魔法科高校の訪問者 ~真紅の双子~   作:冬元 鈴

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物語を書くことのなんと難しいことか。しかしとても楽しいです。なによりも皆様忌憚のない意見を下さるのが本当に嬉しいです。






横浜騒乱編Ⅳ

 

 

 

 

 

虚空から突如現れ力なく以上へと落ちていく影。それが現れた一瞬後に虚空から6つの影が現れアーティに迫る。アーティは現れた影全てに一瞬で照準を合わせ、「爆裂」を使用するが不発に終わる。

 

(6人で情報強化をかけ合っているのか………)

 

魔法師は自分自身に無意識で情報強化をかけており、それによって人体に直接干渉する魔法は効力を発揮しづらい。しかし一条家の出自である第一研は生体への干渉をテーマとした研究を進めた機関であり、故に一条家はこの「爆裂」使用時に当たっては魔法師の自己への情報強化を突破することが可能となる。

情報強化というのは自己のエイドスの情報を複写しそのまま投射する魔法であり、複数の魔法師が同一の対象に情報強化を行使すれば同一の魔法式とはいえども想子(サイオン)の乱流を引き起こしそれらの効力はなくなる。しかしそれは彼等の肉体を対象とした魔法式が渋滞を起こすということであり、それによる要求干渉力の大幅な上昇が「爆裂」から彼等の身を守った。

 

(この要求干渉力……達也さんの雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)も通用するまい)

 

術式解体(グラム・デモリッション)」で情報強化を吹き飛ばした一瞬の間ならば可能かもしれないが、彼等の体を覆う情報強化のエイドス・スキンが凄まじい速度で更新されていることを知覚し、アーティはその手段を諦めた。

 

(さすがは達也さんを暗殺しようと動きを見せている者たちだ。少なくとも達也さんの魔法についてはかなり対策してきている)

 

アーティが敵の分析をしている一瞬の間にも敵は迫る。飛行魔法を使用してアーティへの相対位置を即座に他の仲間と等間隔になるように調整すると、申し合わせた様に同時にアーティに魔法を放つ。

6人が、全ての方位から魔法を放ってくるという状況は普通ならばどうにかすることはできない。まして彼等は初撃がかわされるのは織り込み済みで第二波第三波の攻撃も放っている。互いに干渉しないように系統と干渉対象をずらした魔法の波状攻撃は絶体絶命の致命傷の檻と化していた。アーティのいる空中の座標にはドライアイスの塊が亜音速で襲来し、その横から圧縮空気塊がアーティを吹き飛ばしに来る。アーティが咄嗟に張った魔法障壁は初撃の物理攻撃によって破綻状態に陥り棄却された。これが十文字家の「ファランクス」ならばこの次から次へと迫りくる波状攻撃全てに対応する多種の魔法障壁により防ぎきったかもしれないが、アーティは魔法障壁を使用するのに適した魔法適性を持っていない。九校戦で見せたのは地の干渉力の高さゆえの堅牢さなのだ。

 

「畳みかけろ!」

 

ドライアイス弾が着弾しアーティが浮いていた座標付近が白煙に包まれる。その光景に魔法攻撃の手を止めようとした仲間に攻撃続行の号令をかけたのはリーダー格の男、曜孫沢(ヤン・ソンテク)だった。今回彼がリーダーシップを発揮していたのには理由がある。それはもちろん彼の魔法師としての実力の高さもあったが、彼等は全員時間遡行魔法を成功させた超一流の魔法師であり、実力で彼らに対して一方的なリーダーシップを発揮できるということはない。しかしその状況で彼がリーダーシップを発揮できたのは単に彼が彼らの中で唯一アーティと戦ったことがあるという理由だった。

今回の司波達也暗殺を遂行するにあたってにわかに障害として浮かび上がってきた存在がアーティであり、幼き日の、全盛期と呼ばれた頃のアーティと実戦で相見えたという事実は、今回の作戦で彼がリーダーシップを握るに足る理由となった。

 

(だが、妙だ)

 

曜は間断なく攻撃を繰り出しながらも、己の中の違和感と戦っていた。近く阻害の魔法を用いた不意討ちからの波状攻撃。「術式解散(グラム・ディスパージョン)」を有し、「再成」により不死身の達也に対してもシミュレーションで十分に斃せるという結果を得ている。魔法による隠形を破られ早々に戦力を削がれたとはいえ「最悪最凶の破壊神・司波達也」用の布陣が通用しないはずはなく、一撃攻撃を喰らえばそれで戦闘不能になるアーティがこの波状攻撃を耐えきれないことは全く不自然なことではない。

だが、と曜は自分の記憶を辿る。曜は自分の直感を信じている。曜は自分の直感の理由を、過去のアーティとの邂逅に求めた。

 

答えはすぐに導かれた。曜は一瞬自分の記憶能力に感謝したが、その解がもたらす意味は彼を焦燥感の絶頂へと放り込んだ。

 

「幻影だ!退け!!」

 

曜が違和感を感じたのは、アーティが「術式解体(グラム・デモリッション)」を使用しなかったことだ。自分たちが6重にかけていた情報強化を吹き飛ばすのに使わなかったのは情報強化の更新頻度を見てのことだということで説明がつくが、アーティが自身への攻撃魔法に対して「術式解体(グラム・デモリッション)」を使用しなかった説明がつかない。曜はカザフスタンの紛争地帯にてアーティの範囲型「術式解体(グラム・デモリッション)」を目にしていた。あれならば確実に全方位からの攻撃を全て無効化できた。だが、アーティはそれをせずに愚直に魔法障壁と領域干渉、自己への情報強化のみで防御を試みた。これが曜が感じた違和感の正体だった。

