【本編完結】とあるTS女死神のオサレとは程遠い日記 作:ルピーの指輪
今回はユーハバッハ視点からスタートします。
――夢を見た。真の世界を創る私には似つかわしくない夢であった。
ハッシュヴァルトに能力を預けているから悪夢を見ることもあるだろうが、今考えると滑稽で陳腐な夢である。
赤い軍団が私を蹂躙せしめようとするなど――黒崎一護に斬られるなど……あり得ないのだから。
しかし、夢は現実のものとなった。一護の斬魄刀と心を折り――そして、力を回収し終えたとき――浦原陽葵を筆頭に赤い兜と奇妙な衣装を着た集団がこの場に現れたのだ。
親衛隊たちが思った以上に早く敗北したのは把握していたが……此奴らの霊圧は一体――。
私が特記戦力として数えていなかった取るに足らない塵芥にも等しい死神共が――藍染惣右介に匹敵――いやそれ以上の霊圧を噴出しているとはどういうことだ……?
ふむ……どうやら、この現象は浦原陽葵の卍解の力のようだ。未来を改変し、奴の斬魄刀を折ってしまえば全てが水泡に帰すのは目に見えている。
――改変できぬ……だと……? いや、未来に干渉は出来るのだが、恐ろしい硬度でどうしても折ることが出来ん。
そういえば、あの女……急所を何度も斬られながらも、紙一重で致命傷を避けていた。霊圧による防御力が異様に高く、こちらの攻撃を殆ど受付けないのだ。
全くもって理不尽な女だ――忌々しい。
それでも、取るに足らんと思っていたのは、動きが荒く単調で奴の攻撃が私に当たる要素が無かったからだ。潜在能力が不明瞭で特別な出生をしている黒崎一護の方が私には脅威であった。
――世界を崩壊させてしまえば、どんなに霊圧が高かろうが生きてはいけない。
そう、藍染惣右介であれ、浦原陽葵であれ、黒崎一護であれ、私の前では等しく虫けらのような存在だったはず……。
なぜ、私はここまで不安を煽られているのだ? 目の前にいるのは多少霊圧が高くとも、私には遠く及ばん雑魚ばかり。赤の軍団がどうした。すべて蹂躙して、私は世界を塗り替える――。
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★月♧日 くもり(三ページ目)
兄貴や夜一様は珍しく驚いた顔をしていた。そして、逆に自分たちが戦線に加わると足手まといになると話して帰り支度の準備を始める。
グリムジョー久しぶりじゃんって声をかけたら、殴りかかってきて、ネムに吹き飛ばされちゃってた。
さて、一護くんや織姫ちゃんがいるところまで急ぎますか。
あれ? あの優男とオールバックって……月島&銀城じゃない?
そういえば、漫画だと一護くんの斬魄刀を直してくれたんだっけ。
私は彼にお願いした。――
紅鯉は気分屋だ。機嫌によって霊丸の威力がアップしたり、ホーミング機能がついたりする。つまり、カープ優勝という幸せな過去を挟めばパワーアップが可能だと考えたのだ。
私の鬼気迫る勢いに圧されてくれたのか、可愛い女の子の願いを聞いてくれる紳士なのか、わからないけど、案外簡単に願いは叶った。
すげー、紅鯉の奴めちゃめちゃ上機嫌になってニッコニコになった。
こりゃあ、活躍が期待できるぞ。ユーハバッハにキツイ一撃を与えることが出来るかもしれない。
私たちは横たわる一護くんの前に佇んでいたユーハバッハと対峙した――。
ラスボス戦で私はまずは一護くんと織姫ちゃんを助けだし、折られた天鎖斬月を回収。月島さんが斬月を修理して、織姫が一護くんの怪我を治してる間、彼らを守る盾の役割を買って出た。
そして、ユーハバッハに攻撃を加えるのは九人のカープのユニフォームを着た赤ヘル軍団。
砕蜂、ネム、市丸、乱菊ちゃん、桃ちゃん、日番谷くん、そして阿散井くんとルキアちゃんと白哉くんだ。
未来改変で卍解を壊されると元には戻らないから、出来るだけ始解で攻めるようにと、日番谷くんは冷静に指示を出す。
さすが隊長だな。一護くんから貰った少ない情報で危機管理をしてくれるなんて。
この間、卍解奪われたことをしっかり反省してるんだね。私と違って、同じミスは2度しないんだ……。
一護くんのは、月島さんと織姫ちゃんのコンボで直ってるけど、彼がいつまで協力的かわからないし、卍解が壊されると霊力の負担と身体も半端ないだろうからなー。始解で戦うのは悪くない作戦かもしれない。
「浦原の卍解が壊されないからって油断するな」とか言ってたけど、そういや壊れてないな……。
霊圧強化状態の氷輪丸はいつもの卍解以上の火力かもしれない。広範囲に影響を及ぼすので、ユーハバッハも避けきれないみたいだ。
彼は未来改変で凍らされた手足を治すが、嫌な顔をしていた。
そこに桃ちゃんが飛梅で隕石みたいな大きさの火球を彼に放つ。ユーハバッハはそれも改変の力でかき消し難を逃れたように見えた。
――しかし、それを目くらましに、市丸と乱菊ちゃんが息を合わせて同時攻撃をする。
未来視と未来改変は恐ろしい。流れるほどの連携で超火力の攻撃――普通ならこれで勝負は決まっているだろう。
ユーハバッハはそれを躱して、罠を発動させ――四人を同時に叩き伏せる。ダメージは四人とも受けていないみたいだけど……。
ネムと阿散井くんの拳の弾幕も、砕蜂の無窮瞬閧も白哉の千本桜までも――彼に致命傷を与えられない。どの攻撃も全てを粉塵に変えるほどの威力があるのに――。
ユーハバッハの顔が歪んでるということは余裕がないのかもしれないけど……。この野郎、確か死ぬことだって油断してたら改変してたよな……。
そんな奴に――ど、どうやって勝ったんだっけ……?
