魔法科高校の訪問者 ~真紅の双子~   作:冬元 鈴

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緊急事態宣言解除されるそうですね。自分の地域が解除されるかわかりません。調べるのも億劫で調べてないです………


入学編Ⅶ

「―――っ………」

 

驚愕の事実に固まる第三演習室に動きをもたらしたのは、失神して回復体位を取らされていた森崎であった。

 

「大丈夫か?」

 

高密度の想子(サイオン)の塊をぶつけられた挙げ句完全に不意打ちの形で爆風を食らわされた状態から気が付いた森崎に、一番近くにいた達也が声をかける。達也としても自分が声をかけるのはまずいとは思ったのだが、一番近くにいる自分が無視するのも気まずい。アーティの術の衝撃から未だに冷めやらぬこの空気を変えるためにも声をかけることにしたのだが、それは結果から言えば失敗だった。

 

「――二科生(ウィード)ごときが、僕に触れるな!」

 

そう神経質に叫び達也を突き飛ばそうとするが、達也に見事にかわされてよろけてしまう。再び部屋の中に気まずい空気が流れ、そしてその一瞬後、深雪が森崎に詰め寄ろうとする。その気配を察して達也は制止に入ろうとするが、しかしそれは必要のない行為となった。

 

「森崎」

 

鋭く森崎の名を呼んだのはアーティだった。彼の声はその身長に対しては少々高く、穏やかな印象を受ける声だが、今森崎の名を呼ぶ時に発した声はおよそ彼のものとは思えないほど低く、重く、そして冷たい声だった。

その声に深雪も怒りを抑えてやり取りを見守ることに決めたようだ。アーティの豹変ぶりに粟立つ第三演習室の面々とは対象的に、達也はその深雪の様子に安堵していた。

 

「昨日の件でも分かっていると思うが、オレは一科生と二科生の違いに固執しない。なぜだか分かるか」

 

「そんなの知るわけがないだろう。だが魔法師の社会は実力主義。だからこそ第一高校にも一科生と二科生なんていう制度があり、残酷な区別がなされている。いわばこれは社会の縮図だ。才気溢れる者はおのが力を磨き、上に立つ者としての自覚を持たなければならない。実力に劣る者はしっかりと自分の立ち位置を自覚し、自分にできることを探さなければならない。魔法を学ぶことだけがこの学校の意義ではない。そういった社会で為すべきことというのを身につけるのも、高校生活で為すべきことだ。反差別的、別け隔てなく接することができるといえば聞こえはいいが、お前のやっていることはその実反社会的行動だ」

 

そうまくしたてる森崎の様子に、摩利がため息をついてみせる。だがここで制止しないのは、これから一緒にやっていく風紀委員同士、昨日から残るわだかまりのようなものは今ここで残らず吐き出しておくべきだという配慮からだろう。

 

「正論だな」

 

そう返すアーティの声は、既にいつもの明るく朗らかな声に戻っている。

 

「魔法師の社会は残酷なまでの実力主義。その社会の中で生きる上で区別は必須。それが魔法師(オレたち)の生きる社会のルールだ」

「分かっていて何故そのような偽善に走る」

「無意味だからだ。一科生と二科生の差別は、魔法師社会の実力主義の様相を正しい縮尺で投影していない」

「何?」

 

アーティの反論に、ため息交じりに聞いていた摩利もほぅ、と興味深そうな笑みを浮かべている。見れば、あずさも、鈴音も、真由美も同様にアーティの次の言葉を待っていた。

 

「単純な話だ。第一高校の一科生と二科生の区別はちょうど半分のラインで行っている。上100人が一科生、下100人が二科生だ。だがオレたちが生きる魔法師社会で成功し影響力を持つ魔法師と、そうでない魔法師の区別はおよそ半分のラインでなど行われていない」

 

アーティの言葉は何も魔法に限った話ではない。スポーツ、勉学、何においても成功者と凡人の線引はおよそ半分のラインでなど行われていない。どの世界でも成功者はほんの一握りだ。

 

「その上、成功者というのは必ずしも圧倒的な力でのし上がった者だけではない。自分にしかできないことを見つけそこに着目し研鑽し、新たな権威を築く者もいる」

 

これもまた魔法の世界に限ったことではない。長身の選手が求められるバレーボールでレシーブを磨いてリベロとして名を馳せた小柄な選手も存在する。好打者は例外なく強打者であったが、ヒットを打つことに全霊をかけ好打者としての地位を極めた者もいる。

 

「だから、一科生と二科生というくくりで差別するのは全くの無意味だ。このくくりは教員不足と、魔法事故等により再起不能に陥った生徒が現れても人員の補充を可能にするための仕組みであり、社会の縮図などというのはまったくもって的はずれな解釈だ」

 