 

そしてその違和感の正体がもたらす意味を曜は一瞬で導き出した。「術式解体(グラム・デモリッション)」の数少ない欠点。それはイデアを経由せずに想子(サイオン)の塊をぶつけるという仕様上、射程が限られている点。しかしこの場合はアーティは至近の攻撃を無効化すればいいだけであり、関係がない。対抗魔法を使用するという時点で相手に捕捉されている状況が前提になっており、ともすれば気づきにくい欠点ではあるが、派手に想子(サイオン)の塊をぶっ放すので使用者の位置が簡単に特定されるという欠点である。そして九校戦で一条将輝に対して使用した隠形魔法。映像資料で見ただけだったので曜たちにもその仕組みはわかっていなかったが、それが大幅に自分の位置情報を誤魔化すものだとしたら。その結論をものの一瞬で導き出した曜は魔法力のみの評価には留まらない優秀な実戦魔法師であることが分かる。

 

曜の号令に従い即座に攻撃をやめた一団は次の瞬間には曜の周囲に固まっていた。彼らは各々異なる系統の防御手段を持ち合わせている。攻撃は散開して全方位(オールレンジ)から、防御は集中して行う。訓練によって磨き上げられた、最適な対人機動だった。

 

「おい、曜。幻影ってのはほんとか?すり替わる時間はなかったはずだが」

「そうじゃな。それに奴は心音や体温を発していた。間違いなく本物じゃぞ」

「とはいっても、あの波状攻撃。既に跡形もないと思うけどね」

 

ピッタリと寄り添った状態で異議を唱えながらも、彼らの目線はアーティがいた座標に釘付けになっている。圧縮空気塊によって破砕されたドライアイス団とその冷気が作り出す大量の水滴によりその周囲は白煙に包まれている。

 

(リン)、タンパク質を探知しろ」

「了解」

 

白煙は待てばじきに消えるが、曜はチーム唯一の女性魔法師に命じる。林と呼ばれた女も反論することなく探知を開始する。

 

「――――!!」

 

探知を開始した林の顔色がさっと青ざめる。その様子にチーム全体の緊張感がぐっと高まる。

 

「ない。白煙の中心、ヤツがいた座標の半径10mの球状範囲の中に、タンパク質は全く含まれていないわ」

「総員、全方位を厳重警か―――」

 

林の言葉を受けて発された曜の号令は、最後まで言い切られることなく虚空へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

数十秒遡り。アーティは正体不明の攻撃を受け、その瞬間一瞬気を失った。意識を取り戻したアーティがはその瞬間に姉がその攻撃の主を仕留めたことを理解する。サラにとって意識を返す瞬間にアーティの意識に自分がやったことを映しておくことなど朝飯前である。アーティは即座に「纏衣の逃げ水」を使用しその場に停止する自分の幻影を作り出し、自身は全速力で降下する。その一呼吸後、アーティの幻影は敵の一団に包囲されその後総攻撃を受けた。アーティは幻影を守るように魔法障壁を展開するも、怒涛の波状攻撃にいとも簡単に突破される。初撃、第二波のうちアーティの周囲の空間に干渉するタイプの魔法は領域干渉で無効化していたが、攻撃を受けた演出のために領域干渉の展開も終了した。アーティの幻影が見かけ上「沈黙」した後もしばらく波状攻撃は続けられたが、その時間はアーティにとっては照準をつける時間になった。

 

攻撃を中断し速やかに集合した一団に、アーティは腰に着けていた長い筒状の兵装を肩に構え照準をつける。防御力を高め、多系統の攻撃に対して確実に対応するには固まるのが得策だが、今アーティが使おうとしている魔法の性質を考えれば彼らが集まったことはむしろ悪手だった。

 

「君たちの中に戦艦の主砲級のプラズマビームを無効化できる使い手はいるかな?」

 

リーナが日本に帰化したことにより、リーナの助言で戦略級魔法「ヘビィ・メタル・バースト」を収束ビームとして使用するための兵装「ブリオネイク」が国防軍独立魔装大隊でも開発され、USNAを離れブリオネイクを失っていたリーナとその息子スチュアートに授与された。その片割れが、今アーティが手にしているものだった。少ない「De Lorean」の積載能力を割いて未来から持ち込んだアーティの秘密兵器の1つである。

 

世界的に見ても最速級の発動速度で知覚外から放たれた音速の100倍を超えるビームを防御することは叶わない。彼らは多系統の防御を構える暇もなく、プラズマ化した重金属の収束ビームに飲み込まれ文字通り骨も残さず一瞬のうちに蒸発した。

 

 

 

 

 

 

西暦2095年10月30日午後3時50分。横浜事変においておおよそ大亜連合戦力が主な戦力を失い敗走を開始したと言われる時刻。この時刻に未確認の高出力のビーム攻撃が上空で放たれた目撃情報が広く知られているが、そのビーム攻撃が使用された戦闘に関する記録は発見されることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 








少々短いですがここで切ります。次話からは達也たちの視点の話になります。次回更新は月曜の予定です。



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