魔法科高校の訪問者 ~真紅の双子~   作:冬元 鈴

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友人に頼まれてゲームのシナリオを書いておりました。
今後、更新速度は数日に1回に落ちると思われますが、ごゆるりとお待ちいただければ幸いです。







横浜騒乱編Ⅱ

 

 

 

 

 

 

「へえ。達也さんが論文コンペのメンバーに、ねえ………」

「意外と驚いてない?」

「いや、驚いてはいるけど。でもまあ、あの人だしなあ……」

「それもそっか」

 

アーティが画面越しに話している相手は雫だ。アメリカに行った(ということにしてある)アーティに、達也の論文コンペ発表メンバー入りというスクープを伝えるために雫がアーティの情報端末に電話をかけてきたのだ。

世界の情報網が無線から有線にシフトして以降、大陸間の通信速度は飛躍的に高まった。とはいえアメリカと日本で通話をすれば気がつく程度のタイムラグは生じる。アーティは雫や級友たちと通信することになってもいいように、アメリカのサーバーを経由することでそのタイムラグと、アクセスポイントの偽装を行っていた。

 

「アーティはいつ帰国なんだっけ」

「コンペの翌々日だよ」

「結構長いんだね」

「全くだよ。雫もだと思うけど、親の付き合いっていうものには苦労させられるよね」

 

アーティは真っ赤なウソを口にしながら、雫の父親がどれほどの大物であったかを思い出していた。自分自身幼少期は姉とともに十師族の交流に連れ回されていた。未来にある自分の過去を思い出す度に身を切るような切ない思いが胸にこみ上げていたものだが、サラの生存を知って以降は幾分かその気持ちも変わってきているように感じる。

 

「そうだ。生徒会の報告で聞いているんだけど、最近一高の周りで少し怪しい動きがあるみたいなんだ。高校生の発表とはいえ論文コンペは優勝論文がスーパーネイチャーに取り上げられるくらいだからね。それを狙っての動きじゃないかって。俺がそっちにいられない分、雫たちも気をつけて」

 

アメリカに出向いているということになっているアーティのもとには、生徒会から逐次様々な報告が寄せられている。アーティがあずさに生徒会長権限を譲り渡したのは論文コンペ当日のみ。こうして学校を休み来るXデーに向けて準備をしている時間のうち、結構な時間はリモートでの生徒会長の執務に取られていた。

 

「そうなんだ。達也さんも何も言っていなかったから、知らなかった」

「極秘事項だからね。動き自体は小さなものだし、公言して無闇に不安を煽るものでもない。けれども雫は達也さんや深雪さんと一緒に行動する機会も多いし、気をつけてほしくて」

「ん。わかった。気をつけるね」

 

コクリと頷きながらキッと引き締まった表情を作る雫。しかしその表情よりも普段の表情のほうが余程クールに見えることにアーティは笑ってしまう。

 

「………何」

「なんでもないよ。心配ないなと思ってさ」

 

そんな失礼な笑いを察したのか、むっとむくれる雫を笑いながら誤魔化す。ふと画面右端の時刻表示を見ると、もう日が替わろうかという時間だった。

 

「そろそろ良い時間だ。こっちはまだ昼だけど、雫はもうおやすみ」

「うん。アーティはこれから会合?」

「うん。まさか息子同伴の会合がこんなにあるなんてね」

「そっか。アーティも頑張って」

「ありがとう。おやすみ、雫」

「おやすみアーティ」

 

雫相手に嘘を重ねる心の痛みに気づかないふりをしながら、優しい目つきで画面の向こうで静かに手を振る雫を見ながら、通信を切る。自分の人間関係も大切だが、それ以上に大切な使命というものがある。そのためなら、嘘もつくし裏切ることもする。そう決意したはずのアーティの心は、親しい人にちょっとした嘘をついたりする度に揺り動かされるのだ。全てを割り切るにはまだ、アーティは若すぎる。

 

ちりちりとした身を焦がすような痛痒を心に感じながらしかめ面をしているアーティの情報端末から、メッセージを受信した旨の通知が発せられた。その通知音がアーティを現実へと引き戻す。

差出人は真夜であり、中身はビデオだった。アーティはメッセージを開封し迷いなくビデオを再生する。

 

