【本編完結】とあるTS女死神のオサレとは程遠い日記   作:ルピーの指輪

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 □月●日 雨

 

 兄貴が隠密機動第三分隊“檻理隊”の分隊長になって一ヶ月くらい経った。

 砕蜂の兄貴へのディスりが日増しに酷くなる。どうやら、夜一様が一番彼に信頼を寄せているのが気に入らないらしい。

 とはいえ、身内の贔屓を除いても彼は有能だ。なんで私が彼の妹なのにこんなに無能なのかわからないくらい。

 

 まぁ、確かに真面目なタイプではない。天才肌でクセが強く、研究者気質であるためマイペースなのは否めない。でも、悔しいかな……彼は与えられた仕事を100%こなした上で自由を謳歌してるのだ。ていうか、夜一様とて真面目なタイプじゃないんだから、あの二人が気が合うのは当然なんだよなぁ。

 

 「陽葵さんは身内なのですから、浦原第三席の怠惰な態度を矯正する義務があります!」

 

 んなこと言われても、私の方が兄貴の世話になってる手前、何も言えないんだよね。真面目な無能がここにいるし。

 兄貴が隊長に推薦などされたらもっと怒るんだろうなぁ。

 

 そんな砕蜂と私が最近ハマってるのが“夜一様遊戯(ゲーム)”である。賽子(サイコロ)を二つ振って丁半で夜一様役を決めて、出た目の数に応じて二人で考えた台詞を夜一様になりきって言うのだ。

 

 私が考案者なだけあって、バカバカしいゲームなんだけど、これがやってみたら中々の破壊力で、私なんて普段から視覚を封じたりしてるから砕蜂の結構上手い声真似でイケたりする。

 彼女も彼女で私が夜一様の真似をすると割と興奮してくれた。まぁこんなの誰かに見られたら発狂モンなんだけど……。

 

 んで、昨日それで酔っ払いながら盛り上がり過ぎて気付いたらお互いの唇を重ねてた。つまり接吻してたってこと……。「儂と愛し合ってはくれんか?」とか絶対に言わないセリフとか調子に乗って書いたりしたのがいけなかったか……。

 それからお互いに気まずい……。こ、これはゲームの延長上ってことでノーカンでいいよね……?

 

 

 ▽月♧日 晴れ

 

 今日は夜一様がいい加減に瞬歩が出来ない私に痺れを切らしたのか、直々に指導してくれると言ってくれた。“瞬神”という二つ名を持つ夜一様直伝で瞬歩を学べるのだ。光栄な話である。

 

 よく考えたら、10歳になる前くらいのときから練習して出来ないって私のセンスの無さは筋金入りだと思う。

 ちなみに兄貴はとっくにさじを投げていた。「そんなことより霊圧のコントロールが先っスから」とか言って。それもリストバンドの補助があってやっとだからなー。

 

 つーか、本当に難しいんだよ。瞬歩って……。隊長格は当たり前みたいに使ってるけど……。繊細な霊力と重心の移動が必須となるこの歩法はデリケートなどとは程遠い私に圧倒的に不向きな技術だった。

 

 それはいいとして、久しぶりに夜一様と二人っきりと意気込んでいたら、知らない屋敷に連れてこられる。

 どこなのかと質問すると、“朽木家の本家”の屋敷だと彼女は答えた。朽木家っていうのは、あのルキアとか白哉とか居た四楓院家と同様に五大貴族で超名門だ。

 

 現在の護廷十三隊にも六番隊の隊長である朽木家の当主・朽木銀嶺さんや副隊長で銀嶺さんの息子である朽木蒼純さんがいる。んで、本家なので当然この二人とも会うこととなった。

 

 この二人とは今日が初対面だったから、めちゃめちゃ緊張した。

 あっちは「君があの始末書王か……」みたいなリアクションである。それで覚えられるくらいなら無名のほうがよほどマシだ。

 

 なんで瞬歩の練習で朽木家に行ったのか疑問に思っていると、夜一様は蒼純さんの息子である白哉少年に教えるついでなのだという。

 ちなみに夜一様は特に頼まれたとかそんなんじゃない。アポなしで訪問してる。

 

