【本編完結】とあるTS女死神のオサレとは程遠い日記   作:ルピーの指輪

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これにて、破面篇完結です。
前回の補足ですが、剣八はアヨンを倒して、白哉は日番谷と一緒にハリベルと戦っていました。
なので、藍染が荒ぶるまではかなり楽勝ムードだったのです。


二十一ページ目

 ◇月◎日 晴れ(四ページ目)

 

 

 やっちまった。卍解を使っちまった……。藍染が驚いてるのも無理はない。恐らく私が本来……卍解を使えないことなど、とっくにお見通しだったんだろう。

 

 そうなの。私、卍解を――1ミリも動かせないんよ。

 

 ひと月ほど前に兄貴との特訓で半ば強引に紅鯉(アカリ)の具象化には成功していて、あとは彼女を屈服させる段階で私はもがき続けていた。

 彼女の投げる球(霊丸)を打ち返したり、掴んだり、バットで殴り合ったり……色々したけどこいつは頑なに私を主として認めてくれない。

 

 つまり、この卍解は未完成――張子の虎。私は自分の卍解がどんな力を持ってるのとかも殆ど知らない。

 

 「斬魄刀に遊ばれてるようじゃ、卍解修得とは言えないっスね。いいっスか、安易に解放だけはしないようにしてください。もし使うのでしたら――」

  

 兄貴からは卍解はまだ未完成でとても実用的な段階じゃないから、絶体絶命の事態以外では使わないようにと言われていた。

 でも、藍染がこうなって。実質戦えるのが私しか居ないんだったら、出し惜しみして負けるより、使えるものは使ったほうが良いと判断する。

 だって、負けたら空座町がなくなるんでしょう? そんな結末許せないよ。

 

 って思ってたんだけど――荒ぶる紅鯉(アカリ)の力が思った以上に強い。

 兄貴は私の霊圧で卍解の力を暴走させたりなんかしたら、現世への被害は計り知れないと忠告していた。

 今の私は指一本動かせないスーパー無能タイム、略してSMTに入っていた。

 どうしよ、これ。解いちゃおうか……。いや、解いたら解いたでタイムオーバーで負けは必至だし……。

 

 

 「なっ……、なっ……!? ……ば、卍解だと……? 霊圧がまるで感じられなくなった。こ、これではまるで……」

 

 幸いなことに藍染はまだ驚いて目を見開いている。でもね、私ってば動けないのよ。

 

 私の卍解は――(アカ)地獄(ヘル)鯉団(グンダン)

 私の背後で赤い帽子と法被(はっぴ)を身に着けた人形たちが九体現れて、メガホンやトランペットや太鼓をもって待機している。そして、そいつらを指揮するかのごとく紅鯉(アカリ)が先頭に立っている。

 カープ女子の延長線だから応援団ってことらしい。名前はカープの選手みたいなのに……。

 

 斬魄刀が人形になっちゃってるから、当然私は素手である。今は、全力で紅鯉(アカリ)の動きを止めてるところだ。

 

 さて、そんな未完成の卍解をこの絶体絶命の場面で使う意味は何なのかというと、それは卍解の霊圧の上昇量が関係する。

 

 ――斬魄刀を具象化した時点で約十倍に上昇する霊圧。

 私が幼いときより修練したのは右拳に霊力を集中することだ。

 故に卍解の暴走を食い止めつつ、あいつに全力の()()()()をお見舞いすることが出来れば必殺になりうる――。

 

 つまり、この未完成の卍解は私の霊力を爆発的に上げるための餌なのよ――。

 

 「警戒すべきはあの九体の人形と斬魄刀の本体――。特にあの人形からは一体、一体から私と変わらない程度の大きな霊圧を感じる……」

 

 藍染は私の後ろの人形たちをめちゃめちゃ警戒していた。

 まぁ、恐らく卍解を使いこなせるようになったら、何らかの能力が働くんだろうけど、今は動かしたら現世に甚大な被害が出るかもしれんので動かさないよ。ていうか、動かせないよ。

 これらは全部……ハリボテとか、デコイみたいなモノだし……。

 

 私は精神を集中させて卍解の霊力を拳に集めた。

 

 『……ううっ……、やるのぉ。じゃけど、ウチはあんたの言うことは聞かんよ。認めとらんけぇのぉ』

 

 紅鯉は頑なに私に屈服する気はないと頭の中に声を送る。

 しかし、拳に霊力を集めたおかげで私の体は少しだけ自由を取り戻した。

 藍染がこっちを警戒して動かなかったのもラッキーだったな。おかげで右拳に霊力を充満させることが出来た。

 

 まともに動ける時間はどれくらいだろう。1秒……、いや、もっと短いか……。

 

 「こ、こうなったら、崩玉よ――私に全てを消し去る力を与えよ! 全知全能に相応しい神の力を――!」

 