「アーティさん。横浜事変、とあなたが言っていた出来事に対して、結局の所、四葉として戦力派遣はほぼできないことが判明したの。まず、この横浜事変のソースが貴方である時点で、貴方の存在を伏せる私では四葉家の分家の方々を動かすだけの説得力は生み出せない。それに、四葉家の対応が早すぎる、ないし先手を不自然に打っているとあれば他家からは四葉が手引したのではないかと疑われかねない。達也さんの出動停止要請は出すけれど、達也さんに対して直接の指揮権を持っているのは風間さんよ。現状、貴方単騎で戦況を大きく変えるしか手段がないと言わざるを得ないわ」

 

このビデオは既に録画されたものを再生しているだけであり、これに返答しても意味はない。故にアーティは画面内でしゃべる真夜に抗議したりはしなかったが、アーティは苦虫を噛み潰したような表情になっていた。

 

「初動で動けないのなら、後から他家と一緒に動いても四葉が動いた、という衝撃的事実を知らしめて横浜に四葉家の要人がいることを晒すだけ。酷いようだけど、今回四葉家は貴方に手を貸すことはできない。アーティさん、それでも私は期待しているんですよ?」

 

最後は吸い込まれるような笑顔を浮かべてビデオが切れた。

 

(四葉の早すぎる派兵が他家の詮索を生むとは言っても、それで見事に被害を押さえていれば四葉なら抑え込めるはずだ)

 

真夜の言葉は予想の範囲内ではあったものの、予想の正中線をかなり外したものであったがゆえにアーティも怪訝にならざるを得ない。

 

(分家の説得にしたって、黒羽の貢さんは俺の拉致に関わっている。黒羽だけでも相当な戦力を用意できるはずだが)

 

アーティは考えれば考えるほど、真夜の言葉に虚偽を見つけてしまう。その答えは1つだった。

 

(真夜様は今回の件でオレを試している)

 

真夜は元々破壊者たる達也の誕生を喜んでいた。今でも、真夜の世界に対する復讐心は消えていないに違いない。ここでアーティがしくじるようであれば未来は変わらないし、未来が変わらないことに真夜はそこまで危機感を抱いていないのだろう。

 

(ならばオレ一人で横浜事変を大きく変えるのみ)

 

達也を目立たせないためには達也が八面六臂の活躍を見せた横浜事変において達也が戦わなくて済む状況を作ることが必要だ。そのためには、アーティ一人で敵の戦力を大きく削がなければならない、そのうえで、「質量爆散(マテリアルバースト)を使用させないために、敵基地をも先んじて破壊せしめなければならない。それも、国防軍側への協議なしで。あまりの難題に頭を抱えたアーティだったが、アーティはこういった状況での自己の切り替え方を知っている人間だ。アーティはすぐに気を取り直すと、横浜事変当日に使用する武器のメンテナンスを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コンペ前から一高で不審な動きが見られたとは言っていたけど………」

 

論文コンペが2日後に迫る中、来る横浜事変への準備に専念したいアーティは次々と上げられる一高の報告に頭を悩ませていた。レオとエリカの非合法工作員(イリーガル)との戦闘、風紀委員に籍をおいていた関本のハッキング行為。幹比古が式神の存在を大まかに掴んでいることなどに加え、更には八雲から達也が自宅で義母の小百合から預かっているレリックが大陸系の勢力に狙われており、既に達也が交戦したとの報告も受けている。

達也の昔話(とはいってもいつも口火を切るのは深雪だった)で論文コンペ前からきな臭い動きが見られたことは把握していたが、ここまで活発であったとは夢にも思わなかったのだ。

 

「しかし、これは好機かもしれない」

 

アーティは学校を休む前、生徒会の面々や周囲の友人たちに厳戒するよう言えなかった。注目度は高いとはいえ高校生の論文コンペに大事が起こるとは考えにくい、という意識を持つ友人に口を酸っぱくしても不自然に思われるだけだ。しかし、こうして論文コンペに向けたきな臭い動きがあれば格好の口実になる。そう思い立つと、アーティは生徒会への指示文書にて特に論文コンペに関わる生徒について厳戒態勢を敷くよう指示を出すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一高執行部に厳戒態勢を命じたが、それで憂いがなくなるわけではない。既にアーティは歴史への干渉をかなりの深度で行っており、また敵対勢力にもアーティと同じように未来から来た者がいる。アーティが日本の魔法師社会の中核に全く食い込めていないのと同じように、未来から来た、いわば何の身分証明を持たない人間が何を言ったところで信じられるはずもない。論文コンペに合わせた横浜侵攻の日程が繰り上げられることは考えにくいが、未来から来た敵対勢力がこの横浜事変に絡むのはアーティの中では確定事項だった。論文コンペの前日、アーティは念の為先行戦力等の上陸を警戒して横浜の沿岸を監視していた。

