魔法科高校の訪問者 ~真紅の双子~   作:冬元 鈴

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アーティは空気ですが原作を皆さんが完全に覚えているとは限らないのでコピーにならないようにおさらいしています。
達也たちが生徒会室に呼ばれる朝~服部との模擬戦決定までです。
原作を覚えている方はざっくり読み飛ばしていただいて構いません。


入学編Ⅴ

司波兄妹が暮らす司波邸から、いつものように登校する兄妹。その登校時間は、達也とクラスが離れている深雪にとって家の外では貴重な達也と二人になれる時間である。そして電車というものの仕組みが変わってから、途中から知り合いが電車に乗り合わせるというイベントが無くなったので、自宅から第一高校の最寄り駅までその2人きりの時間は確約される。しかしその後はむしろ2人きりになれることのほうが少ない。

入学後3日目ではあるが、既に行動メンバーとして固まりつつある達也の級友達が待ち構えていたように駅で次々と合流する。それは達也との2人きりの時間が終わることを意味するが、深雪にとってはそれもまた喜ばしいものだった。

しかし、今達也の名を呼びながら走り寄る人物の顔を確認した深雪は、流石に驚きを禁じ得なかった。

 

「達也さん、会長とお知り合いだったんですか?」

 

思わず訪ねた美月も同様のようだ。

 

「一昨日の入学式が初対面………のはず」

 

記憶に自信のある達也だが、走り寄る真由美の態度にその返答も煮え切らないものになってしまっている。

 

「そうは見えねえけどなあ」

「わざわざ走ってくるくらいだもんね」

 

達也の記憶の限り、そして達也は自分の記憶に絶対の自信があるが故に、時分と七草真由美は入学式が初対面だと断言できる。しかし、レオとエリカが言う通り、真由美のこの態度はとても出会って数日の人物に対するそれではない。

 

「………深雪を勧誘に来ているんじゃないか?」

「………お兄様の名前を読んでいらっしゃいますけど」

 

彼の周りには、美月、エリカ、レオの「いつもの」と形容して違和感のない面々。ほのか、雫、アーティの姿はない。別に彼らが仲間外れになっているわけではなく、本当にここに居合わせた面々は偶然駅で一緒になったから合流してきただけなのだ。

 

「達也く~ん」

 

深雪の言う通り、後ろから走ってくる第一高校の生徒会長は聞き間違いなどではなく達也の名前を呼んでいる。そんな真由美の態度にさすがの達也も小首をかしげながら振り返り、彼女の合流を足を止めて待つ。

 

「達也くん、オハヨ~。

深雪さんも、おはようございます」

 

なぜかはわからないが、達也だけ扱いがぞんざいだ。親密ということもできるのだが。そんな真由美の態度に煮え切らない達也だが、相手は3年生で生徒会長だ。

 

「おはようございます。会長」

 

それなりに丁寧な、数日前に知り合った人間に対して相応な対応を彼はしなくてはならない。昨日の森崎への対応のように大人げない一面が顔を見せる時もあるが、基本的に彼はこの年令の少年にしては良識ある落ち着いた男だ。自分に敵意のない相手に対しては十二分に丁寧な対応を見せる。

深雪、レオ、エリカ、美月も倣って礼儀正しく挨拶を述べるが、少々腰が引けている。深雪はともかく、他の3人にとっては入学3日目で早々に生徒会長に挨拶をするというイベントはいささか以上に荷が重い。

 

「お一人ですか、会長?」

 

見れば分かることを問うたのは、このまま目の前のこの生徒会長が一緒に登校してくるのか、という確認でもある。

 

「うん。朝は特に待ち合わせはしないんだよ。」

 

肯定は、言外の質問に対する肯定でもある。

 

「深雪さんと少しお話したいこともありますので………ご一緒しても構わないかしら?」

 

これは深雪に向けられた言葉。やはり達也への言葉とは砕け方が違う。どうやら達也の気の所為ではないらしい。

 

「はい、それは構いませんが………」

 

肯定を返す深雪だが、煮えきらないのは後ろの3人を気にしてのことである。

 

「あっ、別に内緒話をするわけじゃないから大丈夫。それとも、また後にしたほうがいいかしら?」

 

それを敏感に感じ取った真由美は深雪と達也の後ろで固まっている3人に微笑みながら目を向ける。

 

「会長……俺だけ扱いが違うような気がするのは、勘違いでしょうか?」

 

話が進んでしまう前に達也も自分の疑問を解消していこうとするが、

 

「えっ?そうでしたか?」

 

