【本編完結】とあるTS女死神のオサレとは程遠い日記 作:ルピーの指輪
♧月□日 晴れのち雨
死神として護廷十三隊に就職した私はある記録を打ち立てた。
それは、一ヶ月で書いた始末書の数の新記録である。若かりし日の京楽春水さんがやんちゃというか、仕事を今以上にサボりまくってたときの記録を抜いたらしい。
断っておくが私は真面目に働いている。無遅刻無欠勤で鍛えた感知能力を使って
しかし、どうも私の仕事は雑らしい。特に
「いやー、未練のない記録だったけど抜かれるとどうも悔しくもあるねぇ。しかも君のような働き者に抜かされるんだから分からないものだよ」
――八番隊隊長の京楽さんが自分の記録を破った者が現れたという噂を聞いたらしく二番隊の隊舎にわざわざ私の顔を見に来た。
彼は面白そうに私を観察して肩を叩いて気にするなと慰めてくれた。
働き者の無能が1番迷惑をかけるということを身を以って体感したよ……。
「早いとこ始解を覚えるくらいしないと2番隊の予算が修繕費で食い潰されるっスね〜」
冗談っぽい言葉でも兄貴の目は笑ってなかった。私に始解を教えるつもりらしい。
いや、死神になったからにはいつかは卍解まで極めたいと思っているけど、斬魄刀の大きさすらコントロール出来ない時点でお察しの通り始解ができる気配すらない。
努力はしたんだよ。ちゃんと、斬魄刀と対話が出来るように……。
実際に斬魄刀を一日中弄ったりもしてみた。とにかく四六時中だよ。目をつぶって触感を確認したり何百枚何千枚と斬魄刀を写生したり、ずーっとただ眺めてみたり、舐めてみたり、音を立てたり……、嗅いでみたり……。それでも夢に斬魄刀は出てくることもなかったし、いつの間にか斬魄刀の声が聞こえるなんてこともなかった。
兄貴にそれを伝えたら「全然やり方が違うっス。無駄な努力でしたね」と言われて会話は終わった。
とにかく始解は早く修得したい。兄貴の厳しい特訓にも付いていくつもりだ。
◇月◎日 雨
やばい……。始解が全然修得できない。兄貴も予想以上に物覚えの悪い私にちょっと引いている。
私くらいの霊圧だと普通は始解の修得はもちろん、卍解に至ってる人もいるみたいだ。兄貴なんて院生時代から「起きろ――紅姫!」とか言ってたし……素質なんだろうなぁ。
覚えられないものは仕方ないのでどんな斬魄刀が良いか考えてみようと思う。
始解の中で当たりだと思うのは流刃若火とか千本桜とか氷輪丸みたいな高火力のモノや鏡花水月や逆撫みたいな五感を刺激する系のモノだ。
逆に私は頭が弱いから花天狂骨みたいに駆け引きが必要な斬魄刀は勘弁して頂きたい。鬼道が苦手だからやっぱり鬼道系がいいなー。格好いいし……。
鏡花水月くらいチート性能なのもいい。催眠系はどんな漫画でも強いからね。
一護の斬月もシンプルで悪くないんだけどね。私の霊圧とかそういう事情を考えると月牙天衝みたいな技は相性良さそうだし……。
「私自身が斬月になることだ……」とか言ってみてー。
「命を刈り取る形をしてるだろ?」とか「詫びるように
そうだ。斬魄刀ってなんか本体みたいなのが居るんだよな。人だったり、動物だったり……。斬月のおっさんみたいなのは微妙だよね。それだったら動物の方がいい。
さすがに可愛いらしいお姉さんとかはないよなー。だったら正直言って能力どうでも良いんだけど……。これ、さっきも書いたな……。
あー、早く始解を修得したい。始末書に追われる日々から解放されたい……。
◎月○日 くもり
まだ始解は修得出来ない。でも一般隊士の中で現世での
今日から二番隊の第二十席という立場になる。夜一様(既に2番隊の副隊長)にも祝福されて、今度二人きりで飲みに行く約束をした。二人でデートじゃ! よっしゃー! マジで嬉しい。
「陽葵ちゃんがもうちょっと破壊行為を自重してくれてたら、欠員が出た第八席に入ってもらってたんスけど……。始解が出来ないのもかなり足を引っ張ってるんスよね」
兄貴(既に第5席)は私が建物や道路を壊しまくって、始解も修得出来てないことが出世を遅らせていると溢していた。
いやいや、第二十席でも十分だから。給料がかなり上がるし……。
お金に余裕が出来たから夜一様になんかプレゼントを買おうかしら……。うーん。何がいいだろうか……。
