【本編完結】とあるTS女死神のオサレとは程遠い日記 作:ルピーの指輪
今回の前半は砕蜂視点です。それでは、よろしくお願いします。
黒崎一護、卯ノ花隊長、そしてネムがこちらの戦線に加入した。
陽葵さんが来ていない? まぁ、彼女ほど殉職という言葉と無縁の人物は居ないだろうから心配はしていないが……。
こちらは十刃の三人を片付けて、残りは藍染一人という状況まで追い込んだ。
十刃共は確かに強かった。私が相手をしたバラガンという男は“老い”を司る力を要しており、市丸や大前田の助けがなくては私は五体満足ではいられなかったかもしれん。
しかし、最終的に途中から加入した
藍染の能力は完全催眠。いつ使用してるのかこっちには全く分からないから、同士討ちに注意しろと陽葵さんは言っていた。
彼女からこれほど冷静な言葉を貰ったのは何時ぶりだろうか……。彼女の場合は実体験があるからかもしれんが……。
ともかく、完全催眠が効いていないのは、ずっと修行でアイマスクをしていたという陽葵さんと、最近死神の力を手に入れたばかりの黒崎のみだ。
藍染に確実にダメージを与えることが出来るのはこの二人しかいない。
そして、この場には黒崎ただ一人しか居ないということは、彼を守りながら藍染のスキを作る――これが私たちに出来ることだ。
この場で動ける者たち全員が藍染を取り囲んでいる。
「あの気色悪ぃバケモンしか斬ってねぇんだ。黒崎とも斬り合いてぇが、テメーを斬るのも面白そうだ」
「黒崎一護、兄は私たちが守る。そのような怯えた顔をするでない」
比較的にダメージが少ない更木や朽木が中心となり、藍染を攻めるが……奴の強さは異常だ。
あの理不尽さは陽葵さんを彷彿とさせる。レベルが高い鬼道や斬術を使うのと、圧倒的な暴力の差はあるが……。
しかし、我々も伊達に護廷十三隊の隊長を名乗っていない。藍染のスキを何重にも張り巡らせた罠で遂に作り上げることに成功する。
弐撃決殺が霊圧差で効かない――何となく分かっていたことだ。
霊圧の権化みたいな者と修行した身だからな。試したことは流石に無かったが……。だが、効かないから受けるとは浅薄な考えだぞ――! 私は効かないと分かっていたからこそ、雀蜂による攻撃のあと……追撃として彼に足払いをして、バランスを崩すことに成功する。
そして、その一瞬のスキをつき、日番谷が藍染の胸に刀を――。
否――それは神速で伸縮する刃によって阻まれた。
市丸ギン……まさか、あいつ……藍染の味方で……。
「市丸、テメー! 何しやがる!」
「アカン、不用心すぎて見とれんわ。あの人がこんなに簡単にスキを晒すわけないですやん」
「流石だね。ギン……、常に催眠状態であるという意識を働かせていたのか」
鏡花水月――だと? 藍染だと思っていた対象は雛森であった。
日番谷はもう少しで自分の幼馴染を手にかけようとしていたのか……。
それにしても、確かに陽葵さんはいつ使うか分からないとまで言っていたが、ここまで自然に錯覚してしまうとは……。
藍染はまたたく間の間に朽木と京楽、そして日番谷をも斬り捨てる。
「それだけやないです。この子の視線を追ったんですわ。唯一、完全催眠にかかっとらんなら、自分の目よりも信頼出来ますから……。――それに自分の他にも同じことをしてはるみたいですよ」
「――っ!?」
市丸が言葉を言い終わった瞬間に、藍染はネムに殴り飛ばされる。あの∞の軌道を描きながら頭を動かす動きは――彼女の必殺技なのか……。次々と拳が藍染に突き刺さる。
「調子に乗らないでもらおう」
「……んっ! 腹部損傷……離脱します」
しかし、ネムも藍染に致命傷を与えることが出来ずに腹を斬られて、彼と距離を取った。ネムの防御は陽葵さん譲りだが、それを容易く貫くとは……。
「――所詮は浦原陽葵の劣化コピー。恐れるに足りない。――っ!?」
「藍染隊長……、いや、藍染☆自演乙☆惣右介! あなたを斬ります!」
「まさか、君が私に斬りかかるとは……。躾が足りなかったのか……、それともあの女の影響か……」
