魔法科高校の訪問者 ~真紅の双子~   作:冬元 鈴

35 / 36



お久しぶりです。あけましておめでとうございます。活動報告のほうに実は書かせていただいておりますが、交通事故で利き腕を折り、なおったあたりで原神がリリースされたためにこのような長期間放置することと相成りました…申し訳ございません。
今後はゆっくりと着実に更新していきたいと思っております。






横浜騒乱編Ⅴ

 

 

時間にすれば数分の出来事であったが、論文コンペという晴れ舞台に来たつもりの高校生たちが死と隣り合わせの本物の戦場に図らずも飛び込んでしまったという事実は、その場にいる若き魔法師たちを混乱に陥れるには十分なインパクトを持っていた。無論達也や真由美、それに第三高校の将輝など、それに動じない精神力と経験を持ち合わせている者もいるのだが、彼らの多くは年齢相応の胆力しか持ち合わせておらず、自分たちの魔法での防御を貫通するほどの威力を持つハイパワーライフルを持った賊の闖入、更には彼らを文字通り瞬殺し去っていった正体不明の魔法師に彼らは恐怖し、烏合の衆と化していた。

 

「鎮圧された………のか?」

 

既に風紀委員を退任し一般生徒と一緒に論文コンペの会場に入っていた摩利は会場外から聞こえてきた銃声を聞き、いつ敵が会場内になだれ込んできても対応できるよう身構えていたのだが、突如として銃声が止み、そして一向に敵が突入してこないことに怪訝な表情を浮かべている。

 

「ええ、敵は殲滅されたわ」

 

摩利の独り言の様な問いに答えたのは真由美だった。真由美は「マルチ・スコープ」で会場外の様子を確認しており、ハイパワーライフルを持ち建物内に侵入してきた戦力が既に全滅していることを知っている。

 

「そんなバカな!いったい誰が」

 

摩利の疑問はもっともなことだ。真由美が海上での爆発を視認し実家に連絡を取ったあの瞬間、七草家本家もようやく海上での爆発を認識していた。また、あの時点では七草家本家は敵性勢力の進行を把握していなかった。対魔法師用のハイパワーライフルで武装した戦力を速やかに撃破できるだけの戦力はあと30分ほど待たなければ到着するはずもないのだ。加えて、日本の魔法師協会の者や国防軍が撃破したならば、真っ先に保護すべきである全国魔法科高校生が集うこの会場に姿を現し、速やかな避難誘導を行うはずなのだ。しかし銃声が沈黙してもう五分以上は経つというのに避難誘導は行われない。この事実から、この場に来ていた敵を撃破したのが国防軍や魔法師協会の者でないことは明白だった。

 

「………………………」

 

狼狽する摩利の言葉に返答をもたらす者はいない。自身が目にした光景の意味を考える真由美を尻目に、会場内は学生たちの混乱によりますます混迷を極めていった。

 

 

 

 

 

 

「お兄様!」

 

突如として鳴りやんだ銃声、現れぬ救援。風間から事前に警告は受けていた達也だが、その警告の内容を明らかに上回る戦乱に、国防軍が間に合っていないことは達也の手持ちの情報から確定する部分であり、そして国防軍が間に合っていないのに魔法師協会が間に合っているはずはない。これほどの戦乱が起こる情報を握っているならばこの2つは協力せざるを得ないはずであり、事前情報が無ければこれほど早い段階で動きを見せることは出来ない。「精霊の眼(エレメンタル・サイト)」で一部始終を見ていたであろう達也に深雪はその答えを求めたが、返ってきたのは深雪も見慣れぬ達也の困惑した表情であった。

 

「……」

「お兄様?」

 

達也がすべてを「見通す」ことができることを知る深雪にとって、達也のその表情がもたらす衝撃は、他の生徒が受けたそれよりも大きかった。

 

「……いや、何が起きたのかはわかる。にわかには信じがたいことかもしれないが、一人の魔法師が襲撃してきた勢力をあっという間に片づけたんだ。言うまでもないことだが、あれは国防軍の戦力ではないし、魔法師協会によるものでもない」