 

(達也さんの暗殺を考えるなら平時よりも戦乱に乗じて行うほうが成功する可能性は高い)

 

記録によれば達也は横浜事変において日本側が発揮した戦力のかなりの部分を担っている。ここで達也にフォーカスを合わせて達也の殺害を狙うのであれば、平時では司波達也暗殺を具申しても戦力を貸してもらえないであろう未来勢力が、実質的に大亜連合のサポートを受けながら達也暗殺を実行できることになる。

 

(そして、第四次世界大戦前の最大の戦乱は横浜事変だ。つまり、奴らにとって横浜事変こそ達也さん暗殺の最大にして最後の好機ということになる)

 

その最大の好機に、未来勢力は戦力を使い切るだろうというのがアーティの読みだった。この最大の好機で達也を仕留め損なえば、結局の所残存戦力があったとしても達也を斃すことはできない。戦力を分散する愚を敵が犯すとはアーティには思えなかった。

 

(ただ、戦力の小出しをするとしたら、唯一あり得るのは)

 

アーティが横浜の沿岸部で無防備にうろついていた理由は監視の他にもう一つ。「真紅の双子(クリムゾン・ジェミニ)」の介入を知った敵対勢力が事前にアーティを排除しようと考えると踏み、当日に大亜連合が投入する戦力を少しでも削ぐために釣っていたのだ。死んだと言われていた式神遣いがアーティのことをどの程度仲間に共有しているかは不明だが、確実にアーティへの評価は達也への評価よりも低い。明確に達也抹殺を妨害してくることが確定しているアーティを排除するために戦力を事前に使うことは十分に予想できた。

入念に張り巡らせた探知の糸に敵意が引っかかったことを感知したアーティは、即座に戦闘態勢に入る。港のコンテナ地帯の中にいるアーティは、肩の力を抜き全身の想子(サイオン)を活性化させる。アーティの全身は魔法師にだけ見える仄かな光りに包まれた。

 

「―――――!」

 

様子を見るつもりだったのだろう、遠巻きに向けられていた敵意はアーティが臨戦態勢に入ったことに反応して一瞬戸惑う動きを見せたが、意を決してアーティの立つところに一直線に飛び込んできた。100m以上はあっただろうが、文字通り一瞬でその距離をゼロにするとアーティの目の前に轟音とともに降り立つ。

 

「『真紅の双子(クリムゾン・ジェミニ)』、一条スチュアートだな」

 

降り立つとともに低い声で確認をしたのは大柄な男。彼の発する殺気は、相対する者に人を捕食する猛獣の印象を強烈に与える。

 

「呂剛虎………?」

 

アーティはその人相に覚えがあった。大亜連合きっての対人戦闘スペシャリスト、横浜事変にて最終的には真由美によって仕留められた男。アーティにとって、自分を待ち伏せしていた男が未来からの勢力ではないことも、その今を生きているはずの呂剛虎が自分の名前だけでなく異名までをも知っていることも、驚愕すべきことだった。

 

「―――っ!」

 

アーティの隙にもならぬ狼狽を好機と見たのか、呂剛虎は軽く膝を折った後、弾丸のように地面を蹴りアーティへと突撃する。アーティも思わぬ相手の出現に心にさざなみこそ立ったが、それに隙を作り初撃を甘んじて受けるようなことはない。即座に「纏衣の逃げ水」を作動させ棒立ちのままの幻像を残して後ろへと素早く下がる。その一瞬後に幻像の存在する座標を呂剛虎の小型トラックをも一撃でスクラップにしそうな一撃が薙ぐが、それはアーティ本体と同じ熱と音を発する幻像に過ぎない。呂剛虎も自分の攻撃が不発に終わったことに動揺するような未熟さは持ち合わせていない。それでも幻像と自分の位置が重なり視界が悪化した瞬間にバックステップを踏んでいたアーティからのカウンターを顎に受ける。

 

前のめりに拳を振り抜いたところへの顎への回し蹴り。生身で放たれたとしても相当のダメージを受けそうな攻撃だが、アーティの蹴りには接触点を発動基準とする接触型の攻撃魔法が仕込まれている。アーティが一高の部活動で取り組んでいるMMA(マーシャル・マジック・アーツ)の技術だ。

 