 未来の隊長の白哉くんはまだあどけなさが残る子供で夜一様の訪問に迷惑そうな顔をしていた。しかし、夜一様に挑発されて瞬歩の鍛錬をやる気に……。子供の頃の彼はチョロい子だった――。

 

 そして、天才だった――。

 

 えっと、既に瞬歩の型は出来上がっていて、夜一様のアドバイスを聞いてすぐにほとんど完璧にこなすって何なの? なんで、大貴族の血筋って天才しか居ないんだ?

 

 「陽葵も(わっぱ)に負けるわけにはいかんじゃろう。よし、お主ら鬼事で競ってみよ」

 

 夜一様の一声で白哉との鬼ごっこ対決か始まる。子供と勝負するのは気が引けるけど、彼女の前で恥をかきたくない私は必死だった。

 で、大人気なくも圧勝してしまう。必死で頑張って子供の白哉に体を触れさせなかった。

 

 ええ、もちろん瞬歩なんて使ってない。足に霊圧を集中させて強引に脚力を強化して爆走しただけである。火事場の馬鹿走力というのか、それでも子供の瞬歩を上回るスピードで動くことは出来た。

 これには夜一様も呆れ顔である。

 

 砂埃を屋敷の庭中に撒き散らしたので、後で銀嶺さんたちにめちゃめちゃ謝った。彼らは人間が出来ているのか、寛大な心で許してくれる。庭の真ん中にクレーター作ったのに……。

 何かワザと瞬歩を使わずに、白哉に手心を加えたとか勘違いしてた。

 いや、マジで使えないんですって正直に言っても「白哉のプライドを傷付けないように気を遣わせて済まない」みたいなことを言われてしまう。

 白哉は白哉で、「第八席でこれほどとは、父上やお祖父様のような隊長格になる為にはやはり血の滲むような鍛錬が必要なのだな」と口にしてメラメラとやる気を見せていた。

 蒼純さんは最近、天才だと持て囃されて天狗になっていたから、良い刺激になったと嬉しそうな顔をしていた。

 まさか、夜一様はそのために私を――? 彼女の思慮は雲のように掴みにくい……。

 

 

 ◆月☆日 くもり後晴れ

 

 夜一様が空席になる予定の十二番隊の隊長として兄貴を推薦するらしい。近々隊首試験を受けるそうだ。

 例の修行場で霊圧のコントロールの練習をしながら、私はその話を聞いた。

 兄貴は卍解も修得し、白打も鬼道も一級品。その上、頭も良いのでどう考えても三席に収まるスペックじゃない。

 漫画の知識的な話をすればローズさんが一昨年隊長になったし、時期的にそろそろじゃないかなって勝手に思ってた。

 

 んで、砕蜂がやっぱり荒れた。夜一様が乱心なさったと……。

 彼女に手を引かれ半ば強制的に一緒に兄貴のストーカーをさせられる羽目に……。まぁ、この前のあの一件で気まずくなった空気が解消された気がするから付き合ってみたけど……。

 彼女は兄貴の粗を探して夜一様に報告するんだそうだ……。

 

 私の霊圧を知り尽くしてる兄貴の尾行なんて出来るわけないんだけど、彼もわざわざバレバレの尾行をしてる私らに声をかけるほど無粋じゃない。

 この中で真剣に尾行してるつもりなのは砕蜂だけなんだけど、中々どうして彼女の尾行術も上手ではない……。隠密機動でやっていけてるのか私ですら心配になってしまうほどだ。

 

 兄貴は一日中町をぶらついて、世間話をしたり、子供と遊んだり、経費でお土産を買ったり、昼から酒を飲んだりしてた。そんな様子を見ていた砕蜂は怒り心頭である。報告書を夜一様に見せて失脚させてやると意気込んでいた。

 

