【本編完結】とあるTS女死神のオサレとは程遠い日記   作:ルピーの指輪

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 ★月○日 晴れ

 

 市丸ギンがついに三番隊の隊長になった。つまり私よりも上の立場になったってことだ。もう簡単に頭を小突くことも出来んな……。

 

 兄貴もやっていた隠密機動第三分隊“檻理隊”の分隊長も兼任してたから割と二番隊の隊士は彼を慕っている。本人も隠密機動は自分に向いてる仕事だったから楽しかったとか言ってた。本音は分からんけど。

 

 「更木隊長と戦り()うてくれておおきに。あれで藍染隊長、陽葵さんの戦闘力を正確に測ることが出来たって言うてましたわ」

 

 彼の二番隊での最後のセリフがこれ。あの剣八との面倒ごとが市丸の隊長就任を急がせる結果になったそうだ。

 私の成長率と現在の霊圧を計算すれば、大体どれくらいの強さになるのか見当がつくんだって。なんかよく分からんけど、それで市丸に近くで戦闘を観察させる必要が無くなったんだとか。

 

 ただ、未だに不可解なことが多いから引き続き監視は続けると嬉しくないことを言ってるらしい。ストーカーじゃねぇか……。

 

 大体あの事件のせいで始末書何枚書いたと思ってんだ。こっちは出来るだけ建物の被害が出ないように必死で頑張ったのに……森の景観が損なわれたって怒られたんだぞ。

 

 

 「じゃあ俺が三席っ――」

 「第三席は涅ネム。異論は認めない」

 「うっ……」

 

 みたいなやり取りが行われて、いつの間にか砕蜂はもちろん私よりも大きくなってナイスバディに成長したネムが二番隊の三席に就任した。

 希千代くん……無言で私に訴えないでくれるかなぁ。ネムはいつか十二番隊の副隊長になるから……。大丈夫だって……。

 

 こうして市丸ギンは三番隊の隊長に就任したのである。

 副隊長は五番隊から吉良イヅルくんを引っ張って来たらしい。市丸の抜け目のないところはきっちり五番隊隊舎にも顔を出したりしてコミュニケーションを取ったりしてるところだ。

 

 漫画と人事的なことはほとんど相違ないみたいだな。この辺は私も関係ないもんなぁ。

 

 

 ♧月★日 雨

 

 久しぶりに山本総隊長に呼び出しをくらう。ちょっとした破壊行為くらいで総隊長からは呼び出されないだろうから、何だろうかとちょっと怖かった。

 一番隊の隊舎にある総隊長の部屋には総隊長の他に一番隊の副隊長の雀部さんと何故か十三番隊の隊長である浮竹さんが居た。

 

 どういうことなのか話を聞いてみると十三番隊の副隊長にならないかという打診であった。つい先日、十三番隊副隊長である志波海燕、同隊三席でその妻である志波都が殉職されたとの報は聞いていたけど、私にその後釜に入れというのは寝耳に水である。

 

 何故、私なのか。有能な人材はまだまだ居るんじゃないかと二番隊を離れたくない私は断ろうとした。

 しかし、十三番隊は浮竹さんが病弱な上に副隊長と三席を失っているので戦力低下が著しい。そこで、現存する副隊長の中で最も戦闘力が高いと評価されてるらしい私に白羽の矢が立ったんだという。

 

 でもなぁ。私は夜一様の二番隊を離れたくないし……。

 

 「浦原さえ良ければ、二番隊と兼任ってことでもいい。戦闘の手助けさえしてくれれば」

 「隠密機動の仕事もやっとらんから他の副隊長よりも暇だと聞いておるぞ。事務仕事は他の者にでも任せれば兼任出来よう」

 

 浮竹さんが二番隊と十三番隊の副隊長を一時的に兼任するという案を出し、山本総隊長が戦闘だけやってりゃ良いじゃんみたいなノリでそうしろと促してくる。

 

 なので、修繕費を給料から天引きされるのを何とかしてくれと交渉し、十三番隊と二番隊の副隊長を兼任することを了承した。

 

 えっと、マジで私って戦闘さえしてりゃいいみたいな扱いなの……?

