【本編完結】とあるTS女死神のオサレとは程遠い日記   作:ルピーの指輪

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「……ン解ッ!」とかミスリードにすらなってない……。
今回でSS編は完結です。
たくさんの感想をありがとうございます!



十六ページ目

 ◎月▼日(二ページ目)

 

 《藍染とドンパチやってる様子が書き殴られている》

 

 んで、藍染のやつ。縛道で私の動きを封じてきやがった。

 こうなりゃ、ぶっつけ本番。兄貴が作ったっていう、あれを使うとしよう。

 その前にこの拘束を何とかしなきゃ――。

 

 「安全装置解除」――略して“安解(アンカイ)”。これがリストバンドを解除するときの合言葉だ。

 なんで、兄貴がこんなキーワードにしたのか分からない。

 

 それはいいとして、霊圧の急上昇に伴って私を縛っていた拘束が解けて体が自由になる。

 そこで、私は錠剤を飲んだ。その錠剤こそ兄貴が夜一様に渡した新アイテムである。

 霊力の流れを制御して、身体に強制的に留める効果があるこの薬――私が苦手な霊力のコントロールを補助してくれる。

 つまり、薬が効いてる間は私が霊圧をフル解放しても大丈夫ってことだ。

 

 その時間はたったの60秒で、もう一回使うためには24時間のインターバルを要するらしいけど……。

 

 要するに、60秒以内に決着をつければいいってことだよね……。

 迫りくる藍染の五龍転滅を紅鯉(アカリ)でぶん殴るとそれは粉々に砕け散る。

 

 「なるほど、それが君の卍解か。詠唱破棄したとはいえ、まさか私の“五龍転滅”を打ち破るとは――」

 

 いや、“卍解”じゃなくて“安解”ね。聞き間違えたのかな……? まぁいいや、喋ってる時間が惜しい。泣いて謝るまでぶん殴ってやる。

 霊力をたっぷり吸わせて紅鯉を振ると、今まで見たことないくらいの大きさの霊丸が渦を巻きながら、猛スピードで藍染に向かって飛んでいって、空の彼方までぶっ飛ばした。

 

 何か凄いの出たんだけど……。

 

 『ありゃあ、ジャイロボールじゃけぇ。凄いんよぉ』

 

 うぉっ! 久しぶりに紅鯉(アカリ)の声が聞こえてびっくりした。

 あれがジャイロボール……? 絶対に違うだろ……。

 

 藍染の奴、吹っ飛んでいったけど生きてるかな? 死なれちゃ、後々困るんだけど……。

 そんなことを心配してたら、上空から藍染の声が聞こえてきた。

 

 「滲み出す混濁の紋章――不遜なる狂気の器……、湧きあがり・否定し……、痺れ・瞬き……、眠りを妨げる……爬行(はこう)する鉄の王女……、絶えず自壊する泥の人形……、結合せよ、反発せよ、地に満ち己の無力を知れ! 破道の九十――“黒棺”!!」

 

 オサレな詠唱とともに真っ黒いモノが私を取り囲む。

 これって、どうすりゃ良いんだ。まずい、これは狛村さんの二の舞になるやつだ……。完全に油断した……。

 あれ? 黒いモノ無くなっちゃったけど……。なんだったんだろう……? 今の……。

 

 「ば、莫迦な……。完全詠唱した私の黒棺を食らって無傷……だと?」

 

 いや、黒棺ってなんかもっと血が吹き出て怖い技だろ? 狙いを外したのかな……。

 とにかく、藍染のやつを適度にぶっ叩いておかないと……。

 

 「読めたぞ。君の卍解は異常に引き上げた霊圧で鬼道に特化した防御力を極限まで高めるという性質のモノだ。しかし、私の特技が鬼道だけとは思わないことだ――」

 

 藍染は確かに凄い。鬼道だけじゃなくて、体捌きも、斬術も超一級品だ。

 霊圧が上がったとはいえ、この短い時間でこの男を捕らえるのは難しいかもしれない。

 そう思った私はある作戦を実行した。

 

 「首を斬り落としてやる――!」

 

 藍染が刀を振るった瞬間、私は彼の斬魄刀の刀身を掴んだ。彼はようやく焦りの表情を見せる。

 そして、藍染の腹めがけて紅鯉を思いきり突き出した。

 藍染は盛大に吐血して、地面を抉りながら吹き飛ばされる。もう時間がない――。

 私は彼にトドメを刺そうと彼に近付いた。その時――。

  

 夜一様や砕蜂が私を攻撃してきた――。えっと……、どういうこと……?