 藍染は崩玉にさらに願いを込め――崩玉はそれに呼応して禍々しい光を放つ。霊圧がさらに上がるのか……。なんつー道具を作ったんだよ。兄貴のやつ……。

 

 「ぐはっ――! はぁ、はぁ……、ふははははっ!」

 

 しかし、彼の全身から血が物凄い勢いで吹き出す。これは、あまりの霊圧の急上昇に体がついていけなくなったとか……そんな感じ? 藍染はそれでも嬉しそうに笑っている。

 

 「ふはははは! 浦原陽葵ィィ! この霊圧を見よ! 君自身の霊圧が感じられぬのは、全霊圧がその人形たちに吸収されているからだ! だが、人形がどんな能力を持っていようと関係ない! これだけの力があれば、君が能力を発動する前に片付ける事が出来る」

 

 藍染は愉快そうにニヤリと笑い、霊圧をドンドン高める。

 そして、彼は音速よりも遥かに速く私に肉薄して――その剛腕で私を捉えようとした――。

 

 

 

 ――アイマスクを取った現在の私の霊的な感知能力は研ぎ澄まされている。

 

 

 

 

 ――このとき、私は脳が反応するよりも速く右の拳を繰り出していた。

 

 

 

 

 藍染の拳は私に届かず――私の卍解時の霊力が込められた右ストレートはカウンターの要領で彼の胸の崩玉を捉える。

 

 

 ――彼は回転しながら吹き飛ばされて地面に激突して――地面には底が見えないほどの大穴が空いた。

 

 

 

 ラッキー……どう動こうか迷ってたら、藍染がこっちに近付いて来てくれて……。もうタイムオーバーだ。卍解を解いて……リストバンドを再び装着する。

 

 

 

 

 

 

 

 で、なんか藍染の崩玉が一時的に機能が停止しちゃったんだってさ。

 兄貴がどうやっても処分しようとしても無理だったのに、まさか殴ったくらいで止まるとは思わなかったって言ってた。そんで、その間に彼は藍染を封印しなおしたらしい。

 

 彼は崩玉が止まったことに関して、通常では考えられない量と濃度の霊力を注入されたことによってオーバーヒートしたことが原因だって分析してたけど、「我が妹ながらちょっと引くっス」って言われたのには傷付いたよ。これは、可愛い妹系ヒロインキャラはもう卒業せねばならないみたいだ。

 

 かろうじて――本当に虫の息でかろうじて生きていた藍染はその場で拘束されて、尸魂界に送還された。

 兄貴によれば清々しい表情をして倒れていたみたいだ。まるで、ストレス解消した後みたいに……。

 私や一護くんは結局は彼のストレス発散に付き合ってあげただけなんだよね……。藍染の処遇は四十六室が決めるんだってさ。

 

 一護くんには土下座して謝った。君が死神の力を失ってまで決着をつけてくれたのに余計なタイミングで来てしまってごめんって。

 彼は「別に気にしてないっすよ。陽葵さんが無事なら良かった」と心までイケメンな対応をしてくれる。やっぱりこの人……凄いわ。私よりも随分と若いのに人間が出来てる。

 

 その後、織姫ちゃんたちがこっちに来て……程なくして……彼は倒れた。

 兄貴によればひと月程眠りについて死神の力を失い……霊力を失うらしい。

 

 彼が復活するまでは暫くお別れか。ルキアちゃんほど親しいわけじゃないけど、ちょっぴり寂しいな。

 

 んで、怪我人の事後処理なんかは私の出る幕じゃないから、早々に尸魂界に戻されて……今日はこうして休んで良いよって言われたってわけ。

 

 ノリで卍解した時は、本当にヤバかったわ。藍染との戦いは本当に神経削ったよ。怪我が数カ所の打撲だけで済んで本当に良かった。

 

 で、すき焼きの話なんだけど――。

 

 《このあとは如何に晩飯のすき焼きとビールが美味かったか、長々と書かれているだけである》

 

 

 ◇月♡日 晴れ

 

 現世の被害を全部藍染のせいにしてたら、総隊長にめちゃめちゃ怒られた。

 私の霊圧で未完成の卍解を使うなど言語道断だと言われてしまう。下手したら藍染が王鍵を創り出す以上の被害があったかもしれないって。

 

 総隊長も自分の能力知ってるからこそ本気出せなかったんだもんな。それを分かっているから私にも厳しいこと言うんだと思う。

 

 ユーハバッハとかいう奴との戦いのときはもうちょっと自分の力を使えるようにならなきゃ、酷いことになりそうだ。

 

 市丸は私が未完成の卍解を使ってるところ見てたらしく、結局ぶん殴って決着つけたところが私らしかったと笑ってた。

 うっせー、乱菊ちゃんにとっとと告白して来いよ。何が「今さら照れくさいですやん」だ。あっちだって待ってんだから、じれったいなぁ。

 