とにかく、月島さんと銀城さん、そんで織姫ちゃんも遠くまで逃げてくれたことだし……私も行くとしよう。
月島さんのおかげで
すげー、あれなら当たるぞ。と、思ってたんだけど……。
「陽葵さん、霊力の塊がユーハバッハを追いかけるのは良いが、彼が逃げれば我々にも被害が及ぶぞ」
砕蜂が真顔で私に注意した。あー、そっか。この辺を縦横無尽に霊丸が動いたらそこら中に被害が及ぶよね……。相殺しとくか。
私はもう一発霊丸を放ってユーハバッハを追跡してた霊丸を相殺する。やばっ! 爆発の余波で建物が半壊してしまったぞ。
戦いは長期戦になりそうだったが、ユーハバッハは作戦を変えてきた。一人ひとりの斬魄刀を破壊していく作戦をとってきたのだ。
始解だから復活はするが、すぐにではない。彼はニヤリと笑いながら「死神など斬魄刀が無ければ羽のない昆虫だ。地べたを這いつくばっていろ」みたいなことを抜かしてきたが、そんな彼の腹を桃ちゃんが殴り――剣で受け止めたユーハバッハを吹き飛ばした。
斬魄刀を失っても素手で殴りかかる日番谷くんや阿散井くん。そして、もともと素手の砕蜂とネム。
彼は自分の誤算に気が付いてまた顔色を悪くする。
その時――私の脳内に電流が走る。まさに悪魔的発想。胸がざわっ……とするくらいの天才的な作戦を考えてしまった。
これならあのホームレス野郎にキツイ一撃を与えられる――。
私は皆んなにユーハバッハを空中に誘導するように頼んだ。「戦闘中に作戦を大声で話すのは軽率ではないのか?」と白哉くんに言われたけど……。
ユーハバッハはもちろん話を聞いていて警戒はしたんだけど、皆んなの執拗な攻撃によってたまらず空中にエスケープする。
そして、私も足に霊力を込めて空高く舞い上がった。
「どんな作戦か知らんが、ここで私と空中戦とは愚かな……浦原陽葵よ。霊子の支配権が私にある限り……」
そこまで話してユーハバッハは目を見開いて、初めて火を見た原始人みたいな表情になる。
どうやら私の作戦を未来視で確認したみたいだな。
――私は紅鯉の解放を解いて、もとの斬魄刀(浅打)に戻し――あえて霊力をコントロールせずに流し込んで斬魄刀を超巨大化させた。
霊術院を卒業したときはリストバンドを付けていてビルくらいの大きさだったけど、今はこの霊王宮の上空一面を覆い尽くすくらいの大きさはありそうだ。
出来上がった超巨大斬魄刀――こいつでユーハバッハをぶっ叩く――。
これなら、わかってても回避は出来ないはずだ。我ながら、なんてスマートな作戦なんだ。
「こんな莫迦げた理不尽――罷り通る筈――ぐあっ!!」
バチンと――ハエ叩きの要領でユーハバッハを叩き落とす私。
落下点には一護くんが直してもらった天鎖斬月を構えている。
バッター、一護くん。ユーハバッハに向かって――天鎖斬月をフルスイングした……!