 

 「無理を頼んで悪かったな。浦原が引き受けてくれて嬉しいよ。正直、俺だけじゃ隊の空気を変えるのは難しいと思ってたんだ。それだけ、あの誇り高い男の存在は重かった」

 

 最後に浮竹さんはそんなことを付け加えた。

 

 ちょっと待って。そういえば、志波海燕くんって朗らかな性格ですげー慕われてなかったっけ。ルキアちゃんとかにも……。

 そんな中にさ、兼任でーすって感じで新顔の私が入って行ったら顰蹙買うんじゃない? 大丈夫かな……。

 

 とりあえず、十三番隊は三席を二人置く特別措置を取るらしいから、ウチもそれにならって二番隊も希千代くんをネムと同じ三席に引き上げて上位席官の数を増やすことにした。

 

 これから週三くらいで十三番隊に顔を出す感じになり、虚との戦闘の助っ人を主に担当することとなった。うーん。この人事は読めなかったなぁ。

 総隊長曰く昔は死神の数も少なかったから一時的に二つや三つ隊を兼任するという人事はよくあったんだってさ。変なことはしないように気を付けないと――。

 

 

 ♧月▼日 くもり

 

 やっぱり微妙な空気だった。まぁ、浮竹さんがいい雰囲気を作ろうと頑張ってくれたおかげで嫌な感じとまでは行かなかったが……。

 

 そっか、この隊の副隊長は今でも海燕くんなんだ――。

 

 浮竹さんがなぜ敢えて十三番隊とほとんど関わりがない私を呼んだのか、理由が分かった気がした。

 能力とかそんなのは関係ない。十三番隊を知る人間なら誰も副隊長に着任しようと思うことが出来ないだろう……。間違いなく……。

 

 二番隊と一時的に兼任というのは中途半端で気が引けるような気がしたが、逆に良かったかもしれない。完全に私が彼の場所を奪ったりしたら、我慢が出来ない隊士も出てくるだろうから……。

 浮竹さんだって、辛いはずだ。だけど、その気持ちを噛み殺して隊士たちの安全を考え、私という人間を入れようと決意したのだろう。

 

 中でも朽木ルキアちゃんの精神状態は悪い。当然だろう、想い人であった男を仕方ないとはいえ斬ったのだから……。

 彼女と会ったのは真央霊術院で講義をしたとき以来だ。あの時とはまるで顔付きが違っていて驚いた。

 

 こういうとき、人生の先輩として気の利いたこと言えると良いんだけど……。私ってほら色々と不器用だし、何か知ったような顔して説教とか出来るタイプじゃないでしょ。

 「元気出せよ」とか、「気持ちは分かる」なんて、無責任なことは言えないし……。

 

 そんなことを思っていたら、意外にもルキアちゃんの方から私に話しかけてきた。

 

 「陽葵殿、私があなたほど強ければ……と、思わずにいられない日はありません。海燕殿が自らの誇りを懸けて戦ったことはわかっているのですが……私は、私は――ひ、陽葵殿……?」

 

 気付いたら私はルキアちゃんを抱き締めて泣いちゃってた。わんわんと……年甲斐もなく……。

 最近は涙腺が緩くて……、本当にダメだ……。私なんて部外者も良いところなのに……。十三番隊の隊士の人たちの方がよっぽど泣きたいだろうに……。

 

 「な、なぜ陽葵殿が泣いてるのですか?」

 「だって、何か泣けてきちゃって。ごめんね。ルキアちゃんが一番辛いのは分かってるんだけど……」

 

 いきなり大泣きしてる私にルキアちゃんは困惑。周りに居た隊士たちも唖然としてる。こういう感情を抑えられないところはダメだよなぁ。

 

 「私は亡くなった海燕くんの代わりにはなれないし、みんなから慕われるような度量もない……。――でも、みんなの仲間になりたい。悲しい時は一緒に泣いて、楽しい時は一緒に笑えるような……。二番隊と兼任で中途半端な奴だけど……力を尽くして頑張るから……よろしくお願いします」

 

 頭の悪い自己紹介だと思う。こんな脳筋の馬鹿を仲間だと認めてもらうには時間がかかるかもしれないけど……。今日から十三番隊でも頑張ろうと思う――。

 

 それにしても涙が似合わんな。私は……。

 隊士たちもなんか、あいつ泣くことできるん? みたいな感じになってはいないだろうか……。赤鬼が泣いた……とかそういう感じ……。

 

 

 ★月♧日

 

 二番隊で戦闘を繰り返し……。十三番隊でも前線に出て次々と虚をぶっ叩く日々。

 

 上は私のことを護廷十三隊の兵器だとでも思ってんじゃないのか……。

 

 事務仕事はマジで一切振られなくなった。ひたすら戦闘の毎日だ。

 二番隊はネムと希千代くんが二人とも細かい作業が得意で、私以上に効率よく仕事を終わらせている。

 十三番隊は小椿仙太郎くんと虎徹清音ちゃんが張り合いながらもいいコンビネーションで仕事をこなしていた。

 

 

 「聞きしに勝る豪腕。大虚(メノスグランデ)をも一撃で屠る腕前は噂以上です。同じ始解でもこれほどスケールが違うとは」

 