 

 ◇月◆日 雨のち晴れ

 

 日番谷くんがバットの素振りしてた。桃ちゃんと一緒に。 

 砕蜂曰く、藍染との戦いのとき……桃ちゃんの剣速がアホみたいに速くなっていたことが判明してみんなを驚かせていたらしい。

 

 そんで、何故か日番谷くんは私に稽古をつけてくれって言ってきた。この天才で斬魄刀ガチャ大当たり少年はまだ強くなりたいらしい。

 

 とりま、始解でも卍解に負けないくらいの強さを身につけられるような訓練をしたほうがいいとだけアドバイスした。

 卍解奪っちゃう奴らが現れるからちょっとでもそれを意識してトレーニングしたら、なんか変わるかもしれないし。

 

 それだけなのかと不満顔だったので、あんまりやりたくは無いけど、拳で岩を粉々にする芸を見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――日番谷くんと桃ちゃんは拳を怪我して、私は乱菊ちゃんに怒られた。

 

 

 ▼月◎日 くもり

 

 ネムや砕蜂に修行に付き合ってもらう日々。霊圧のコントロールの特訓の方は順調だけど、卍解の方はあれ以降……紅鯉(アカリ)がますますへそを曲げてしまって上手くいかない。

 これは、次の戦いまでにマスター出来るかどうか甚だ疑問である。

 

 ネムは霊圧がかなり上がっており、動きも俊敏で頭も良いのでいつかは隊長になるのでは……と噂されている。彼女は十二番隊から離れるつもりはないみたいだけど……。

 

 「マユリ様が死んだら考えます。なんちゃって……」

 「最近、そのセリフが洒落にならんヨ!」

 

 包帯グルグル巻きのマユリさんが冗談を言うネムにツッコミを入れていた。アメリカンジョークの本……ちゃんと、読んでくれたんだ……。

 

 ☆月□日 くもり

 

 ルキアちゃんに十三番隊の副隊長の座を譲った。

 彼女は自分で良いのか自問自答してたけど、私などよりもあらゆる点で彼女の方が有能である。

 これで私は久しぶりに二番隊の副隊長のみに専念ということになった。

 長らく離れていた事務仕事……さっぱりわからーん。砕蜂、助けて。

 

 

 ♡月◎日 晴れ

 

 どうも最近、砕蜂の家で寝泊まりすることが多い。歯ブラシとかも私のやつを置いたりしてるし。

 藍染との戦い以降、彼女は張り切って修行していて、そのままなし崩し的に私が彼女の家で霊圧回復料理を作って食べさせて、そのまま泊めてもらうって生活をしてるからだろう。

 

 「……一緒に住むか? いや、何でもない」

 

 この前、酔った彼女はそんなことを言ってたけど、やっぱお互いにいい歳して独り身は寂しくなってきたっていうことかねぇ。

 

 

 

 ♣月◎日 晴れ

 

 兄貴が久しぶりにこっちに来た。一護くんに死神の力を取り戻させるための刀を持って。

 

 全部月島さんのおかげで有名なプリングルズ編が始まったか。

 あれは、世にも奇妙な物語テイストで私は結構好きだったけど、今回は出番なし。

 刀に霊圧は込めたけど、現世に行くメンバーから漏れたからだ。 

 

 一護くんは無事に死神の力を取り戻して、月島さんやら銀城さんやらはお亡くなりになったそうな。

 

 彼は銀城の死体を現世で埋葬したいとこちらに現れた。相変わらず慈悲深い人だ。

 

 

 ★月▽日 晴れ

 

 雀部長次郎副隊長が殉職した。

 見えざる帝国とはよく言ったもんだ。私は全然、連中が来てたことに気付かんかった。

 総隊長も気落ちしている。絶対に奴らを許さんつもりだろう。

 

 私の知りうる一番大きな戦いと尸魂界の危機がそこまで迫っている。せめて、彼の遺志だけは受け継いで行きたいと思った。

 

 

 ★月◎日 晴れ

 

 気分が悪い。まったく、連中ときたら人の縄張りで好き勝手に暴れまくって。

 

 見えざる帝国――滅却師(クインシー)たちが攻めてきた――。

 

 《日記はまだ続いている》

 

 




卍解の能力はもっと後に出す予定でしたので、今回は名前と見た目だけということでご容赦を……。感想欄で色んな予想をしてもらったのに申し訳ないです。
あと、サラッと月島さんたちの下りは流しましたけど、最後の方で彼らの出番は用意しています。
死神代行消失篇は陽葵を入れても面白くないと判断してカットしました。
次回から最終章である千年血戦篇がスタートします。完結まで是非ともお付き合いください。


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