【本編完結】とあるTS女死神のオサレとは程遠い日記 作:ルピーの指輪
◎月●日 晴れ(二頁目)
とりあえず、ボコボコにされてもまだ戦おうとしてる雨竜くんを助けよう。ネムのことだから死なないように加減はしてるけど、マユリさんがナニするか分からんし。
私はネムに攻撃をやめるように声をかける。
「陽葵様、どうしてこちらに? おやらかしになられて、投獄されていたのでは?」
やらかしに“お”なんて付けないでくれ。ネムは私の言うことを聞いてくれるので、素直に雨竜くんへの攻撃をやめた。
いやー、ネムの白打も最近は格ゲーの領域に入ってるもんな。雨竜くんも災難だわ。
「大丈夫? 君、石田雨竜くんでしょ?」と私が彼に声をかけると彼はビクッと驚いた顔をする。
「ど、どうして……、僕の名を……? そ、それにその霊圧……他の連中とはまるで違う……。こ、こうなったら……」
いや、こんなところで切り札の何かよくわからん最終形態みたいなのは使わないで。滅却師の力を失うんでしょ? やめなさいって。
私は名前は一護くんに聞いたということと、浦原喜助の妹だということを伝えて……、ルキアちゃんを助けるから、大人しく捕まっててもらえないか打診した。
「あの人の妹……? どうやら本当に攻撃してこないようだな。どっちみち、僕に選択権はないんだろ? 素直に言うことを聞くとしよう。井上さんも逃げられたことだし」
雨竜くんは賢い子だったので、私とネムにマユリさんという隊長一人と副隊長二人を相手にすることが無謀だと気付き、生き残る可能性が高い方を選択したようだ。
で、このまま彼を二番隊の隊舎に連れてこうと思ったんだけど……。
「待ち給え。浦原陽葵……、誰に断ってその男を連れて行こうとしてるのかネ?」
私が雨竜くんを連れてこうとすると、マユリさんが口を挟んできた。誰に断ってって、ネムだけど……。
「私が隊長だヨ! 君らは副隊長。その上、君は投獄中だろ? 脱獄してる時点で処罰されたって文句は言えないはずだヨ!」
あー、何か耳が痛い理屈を持ち出してきた、この人……。
このままだと、変な毒とか使ってきそうだな。本気で……。
ネムもいる事だし……。私はリストバンドの霊圧を五分の一に調節する。
「大体君は普段から――ゲフッ……!?」
済まぬ――。
猛ダッシュでマユリさんとの距離を詰めた私は、彼の鳩尾に一発拳をねじ込む。
この人とは一番戦いたくないくらいの厄介さだから、不意討ちするしかなかった。凄まじい形相で倒れるマユリさん。
ここから、猛毒吐き出したりしないよね……。恐る恐る、ネムを見ると彼女は無言で頷いてマユリさんを担いで走り去っていった。
ふう、穏便に片付いてよかったよ……。そんなことを呟いたら、雨竜くんが「1から10まで暴力的だよ!」ってツッコまれた。大怪我してるのに良く口が回るなぁ。
そこから、二番隊の隊舎に向かって行くが、やっぱり私の今の白装束の格好は目立つ。脱獄したって噂も広まり、旅禍共々捕まえるようにと命令が出てるみたいだ。
「大丈夫なのか? あなた、随分と凶悪犯みたいな扱いされてるけど。というか、もう少し霊圧を小さくできないのか?」
雨竜くんを背負って追ってくる隊士たちから逃げる私。彼は背中越しにぶつくさ文句を言ってくる。
死神の黒装束を着て大怪我を負ってる彼は私に暴力で脅されて人質になってるように見えてるらしく、彼を解放しなさいとか言われてしまう。もしかして、これ取り返しがつかないことしてる……?
