【本編完結】とあるTS女死神のオサレとは程遠い日記   作:ルピーの指輪

26 / 27
後日談 其の二

 『さぁ、盛り上がってきました。3勝3敗で迎えた日本シリーズの最終戦。広島の先発は月島――! 新人ながらセ・リーグで最多勝利、最優秀防御率、最多奪三振、勝率第一位と化物級の記録を残してます。“全て月島さんのおかげじゃないか”は今年の流行語大賞間違いなしだと言われてるのも頷けますね』

 

 『いやぁ、まさか日本シリーズの初戦でノーヒットノーランを達成するとは思いませんでしたねぇ』

 

 セ・リーグを制したカープは日本シリーズに挑み、連敗こそすれ遂に日本一に逆王手をかけた。

 

 不調だったカープがここまで躍進してきたのは今年――トライアウトで入団した謎の男。月島秀九郎の活躍に他ならない。

 

 誰が言い出したのかわからないが、“カープが優勝できたのは全て月島さんのおかげじゃないか”は瞬く間に野球ファンの中で流行語と化して……彼は一躍野球界のカリスマとなる。

 

 

 

 

 ――とある完現術者(フルブリンガー)のやきう無双――

 

 

 

 

 

 

 

 

 『二番、サード――阿散井……!』

 

 0対0で迎えた8回の裏――広島の攻撃。バッターボックスには阿散井恋次が立つ。

 

 彼は今年、打撃の精度を上げるためにボクシング特訓をしたらしい。

 チームメイトは野球をして欲しかったらしいが……。

 

 「見てるか。苺花――お父さんのバットで決めてやるぞ」

 

 『ピッチャー振りかぶって投げた〜〜!』

 

 「――これが俺のボクシング特訓でマスターしたァァァァ! アッパースイングだぁ!」

 

 阿散井は垂直にバットを振り上げて見事にボールにヒットさせる。

 

 

 ボールは見事に打ち上がり――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピッチャーフライとなった。

 

 

 

 

 

 『三番ショート――吉良……!』

 

 「打たれた球は重みに耐えかね……必ず地を這いつくばり侘びるように頭を差し出す――」

 

 ただならぬオーラを醸し出して打席に立つ吉良イヅル。

 彼の打球は重さが2倍になるという噂がある。だから何って話だ。

 

 

 

 

 

 

 『ストライク! バッターアウト!』

 

 これでツーアウト。

 

 

 

 『四番、指名打者――更木……!』

 

 ここで、四番――チームの主砲の登場だ。更木剣八――セ・リーグのホームラン王である。

 

 「おい、知ってるか? バットってのは、片手で振るより、両手で振ったほうが強えェんだとよ!」

 

 この日――負けられない試合。四番としての仕事をまっとうすべく……更木剣八は生まれて初めて両手でバットを握った――。

 

 

 

 

 ――バックスクリーンに直撃した打球。これでカープの勝ち越し。

 

 次の打者である日番谷はショートゴロに倒れ……、広島は9回の表の守備に回る。

 

 

 

 月島さんなら何とかしてくれる。そう、カープがここまで来れたのは全て月島さんのおかげなのだから……。

 

 

 

 

 

 「さぁ、終わらせようか――」

 

 

 不敵に笑う月島さんは、大きく振りかぶる――。

 

 次回……月島さんがカープに入団を決めた理由……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――って、夢を見たんだ。止めてほしいよね。クライマックスに長々と回想シーンを挟むのって」

 

 「はぁ……。陽葵さんの寝言が大きいと思ったら、そんな夢を……」

 

 

 今日の天気は晴れ。尸魂界は相変わらず平和である。

 てか、いつの間にか同じ部屋で寝てるよね。私たち……。

 

 

 

 ◆月○日 くもり

 

 始末書に追われる情けない隊長がいるせいで、五番隊の副隊長の桃ちゃんに十三番隊の書類整理まで手伝わせてしまう。

 私は申し訳なくなり、彼女に謝り倒した。

 

 「いえいえ、あたしが押しかけちゃっただけですから。お喋りしながら、仕事するの楽しかったですし」

 