「――月牙天衝!!」
見事に決まった一護くんの月牙天衝。ユーハバッハは真っ二つになって――ついに倒れた。
――だが、私は知っている。彼は自分の死すら改変することを。だから私は再び……。
「卍解――!」
すべての――そう、卍解のすべての霊力をこの拳に込めて――。
兄貴に最初に教えてもらったこの技術の方がより純粋なダメージを与えることが出来るはず。
復活したユーハバッハに最大の一撃を与えてやるんだ。
ちょうど駆けつけて来てくれた雨竜くんが滅却師の能力を一瞬だけ無にするという銀の矢を彼に放ったその瞬間に――。
鼓膜が破れそうになるくらいの轟音と共にユーハバッハだった黒い塊は四散して――すべては消え去った。
ついでに余波で霊王宮が全壊しちゃって、兄貴とマユリさんが来てくれなかったら皆んなで仲良く下に落ちるところだった。
すげー、怒られちゃった。で、皆んなの説教と後始末とか終わってビール飲みながらこれを書いてる。
ユーハバッハは倒したけど……失われたモノは多い。
漫画よりは多少は抑えられたとはいえ、被害は甚大だ。明日が来るってことは特別なことで……何かスゲーいいこと言って締めようと思ったのにビールのせいで全部吹っ飛んでしまった。
眠いし、厠行って寝よう。砕蜂の寝顔可愛い。
★月*日 晴れ
尸魂界の修繕が急ピッチで進んでいるが、見えざる帝国の残した爪痕は大きく時間はまだかかりそう。
総隊長の怪我はようやく完治して陣頭に立って張り切って指示を出している。
忙しい日々は続いてるけど――平和な日常はありがたい。
そういや、私はリストバンドを取ることに一々許可を取らなきゃいけなくなった。霊圧がバカデカく成りすぎて。
じゃないと復興作業の邪魔になるかもしれないんだってさ。
あれから一回も卍解を使ってないなー。
◆月◎日 くもり
浮竹さんが亡くなって、空位になっていた十三番隊の隊長にさせられてしまった。半ば強制的に……。
泣いて二番隊が良いと駄々をこねるも却下される。砕蜂――味方だと思ってたのに、なぜ私を突き放す。生涯二番隊だとあれだけ語っていたのに……。
「そろそろ、あなたの上司という重責から解放させてくれ。それに前から私はあなたと対等の関係になりたかった」
微笑みながら彼女は私にそんなことを言う。夜一様もめでたい、さすがは儂の見込んだ女じゃと言ってくれたから――そんなに嫌じゃなくなったけど……。
ルキアちゃんが嬉しそうにしてるし、受け入れるしかないかー。
■月○日 晴れ
ユーハバッハとの戦い以降、尸魂界ではカープブームが起こっていた。赤ヘル軍団は尸魂界の伝説となっており、プロ野球がこちらでも映像で見られるようになった。
その上、彼の死後から数年……カープが強いのなんのって。日本シリーズにも出るようになっちゃって……。
んで、紅鯉がうるさいので、砕蜂とネムと一緒に日本シリーズを見に行ったのよ。
カープ負けちゃった。紅鯉はまた黙祷中。噛み締めてるのかな……カープらしさってやつを。
◆月●日 晴れ
ルキアちゃんと阿散井くんが結婚した。
いやー、めでたい。そんで、めちゃめちゃ泣いたなぁ。嬉し泣きだよ。
二人とも立派になって。私よりもずっと大人になって、なんか本当に時間が過ぎるのって早いなぁ。
白哉くんの泣き顔とか久しぶりに見たよ。
ちなみにようやく市丸のバカも乱菊ちゃんと一緒になる決心をしたそうだ。あいつにはいつも言い負かされてるから、絶対に冷やかしてやろう。
◎月●日 晴れ
砕蜂と新しい屋敷を買った。お互い独り身だし、なんとなく一緒に住もうかって話になって。
夜一様、いつでも遊びに来てください。お客様用の寝室は綺麗に毎日掃除してますから。
こっちの世界に転生して女になったときはどうしようかと思ったけど――そして色んな事があったけど、元気に楽しくやれてる今が幸せだ。
可愛いヒロインにはなれなかったっぽいけど――人間的にはかなり成長したつもり。
始末書をとっとと書き終えてビール飲もっと――。
とりあえず本編はこれで終了です。
ちょっと時間を置いて、出来そうならばアニメオリジナルとか後日談とかを、番外編的な感じで頑張ろうと思います。
ペースはかなり早いと思ったんですけど、書きたいことだけに焦点を絞ってグダグダにならないようにテンポを意識したらこのスピードになりました。
陽葵のキャラクターは、おバカ過ぎて読者さんを苛つかせるかもしれないと不安でしたが思った以上に好評でびっくりしましたね。
無事に完結出来て嬉しいです。もしよろしければ、非ログインでも感想を書けるようにしておりますので、一言でも頂けると嬉しいです。
あと、ご褒美的な感じで評価も頂けると小躍りします。
最後に――ここまで読んで頂いて本当にありがとうございます。温かく見守って読者の皆さんには感謝しかありません。