頬を雛森に斬られた藍染は血を舐めながら微笑み――霊圧を急激に上昇させる。雛森の目にも止まらぬ剣速にも驚かされたが……藍染の霊圧……以前よりも格段に大きくなっているような……。
雛森は何度か打ち合った後に吹き飛ばされ、それを助けに入った平子も斬り伏せられた。
そこからはまさに一方的な展開だった。蹂躙されていく仲間たち、そして
動ける者はどんどん減っていき、私も奴の手にかかろうとしていた。
そのとき――爆炎が舞い上がり、山本総隊長が藍染の前に立ちふさがる。圧倒的な熱量を携えて……。
しかし、総隊長の対策をするためだけに造られた破面によって流刃若火の炎は封じられ、彼は自らの炎が暴走するのを防ぐために重傷を負う。
さらに彼が最後に放った一刀火葬によって出来たスキを突いた黒崎一護は藍染にダメージを与えるも、それもすぐさま復元してしまった。
よくわからんが、崩玉と一体化した藍染は防衛本能とやらであらゆるダメージを無にすることが出来るらしい。
そこに現れたのは黒崎の父親である元十番隊の隊長であった男――志波一心……。現世に来たときから彼の存在には気付いていたが、陽葵さんが知らぬフリをしろと頼むからそうしてきた。
黒崎自体が自分の親が死神だと知らなかったようだったので、何か事情があるのだろう。
藍染はドンドン化物になっていった。
今や、黒崎親子を除くと動けるのは私と市丸、そしてネムといつの間にか遠くまで逃げていた大前田。
そこに浦原喜助と夜一様が戦線に加わるも藍染の優勢は揺るがなかった。
それにしても、黒崎親子を除けば元も含めて二番隊が揃うとはな。護廷十三隊最強と呼ばれた我等の力をあの珍妙な姿に変化した彼奴に見せてやる。
幸い、藍染は大幅なパワーアップに浮かれて油断していた。攻撃を敢えて避けないというのも、我々をナメている証拠であろう。
大前田が鬼道で陽動して、ネムが霊力の塊を乱れ撃ちする。そして、私の雀蜂雷公鞭を放つことによって出来た一瞬のスキを市丸が突いた。彼は陽葵さんから、「鏡花水月の能力から逃れる方法は、完全催眠の発動前から刀に触れておくこと」という話を聞いていたらしい。そう、彼は藍染の斬魄刀を素手で掴んだのだ。
なぜ、あの人がそんなことを知っているか知らないが……市丸の卍解から放たれた“細胞を溶かす毒”によって――藍染は断末魔を上げて消滅する。
崩玉は市丸の手の中に落ちて、全ては終わったかのように見えた――だが、しかし……。
藍染は生きていた。崩玉の意志によって神に近付いたとかほざいているが、確かに人智を超えた力を手に入れたのかもしれない。
市丸が斬られようとしていたので、私が咄嗟に彼を突き飛ばして事なきを得る。残念ながらそれもあまり意味がある行為ではなかったが……。
私たちはまたたく間に、彼に嬲られ……そして、倒されてしまったのだから……。
それにしても……藍染の霊圧を感じることが出来なくなったのはどういうことだ……? 彼は本物の空座町に行ってしまった。
動けるのは……黒崎一護と志波一心のみ。これではあまりにも――。
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◇月◎日 晴れ(三ページ目)
マユリさんにごめんなさいして、装置を修理してもらい、
織姫ちゃん、一護くんのことをずっと心配していていじらしい。まるで、昔の私を見てるみたい。こういう、ヒロインみたいに可愛らしい時代、私にも、あったよね? 日記を隅々まで探せばきっとあるはず。
雨竜くんもチャドくんもウルキオラとの戦いに巻き込まれて怪我を負っていたが、彼女と勇音ちゃんの治療で回復していた。
この
既に藍染の姿はなかったので、恐らく彼は空座町に行ったのだろうと予測して、私たちは更に
――無月……。
一護くん自身が斬月になるという最強最大の必殺技。すなわち――最後の月牙天衝。
全てを黒く塗りつぶすようなとんでもない霊圧から私は彼がそれを使ったということを察する。