 彼女は天使のように笑いながら、楽しかったと言ってくれる。

 いやー、彼女のおかげでびっくりするほど早く終わっちゃったよ〜。

 さすがは“書類仕事の虎”と呼ばれている桃ちゃんだ。

 

 「そ、そんな。あたしなんて藍染隊長に比べたら全然……。あっ……!?」

 

 久しぶりに藍染の名前を出した桃ちゃんは気まずそうな顔をする。

 別にいいじゃん。藍染の仕事ぶりが有能なのは確かだったし。そこは尊敬しても。

 

 あいつの残してった効率のいい鬼道の鍛錬方法とかは今だって実践されてるし、死神の待遇改善なんかもしてるから、未だに復帰を望んでる隊士は多いくらいだ。

 

 桃ちゃんが無理して恨まんでもいい気がするよ。殺されかけたから、普通は恨むけど……。

 

 「陽葵さんはおおらかですよね。あの人が陽葵さんが好きだった理由も何となく分かります」

 

 いやいや、あいつが私のこと好きとかおぞましいし。桃ちゃんの妄想だし。

 まったく、まだこの子は誤解してたのか……。

 

 「いいえ、誤解じゃないです。実際、あの人と戦って――何となくわかったんです。憧れとかそういう感情を無しにして見ると……あの人は孤独を感じていました。そして、唯一自分と同格になり得る陽葵さんが来るのをずっと待ってたように見えました……」

 

 戦闘民族の思想じゃねーか。私はあいつの喧嘩に巻き込まれていい迷惑だったよ。

 その結果、全部あいつのせいにも出来ずに始末書アホほど書いたんだぞ。

 

 考えてみたら藍染のせいで大虚と戦いまくることになったんだから、始末書も大半はあいつのせいのような気がしてきた。

 

 つーか桃ちゃん、まだやっぱり藍染のこと好きなんかな……。

 

 「……そんなはず無いじゃないですか。あたしは……、あの日からずっと……」

 

 桃ちゃんが顔を真っ赤にして俯くもんだから、私はどうしたもんかと思って――彼女をご飯に誘う。

 

 書類整理のお礼になんか美味しいもんを彼女に奢ろう。

 最近、カレー専門店が出来たんだよね。東仙に似た店長が居るんだよ。ナン食べ放題で、それが美味しくってさ。

 

 なんて話をすると、桃ちゃんは笑顔で「お供します」って言って付いてきてくれた。

 

 ホントに桃ちゃんのおかげで助かったわー。

 

 

 

 ●月◎日 晴れのち雨

 

 「王手――」

 

 説教されたついでの世間話で総隊長が将棋が好きだとか言ってきたから、私も好きだと答えて勝負することになった。

 好きだったのはかなり前というか前世の話で、こっちの世界に転生して一回もやってないけど……。

 

 ふーん。王手かぁ……。じゃあ、これでどうかな。私は王を守りつつ逆王手をかける。

 

 「な、なん……じゃと……」

 

 総隊長は私に逆転の一手を指されたことに驚きを禁じ得ないらしい。

 これで、詰みだろう。おお、私ってば結構強いじゃん。総隊長に勝っちゃった。

 

 「……おぬしに負けるとこれほど悔しくなるとは思わなんだ」

 

 本気で悔しがる総隊長。手がプルプルしてる。

 さては、私のことを馬鹿だと侮って油断してたな……。

 

 

 「へぇ、山じいが陽葵ちゃんと将棋ねぇ。僕とも一局指さないか?」

 

 京楽さんが興味深そうに将棋盤を覗き込んで、私と一局指そうと誘う。

 いいでしょう。総隊長を倒した私の棋力を見せてやる――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボロ負けした。六枚落ちでもボロ負けした。

 

 どうやら総隊長って将棋がめちゃめちゃ弱いらしい。その辺の子供よりも……。だけど、好きなんだってさ。

 

 せっかく私にも知的な特技があるって胸を張りたかったのに……。

 

 

 ◆月◎日 晴れ

 

 