アーティの正論に森崎も、誰も口を挟もうとしない。

 

「森崎、君の言葉を借りるなら、実力に劣り、自分の立ち位置を自覚し自分にできることを探さなければいけないのは、学生という守られるべき立場にいる一高生徒全員だ」

 

上に立つ者として持たざる者に敬意を示し平等に扱うのではなく、自分もまた社会の中では持たざる者であることを自覚するがゆえに一科生と二科生というくくりは無意味となる。偽善ではなく善ですらない、無知の知ならぬ無力の知であると言い切られ、そのアーティに敗れた森崎は言い返す言葉を持たない。

 

「今回はオレが勝ったが、君も相当の実力を持っていると思っている。こんな高校ごときの科分けでお山の大将を気取っていて良い器ではないだろう」

 

最後は森崎を立てる形で締められ、森崎は反発する気すら失っていた。

 

「…………僕は君に負けた。完膚なきまでに僕を叩きのめした。その君が、自分を含めて一科生全員が無力な弱者であると言うなら、僕が二科生相手に傲るわけにはいかないな」

 

しばしの沈黙の後、森崎はそのような形で折り合いをつけることを選んだ。

 

「風紀委員として長い付き合いになる。次は負けないよう、僕は慢心せず技を磨いておくよ」

 

静かに頷いたアーティにそう告げると、森崎はまだ少し頼りない足取りで第三演習室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「十文字が君を風紀委員に推した理由がわかったよ」

 

森崎を見送って開口一番、摩利がそう呟く。

 

「会頭とはこの高校の在り方について少し語り合う機会を持つことができました。それで会頭もオレを委員長のもとに送り出そうと思ったのでしょう」

「ほう。十文字にも同じことを言ったのか」

 

一高生徒が全員未熟者と言い切った先程の論を十文字にもぶつけたと軽く言い放ったアーティに摩利も肩をすくめる。

 

「いくら実力があると言っても、会頭も委員長も会長もまだ学生なわけですから、魔法師社会は彼らを頼るのではなく守らなければならないはずです」

「理想論だな。君が思っているほど、魔法師の社会は層が厚くない」

「もう、摩利。気に入るとすぐ意地悪するんだから」

 

真由美の言う通り、この摩利の返しは些か以上に意地が悪い。どうやら摩利は親しくなればなるほど扱いがぞんざいになるタイプのようだ。今身をもって思い知ったアーティはもちろん、それを目の当たりにした達也も深雪も、それを深く胸に刻んだ。

 

「すまないな、工藤。君の実力はよくわかった。思想的にも実力的にも、君は我が風紀委員にふさわしいよ。これから先、私にどうか力を貸してくれ」

「喜んで」

 

真由美の小言に底意地の悪い表情を引っ込めると、右手を差し出しながら改めてアーティに歓迎の意を伝える。その右手をしっかりと握り返しながら、アーティもそれに応じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後摩利に連れられ風紀委員会本部に訪れ、アーティにとってはMMA部の先輩である沢木と辰巳との顔合わせを済ませた後、帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………フン」

 

森崎の態度に、アーティはため息をつきそうになった。当の達也は何食わぬ顔で摩利の言葉を待っている。

昨日アーティとの会話で認識を改めると宣言した森崎だったが個人的に因縁のついた達也に対しては無視を決め込むことにしたらしい。

 

「全員揃ったな?」

 

3人のいる場所は風紀委員本部。そしてそこには、全学年の風紀委員を務める生徒が集結していた。

 

「そのままで聞いてくれ。今年もまた、あのバカ騒ぎの一週間がやってきた。風紀委員会にとっては新年度最初の山場になる。この中には去年、調子に乗って大騒ぎした者も、それを鎮めようとしてさらに騒ぎを大きくしてくれた者もいるが、今年こそは処分者を出さなくて済むよう、気を引き締めて当たってもらいたい。いいか、くれぐれも風紀委員が率先して騒ぎを起こすような真似はするなよ」

 

摩利の言葉に苦笑をこぼすアーティ。周りの上級生たちが首をすくめているところを見るに、この言葉は真実のようだ。

 

「今年は幸い、卒業生分の補充が生徒会選任枠、部活連選任枠まで間に合った。紹介しよう。立て」

 

摩利の言葉に立ち上がる3人。事前の打ち合わせ等はなかったが、まごつくことなく立ち上がる。

 

「1-Aの森崎駿と工藤スチュアート、1-Eの司波達也だ」

 

摩利の紹介を経て、挨拶もそこそこに早速風紀委員は出動することになる。風紀委員のメンバーも各々所属するクラブはあるが、勧誘期間は風紀委員としてのパトロールに尽力することになっている。

説明を必要としない上級生は一足先に出動し、新入生3人は摩利の説明を受けるためこの場に残った。

 

「まずこれを渡しておこう」

 