今更のように白々しく口調を変えられ、達也の思惑は霧消した。

達也はこの程度のことで怒ったりはしないが、ストレスは感じる。それをよく知る深雪は慌てて話の水を自分の方に引き寄せる。

 

「お話というのは生徒会のことでしょうか?」

「ええ、一度ゆっくりと説明したいと思って。お昼は空いているかしら?」

 

真由美も悪ノリを続けるようなことはせず、深雪と達也に昼、生徒会室で会食する約束を取り付けると、真由美は満足した様子で立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日、放課後。

達也と深雪は生徒会室の前にいた。

昼休み、真由美との約束どおりに昼食を取り、そこで生徒会の面々と深雪の顔合わせを済ませたのだが、そこで思いがけず深雪が達也の生徒会入りを希望した。それ自体は生徒会役員は一科生から選ばれる規則から却下されたが、同席していた渡辺摩利風紀委員長のアイデアで達也を生徒会推薦枠で風紀委員に加入させることが議題として上がり、詳細の説明を放課後に持ち越したため、また二人は足を運ぶことになったのだ。

達也は全く乗り気でなく、それを深雪も重々承知しているがゆえに二人の足取りは重いものだった。

 

丁寧にノックをして入室した達也を迎えた面々には昼休みを共に過ごした七草真由美生徒会長、渡辺摩利風紀委員長、市原鈴音生徒会会計、中条あずさ生徒会書記に加えて昼休みにはいなかった顔ぶれが2つあった。

片方の顔は今こうして達也たちを迎えることを達也も深雪も予想していたものだったが、もう片方の顔には達也も深雪も驚きを禁じ得なかった。

 

「失礼します」

 

既に入室済みだが軽くそう一礼して生徒会室の中ほどに進む達也を鋭い敵意を含んだ視線が捉える。達也は思わずため息をつきそうになったがこれも予想の範疇だったのと、予想だにしなかったもう一つの顔ぶれがいる理由を思索していたためそれは心の中だけで留めることに成功した。

幸いその敵意の視線は長く続かなかった。敵意が霧消したわけではないが、達也に続いて入室した深雪に視線が移ったのだ。その視線は達也に対するものとは打って変わって優しく、歓迎の意思を感じさせるものだった。

その視線の主が立ち上がり兄妹のもとに近づいてくる。いや、深雪に近づいてくると表現したほうが妥当であろう。どうやらその人物は達也を完全に無視することにしたようだ。

 

「副会長の服部刑部です。司波深雪さん、生徒会へようこそ」

 

敬愛する兄を無視して自分にだけ挨拶をしてきたことに深雪がムッとした気配が達也の背中越しに伝わってくるが、さすがは深雪、一瞬で収めている。その気配を察した者は他にはいないだろうが、昼休みはいなかったもうひとりの同席者がため息をつきたげにこめかみに手をやったのが達也の視界の端に映る。そのことに疑問と意外さを感じながらも達也の意識は上座に座る生徒会長と風紀委員長に向けられる。

 

「よっ、来たな」

「いらっしゃい、深雪さん。達也くんもご苦労さま」

 

既に完全身内扱いの摩利にいやに親しげな真由美。これにはもう達也も諦めの境地である。

 

「早速だけど、あーちゃん、お願いね」

「………ハイ」

 

そしてこちらの書記を務める2年生も同じく諦めてしまったようだ。達也は心のなかで少しだけ同情すると、摩利に目を向ける。

 

「じゃあ、あたしらも移動しようか」

 

達也を手招きする摩利の横ではあずさが深雪を壁際の端末に誘導している。

 

「どちらへ?」

 

摩利の蓮っ葉な話し方に、達也も礼を失さない程度の口調で疑問を口にする。

 

「風紀委員会本部だよ。この真下にある。といっても中はつながっているんだけどね」

「………変わった造りですね」

 

軍事や極秘研究の秘密基地ならともかく、学校の部屋でそういった造りをしているのは聞いたことがなかった。

 

「あたしもそう思うよ」

 

そう言いながら立ち上がる摩利。だが腰を浮かせたところで制止が入った。

 

「渡辺先輩、待ってください」

 

呼び止めたのは達也への敵意を隠そうとしない服部副会長だった。

 

「何だ、服部刑部少丞範蔵副会長」

「フルネームで呼ばないでください!」

 

摩利の返答に服部が突っかかる。席について様子を見ていた赤髪の男子生徒は思わず笑いそうになったのを必死でこらえている。

 