若干出てきたことを後悔してると、騒ぎを聞きつけた十番隊の隊長である日番谷冬獅郎くんが、私の前に立ち塞がった。
「浦原! テメー、何でこんな時に脱獄なんてしてやがんだ」
うわぁ……。めっちゃ怒ってるじゃん。とりあえず「暇つぶし」みたいなことを言ったけど、「ふざけんな」って言われちゃった。
鷹の目のミホークみたいで格好いいセリフかと思ったけど、よく考えたら煽ってるわ……。
「藍染隊長が殺されたからやろ? 陽葵さんはそれを不審に思って出てきたんよ」
その上、市丸まで現れて隊長二人に挟まれる結果になる。うへぇ……、斬魄刀もないこんな時に戦闘になったら間違いなく殺られちゃう……。雨竜くんも背中越しに大丈夫なんだろうなとか言ってくるし……。
私は戦慄していたが、市丸は意外な行動に出た。
「斬魄刀取りに行こうとしてはったんやろ」
彼は私の斬魄刀を投げ渡して、去って行く。やっぱり何考えてんのか分かんない人だな。
しかし、それがいけなかったのか日番谷くんは霊圧を上げる。
「そういや、市丸はお前の元部下だったな。まさか、藍染を殺す指示を出したのはお前か? どのみち脱獄してんだ。大人しく捕まらねーと、お前を敵とみなすぜ」
あー、この人は藍染☆自演乙☆惣右介が市丸に殺されたと思ってるんだ。
んで、私が影から指示を出してるって……バカ! 藍染は生きてんだってばよ。お前ら騙されてるぞって、説明しても「馬鹿は建物を壊したお前だ」って言われちゃった。むむっ、反論できぬ……。
斬魄刀があるから戦えなくもないけど、大怪我してる雨竜くん背負ってるし、マユリさんはともかく日番谷くん傷つけると何か罪悪感あるし……。そう考えた私は足に霊圧を込めて猛ダッシュした。
「逃げんな! テメーにゃ加減しねぇぞ! 霜天に坐せ“氷輪丸”――!」
やべっ! 容赦なく斬魄刀を解放しやがった。氷の竜が追いかけてきてるから、雨竜くんがもっと早く逃げろとかいうけど、これ以上スピードを上げたら君が死んじゃうでしょ。
気が動転した私は
氷輪丸から発せられた氷の竜は霊丸が2発当たって四散して、そこら中で大爆発が起きる。
爆発のおかげで目くらましが出来きてくれて、私は何とか逃げることできた。
「こ、これ、大丈夫なのか? 君は向こうサイドの人間だろ?」
雨竜くんは私の破壊行為にドン引きしながら、向こう側に同情的な態度を取る。大丈夫、多分人には当ててないから……。多分だけど……。
斬魄刀を手に入れたので、二番隊の隊舎に行く用事がなくなった。それに私が脱獄したという噂は広がっているだろうから、二番隊に戻るのも待ち伏せられて危険な気がする。
ここは、十一番隊舎の前か……。この際だからあいつらに預けるか。
ということで、雨竜くんを十一番隊の連中に預けることにした。ラッキーなことに井上織姫ちゃんもそこにいたので、私は十一番隊の奴らに丁重に扱えと強めに言って彼を置いていく。
十一番隊の隊士たちは背筋をピンと伸ばしてきれいな礼をしていたので、彼らは大丈夫だろう。
さて、死覇装も手に入れたし……。懺罪宮を目指そう……。夜一様に会えるかもしれないし……。
《なお、ここから下は夜一との再会の喜びを長々と書き綴っているだけである》
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死罪となった私は懺罪宮でその時が来るのを待つ……。
生きたいという気持ちがないと言えば嘘になる。しかし、掟を破った私の罪は重い。兄様も決して私を許すまい。
死を悟ったとき、私は脳裏に浮かんだのは三人の死神。志波海燕、浦原陽葵、そして黒崎一護……。三人は私に前向きな生き方を教えてくれた。
願わくば……死ぬ前に陽葵殿には挨拶しておきたかったな……。
そんな中、四番隊の山田花太郎と共に海燕殿の弟君が私の下にやってくる。彼は私が兄の仇だと知ると険しい表情で睨みつけるが、そこに兄様が現れた。
私は海燕殿の弟――名を岩鷲殿と言うらしいが、彼と花太郎に逃げるように告げる。