あーあ、もう終わった後かぁ。まぁ、みんなが無事だったからいっか。
大地を踏みしめて、藍染や消えゆく一護くんの霊圧がある方向にジャンプする。
やべ、現世のアスファルト壊しちゃった。藍染がやったことにしよう……。
彼らの下に着いたとき、ちょうどウチの何でもありなチート兄貴が「新しい鬼道っス」とかやって藍染の力を封じ込めようとしていた。
藍染……、なんか兄貴に私を利用して霊王をどうのこうのとか言ってるし。
あいつ、兄貴のこと何だと思ってんの? つーか、彼の頭の中では私と兄貴がすげー野望を企んで暗躍してるみたいなストーリーが出来上がってたのかよ……。
とにかく、藍染はもう終わり。私は兄貴に労いの言葉をかけようと近付いた。
すると――。
「浦原陽葵ィ! 私が予測したよりも随分と遅い登場じゃあないか! そうだ! もはや、天に立つことなど……霊王など……どうでも良い! 君と雌雄を決することこそ私の望みだ! 崩玉よ……! 私に従え! あの女を超える力を私に……!!」
意味が分からない。兄貴の鬼道の封印が完了しようとしたとき――再び藍染の霊圧がグンと上がった。
見た目も売れないロックバンドやってそうなロン毛のフリーザみたいな感じに戻ってしまい、思いっきり嫌な予感がする。
「どうやら、陽葵ちゃんが来てしまったせいで、藍染の折れかけた心が蘇って崩玉が鬼道の効果を相殺したみたいっスね。せめて、もう三十秒くらい遅れて来てくれれば……」
ちょっと待ってよ。何それ……まるで私のせいで藍染が荒ぶっているように聞こえるぞ。
これ、私のせいなの? 漫画通りにことが進んだ、と思ってたけど……まさかこんな事になるなんて……。
「君に感謝する……! 君と出会わなかったら、ここまでの力を手に入れることは出来なかっただろう」
ロン毛フリーザとなった藍染は鏡花水月が消失したものの、今まで以上に鋭い殺気を私に送る。なんだかなぁ。感謝されてこんなに嬉しくないことってないよね。
「安解――!」……私は兄貴の作った薬を飲んで霊圧を全開にする。
そして、拳と拳がぶつかり合い……衝撃波が発生して兄貴と一護くんが吹き飛ばされてしまった。
へぇ、力でゴリ押しするつもりなんだ。私に合わせてくれてんのかな……。
何度か拳をぶつけて、その余波で地形が変わっていく。こりゃあ、後で怒られたりしないか……。そういや、なんで私は拳で戦ってるんだ……?
「かっ飛ばせ――
私はそれを膝で受け止めて、頭突きで彼を吹き飛ばす。彼は地面に激突して大きなクレーターを作った。
あいつの斬魄刀はもうないから、鏡花水月の催眠に侵されることはない。アイマスクを外しているからなのか、彼の動きが手に取るようにわかる。考えるより早く身体が動く――。
藍染の拳の弾幕をかいくぐり、紅鯉を腹にめり込ませる。彼はくの字に曲がり、血を吐き出したが……ニヤリと笑みを浮かべて膝蹴りをかましてきやがった。これほどの痛みを感じたのは久しぶりだなぁ。
何分彼と殴り合ったか分からない……。周りの岩山がどんどん瓦礫へと変化する。
ていうか、このままじゃタイムオーバーもあり得る。
「流石だね。崩玉を支配し神に等しい力を手に入れた私と互角とは――。いや、君のほうが膂力は少々上かもしれん。しかし、その卍解には制限時間があるはずだ……。残念だったな。私の勝ちだ……! 浦原陽葵……」
藍染の言うとおりだ。“安解”には制限時間がある。このままだと私の霊圧のコントロールは失われて敗北は必至。
仕方ない……。まだまだ、実用的に使える段階じゃないんだけど――。
「卍解――!」
私がそれを口にした時……、藍染の表情が大きく歪んだ――。
なんか、すんごく狼狽えて何か叫んでるんだけど……。
《日記はまだまだまだ続いている》
陽葵のせいで、死にかけの藍染がパワーアップ(脳筋化)して蘇っちゃった。
卍解はもうちょい取っておく予定だったんですけど……藍染にあれだけ前フリしてたんで、ちょっとだけ……。
実用的ではないという理由も含めて、詳しくは次で。
次回、破面篇最終回です!