「じゃあ服部範蔵副会長」

「服部刑部です!」

「そりゃ名前じゃなくて官職だろ。お前の家の」

「今は官位なんてありません。学校には『服部刑部』で届けが受理されています!……いえ、そんな事が言いたいのではなく!」

「お前が拘っているんじゃないか」

「まあまあ摩利、はんぞーくんにも色々と譲れないものがあるのでしょう」

 

真由美の差し込みについに先程から笑いをこらえていた赤髪の新入生が笑いを殺しきれず吹き出した。生徒会室には気まずい雰囲気が流れたが、それを払拭したのは服部本人だった。

 

「渡辺先輩。お話したいのは風紀委員の補充の件です。その一年生を風紀委員に任命するのは反対です」

 

冷静さを既に取り戻しているのは流石と言うべきか。魔法師は人知を超えた力を持つがゆえに極めて強固な理性を持つことが求められる。その点において、この少年は高い水準でクリアしていることがこの様子から分かる。

 

「おかしなことを言う。司波達也くんを生徒会選任枠で指名したのは七草会長だ。たとえ口頭であっても、その効力に変わりはない」

「本人は受諾していないそうですね。本人が受け取るまで、正式な指名にはなりません」

「それは達也くんの問題だな。生徒会としての意思表示は、既に会長によってなされている。決定権は達也くんにあるのであって、君にあるのではないよ」

 

摩利は眉をひそめながらも、達也と服部を交互に見ながら言う。

 

「過去、二科生(ウィード)を風紀委員に任命した例はありません」

 

服部の反論には禁止用語が含まれている。それに対して摩利は軽く眉を吊り上げてみせる。

 

「それは禁止用語だぞ、服部。風紀委員による摘発対象だ。この私の前で堂々と用いるとは、いい度胸だな」

 

声を荒げるようなことはしないが、凄んで見せる摩利の迫力は相当なものだ。端正な顔立ちだが切れ長の瞳には同年代の少年ならば簡単に気圧してしまうだけの眼力がある。

 

「取り繕っても仕方ないでしょう。一科生(ブルーム)二科生(ウィード)には明確な実力差があり、実力に劣る二科生(ウィード)がルールに従わない学生を武力で取り締まる風紀委員にふさわしいはずがない」

 

傲慢だが一面では正鵠を射ている服部の断言口調に、摩利は冷ややかな笑みで応じる。

 

「たしかに風紀委員は実力主義だが、実力にも色々あってな。力づくで抑えつけるだけなら、私がいる。相手が10人だろうが20人だろうが、私一人で対処可能だ。この学校で私と対等に戦えるのは七草会長と十文字会頭だけだからな。君の理屈に従うなら、実戦能力に劣る秀才は必要ない。それとも、私と戦ってみるか?服部副会長」

 

勝ち気な瞳に似合いすぎる自身に裏打ちされた言葉。摩利の実力を知る服部は、流石にたじろぎ、気圧されてしまっている。だが彼も気丈なもので果敢に反論を続ける。

 

「私のことが問題なのではありません。彼の適性の問題だ」

 

彼がここまで威圧されてもなお反論を続けられるのは、ひとえに彼が勇敢な少年であると言うだけではない。何よりも自分の意見が正しいことを信じているからこそ反論を続けていられるのだ。正しい側にいるという自覚は人間に自信を与える。それは時として正義感の暴走を誘発することもあるが、今回においてはバランスよく彼の背中を押しているようだ。

 

「実力にも色々ある、といっただろう?達也くんには、展開中の起動式を読み取り発動される魔法の種類を予測する目と頭脳がある」

 

摩利の反論に、達也は驚いていた。少なくとも昨日、摩利は簡単に信じているような素振りはなかった。

 

「……何ですって?」

 

服部の反応も無理はない。摩利のようにたった一日で受け入れている方がおかしいのだ。

 

「つまり彼を風紀委員に迎え入れれば、未発動のまま阻止された魔法使用未遂の事案に対して発動しようとした魔法に応じた刑罰を適用できる。このことは学内での魔法の不正使用に対する強力な抑止力になるはずだ」

「………しかし、実際に違反の現場で魔法の発動を阻止できないのでは……」

 

摩利が断言した以上、「信じられない」とは言えない。服部はショックを隠しきれない様子で辛くも反論するが

 

「そんなものは一科生の新入生でも同じだ。魔法の発動の兆候を読み取ってその発動を阻止するということは、後出しでその魔法への対抗魔法を使用するということだ。そんな事が可能な者が、上級生を含めてもこの学校に何人いる?それにだ。私が彼を風紀委員会に欲した理由はもう一つある」

 

服部自身も認知している事実を突きつけられた挙げ句さらなる動機の存在を示唆され黙り込むほかなくなってしまう。

 

