投稿頻度に関しては今後はこのくらいのペースでやっていこうと思います。次回更新の日にちをできる限りあとがきで書いておこうと思います。守れなかったらすみません。
現地時間、西暦2095年10月30日午後3時30分。最凶最悪の魔法師司波達也が初めて戦略級魔法「
「なんだ、あれは………」
「揚陸艇がやられた!?」
午後2時40分。既に武装し、上陸戦力を乗せた揚陸艇からの合図となるロケット弾の発射を待っていたゲリラ部隊は、その揚陸艇が入港してくる方角を見つめ、呆然としていた。
彼等の見つめる先では、入港のため貨物船に扮し横浜港に向かって進行している揚陸艇があった会場の地点周辺が大規模な水煙に包まれていた。その水煙を生み出した大爆発の直後、水煙の中からまばゆい光と轟音が発せられ、最初の水煙よりも大きな水煙を生み出していた。雲の高度にまで達しそうなほどに膨れ上がった水煙は巻き込まれた揚陸艇の安否を確かめることを阻んだが、その威力と効果範囲の広さは揚陸艇の安否の確認の必要性を消していた。
「先制攻撃、だと………」
「揚陸艇の偽装は完璧ではなかったのか!?」
オーストラリア船籍の貨物船に偽装した揚陸艇が、入稿し停泊中に船内捜索を受けたならばまだしも、まだ沖を進行している段階で正体を看破され先制攻撃を受けることなど、想定しているはずもない。
「揚陸艇からの応答、ありません!」
横浜港沖での海上爆発を受け先程から揚陸艇に通信を飛ばしていた通信兵が、半ば分かりきっていた事実を口にする。
「隊長、どうしますか」
手を後ろで組み言葉もなくじっと沖を見つめる壮年の男に、横に控えていた若い士官が恐る恐る尋ねる。機動兵器を積載していた上陸部隊が上陸前に全滅したとあれば戦力は半減以下だ。それでも地上部隊のみで蜂起するのか、という見方によれば随分弱気な問いかけだった。
「……………………」
隊長、と呼ばれた男はCADを身に着けてはいない。大亜連合が横浜の中華街に潜伏させていた部隊は非魔法師部隊である。
「隊長?」
なおも言葉を返さない隊長に、士官は怪訝そうに問いを重ねる。
「…………我々が蜂起せずとも、彼等は動く」
ようやく開かれた口から紡がれたのは、士官の問いに直接答えるものではない。だが、士官はその不完全な答えに怪訝そうな顔をするのではなく、忌々しそうな表情を浮かべていた。
「彼等、というのは我々に接触してきた魔法師集団のことですね」
「そうだ」
「彼等が事を起こせば脱出手段を失った我々も結局は巻き込まれる、と」
「そうだ」
忌々しそうな表情を浮かべていたのは士官のみではなく、隊長と呼ばれた男もであった。
「どのみち敵国に潜伏していた我らに勝利して帰還する以外の道はない。上陸部隊無しで我々で目標を確保した上で横浜を制圧、本国から追加の脱出手段が派遣されるのを待ちこの国を脱出する。第一目標、論文コンペに集まった魔法師の卵たちの拉致、第二目標、論文コンペの研究データ。第三目標、魔法協会横浜支部のデータ。これらを確保すれば、必ず本国はそれを本国に持ち帰るための手段を用意する。各員奮励せよ」
落ち着いた、見方を変えれば気合の入らない手付きで通信機を手に取ると、声音だけは威厳と力強さを含んだ横浜全域に潜伏するゲリラ部隊への命令を発した。
こうして、横浜事変は西暦2095年10月30日午後2時40分に起こった正体不明の海上爆発を発端とし、その5分後開始された地上のゲリラ部隊の蜂起を起点に横浜事変は戦端を開いた。
「今のは
「そうだろう。だが使用者の一条将輝が
「では、あれは一条将輝の仕業ではなく、
「間違いない」
大爆発とともに巨大な水煙が上がった横浜港の沖を見ながら不敵な笑みを浮かべ会話を交わす者たちがいた。7人は年齢はバラバラだったが、彼等の体の周りには活性化された
「ヒドラジン燃料電池を積載したあの船を撃沈するとは豪胆なことだ」