横並びに整列した3人に、摩利が腕章と薄型のビデオレコーダーを手渡す。

 

「レコーダーは胸ポケットに入れておけ。ちょうどレンズ部分が外に出る大きさになっている。スイッチは右側のボタンだ」

 

言われるままに制服のブレザーの胸ポケットに入れてみると、ちょうどそのまま撮影できるサイズになっていた。

 

「今後、巡回のときは常にそのレコーダーを携帯すること。違反行為を見つけたら、すぐにスイッチを入れろ。だが撮影を意識することはない。基本的に、風紀委員の証言はそのまま証拠として採用される。念のため、くらいに考えておいてくれ」

 

達也と森崎が胸ポケットにレコーダーを収納するのを待って、摩利が続ける。

 

「委員会用の通信コードを送信する。情報端末を出してくれ。今送ったコードを報告の際は必ず使用すること。こちらから指示がある際も、このコードを使用するから必ず確認しろ。

最後はCADについて。風紀委員はCADの学内携行を許可されている。使用についても、いちいち誰かの指示を仰ぐ必要はない。だが、不正使用が発覚した場合、委員会除名の上、一般生徒よりも厳重な罰がくだされる。一昨年はそれで退学になったやつもいる。甘く考えないことだ」

 

摩利の言葉に了解を示すと、3人はそれぞれ巡回へと繰り出していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとか風紀委員に入れたのはいいが、さて」

 

一人で巡回に当たるアーティはひとりごちる。名家の出であることが教職員に知られているわけでもないし(言ったところで信じないだろう)、彼が風紀委員に入るためには部活連推薦枠で入るほかない。そのための布石として、合格発表直後からMMA部に「見学」に行っていたのだ。彼の目論見は成功し、十文字によって風紀委員入りを推薦された。毎年新入生勧誘週間に人手が足りていないことを達也から聞かされていたがゆえの計算づくの一手であった。

 

「これで達也さんが目立ちすぎるのを肩代わりできるはずだ」

 

アーティはその忙しない日常の中にあっても自分の使命を忘れることはない。悲惨な未来を変えるために、自分はここにいるのだ。今のところ、そのために彼が打った手はうまくいっていると言える。

思慮にふけりながらも、アーティの目はしっかりとあたりを見回している。騒ぎを見逃せばその騒ぎは大きくなる。下手に手を抜かないことが、面倒を避けるためのコツだとアーティは心得ている。

そのアーティの目に、早速雲行きの怪しいものが引っかかる。

 

(あそこは)

 

第2体育館の半分、南側のコート。その一角で何やら揉めているようだ。その時間のその場所の使用団体を手元の資料で確認する。

 

(軽身体操部か)

 

軽身体操とは魔法で身体を軽くして行う体操系の魔法競技である。どうやら通りかかった新入生を逃すまいと通せんぼし、新入生が窮しているようだ。アーティは胸元のレコーダーのスイッチを入れ、ノータイムで走り込む。

新入生を取り囲む人垣はそれなりに厚かったがアーティはそれをまるで存在しないかのようにほとんど速度を落とすことなく通り抜ける。

 

「何だ?」

「風紀委員の腕章だ」

 

しかしアーティが通ったところにいた部員たちは皆よろけている。正面からぶつかるのではなく、合気の崩しを高速で応用して無理やり押し通ったため、崩された部員たちはバランスを崩したのだ。

 

「新入生への威圧的な勧誘は禁止されています。軽身体操部は今すぐ道を空けてください」

 

大声で叫びながら中に取り残されている新入生のもとへ向かう。だが部員たちが立ち退く気配はない。魔法の不正使用等はしていないため、彼らも強気なのだ。

 

「捕まって」

 

囲まれていた新入生は2人だった。アーティはCADを一瞬で操作し起動式の展開を完了させると、両手を後ろに突き出し2人の新入生に掴ませる。

 

「跳ぶよ」

 

耳打ちすると同時にアーティは勢いよく地面を蹴る。その跳躍はおよそ人間の跳躍力で再現できる範囲を大きく超えていた。

換気のために開け放たれていた高窓の窓枠に一瞬着地し、そこから体育館外に飛び出す。軽身体操部の部員が呆気にとられるほど鮮やかな救出劇だった。

 

人だかりから離れたところで二人の手を離しレコーダーをオフにする。

大丈夫か、と声をかけようと振り向いたアーティはたった今助け出した二人の顔を見てたっぷり10秒フリーズした。

 

「工藤君」

「風紀委員に入られたんですね、助けていただいてありがとうございます」

 

 

それは、先日知り合ったクラスメイト、光井ほのかと今絶賛気になっている北山雫であった。

 

 

 

 

 

 

 




雫が大好きなので雫が関わるところになると何を書けばいいのかわからなくなります。
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