魔法科高校の訪問者 ~真紅の双子~   作:冬元 鈴

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入学編Ⅳ

「………借りだなんて思わないからな」

 

アーティの手を借りて立ち上がった森崎が、役員の姿が校舎に消えたのを見届けて、開口一番刺々しく達也に言い放った。成熟した大人でも、自分が見下している相手に素直になるのは難しい。故に目下の者に対する態度がその人間の品格を真に表すものだが、この場合、まだ高校一年生の彼にそれを求めるのは酷と言えるだろう。攻撃魔法使用未遂というれっきとした犯罪行為を行い、あまつさえ自分が見下す二科生にそれを庇われた時点で、彼は大恥をかいている。この上達也に謝意を示そうものならさらなる恥の上書きになると考えるのも無理はない話だ。

当の達也もそれをわかっているのか、やれやれ、という表情を浮かべて振り返り

 

「貸してるなんて思ってないから安心しろよ。決め手になったのは俺の舌先じゃなくて深雪の誠意だし、お前の魔法の不正使用を直接阻止したのはお前のクラスメイトなんだからな」

 

摩利への説明で責任をなすりつけた落とし前か。達也はきっちりアーティへのフォローを入れ立ち去ろうとする。

 

「……僕の名前は森崎駿。お前が見抜いたとおり、森崎の本家に連なる者だ」

 

意地を張った強がりに思いの外大人の対応を返されて彼も自分の対応の稚拙さに思い至ったのか、少し姿勢を正して達也に名乗りを上げる。

 

「見抜いたとか、そんな大げさな話じゃないが。単に模範実技の映像資料を見たことがあっただけで」

「あっ、そういえばあたしもそれ、見たことあるかも」

「で、テメエはそのことを今の今まで思い出しもしなかった、と。やっぱ達也とは頭の出来が違うな」

 

達也の返答を勝手にギャアギャアとまた勝手に会話を始めるE組の面々。その様子にまた森崎は苛立ってしまったようで、

 

「僕はお前を認めないぞ、司波達也。司波さんは、僕たちと一緒にいるべきなんだ」

 

そんな捨て台詞を残して達也の返事を待たずに背を向けてしまった。捨て台詞とは表面上は多くの場合返事を期待するものではない。相手に返事をさせないために捨て台詞の形を取る場合もある。だが相手を過剰に意識しているからこそ出てくるもの、という側面もある。

 

「いきなりフルネームで呼び捨てか」

 

だからこそ達也の返答ではないものの聞えよがしな独り言は十分に大人げないものと言える。それを耳にした森崎はピクッと肩を震わせたもののもう何も言わずにそのまま立ち去ってしまった。そんな森崎を無表情で見送る達也に心配そうな顔で見送る深雪、呆れ顔で見送るアーティとそれぞれの面持ちでその場に立ち尽くしていたが、

 

「お兄様、もう帰りませんか?」

「そうだな。レオ、千葉さん、柴田さん、帰ろう。アーティも一緒にどうだ?君さえ良ければ、だが」

 

司波兄妹の言葉に止まっていた空気がようやく動き出した。

 

「ええ、達也さん。オレの方はぜひご一緒したいのですが、お友達の方は大丈夫でしょうか?」

「なんだ、達也の知り合いかよ。なら俺は全然構わないぜ」

「あたしと美月は昨日もう話してるしねー。ね、美月?」

「はい。アーティさんと一緒に帰れるなら、私も嬉しいです」

「なんだ。俺以外みんな知り合いなのかよ」

「あんただけ仲間はずれねー」

「なんだとーぅ???」

 

どうにも既に達也の周りは親しい友人関係が築かれているらしい。会話のボールをひとたび投げるとなかなか帰ってこない。そんな親しげな彼等の様子を半ば呆れながら、少し羨望も入り混じった気持ちで眺めていると

 

「あ、あのっ!」

 

さきほど森崎を投げた直後に魔法をキャストし真由美によって魔法発動を阻止された女子生徒が意を決したように割り込んできた。

 

「光井ほのかです。さっきは失礼なことを言ってすみませんでした」

 

つい先程彼等に危害を加えようとした人物の突然の割り込みに一同が身構えるよりも早く、その女子生徒は深々と頭を下げ謝罪の言葉を口にしていた。二科生のところに何も考えずに座ってしまうようなアーティならともかく、先程の口調から少なからずエリート意識が垣間見えていた彼女のこの態度は、豹変と言えた。

 

「庇ってくれて、ありがとうございました。森崎くんはああ言いましたけど、大事にならなかったのはお兄さんのおかげです」

「………どういたしまして。でも、お兄さんはやめてくれ。これでも同じ新入生だ。」

「わかりました。では、なんとお呼びすれば………」

 

そんな彼女の豹変ぶりに面食いながらも達也も冷静に言葉を返す。

 

「達也、でいいから」

「わかりました。それで、その………」

 

言いづらそうにしているほのかに、

 

「……何でしょうか?」

 

クラスメイトである深雪から助け船を出す。

 

「………駅までご一緒にしてもいいですか?」

 

恐る恐る、だが何かある種の決意を秘めた顔で、同行を請うほのか。虚を突かれた一同だったが、その申し出を拒む理由もなかったので、彼等は奇妙な下校を共にすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

駅までの帰り道は微妙な空気になるかと思ったが、思いの外会話は弾んだ。

 