「貴公は二度目の爆発を見なかったのか?」
カラカラと笑いながらアーティの豪胆を称賛する40前後の男を、この場にいる中で一番若いであろう20前後の男がギロリと睨む。
「ここに至って仲間の力量を疑っているの?私達は皆あの時間遡行魔法を成功させた超一流の魔法師。水煙の中で発動されたもう一つの戦略級魔法を見逃しているはずないじゃない。そのうえで彼は
その若い男の方にしなやかに手を置きながら諌めるのは男よりわずかに年上であろう女。飛び抜けて美しいというわけではないが、優しい瞳と柔らかい声音は聞いた者を落ち着かせるような雰囲気を醸し出している。
「フン。ヤツがヘビィ・メタル・バーストを使用できる可能性は十分に示唆されていた。父親の戦略級魔法を受け継いでいることは既に確認できていたのだから、ヘビィ・メタル・バーストについても使用できる可能性を考慮すべきだった。ヘビィ・メタル・バーストならばヒドラジン燃料までをもプラズマ分解して無害化できる。貴公らはヤツを過小評価していたのさ」
女が諌めたにもかかわらず若い男は毒を吐くことをやめようとしない。
「そうだ。我々はヤツを過小評価していた。昨夜は君の主張を認め呂剛虎にわざわざ我々の情報を与えヤツを消しにかかった。呂剛虎で事足りると判断したのも君だ。君もまた、ヤツを過小評価していたことを忘れるな」
だが、30前後の荘厳な雰囲気を纏う男の反論に遭い、若い男は鼻白む。
「2人1組の天才。故に姉を失ってからは表舞台を去ったと思われた
どうやら30前後のこの男は彼等の中でリーダー格を務めているらしい。彼の言葉には全員が聞き入り、彼に異論を唱える者はいなかった。
返された沈黙を了解と受け取ったリーダーの男は、無言のまま腰につけられた飛行魔法用のCADを叩く。即座に男の体は浮き上がり、他のメンバーもそれに倣う。彼等は編隊を組んだ状態で横浜の空へと消えていった。
「!?」
達也が横浜沖での大規模な魔法行使の兆候を感じ取ったのと、真由美が驚きの余り声にならない声をあげながら口を抑え思わず立ち上がったのは、ほぼ同時だった。
「なに、これ……………」
真由美はマルチスコープを用いて会場の中だけでなく会場周辺の様子も監視していたのだが、その視界の1つに海上で起こった大爆発が映った。近くに座る達也も表情を変えたが、真由美はそのことに気づく余裕はなかった。
「どうしたんですか、七草先輩」
真由美の様子を怪訝に思ったほのかが心配そうに声をかける。
「え、ええ。少し気分が悪いので、外しますね」
やっとのことでそう返した真由美は実際に青褪めていたのでその苦しい言い訳は何の疑問もなく信じられた。ちらりと盗み見る達也の視線にも気づかぬまま、真由美は会場のホールを出て廊下に出た瞬間に急いで情報端末を使って実家に連絡を取る。
「…………ええ、わたし。横浜沖で大規模な魔法が使用されたことはもう確認済み?…………そう。これから交戦が行われる可能性があるかもしれないから、十師族の出動を要請してください。…………ええ、お願い」
ほぼ同時に緊急報告を受けていた父の弘一との通話を切り、真由美が会場へと戻ろうとした瞬間、会場が轟音と振動に包まれた。会場に詰めていた聴衆はなにが起こっているのかを理解できず、どうすればいいのか答えを求めてざわついている。真由美が急いで一高生たちが集う箇所に戻った瞬間、今度は複数の銃声が響いた。
「対魔法師用のハイパワーライフルか」
状況を伝えようと急いで戻ってきた真由美だったが、既に達也が状況を分析し周囲に伝えているようだ。
ややもすれば対魔法師用のハイパワーライフルを携えた者達が乱入してこようという状況だったが、会場に賊が乱入してくることはなかった。最初の銃声が響いてから1分もしないうちに、銃声は止まっていた。その理由をリアルタイムで把握していたのは、
(真紅の…………死神?)