だが、岩鷲殿は一護に義理があるのか……あろうことか兄様に立ち向かって行く。
ダメだ……。兄様は彼が志波家の者だと知り斬魄刀を解放した。
「散れ……! 千本桜――!」
兄様の千本桜――。刀身が消えて無数の花弁のような刃と化して敵を斬り伏せる恐ろしい斬魄刀だ。
これを受ければ一瞬で――。
「うわっと! 危なっ!」
そう思った刹那……。上空からものすごい勢いで岩鷲殿と兄様の間に見覚えのある薄い金髪の眠たげな目をした女性が割って入ってきた。
彼女が右手を左右に大きく振るうと橋の両端に無数の亀裂が走る。
まさか――兄様の千本桜を素手で弾いた? おそらく、陽葵さんが恐ろしいくらい高濃度の霊力を右手に込めて防御壁のようなモノを作り出してそれを可能にしたのだろうが……。
理屈は簡単でもそれをやってのけることが出来る死神が一体何人いるだろう……。
「陽葵殿――!」
「浦原陽葵……!? 投獄中ではなかったのか!?」
私は陽葵殿の顔を見て胸が高鳴るのを抑えられなかった。
彼女がどうしてここに来たのか分からないが、いつもの笑顔をこちらに向けてくれたことが嬉しい……。もう思い残すことはないかもしれない。
「すげぇな。陽葵さん……、あいつの技を片手で弾くなんて……」
「――っ!?」
「助けに来たぜ……」
何ということだ。一護までここに来るとは……。
彼が陽葵殿のことを知っているということは……まさか、彼女も私を――?
しかし、再会を喜べる時間はなかった。この場に陽葵殿を追ってきたという日番谷隊長と涅隊長、それに心配になって出てきたという浮竹隊長が現れたのだ。
隊長が一気に四人……。いくら陽葵さんや一護が強かろうとこんな状況を打破出来るはずがない。
「隊長四人か〜〜、ルキアちゃんを連れて帰れるかな〜」
「相変わらず阿呆なことを抜かす奴じゃ。出来るわけなかろう」
「「――っ!? 夜一様(さん)!」」
現れたのは褐色の肌の黒髪の麗しい女性。あの方がまさか四楓院夜一……陽葵殿がずっと慕っている女性か……。
その証拠に陽葵殿が泣きながら彼女に抱きつこうとしている。あっ……、頭を叩かれた。隊長を二人も引き連れてここに来たことが、無謀だと怒られてるようだ。
そして、彼女は一護を治療すると言って彼を抱えると常識外れの瞬歩を見せてここから立ち去ろうとする。さすがは瞬神と呼ばれていた人だ。ここにいる、どの隊長よりも速いとは――。
陽葵殿は力尽くというか、夜一殿を攻撃しようとした兄様に対して激怒して、彼を思い切り殴りつけて吹き飛ばし――そのスキをついて強引に逃げて行ってしまった。
兄様――生きていますか……? 私は心配しながらも、彼女の「必ず助けるから」という言葉を噛みしめる。そのお言葉だけでルキアは十分です――。
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◎月☆日 晴れ
どーしよ。夜一様に怒られてしまって、秘密の修行場を追い出された。
夜一様と再会して五月蝿いと叱られるまで泣きまくったのがいけなかったのか……、一護くんのウォーミングアップを手伝えと言われて、夜一様に良いところを見せようと張り切り過ぎて彼にもう少しで剣八にやられた以上の怪我を負わせるところだったのが悪かったのか……、卍解を修得したから手合わせして欲しいという阿散井くんと戦って、夜一様に(以下同文)何故か自信喪失させてしまったのが悪かったのか……。どれが原因なのか全くわからない――。
とりあえず暇だし、ルキアちゃんは一護くんたちに任せて、私は藍染の奴と決着をつけるとするか。破面編なんて始めさせてやらねーぞ。
首を洗って待ってろ、腹黒メガネ☆自演乙☆惣右介!
マユリ様が真人間に見える不思議。やっぱりネムはいいキャラしてます。メインキャラにして良かったと心から思える。
どうでもいいけど、白哉の始解を片手で捌いたシーンは悟空がフリーザのデスビームを弾いたシーンをイメージしてます。
SS編のメインは陽葵VS藍染になりそうです。次回もよろしくお願いします。