☆月◉日 晴れ
あー、めっちゃ楽しかったー。夜一様とのデート。
夜一様の行きつけの店に行って飲みまくって……。ニ、三件はしごして……。最後は四楓院家の屋敷に戻って部屋飲みした。
夜一様に料理の一つも出来るのかと尋ねられ、得意ではないけど酒の肴になるようなモノならと何品か作って出すと大層喜んでくれた。
仕事についても熱く語り合ったりもした。始解がいつまで経っても出来ないと愚痴をこぼしたら、彼女は優しく私の頭を撫でてくれて――。
「儂など覚えたところで使っとらん。お主にだって無敵の右ストレートがあるじゃろうが。それで
夜一様は始解などしなくても
よくよく考えてみればそりゃそうだ。始解で倒しても卍解で倒しても、白打で倒したのと結果としては同じなんだから。――私はどうやら焦っていたらしい。
気付いたら明るくなるまで飲んでいて寝て起きたら既に真っ昼間だった。いつの間にか私の胸のつっかえは消えていて、晴れやかな気持ちだ。
隣では夜一様が無防備な寝顔を見せている……。
ああ、夜一様……本気になってしまいそうです……。
◆月○日 晴れ
今日は珍しい人と会った。十二番隊隊長の曳舟桐生さんだ。
漫画だと彼女は将来的に霊王を守護する零番隊に所属するが、まだこっちにいる。
確か兄貴がこの人の後釜に収まるんだよな。あの人が隊長になるなんて信じられないが……。というのも隊長っていうのはやっぱり別格というか天上人みたいなものなのよ。
話を曳舟さんに戻そう。彼女は私を見るなり「素質があるかもしれない」と声をかける。
緊張しながら、どういうことなのかと尋ねると、彼女の特技である霊圧を込めて他人の霊圧を回復させる料理を作る素質が私にあるとのことだった。
生まれてこの方、素質があるなんて言われたことがない私だったのでそれはもう嬉しかった。
これって、ヒーラーってことだよね? 漫画だと一護とか恋次が完全回復を果たすのに一躍買っていたような気がする。めっちゃ便利なスキルじゃん。是非とも覚えたい……。
ということで、私は時間があれば十二番隊舎に顔を出すようになった。特別な料理を修得するために……。
これは珍しく私に合っていたみたいで、凄いスピードで覚えることが出来た。溢れる霊圧を料理で発散できるので体調も良くなるし……いいこと尽くめだ。
その繋がりで曳舟さんを母親のように慕っている猿柿ひよ里や彼女と親しい平子真子とも知り合いになる。
ひよ里ちゃんは、年下で後輩だけど席次は上で、平子さんは先輩で既に五番隊の副隊長だ。
「物ばっかり壊す問題児って聞いとったけど、料理はまぁまぁやな」
「年間
私の作った料理を試食してもらいながら二人と雑談をすることも多くなった。
でもさ、良く考えたらこれって戦闘中にはなんの役にも立たない特技だよね? せっかく脳筋脱却かと思ったのに……。
○月☆日 くもり
つ、ついに始解を修得することが出来た――。
真央霊術院を卒業して十年……。ようやく私も一人前の死神に……。
だけど、これが斬魄刀で良いのだろうか……。完全にこれってあれだよね……。“金属バット”だよね……。
いや、おかしいと思ったんだよ。解号が「かっ飛ばせ」の時点で取り敢えずオサレではねーなと。
斬魄刀の仮の名前は“
ええ……、赤い鯉で斬魄刀は“金属バット”――この時点で察せる人間が出てくるのは何年後の現世だろうか……。
私の斬魄刀の本体は“カープ女子”だった――。
意味がわからん。なぜ、私の斬魄刀がカープ女子なのだ? 赤い帽子にユニフォーム姿の斬魄刀の本体って聞いたこともないぞ……。
えっ? 能力? 刀に自分の霊力を食わせてその大きさに応じて球体型の霊気の塊を飛ばすだけの面白くもなんともない地味な性能ですけど……。
あと、鈍器としても使える。ワンパンマンの某S級ヒーローみたいな戦い方になるけど……。
せっかく斬魄刀の解放を覚えたのに……、やっぱりイロモノコースだよ。チクショー!
陽葵の始解――
解号――「かっ飛ばせ」
形状――金属バット
霊力を食らわせてバットを振れば球体状の霊気の塊を飛ばすことが出来る。斬月の月牙天衝と似たようなメカニズムだけど、斬撃というよりも打撃に近い。