達也が同じく自分が見ている光景を見ていることを露知らぬ真由美は、会場周辺で繰り広げられている戦闘を目の当たりにしてそんな感想を抱いていた。フードで頭まで覆い隠す真紅のローブを纏った若い女と思しき魔法師が、視線を向けるだけで賊が手にするライフルが爆発する。弾倉に込められている弾丸の、魔法師の防御を貫通するために増量されたガン・パウダーに一気に点火されてはそのライフルはそれを手に持つ者を十分に殺すほどの威力を持った手榴弾へと変貌する。恐怖のあまりなまじ照準もされずに放たれた弾丸のいくつは運良く魔法師の体を捉えたが、その弾丸はいかなる物理的干渉をその魔法師の体に与えることなく通過した。
幽鬼の如く敵の攻撃を無効化しながら瞬く間に敵を屠るその様は、まさしく死神を連想させるものだった。
真っ先に論文コンペ会場を襲撃した勢力を殲滅させたアーティは、急ぎ飛行魔法でその場を後にする。「
アーティにとっての第一目標は速やかに横浜事変を終息させることだ。そのためにアーティが横浜中を駆け巡れば干渉してくるであろう敵勢力と遭遇することもできるし、敵勢力がアーティを無視して達也暗殺を試みたとしても大亜連合の戦力が大きく削られていれば達也たちが不覚を取る可能性も低く、さらにアーティも駆けつけられる。敵の位置を詳細に知らぬアーティにとっては唯一の選択肢だが、同時に最善の策でもあった。
「揚陸艇を海上で叩けたのは大きいな」
横浜の空を舞いながら地上の戦火を眺めるアーティは、敵戦力を潜伏していた地上ゲリラ部隊に限定できた効果を実感していた。新型の機動兵器等を積載していた揚陸艇を撃破したことにより、敵戦力は武装した歩兵がほとんどだった。それでも部品を持ち込んで組み立てたであろう機動兵器が少数ながらも地上を闊歩しており、その重厚さ、高火力に阻まれ日本側の地上勢力は思うように迎撃ができていない部分もあった。
「あんな物を部品単位とはいえ持ち込めるとは………」
横浜港の検疫の甘さに辟易としながらも、上空から次々と数少ない機動兵器を狙い撃つ。放つ魔法は「爆裂」。狭義の「爆裂」は人体に対し体内の水分を発散させその膨大な体積膨張の圧力で人体を破壊する魔法だが、「対象を指定しその内部の液体を発散させる」という定義を用いるのならば、今アーティが使用している魔法も「爆裂」と言える。
戦車、航空機、そして今地上を闊歩する機動兵器。いずれも燃料タンクや潤滑油など、随所随所に液体が存在する。それらを一挙に、一瞬にして気化させられればその体積変化により鋼鉄製の兵器といえども簡単に破壊される。加えて気化した燃料は燃焼機関に即座に引火して大爆発を起こす。「爆裂」は現代兵器に対して圧倒的優位を誇り、それ故に一条将輝は幼い頃より単身で一個連隊にも匹敵すると評されているのだ。
上空からめぼしい兵器を狙い撃っていたアーティだったが、アーティの狙撃は長くは続かなかった。長く続かなかったとはいえ大亜連合側の地上勢力は持ち込んでいた機動兵器の殆どを失っていたが、アーティの素早い殲滅行動は複数の魔法師によって阻まれた。
「!?」
アーティが自身の存在する空中の座標の上方に魔法行使の兆候を感じ取り、自身の周囲に領域干渉を展開した上で自身に情報強化を使用、さらには自身の周囲に対物魔法障壁を展開し慣性中和魔法をかけるという守りのクアドラ・キャストを終えた次の瞬間、上空から飛来した空気弾が一瞬前に構築されたアーティの対物魔法障壁を叩いた。
「ヒュゥ。あそこから間に合わせるかよォ。しかも何だァ?どんな攻撃でもおよそ防ぎきれるように領域干渉に情報強化に慣性中和まで併用?とんでもねえ化け物っぷりだなァ、オイ」
守りの魔法を解かずに空中に停止しているアーティの耳元に、耳ざわな若い男の声が発せられる。認識を阻害する魔法を使っていることは、アーティが相手の位置を認識できない時点で確定している。そして耳元から声がするのも、自信の位置をさとられないために空気の振動を指定したポイントから発生させる魔法を用いていることは分かる。
そして、この事実と耳元の声から、即座にある判断がくだされる。アーティによってではなく、アーティの意識の裏側から見守るサラによって。
「―――――」
おそらくは、アーティに初撃を加えアーティの耳元におしゃべりを仕掛けた魔法師は、自分が死んだことすら認識できていないだろう。
感知されない安全な位置からアーティの精神に干渉している。それでいて、様子見をしている。
この状況は、サラがアーティの意識を乗っ取り、一瞬他の魔法が使用できなくなったとしてもその瞬間にアーティが殺されないことを意味する。そして、精神干渉に関して文字通り全能となったサラにとって、近距離の空間に潜み認識阻害の蓑に隠れている相手を逆探知し「コキュートス」で停止させることなど、わけもないことだった。
アーティが展開していた守りの魔法が一瞬途切れたあと、一呼吸置いて何もなかったはずの空間から6人の魔法師が飛び出す。アーティの周囲を7つに綺麗に分割したように包囲した位置から、である。7つの位置のうち1つだけは、そこにいた魔法師が死亡し墜落していったことにより包囲網に穴が空いている。認識阻害で安全なはずの仲間が殺されたことにより認識阻害が役に立たないことを瞬時に判断、攻撃に即時に切り替えたのは流石と言える。
どうやって、だとかなぜ、だとか、そういう疑問が彼等の中に生まれないわけではない。だが25年後の未来において超一流の魔法師として活躍していた彼等にとって、自らの使命こそが至上命題であり自分の脳裏をかすめた疑問の解決など遅刻しそうな道中で見つけた1円玉ほどの価値もないものだった。
大きくその運命を変えた横浜の空で、人類の未来を変えようとする2つの勢力の決戦の火蓋が今、切って落とされた。
横浜事変前の一高でのいざこざをまるっとすっ飛ばしたおかげで横浜騒乱編は短めになりそうです。
次回更新は金曜日の予定ですが、早めるかもしれません。