「エクスプローダー」の術式を仕込まれたアーティの蹴りは、着弾点を起点として負のベクトルを生み出すように周囲の物体に運動エネルギーを瞬時に与える。結果として、呂剛虎の顎はアーティの蹴りにより凄まじい勢いで吹き飛ぶはずなのだが、呂剛虎は少しのけぞる程度で即反撃に転じる。

 

鋼気功(ガンシゴン)………っ!これほどとは!」

 

アーティの予想以上に堅牢な呂剛虎の守りからの反撃に、アーティは防御側に回ることを余儀なくされる。古式魔法の術法を多く含む呂剛虎の攻撃に対し、基本的に現代魔法の技法で編みだすアーティの防御は、速度的に勝り間に合わせることはできても彼我の威力的にアーティの干渉力をもってしても受けきることは難しい。必然的にアーティは繰り出される呂剛虎の連撃をすべて回避せざるを得ない状況を作られていた。

 

「常駐型の古式魔法がこれほど強力とはっ!」

 

呂剛虎が身を守るために常駐させている鋼気功(ガンシゴン)は、情報強化と自信を何重にも覆う対物障壁の両方を併せ持つ。強力に作用している「情報強化」を前に、「爆裂」は作用できない。並の魔法師ならばともかく、呂剛虎ほどの一流の魔法師が古式魔法として発動させている情報強化を突破することは不可能に近い。

 

情報強化を突破できないならば本体ではなく、間接的な攻撃を加えることがセオリーだが、非常に強固な対物障壁で間接的な攻撃も無効化される。アーティの目の前にいる呂剛虎という男は文字通り難攻不落の要塞そのものであった。

 

(コレを使うしかないか!?)

 

この数合の打ち合いでほとんどの攻撃手段が通用しないと踏んだアーティは即座に腰につけている棒状の兵装に手を伸ばす。1m以上はあるその兵装は、使用すれば呂剛虎を確実に屠るだけの力はあるが、戦艦の主砲級の威力がある上に周囲の電子機器への影響も甚大な兵装だ。明日のために携行していた最終兵器に手をのばす程度には、アーティは追い詰められていた。

 

最終兵器をぶっ放すために上空へと飛び上がったアーティに、呂剛虎は飛行魔法も使わずに猛追する。飛び道具を使おうと距離を取る相手には追随するのがセオリーだ。呂剛虎の跳躍限界まで引き剥がしてから虎の子の一撃を放とうとしたアーティの意識が一瞬途絶えたのと、物理法則を無視して飛翔していた呂剛虎の肉体が慣性で放物線を描くだけの運動状態に入ったのはほぼ同時だった。

 

「!?」

 

意識を取り戻したアーティの狼狽は、この土壇場で前兆なく意識を手放したことと、自分は何の攻撃も加えていないのに突如空中で力尽きた呂剛虎へのものだった。落下に転じようとする呂剛虎を捕まえ、飛行魔法を再度キャストして沿岸部に着地する。

 

「これは………」

 

精神干渉魔法「コキュートス」。対象の精神が凍結され死ぬことすらできずに停止してしまう。アーティはこの魔法を一度だけ、見たことがあった。

無謀にも四葉の屋敷に侵入し達也に斬りかかった賊に、深雪が使用した即死魔法。この場に深雪がいるはずもなく、使用者は一人しかいなかった。

 

「姉さんがやったのか………」

 

サラはアーティの中からアーティの状態を常に見ていると言う。アーティが最終兵器を出そうとしたことにも気付いているはずだ。想子で干渉する魔法の一種である情報強化でガードできるのは肉体のみであり、精神はガードできない。故に系統外魔法を無効化するには魔法自体を阻害するしかない。人を殺すことにおいては、サラの精神干渉魔法がおよそ最適と言える。

 

しかしサラは精神干渉魔法以外の魔法技能の一切を失っており、呂剛虎と対峙している間にサラがアーティの意識にオーバーライドすれば呂剛虎の意識を殺しても相討ちになる可能性が高かった。互いに上昇しており相討ちになる可能性のないあの飛行している瞬間にサラがアーティの意識にオーバーライドしてケリを付けたのだろう。

 

「ありがとう、姉さん」

 

アーティは誰もいない虚空へそう礼を言うと、呂剛虎の死体を一瞬で灰にし沿岸部の監視に戻った。だが、結局アーティにちょっかいを掛けてくるものはおらず、アーティは翌朝を迎えることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 









土日の更新は難しそうです。月曜日も私用が入りまして、火曜日になる公算が高いです。



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