 そんな彼女は兄貴の目の前で夜一様に報告書を提出したが、「お主が喜助に懸想しておるのは知っておる」とか言われて変な勘違いをされちゃった。

 どうも、ストーカーするくらい兄貴のことが好きなのだと思われたらしい。酷いオチである。

 

 結局、兄貴は町をぶらついて脱走を企てている死神の集団の情報を集めていたのだ。死神って勝手に辞めること出来ないんだよね。ブラックなのよ、そこのところ。

 彼はバッチリ仕事をこなしていて、脱走者の集団を見事に一人で制圧して任務を終わらせた。さらにその足で隊首試験にあっさり合格してしまう。

 とりあえず、隊長就任おめでとう。兄貴……。ついでに私も第七席に繰り上がったよ……。

 

 砕蜂はあまりの兄貴の手腕にさすがに文句は言わなかった。何かワナワナしてたから、私の奢りで飲みに行った。

 

 さて、魂魄消失事件まであと九年くらいか。まだ鏡花水月の催眠にはかかってないけど気を付けなきゃな……。

 

 

 ◎月○日 くもり

 

 兄貴が十二番隊の隊長になってから、同隊副隊長の猿柿ひよりちゃんからの苦情が私のところに毎日のように届くようになった。

 

 余談だけど、彼女にその関係で怪我を負わせたのは申し訳ない。最初の苦情のときにイライラしてた彼女は私の顔に飛び蹴りをしてきた。

 

 目隠し特訓のおかげで霊的な衝突を感知すると反射的に霊圧を上げて防御できるようにはなった私は、それで彼女のキックを無意識に防いだものだから、彼女の足が微細骨折してしまったのである。

 

 話を苦情内容に戻そう。兄貴は十二番隊を自分の色に染めるために研究室を作ったらしい。

 んで、二番隊が管理してる蛆虫の巣という護廷十三隊に入ったものの、危険因子と判断された人たちが投獄されてる場所から涅マユリさんを連れ出して自分の部下にしたんだそうだ。

 

 つまり、得体の知れない感じになってきてドン引きしてるみたい。

 私は兄貴の人格はああ見えて割と誠実だから信じてあげて欲しいと彼女に頼んどいた。あの人は誤解されるタイプなんだけど、世話焼きだし、面倒見もよい。

 でも、漫画読んでるときはいつか裏切るだろコイツ、とか思ってたのは内緒の話。

 

 兄貴も兄貴で隊長として悩んだりもしてたみたいだけど、平子さんにアドバイスもらって吹っ切れたらしい。十二番隊のために怒れる人間になろうと決意したりするあの人はやっぱりちょっと格好いいと思ってしまった――。

 

 いやー、すっかり隊長らしくなってきて、砕蜂に席次を抜かされちゃった私とは大違いだよ。

 

 

 ◇月○日 雨時々くもり

 

 任務の帰りに例のアイマスクして森を歩いていたら、何か変なモンがこっちに伸びてくる気配を感じた。

 私は攻撃されたから敵だと思って、それを掴んで思いっきり引っ張って、岩に思いきり叩きつけてやる。

 目隠しをとって確認したら、狐目で銀髪の死神の少年が気絶してた。とりあえず全力で逃げる私。

 まさか市丸ギンじゃないよね……。神槍掴んじゃってたの……? いやいや、そんなわけ無いか……。

 

 

 ◎月♡日 雨

 

 良く考えたら、私だけ完全催眠にかかってないのって、かかってるフリの演技とか何にもしてないんだからモロバレじゃね? 

 だって、この人がいつ催眠使ってるとか分からないから、一人だけ皆と反応違ったら変だって思われるよね……。

 今さらそれに気付く。やばっ……! 背筋がゾッとした。

 特製アイマスク付けてたのって、もしかして無駄だった? ていうかもうバレてたりする?

 私ってやっぱ脳筋だわ……。

 

 

 




陽葵は、なりふり構わないなら瞬歩使わなくても霊力で身体能力を引き上げて無理やりそれに近い速度が出せるようにはなってます。色々と被害が出るパターンもありますが……。
いよいよ、原作と絡んできました。魂魄消失事件まであと僅かです。


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