 

 「はぁ、はぁ……、完全催眠……。君には効いてなくても、他の連中は違う。大切なんだろう? その連中は……」

 

 何とか彼女たちの猛攻を回避しながら、私は口から血を垂らしながらも余裕な表情をしてる藍染のムカつく顔を見た。

 ちくしょー! そういうことか。私が藍染に見える催眠を使ったってことか……。私に催眠が効かなくても関係ないってか……。

 正直言って、「勝てる! 誰であろうと絶対に勝てる! 超パワーを手にしたのだー!」とか思った時点でオサレ負けしてたのかもしれん。

 

 いつしか、護廷十三隊全体に襲われる私。

 

 反撃する間もなく、制限時間の1分が経過して霊圧のコントロールが出来なくなり、周りのモノを全部吹き飛ばしてしまう。 

 

 こんな状況になってしまって、とても悔しいけど、私はリストバンドを元に戻した。

 

 「君の卍解の力は分かった。浦原陽葵(ひまり)、雌雄を決するのはまた今度にしよう」

 

 藍染が催眠を解いたのか、みんなは一斉に彼の方を向く。

 

 そして結局、漫画と同じように大虚(メノスグランデ)共が現れて、反膜(ネガシオン)で藍染を包み込んで撤退みたいな展開になってしまった。

 くそっ! 私が戦った意味って何だったんだよ……。

 

 しかし、ここである人物が意外な行動をとる。藍染はそれを訝しく思い、その人物に声をかけた。

 

 「ギン、何のつもりだい?」

 

 そう、市丸は反膜(ネガシオン)をヒョイと躱して、中に入らなかった。

 あいつ、どういうつもりなんだ? 藍染の味方に付いたんじゃなかったのか……。

 

 「ボクは陽葵さんのスパイですから。藍染隊長が隊長辞めはるんでしたら、ここでお別れですわ」

 

 ヘラヘラと笑いながら、藍染に反逆すると言い放つ市丸。

 はぁ? 堂々とスパイ宣言とかすんなよ。みんながこっちを見てるじゃん。

 

 「後悔するよ。私が彼女に負けることなんてあり得ないのだから」

 

 「後悔するのは藍染隊長の方です。陽葵さんのこと、侮り過ぎて笑えますわ。藍染隊長はボクだけが腹心とか言われはったけど、ボクにとっての上司は陽葵さんだけでしたから」

 

 どこまで本気か分からんけど、こいつがこいつなりに結論を出してこっちに踏みとどまると言ってくれたのはよくわかった。

 私が上司って、今はあんたが立場が上だし……。何より、砕蜂が可哀相だろうが……。

 

 「あっ、もちろん砕蜂隊長のことも尊敬してますよ。そない拗ねないでもええですやん」

 

 ムッとした砕蜂にフォローを入れる市丸。二番隊で一緒にやって来たから彼との仲間意識は私や砕蜂、それにネムや希千代くんにだって確かにあった。

 あいつ、一応そういう義理とかは感じてくれてたのかな……。と、見せかけて実はこっちに残って藍染のスパイとかそんなオチは止めてくれよ……。

 

 こうして、藍染と東仙は撤退して、ルキアちゃんを巡っての騒動は一段落ついた。

 もちろん、崩玉を奪われたからこっちの負けも同然なんだけど……。ルキアちゃんも、桃ちゃんも無事だし、市丸もこっちに残ってくれたから……、良かったかな……。

 

 

 ◎月♤日

 

 あたしと市丸の処分が決まった。今月から二十五年間……減俸25%だってさ。

 酷いよね。こっちはみんなの為に頑張ったのに……。

 

 禁固刑については四十六室がいつ殺されたのか分かんないって理由と、藍染から桃ちゃんやルキアちゃんを守った功績も考慮されて免罪された。

 減俸に関しては建物とか諸々を壊し過ぎだからという理由だ。私の指示で藍染を探っていたということになっている市丸も連帯責任を負うという結果になった。

 

 「莫迦者! 甘過ぎるくらいじゃ! 此度の負傷者の何パーセントがおぬしの戦いの巻き添えになった者だと心得る? 少しは加減を覚えろとあれほど――」

 

 不満顔してたら、総隊長にお説教を食らう羽目になる。つーか、市丸が減俸で済むなんて奇跡だな。

 藍染のこっからの計画とか知ってることを吐いてもらうぞ。

 

 「いうても、藍染隊長もボクのこと半信半疑やったからなぁ。鏡花水月の回避方法くらいは突き止めたかったんやけど。だから、そろそろ教えてくれまへんか? どないして、鏡花水月を完全に防いでるのかくらい」

 

 なるほど、漫画と違って市丸が私に付ききっきりだったから、藍染は鏡花水月の秘密を彼に教えてないのか。

 だから、市丸もこっちにつくことを決心したんだな。別に私に鏡花水月が効いてないのはアイマスクして動いてるだけだから……。

 

 「んなアホな。なんや、そのアイマスク。そら、藍染隊長も分からんはずやで。理由がアホすぎますもん」

 

 そんなもんかね。まー、いつの間にか藍染対策というか、修行の一環みたいになっちゃって意識してなかったからなー。

 でも、このアイマスクは凄いよな。今まで付けてるってバレたこと一度もないもん。流石は兄貴が傑作だと自負するだけはある。

 しかし、市丸の「卍解を使ってないことは藍染隊長には言わん方がええですよ。その方がオモロイですから」という台詞にはどんな意味が込められてるんだろうか……。

 