 一緒に仕事をしたルキアちゃんはどんな噂を聞いてるのか知らないけど、私の始解の威力を褒めてくれた。

 私はルキアちゃんの袖白雪の方が鬼道系だし、格好いいと思うけどなぁ。

 

 十三番隊の副隊長を兼任するようになって数カ月。泣いたり笑ったりしながらちょっとずつこっちにも馴染んだような気がする。

 ルキアちゃんは相変わらず固いけど……。

 

 「私は不器用だったからね。霊力を込めて殴るしか能のない死神になるしか無かったんだよ。でも、ルキアちゃんは才能が豊かだからさ。いつか隊長になれるんじゃないかな」

 

 彼女が漫画と同じように時を過ごすことが出来れば、将来的にはこの十三番隊の隊長になっている。卍解もいつの間にか修得してたし……。この子って才能の塊なんだよなぁ。私と違って……。

 

 「わ、私が隊長だなんて。陽葵殿は突飛なことを仰る。買い被りすぎですよ。私なんて――」

 「謙遜しないの。ルキアちゃんは強いし。もっと強くなるよ。私は知ってるから」

 

 私はルキアちゃんの黒髪を撫でながら彼女にそう声をかけると、彼女は少しだけ頬を赤らめて俯く。

 今後、この子はある少年と関わり壮大な物語が始まる。大丈夫……、私も力を貸すから――。頼りにならないかもだけど……、頑張るね……。

 

 

 ◆月◎日 晴れ

 

 ある日、六番隊の副隊長である阿散井恋次くんが二番隊の隊舎にいる私のところを訪ねてきた。彼もルキアちゃんと同様に真央霊術院で会って以来だから何年ぶりだっけ……。

 なんか戦い方を教えて欲しいとか言ってくる。いやいや、私なんか瞬歩も出来ないんだから、教えられることなんて何もないし……。

 

 「更木隊長との死闘、見てました。朽木隊長が若い頃に手ほどきを受けたという噂も聞いてます。俺はあの人を超えたいんです!」

 

 阿散井くんのシリアスな表情を見て私は心底面倒だと思った。

 彼に物を教えることが……じゃない。無能だと知れると彼を傷付けるんじゃないかって心配してるのだ。

 

 この人は元十一番隊でそのときにそこの第三席である斑目一角から戦い方を教わったらしい。だから、本当に教えることなんて何もないんだよね……。すんごく有能な人だし……。立場は私と同じく副隊長だし……。

 

 でも、2つの隊の副隊長を兼任して忙しいとか、何とか理由をつけてやんわり断っても彼は引かない。

 

 「じゃあ何か一つで良いので技を教えて下さい」

 

 技って……、殴ることしか能がない私だよ。まぁいいか。それで……。早く終わりそうだし……。

 

 私は阿散井くんを連れて岩場に行く。ネムも律儀に私の三歩後ろを歩いている。大きくなっても二番隊にいるときは、マユリさんの言うことを忠実に守って私を観察してるからだ……。

 

 ちょうどギリアンくらいの大きさの岩があったので霊力を集中してそれを殴りつけた。

 ――ガラガラと音を立てて砕けて粉へと変化する岩。

 

 私にできることと言えばこれくらいしかないんだけど……。

 

 でも、よく考えたら技を教えるって言ってこんなの見せたら普通に怒られるような気がするぞ……。そう思った私は何とかその場を取繕おうとした。

 

 「あ、阿散井くん。ごめん――」

 「すっげー! そうか、斬魄刀無しでもこれくらい出来なきゃならねーのか。霊力を込めた拳をこんなに強化できるなんて知りませんでした!」

 

 阿散井くんはしきりに頷きながら納得していた。ちょっと、待って……。こんなのにそんなに感心しないでくれ……逆に恥ずかしくなるから……。

 

 そっから阿散井くんはひたすら岩を殴り始めた。彼の戦闘のセンスは天才的だ。それに努力家で根性もある。

 その上、ネムが当然のような顔をしてその辺の岩を見事に破壊して見せたからより一層彼のハートに火が付いてしまった。

 夢中になって岩を殴る阿散井くん。私はオーバーワーク気味だったので必死に止めたが、彼は聞かない。

 

 

 

 そんなひたむきな彼はついに――。

 

 

 

 

 

 

 拳を骨折した――。

 

 

 

 白哉くんから、「何かはよく解らぬが、変なことを教えないでくれ」と怒られる私。済まぬ――。




十三番隊の副隊長兼任は蛇足かもしれませんが、それなりにルキアとも親しくさせたかったのでこんな展開にしました。

原作開始前が長引いてすみません。二番隊の話を書くのが楽しくて、つい……。もうちょっとで、原作開始です。


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