「今まで二科の生徒が風紀委員に任命されたことはなかった。それは二科の生徒の違反行為についても一科生の風紀委員によって取り締まられてきたということだ。このことは昔から二科生の間に不満を生んできた。風紀委員は一科生と二科生の間の差別撤廃を謳いながら、一方ではその差別意識を助長してきたというわけだ。それを今年度も続けるというのは、私の好むところではない」

 

昼休みの中では摩利の思いつきのように提示された達也の風紀委員入りであったが、思いの外多くの思惑に裏打ちされていることに達也は感心した。

服部もこれには反論の糸口を見つけられなかったようで摩利への反論を諦め真由美に向き直ると、

 

「会長……私は副会長として、司波達也の風紀委員就任に反対します。渡辺委員長の意見に一理あることは認めますが、それでも風紀委員の主な仕事は校則違反者の鎮圧と摘発です。魔法実技の苦手な二科生に務まるわけがありません。どうかご再考を」

 

生徒会副会長としての諫言を述べるという手段に出た。風紀委員の任命権は生徒会長に委ねられているが、生徒会として副会長の意見を完全に無視はできない。固まりかけた趨勢を互角に戻す程度には有効な一手であった。

思いがけぬ乱入がなければ。

 

「待ってください!」

 

慌てて振り返る達也。牽制のタイミングを逃し続け、ついに先を越されてしまった。誰も気付いていないがさっきからずっとこのやり取りを傍観している赤髪の男子生徒はこころなしかワクワクしているような表情になっている。

 

「僭越ですが副会長、兄はたしかに魔法実技が芳しくありませんが、それは実技テストの評価方式が兄の力に適合していないと言うだけのことなのです。兄は実戦ならば誰にも負けることはありません」

 

確信に満ちた言葉に、軽く目を見開いた摩利、微笑みを消して真剣な眼差しを向ける真由美。彼女の言葉は一高の体制自体に対する批判とも受け取れる。何より深雪の言い切った内容は受け取りようによってはこの実力者揃いの空間において極めて挑戦的なものだ。

だがその言葉を向けられた張本人の服部は冷静だった。

 

「魔法師は事象をあるがままに、冷静に、論理的に認識できなければなりません。魔法師を志す者ならば、身贔屓に目を曇らせてはいけません」

 

服部の言葉はムキになる後輩を宥めるための、諭すような口調だ。二科生が絡まなければこの人物は先輩としても相当な器量を持ち合わせていることが伺い知れる発言だった。もっとも、このような形で口を挟んできた以上、こういう言い方は逆効果になるものであるが。

 

「お言葉ですが、わたしは目を曇らせてなどいません!お兄様の本当のお力を以ってすれば――」

「深雪」

 

ヒートアップして反論を返そうとする深雪に、達也の制止が入る。

深雪がハッとした表情になり、羞恥に顔を俯かせる。これには先程までワクワクしていた素振りを見せていた赤髪の男子生徒も気まずそうに目をそらしている。

 

「服部副会長、俺と模擬戦をしませんか」

 

居心地の悪い沈黙を切り裂いたのは達也の思いがけぬ申し出だった。その奇想天外さに先ほどとは質の違う沈黙が流れる。

 

「思い上がるなよ、補欠の分際で!」

 

少し間をおいて放たれた服部の怒号も、当然の反応である。もともとこの場の空気に耐えきれず縮こまっていたあずさが小さく悲鳴を上げる。他の上級生は真剣な面持ちでやり取りの行き先を見守っている。

そして罵倒を受けた当人は、困ったような顔でうっすらと苦笑を浮かべている。

 

「何がおかしい!」

「魔法師は冷静を心がけるべき、でしょう?」

「くっ!」

 

自分が深雪に諭した言葉で揶揄されて思わず悔しさで言葉に詰まる服部。

 

「別に風紀委員に入りたいわけじゃありませんが。妹の目が曇っていないことを証明するためならば、やむを得ません」

 

そう淡々と述べる達也だが、その態度がまた服部の気分を逆なでする。

 

「………いいだろう。身の程をわきまえることの必要性を、たっぷりと教えてやる」

 

それでも逆上し続けないのは服部の器量故か。それでも彼が今抱えている憤怒は相当なものだと、この場にいる全員が認識している。

 

 

真由美と摩利がそれぞれ生徒会と風紀委員として2人の模擬戦を認める宣言を行い、この2人の模擬戦が30分後、第三演習室で行われることが決定した。

 

 

 

 




何故かここにいるアーティも次話から動き始めます。
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