 

達也の様子に見る見るうちに青ざめる深雪を気遣い、達也は己の逡巡を中断してひとまず深雪に言葉を返す。達也自身が不調をきたしていたわけではないと知った深雪は達也の思惑通りにいくらか顔色を取り戻していた。

 

「では、何者なのでしょう?この対応の早さ、そして単騎で相当の戦力を一瞬で打破するだけの実力、お兄様が知らぬ相手とは思えませんが」

 

落ち着きを取り戻した深雪は周囲に聞かれないよう、達也にそっと顔を近づけ声のボリュームを大きく落として問いを投げる。達也の「精霊の眼(エレメンタル・サイト)」ならばたとえ相手が変装していようともその正体を看破することができる。

 

「それがわからないんだ。輪郭、温度、色彩の情報はあったが、内部に関するエイドスの情報が存在しなかった」

「そんな…」

 

達也の返答に深雪は思わず口を手で押さえる。達也が「精霊の眼(エレメンタル・サイト)」をもってしても見抜くことができなかったこと自体に対する驚愕も無論含まれるが、この瞬間深雪が戦慄したのは先刻達也が沈黙していた理由を悟ったからである。「分解」と「再成」に特化した達也にとって数少ない攻撃用の魔法の、その最有力の一角である「雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)」は対象を標的として照準し行使する魔法であり、達也の「眼」をもってしても先刻の謎の闖入者のエイドス情報にアクセスできなかったということは、現状その者に対して達也は有効な攻撃手段を持たないことを意味するからである。

 

「これが敵ならば憂慮すべき事態だが、幸い今のところはむしろこちらに与する行動をとっている。ひとまず心配する必要はないだろう」

 

先ほどまで大いに憂慮していた達也だが、目の前の妹が憂いを見せると希望的な言葉で杞憂であると主張する。意図した結果ではないが、深雪の憂慮は達也の意識を無用な杞憂から引きはがすという結果を生んだのであった。

 

 

 

 

 

 

達也たち魔法科高校の生徒達が集う建物に侵入した勢力は瞬く間に殲滅されたが、その戦闘に伴う爆音、衝撃は一堂に会する高校生たちをパニックに陥れるのには充分であった。本来ならば敵を撃退したのちに彼らを誘導すべきであった警備の戦力は残念ながら全滅している。会場に詰めている権威があるはずの、権威があるべきである大人たちは右往左往するばかりでこの場を収拾する気配もない。結果として、論文コンペ会場はもういくばくかの時間もたたぬ間に負傷者を多数出すほどのパニックに陥ることが確実な状況となっていた。

 

そして混乱し、どうすべきかわからずにいるのは先日第一高校の生徒会長に就任したアーティから一時的に生徒会長権限を委任されたあずさも同様であった。あずさは恐慌状態に陥り動き回り、パニックを助長するような真似こそしなかったものの、何をしたらいいのかわからず座ったまま硬直していた。

 

「あーちゃん、あーちゃん……中条あずさ生徒会長!」

 

そのあずさを、壇上から叱咤する声。あずさは慌てて立ち上がり、ステージを振り向き仰いだ。代理です、と訂正するような余裕はなかったが、真由美があえて代理、をつけなかった理由に思い至らぬあずさでもなかった。

 

「このままだと本物のパニックになりかねない。負傷者も多く出ることになる。だから貴女の力で、みんなを鎮めて」

「えっ!?」

 

真由美の言葉に、あずさは大きく目を見開いた。言葉の意味を解さなかったのではなく、むしろ真由美の意図するところを理解したからこそ、あずさは大きく動揺したのである。

 

「でも、あれは…」

 

あずさの魔法は人の情動に干渉し、パニックを鎮めることができる。この状況において、あずさの魔法以上に効果的な手段はあるまい。だが、洗脳にも用いることができる精神に干渉する魔法は、元々使用に関して制約の多い魔法の中でも特に厳しく制限を設けられている魔法である。非常時とはいえ未成年者の判断で軽々に使用を踏み切ることができる代物ではない。

 

