態は、傍から見ればかなり大胆な行動にも見える。

 

「中条先輩は仕方ないとしても、深雪さんまで出馬しないってどういうことですか!」

 

真由美も珍しく額に冷や汗を浮かべて青い顔で縮こまっているので、本当にアーティが無理矢理真由美に迫っているように見えるのだが、生徒会室にいるあずさ、深雪、達也は気まずそうにそちらを見ないようにしている。

 

「信任投票では新会長の求心力に不安が残るとか言いながら!オレをその求心力不足の新会長に据える腹だったんですね」

 

アーティが怒り狂っているのは、会長選に出馬してみれば対抗馬がおらず、あれよあれよという間に新会長に担ぎ上げられたからだ。

このまま延々と糾弾を続けそうなアーティに、深雪の出馬を止めた張本人の達也が重い腰を上げ助け船を出す。

 

「アーティ。深雪の出馬を断ったのは俺だ」

「達也さん?」

 

アーティは夏休み中に行われた真由美からの達也に対する深雪の出馬の打診のやり取りを知らない。だからこそ真由美に怒りをぶつけていたのだ。

 

「深雪の出馬要請は直接俺が辞退した。深雪はああ見えて感情的に幼い部分がある。魔法をしばしば暴走させるところにも現れている。深雪に生徒会長はまだ早いと、俺が断ったんだ」

 

達也の考えだと言われれば引き下がるしかないアーティは、魔法を暴走させるのはオレもなのにだとかこれじゃあ深雪さんに会長を押し付ける計画がだとかブツブツ呟きながらようやく真由美から離れる。

 

「あ、アーティくんなら信任投票でも求心力が十分に得られるわよ」

 

ようやくアーティの圧力から解き放たれた真由美がここぞと気休めを言うが、

 

「それは深雪さんにしたって同じです。貴女が信任投票を嫌ったのは個人の求心力ではなく会長選の経緯の観点からでしょう」

 

真由美自身よく分かっている誤魔化しを冷ややかにすっぱ抜かれ、真由美は黙ってしまう。そんな光景を目にしながら、達也は真由美に変なあだ名を呼ぶことをやめさせたあたり、真由美に対抗できるのはアーティくらいのものじゃないかと場違いな感心を覚えていた。

 

「はあ。まあもう信任投票までしまったので受け入れますが、オレは論文コンペ当日、欠席するんです。まさか本当に会長に就任するなんて思ってなかったので前々から言ってはいなかったんですが」

 

なおも不機嫌そうなアーティが口にしたのは、思いもよらぬことだった。

 

「えっ?アーティくん、論文コンペ来られないの?」

「父に呼ばれていまして。USNAに帰国しなければならないんですよ。その日程に折り悪く論文コンペの日にちも含まれておりまして」

 

名前からも顔からもハーフであると分かるアーティの口から出た帰国という言葉を、この場にいる誰もが疑わない。

 

「そう……なの。お家の用事なら仕方がないわね」

 

論文コンペに生徒会長が出席しないというのは些か以上にまずいことだが、未成年でUSNAの国籍もまだ持っている生徒の家庭の事情に強制力を発揮はできない。

 

「はい。ですから当日は一高生徒会長の権限は中条副会長にお任せしたいと思います」

「そんな!わたしじゃ務まりませんよ……」

 

それまで黙って聞いていたあずさが慌てて否定にかかる。

 

「いえ。各校の生徒が集まる論文コンペにおいて、有事の際に大勢の群衆をまとめ上げるのはオレよりも中条副会長が向いています。オレなりに考えた、最適任者です。現場には十師族の一員も数多く同席するわけですし、いざというときには彼等に判断を仰げばいい」

 

アーティはあずさを説得しながら真由美に視線を送る。

 

「わかったわ。いざというときにはあーちゃん、私の責任であーちゃんにその場を任せるわ」

 

真由美までもが援護に回り、退路を断たれたあずさはがっくりと項垂れる。

 

「それにしてもアーティ、お前は論文コンペでなにか起こると思っているのだな。万一のため、というよりほぼ確信しているように聞こえたが」

 

感心したように放たれた摩利の言葉に、アーティの表情に一瞬だけ「しまった」という狼狽の色が浮かんだのを見咎めた者は、幸いいなかった。

 

「………確信しているわけじゃありません。ただ、現場に行けない以上生徒会長のオレが万一のため、というような心構えではいけないと思ったまでです」

 

少し苦しい言い分だったが、その場にいる者は皆感心したようだ。

 

「なんだ。もう既に会長が板についてるじゃないか。これは真由美の英断だったな」

 

感心しながら放たれた摩利の言葉に、アーティは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

論文コンペに8日を残す今日、アーティは出国すると言って授業を欠席した。このまま論文コンペまで、アーティは一高の面々と顔を合わせることはない。だがUSNAへの帰国の予定など存在しないアーティは、朝一番、静岡と山梨の山間部に存在する、地図には書かれていない村へと向かっていた。

 

「このあたり、だったか」

 

先日教えられた情報を頼りにバイクを走らせ、一見何もない場所に立ち止まり右手をかざす。仄かな想子(サイオン)放射光とともに、アーティの認識に対して作用していた認識阻害の術式が晴れる。その事により目指すべき村の入口を正常に知覚できたアーティは、そこから存在しないはずの村へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい、スチュアートさん」

 

村の中央部にある、厳かな屋敷に入り女中に連れられるままに居間へと足を踏み入れたアーティを迎えたのは、四葉真夜その人だった。

 

「すみません。こんなに早くお力をお借りすることになってしまって」

「いいのよ。元はと言えば貴方の物を私がお借りしたから、貴方がこうしてここに来なければならなくなったのだから」

 

アーティが厳重に隠匿された四葉の村を訪れたのは、アーティが預けていたアーティの所持品を取りに来るためだ。

 

「解析の方は進んでいますか」

「CADについては順調よ。流石に20世代も違うと完全に別物ね。何かを弄ったりはしていないから、簡単にチューニングすれば使えるはずよ」

 

真夜がアーティが未来からの持ち込み品をアーティに要求したのは、当然未来の技術を真似して再現すれば四葉はハード面において20世代分のアドバンテージを得られるからだ。

 

「………タイムマシンの方は」

 

わざわざCADの方はと最初にことわった真夜の意図を察しながらも、確認をする。

 

「芳しくありません。オーバーロードにより作動しなくなっている部分が多く、再現はおろか機構の解明でさえ困難を極めるでしょう」

 

真夜の返答に、アーティは項垂れる。技術的限界点である25年の時間遡行を行った際に、「De Lorean」を構成する機構の多くはオーバーロードしてしまい再起動不可能になった。これをまた使えるようにすれば、なにかに失敗してもリカバリが効く。だが、それは期待してはいけないようだ。

項垂れていたアーティの前に、アタッシュケースを手にした女中が現れる。

 

「それでは、持っておいきなさい。未来から来たという敵対勢力も、横浜事変に乗じて動いてくるでしょう」

 

アーティが預けていた品々を受け取ったアーティにそう言葉をかけると、真夜はしずしずと居間の奥の自室へと引き上げていった。

 

(横浜事変において達也さんが戦闘に参加したことは各国の秘密裏に付けられた記録に残っている。横浜事変で達也さんが動かなくていいようにする。かつ、未来勢力の改変による歴史の悪化を防ぐ)

 

自分の成すべきことを再確認したアーティは、四葉の村を後にした。

 

 

 

 

 

 

 








今回は短かったですが、キリが良いのでここで切ります。
明日は更新できないかもしれません。


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