「工藤くんは1-Aのクラスメイトだったんですね。たしかに朝、深雪さんとお話されているのを見た気がします。それ以降お顔を見なかったので、すっかり忘れていました」

 

それは入学式で二科生の面々とすでに仲良くなっていたアーティの存在がうまく潤滑油になったことが理由だろう。

 

「オレは今日の見学でほとんど深雪さんと同じところにいなかったから。2人は深雪さんと一緒に回っていたようだし、無理もないね」

「そうだったんですね。アーティさん、クラスメイトとして一年間、よろしくお願いしますね」

「こちらこそ」

 

既に相互の自己紹介を済ませ、道中にぎやかに駅へと向かっていく。

 

「いやあしかしアーティがあの森崎?ってヤツをぶん投げたときはたまげたぜ。お前が近づいたことに気づきもしなかったんだ。突然現れてひょいと投げるんだから、驚いたなあ」

「ああ、俺も驚いた。柔術の投げというのは相手の勢いを利用して投げるものだが、あのとき森崎は直立していただけだった。あれは崩しの応用か?」

「さすが達也さん。ご名答です。誰でもいきなり後ろから首根っこ掴まれたら、よろけないように反発しますよね。その力の流れを利用して投げたんです」

 

感嘆の声を上げるレオに、仮説の真偽を問う達也。

 

「あれだけ最小限の動きで崩して投げるのなら、それはもう合気の域だな」

 

そう続ける達也の好奇の目に、アーティの背中を冷や汗が流れる。あそこで見せた技は一見普通に投げただけだが実は静止している相手を無理やり投げるのは至難の業であり、それをやってのけたアーティの腕前が相当なものであることを達也は確信していた。自分の武術の師を言うわけにいかないアーティとしてはこの話題はそろそろ終わりにしたいものだった。

 

「それはそうと、なんでお前らアーティと既に知り合いだったんだ?一科生のアーティとは教室も階段から違うし入学式も座るとこが別だろ?」

 

ちょうどよくレオが話題を切り替えてくれたがそれもまたアーティにとっては好ましくない話題だった。

 

「それがよ。その入学式で知り合ったのよねー。ね、アーティ?」

 

悪戯な表情で同意を求めてくるエリカに諦め顔のアーティ。その諦め顔を首肯と見てエリカは意気揚々とエピソードを話し始める。

 

「前に一科生後ろに二科生ってキレーに座ってた中にね、アーティだけ後ろに座ってたの!それで周りの子遠慮しちゃって、空いてた席にあたしたちが座ったってワケ!」

「最初に座ってたのは達也さんで、私達がその達也さんの隣にお邪魔したんです」

 

赤裸々に語るエリカに補足する美月。これにはレオはもちろんほのかとその連れの女子生徒、北山雫も目を丸くしている。

 

「森崎ってヤツを投げたあたりでも思ったんだが、アーティってびっくりするくらい一科生とか二科生とか気にしないのな」

 

そう呟くレオの表情は感心を通り越して感動しているようにまで見えるものだった。

 

「そうなのよ。入学式のときも、あたしたちで勝手に自己紹介し合ってたらアーティも混ざってきたのよね。何の疑問もなく。あたしたちのほうが面食らっちゃった」

 

入学式のエピソードを交えエリカが同意する。

 

「俺らもすこし気にしてムキになってたかもしれねえな」

「差別っていうものは片方の方向にだけ存在するものじゃない。差別されていると感じている者の中にも差別の意識はあるものだ」

 

自省気味に呟くレオに続ける達也。並み居る一科生なら居心地の悪いものだろうが、ほのかや雫はふむふむとうなずいている。どうやら心の底から差別意識に毒されていたのではなく一高全体の雰囲気に染まってしまっていただけだったのと、彼女たちが非常に素直であるがゆえに自分たちの過ちを認め、改善できているようだ。

 

「私もほのかもこの学校の雰囲気に流されてしまった。でも、最初から自分の考えを貫いて一科生と二科生の違いを気にしなかった工藤君は、すごい」

 

そうアーティの瞳をまっすぐ覗き込みながら雫が淡々と語る。

真正面から見つめられ惜しみない賛辞を送られたアーティは、

 

「え、あ、いやそんな、すごいとか言われるようなことじゃ………」

 

消え入りそうな声で謙遜している。というか、最後のあたりは隣りを歩いていたエリカにしか聞こえていなかった。

 

「………落ちたな」

 

あまりにもわかりやすい反応に達也がぼそっと呟く。深雪は温かい視線をアーティに送っている。

 

「落ちたわね」

 

エリカもそれに続いて呟くとアーティの肩をポンポンと叩く。

 

「こんなにわかりやすいの、創作の中だけの話だと思ってたぜ…」

 

そう呆れがちにぼやきながら頭をポリポリとかくのはレオ。

そんな彼らに対して

 

「え?何か落としました?」

「何も落ちていないようですが…」

 

ついていけていない美月とほのか、わかっているのかわかっていないのかよくわからない沈黙を続ける雫、赤面して心ここにあらずなアーティの姿は傍から見れば滑稽に映ったに違いない。

そんな奇妙な雰囲気は長くは続かず、まもなく一同は駅へと着いたので各々の帰路につくことになった。

 

 

 

 




少し短めになってしまいましたが切りが良いのでここで切っておきます。
それでは次話もよろしくお願いします。
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