「貴女の力は、こういう時のためのものでしょう?工藤くんは貴女の魔法を見込んだうえで、万一に備え貴女を生徒会長代理に任命したのよ。それに、この場には私もいるから。七草の名前は伊達じゃないのよ」

 

あずさの戸惑いはもっともなものだ。ゆえに真由美も即座にあずさを奮い立たせる言葉を放つ。また、七草の名前を出すことでこの場で右往左往する大人たちを牽制する意味もあった。そして真由美はというと、先日のアーティとの会話をふと思い出していた。

 

(ほんと、こうなることを予見していたみたいだったわ、あの時のアーティは)

 

あずさを代理に指名した際には摩利が同じような指摘をしていたが、今となって真由美は確信にも似た感覚を感じていた。しかし今は非常事態である、真由美はそのような疑念を頭を振って意識から無理やり追い出すと、あずさをじっと見つめた。真由美の視線の先では、意を決したという表情であずさがポケットからロケットを取り出し、左手で握りこむ。あずさの体からロケットに想子が送り込まれる。単一の魔法式を記録し、その魔法を行使するためだけに作られた、あずさだけの魔法の杖。

 

所々で押し合い圧し合いにまで発展している客席に向けて、あずさだけが使える情動干渉魔法「梓弓」が発動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすがです、中条先輩。ありがとうございます」

 

高速で戦火に焼かれる横浜の上空を飛行しながら、随所随所で突如として組み上げられ出現した直立戦車を次々と「爆裂」させている赤い人影の口から、誰にも聞こえぬ独白が漏れる。常に意識の片隅を論文コンペ会場に向けていたアーティは、真由美の激励もあってあずさが会場の混乱を鎮め、そこから生徒たちの避難が正常に開始されたことを感じ取った。アーティはあずさの勇気をたたえる感謝の言葉を口にすると、一転急上昇を始めた。ある人物に連絡をつけるためである。地上の物陰に隠れてもいいのだが、流れ弾や誘爆の危険性がなく、会話を聞かれる可能性も薄い上空を選んだのである。

 

「真夜様」

 

アーティが無線通信をかけた相手は1コールもしないうちに応答した。

 

「見事なものね、スチュアートさん。では、手筈通り、風間さんには伝えておくわね」

「お願いします」

 

10秒とかからぬ通話を終えると、アーティは再び急降下を始め、地上の戦力の掃討に当たった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「藤林。現着まであと何分だ」

 

国防陸軍少佐、風間玄信は、およそ佐官が搭乗するにはあり得ぬ軽装のジープに乗り、藤林と呼ばれた女性将校に運転を任せていた。

 

「報告された敵戦力から計算した被害よりずっと被害は軽微なようです。この混乱状況であれば、5分もあれば現着します」

「うむ。…む?」

 

横浜襲撃の報を受けて急行した独立魔装大隊ではあるが、その様子に少し戸惑いながらの行軍になった。確かに混乱の仕方は戦時のものである。むしろこの統制の取れていなさに舌打ちすらしたくなるものであり、破壊された戦闘車両の数、倒れ息絶えている人間の数は夥しく、熾烈な戦闘がおこり、なおそれが継続していることは疑いようがない。しかしよく見てみれば、破壊され残骸になっている戦闘車両、倒れている軍人たちはみな日本のものではない。日本の国防軍自体がようやく到着したところであるのだから、国防軍側の戦力が被害を受けていないのは当然なのだが、では一体敵は何と戦い、被害を出したということになる。その疑問を胸に後部座席で悪路に揺られていた風間の胸ポケットにしまわれていた情報端末が、着信を告げた。

 

「風間であります」

 

当然のことだが風間が今手にしている情報端末は指摘に使用しているものではない。公用のものだ。戦地に急行している風間にその情報端末に着信が来ることは不自然なことではない。だが風間が訝るような声を出したのはその相手がおよそこの状況で連絡をしてくる相手には似つかわしくなかったからである。

 

「ご無沙汰しておりますわ、風間大尉。いえ、今は少佐であらせられたのでしたね」

「何の御用でしょうか」

 