 昨日は夜一様が遊びに来てくださった。私も砕蜂もずっとソワソワしてたよ。

 居心地が良いと笑みを見せてくれたので、二人とも手を握り合って感激を共有した。

 

 夜一様の好きな花を飾り、彼女の好きな酒を用意して、料理もデザートまで一生懸命作った甲斐があった。

 

 そんで彼女が帰りがけに一言――。

 

 「で、おぬしらは……そういう関係なのか?」

 

 「「…………」」

 

 静寂……。私も砕蜂も黙ってしまう。

 

 なんだろうなー。このぬるま湯みたいな関係。

 恋人って言われても違うような、いやそうと言われればそうなんかもしれんけど……。

 

 

 

 

 

 夜一様が帰ってからも、私たちはずっと黙っていた。

 でも、何となくお互いの布団をくっつけて、いつもよりも距離を縮めてみた。

 

 不思議とぐっすりと眠れた気がする――。 

 

 

 ◆月◎日 晴れ

 

  

 マユリさんによって技術開発局に呼ばれた私。

 なーんか、嫌な予感しかしねぇんだけど。でも、彼には迷惑かけてるから断れない。

 

 あれ、七番隊の副隊長の射場くんじゃないか。狛村さんが狼になっちゃったから、近いうちに隊長になるんだっけ……? 珍しい人がいるもんだ。

 

 

 「浦原隊長……、狛村隊長を助けてやって下さい」

 

 射場くんったら、すげー頭下げてくるけど私にはまったく話が読めない。

 

 「狛村が“人化の術”の副作用で獣同然になっているのは知っているネ。実はその副作用を治す方法が偶然分かったんだヨ。ネムの霊圧上昇体質の研究によってネ」

 

 難しい話は割愛するけど、霊圧がドンドン上がる細胞が人化の術の副作用を解くための特効薬になり得るけど、その薬を活性化させるのに、私の霊力が必要なんだって。ネムじゃ力が足りないらしい。

 

 要するに狛村さんを元に戻す手助けをして欲しいという話みたいだ。

 

 なーんだ。人助けか。だったらいくらでも力を貸すよ。

 

 私はマユリさんに言われるがままに――機材を掴んで霊力を流し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……た、隊長?」

 「射場か……? 儂は一体……」

 

 射場くんは目を丸くした。私も同じ表情となっている。

 マユリさんは「ふむ……」と腕を組む。

 

 目の前に――ケモ耳の幼女が立っていた。髪は茶髪で狛村さんの成分はそれしかない。

 

 「人化の術の作用が中途半端に残ったようだネ。浦原陽葵の霊圧が何らかの影響を及ぼして性別も変化した……と見るのが自然だネ。実に興味深いヨ」

 

 いやいやいやいや、狛村さんがロリコン向けのVtuberみたいになっちゃったじゃないか〜〜!

 

 私、責任取れないよ。射場くん、こっちを見ないで……。悪いのはこのマッドサイエンティストだから。

 

 こ、これは良かったのか……? 確かに狛村さんは復活したし……。霊圧も前よりも格段に高い気がする……。

 

 でもなぁ、この見た目の変わりようは……。

 

 

 

 

 

 とりあえず、狛村さん本人はこんなに早く死神として復帰出来るとは思わなかったから、姿は変わったけどありがたいと言ってくれた。

 

 そして、大恩のある元柳斎殿のために護廷十三隊で戦いたいとはっきりと言葉にする。

 

 この人、人間出来過ぎというか受け入れるの早すぎだろ……。

 

 

 

 

 

 しかし、ケモ耳幼女になった狛村さんは大人気となる。七番隊の隊士たちの士気は高くなったんだそうだ。

 

 どーなんだ、これ。私は今回は悪くないよね……。

 

 まぁ、本人が良いなら。良いんだろう……。

 




ケモ耳幼女の狛村隊長……。活動報告にはチラッと書いたのですが、実はこの小説の最初は彼女を主人公にしていました。
かませ犬が並外れた霊圧を持って噛み付いたみたいなストーリーで藍染の黒棺を軽く破るみたいな……。速攻で行き詰まって止めましたが。
狛村隊長ファンの方……申し訳ありません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。