 

 ◎月♡日

 

 夜一様はやっぱり現世に帰るんだそうだ。砕蜂なんて隊長を明け渡すとまで言っていたが、ダメだった。

 

 「おぬしらが、新しい二番隊を作った。それを今さら儂が戻ったとて良くはならんじゃろう」

 

 彼女は二番隊が護廷十三隊の随一の武闘派集団だと言われていることを聞いて笑わずには居られなかったらしい。

 そんな変化は自分には無理だったと。砕蜂の器量の大きさがそれを可能にしたのだから、自分を超えているとまで彼女に言った。

 隠密機動の方も何ら問題なくこなしてるからこその言葉だったんだろうけど、砕蜂は号泣して大変だった。

 

 ネムを紹介すると、夜一様は首を傾げて「おぬしの娘と言うことか?」と口にする。

 まぁ、私の遺伝子を使っているからネムはどう思ってるか知らないけど似たようなもんだと答えておいた。

 

 「陽葵様のことは母親だと認識してますが……」

 

 今日まで知らんかったけど、ネムは私を母親だと思ってたらしい。

 小さいとき、懐いてずっと一緒にいたのはそれだからなのか……。かわいいから私も嬉しかったけど。

 

 「ふむ。じゃが、造ったのはあの涅なんじゃろ? 喜助のやつ姪が出来たと聞いてどんな顔をするじゃろうか。――楽しみじゃな!」

 

 ニヤリと笑って兄貴の顔を想像する夜一様。どーなんだろ。兄貴は「良く出来てるなー」くらいしか思わないんじゃないか? 寧ろ、結婚できないだろう私に娘が出来て良かったくらい言いそうなもんだ。

 

 現世に遊びに行きたいな〜。

 

 

 ◎月∴日

 

 一護くんたちが帰って行った。浮竹さんから死神代行証をもらって。

 次会うときは、虚化とか覚えてるんだろうか。

 破面編に突入しちゃったのは残念だけど、次こそ藍染をぶっ倒すぞ。

 

 ルキアちゃんはこっちに残るみたい。緋真さんのこととか白哉くんに聞いたからだろうな。

 爆発に巻き込んでしまって悪かったということと、兄貴が色々と変なことをして済まなかったと、彼女に謝罪しておいた。

 

 「あの浦原はやはり陽葵殿の肉親でしたか。あのとき、どこか懐かしい気持ちになりましたから。名前を聞いてもしやと思いました。今、こうしていられるのですから、私が陽葵殿を責める理由などございません」

 

 ルキアちゃん、人間出来過ぎだろ。完全に巻き込まれまくってるのに……。

 あまりの優しさに涙が出るわ。ありがとう。本当に……。

 

 

 ◎月♧日

 

 あれ? なんで桃ちゃんはまだ私の側から離れないんだろう。

 なんか前よりもグッと距離が近付いたみたいな……。日番谷くんはあれ以来ムッとして話してくれないし……。やっぱ、突き飛ばしたこと根に持ってるのかな。

 

 「陽葵さん、五番隊の隊長をやってくれませんか?」

 

 桃ちゃんは何をトチ狂ったのか私に藍染の後釜に入れとか言ってきた。冗談じゃないよ。あいつの後釜なんて……。

 

 それに、藍染は桃ちゃんは彼ナシでは生きていけないように仕込んだって言ってたけど……割と平気そうじゃん。

 

 「あいつを裏切ったら殺すからな」

 

 日番谷くんがすれ違いざまに怖いことを言ってくる。いやいや、裏切るなんてしないけど、そんなことを言われる筋合いないでしょ。なんで?

 

 「今度は二人きりでお食事に行きましょう。えへへ」

 

 まぁ、桃ちゃんが元気そうならそれで良いか……。

 

 

 ●月☆日

 

 破面が一護くんを狙ったとの情報が入って、ルキアちゃんと一緒に現世に行くことに。

 一護くんと深く関わってるからか。てか、砕蜂とネムも一緒なんだね……。

 漫画とメンバーが違うのは私のせいなのかしら――。

 

 

 




てことで、無事に破面編に突入。
大きな違いは市丸が残ったことくらいですね。連載始めるまで、特に好きなキャラクターじゃなかったのに市丸の主人公の悪友って感じの立ち位置が気に入ってます。
というか、原作前の砕蜂、陽葵、市丸、ネム、大前田の並びの二番隊が好きでした。

現世に行くメンバーを変えたのには特に意味はないんですけど……、彼女が行くなら砕蜂とネムはついてくるかなーって感じです。

あと、私事ですがSS編が完結したのと、去年から連載していた小説を一本完結させたので、その宣伝も兼ねて匿名投稿を解除しました。ご興味とお時間があれば他の作品も是非ともご覧になってください。


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