着信に風間が応答した瞬間に運転席の藤林が風間の周囲を防音のフィールドで覆う。悪路走行による騒音により会話が妨げられることはなかった。

 

「横浜が今、大変なようですね」

 

電話の主、四葉真夜は妖艶に、さりとて状況が状況だけにいつものように遠大な話題への入り方をせずに、いきなり本題に入ってきた。

 

「はい。本官もまさに今、横浜の戦地に急行しているところであります」

「ご武運をお祈りいたしますわ。ところで、お電話した件なのですが」

 

真夜らしからぬ話題の急ぎように、電話越しに風間は眉を顰める。この時点で風間は、真夜が風間以上に横浜の情勢に関して情報を握っていること、そして今まさに自分たちが疑問に思っていることの答えを真夜が齎さんとしていること、そしてそれらの情報と引き換えに今から真夜がしようとしている「要求」を呑む以外に自分たちに選択肢がないことを予期していた。

 

「四葉の手の者が既に今回の戦乱に介入しておりますの。その者の報告によれば戦況は貴隊の到着により完全に優位となり、大きな損害を出すことなく終息に向かうとのこと。そこでなのですが」

 

やはりか、という思念が風間の内心を巡る。一方的に敵性戦力のみが被害を受けている状況から、まだ到着すらしていない国防軍の戦力ではない何者かがこれを撃破したことは明確であり、実力のある者からない者まで動くであろう魔法協会がこれを行ったならば魔法協会側が受けた被害も戦場には残るはずである。それがないということは少数精鋭で各個撃破を行ったことは明確であり、そのようなことを行えるのは十師族を置いてほかにない。そしてこの速度で対応できたのは事前に何らかの情報を察知していたからであり、それならば十師族はそれを共有し合同で対処に向かうはずであり、それならば国防軍にも事前に情報提供が行われるはずである。そうはならなかった時点で、四葉が関連していることは風間の意識の片隅に可能性として置かれていた。その可能性は真夜からの着信を見た瞬間にほとんど確信に変わり、今の言葉を聞いて腑に落ちたのである。

 

「達也さんには今回、深雪さんのボディーガードに専念していただきたく、つきましては貴隊での招集を免除していただきたく存じますの」

 

四葉の手の者が今回の対処に当たっていたという事実を大方予想していた風間にとって、真夜のこの要求もまた想定外のものではなかった。達也という戦力の使用を禁じられる戦力的な損害は大きいが、風間はある希望的な観測をこれまでの真夜とのやり取りから抱いており、風間はすぐに応じることなく真夜に次の言葉を促す。

 

「応じていただけたならば今回対処に当たった者を風間少佐にもご紹介いたしますわ」

 

果たして真夜の口から紡がれた言葉は、風間が期待していたものだった。四葉真夜という人物は、一見強硬に見える要求をするものの、それに対して与える見返りというものは十分以上にその要求を満たすのに相手が支払うコストに見合ったものだ。今回動いた者が敵に与えた損害は甚大なものであり、戦力は申し分なく、また戦闘自体が継続している以上今動いている四葉の者と風間たちは緊密な連携をとる必要が生じる。国防軍のなかに強力な魔法師部隊を編成したい風間にとり、四葉の家の者をさらに引き込めるこの機会は、ふいにできるものではなかった。

 

「わかりました。特尉の招集は今回は見送ることをお約束いたします」

「感謝いたしますわ。それでは、うちの者に、そちらと合流するように伝えておきます。それでは、ご武運を」

 

通話を終えた風間が懐に情報端末をしまうのと、藤林が防音フィールドの魔法を解いたのは同時だった。

 

「藤林。進路変更だ。横浜ベイヒルズタワーへ向かえ。近辺での戦闘は終了しているはずだ。そこで協力者と落ち合う」

「了解」

 

風間は手短に藤林に行先の変更を告げると、また静かにに過ぎ行く戦火に燃えた地を眺め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







文章を書くこと自体が久しぶりだったので、もともと拙い文章がもう大変なことに…
慣らしながら着実に投稿していきます。
昨今の情勢柄不自由な暮らしを知られておりますが皆さまもどうかご自愛くださいませ。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。