【本編完結】とあるTS女死神のオサレとは程遠い日記   作:ルピーの指輪

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 ◆月○日 晴れ

 

 今日は書くべきことがたくさんある。

 

 まず魂魄消失事件の調査をしていた、九番隊の隊長である六車拳西さんと同隊、副隊長の久南白さんの霊圧の反応が消えた。

 瀞霊廷はこれを最悪の事態と判断して、現地に増援を送ることに……。

 ひよ里ちゃんを九番隊に行かせていた兄貴は、彼女がまだ戻ってこないことを心配し自分を現地に行かせて欲しいと名乗り出たらしい。 

 

 しかし、漫画と同様に総隊長である山本元柳斎はそれを許さなかった。

 三番隊隊長・鳳橋楼十郎さん、五番隊隊長・平子真子さん、七番隊隊長・愛川羅武さんを現地に行かせることを決定。更に、鬼道衆副鬼道長・有昭田鉢玄さんと八番隊副隊長・矢胴丸リサさんが加わり、現地への救援部隊としてそこに向かうことになったとのことだ。

 

 夜一様はそこまで私に伝えると、「喜助ならおらんぞ」と兄貴がいないことを私に教えてくれた。どうやら兄貴はこっそり現地へ向かったみたいだ。彼女は自分に一言も伝えずに行ってしまったことが不満だと口を尖らせていた。

 

 ここまでは漫画と同じ展開なのだが、そこから予想だにしなかった話が舞い込んでくる。

 夜一様はさらに二番隊に仕事が出来たと口にしたのだ。

 

 なんと、瀞霊廷を中心にして例の魂魄消失事件とは真逆の方向のとある場所に大虚(メノス)が大量発生したらしい。

 で、各隊長が出払っている今、ここ10年での大虚(メノス)討伐数が断トツで一番多い私と、隊長であり、確かな戦闘力を持つ夜一様がいる二番隊に連中討伐の白羽の矢が立ったのだ。

 

 「魂魄消失事件に続いて事件続きじゃのう。まるで、何か良くないことを企んどる奴が居るみたいじゃ」

 

 夜一様は戦闘の準備をしながら、私にそう声をかけた。それは大事なことですが、服を着てから言ってほしかった。思わずガン見しちゃったじゃないですか。目に焼き付けるように。

 同性の前でももう少し恥じらってもらいたい。やっぱ、色気が凄いっすわ、夜一様は。

 

 しかし、このタイミングで二番隊に出撃要請って……。藍染のやつ……マジで私を警戒してんのか。こりゃ、このあと兄貴と一緒にスケープゴートにされそうだな。とにかく、大虚をパパっとやっつけて早く戻ろう。

 砕蜂と副隊長の大前田希ノ進さんも共に大虚討伐に向かった。

 

 「まさか、十体もの大虚が一度に出てくるなんて――夜一様、お怪我は……?」

 「ある訳無かろう。んっ? まだ出てくるというのか……。それもあの数は……」

 「百を超えている! 至急増援を……!」

 「良い。陽葵……! 周囲に結界を張ってやる。思う存分()()……! 大前田! 準備しろ!」

 

 百体の大虚って……! 藍染のやつ、何が目的でこんなに派手なことを――。私を足止めするためだけにこんなことするなんて考えられないし……。

 

 大前田さんと夜一様が鬼道で幾重にも重ねて結界を張る。結界の中は私と百体を超える大虚の群れ……。

 

 夜一様は思う存分()()と仰った。だけどリストバンドを外すと兄貴の作った修行場すら破壊してしまったし結界も壊しかねない。それにコントロールが不可能になるのは避けたい。だから、()()()()で奴らをぶっ倒す。

 

 つい昨日のことだ。兄貴がリストバンドによる霊圧の抑制量を強くしたのは。彼曰く、私の霊圧を十分の一まで抑えられるように調節したらしい。

 さらに私の任意で合言葉を言わずとも、以前までの抑制量である五分の一まで調節できるようになっている。

 

 「陽葵ちゃんの枷としてはこれでも小さすぎるくらいっスけど、これならかなり霊力のコントロールは楽になるはずっスよ」

 

 兄貴の言ったとおり、今日は調子よく霊力をコントロール出来てる。これはありがたい。紅鯉(アカリ)を片手に私は大虚の群に向かって走り出した。

 

 打つ! 撃つ! そして討つ! 狭い範囲に敵が密集していて、リストバンドのおかげで変な加減をせずにバットを振ることが出来るのでドンドン大虚を狩れる。

 いやー、今まで本当に要らんことに神経を削られていたんだな。霊力のコントロールさえ出来たら、ちゃんと当たるじゃん。

 

 と思っていたら、一体の大虚がめちゃめちゃ素早かった。私のバットが当りゃしねぇ。その上、高速で虚閃(セロ)を撃ちまくって来るから鬱陶しいことこの上ない。あの大きさは――中級大虚(アジューカス)だな……。今まで倒したどの虚よりも速い……。

 夜一様に結界はそんなに長く保たないと急かされた私は焦って頭の悪い作戦を実行した。

 

 霊圧の抑制を以前までと同様の五分の一に調節して、バットに霊力を断続的に補給しながら縦横無尽に振りまくった。

 すると散弾銃の如く霊気の弾丸が四方八方に飛んでいく。要するに狙うことを止めて下手な鉄砲いつかは当たる作戦を実行したのだ。考えることを止めたって言ってもいい。

 全方向に霊丸をグミ撃ちをする私。周囲に尋常じゃない量の砂埃が舞い上がる。

 

 「――はぁ、はぁ……。やったか……!?」

 

 よくわからんけど、負けフラグみたいなセリフを吐いちゃった。これはオサレじゃない……。

 

 でも、やってた。

 アジューカスもだけど、ついでに残ってた十数体のギリアンも倒してたから悪い作戦じゃなかったみたい。つーか、最初からこれやっときゃ良かった。

 

 いつの間にかヒビが入りまくっていた結界が解除され、私は夜一様のところに駆け寄る。

 彼女は汗だくになりながら――。

 

 「多少、やり過ぎであったが……大儀じゃったな――」

 

 と、言葉をかけてくれて。私の肩を抱いて笑顔を見せてくれた。私よりも疲れてたけど……。

 良く考えたら、結界なんて張るよりも夜一様が私と一緒に戦った方が早かったんじゃ……。それを彼女に尋ねてみると、夜一様は当たり前だと言わんばかりの表情で答えてくれた。

 

 「阿呆。それだと、お主の手柄ではなくなるじゃろうが。……しかし、今度は補助が無くてもこのくらいの武勲は立てねばならんぞ」

 

 なんと、こんな緊急時に彼女は私に手柄を立てさせたいと思っていたらしい。いつまでも出世しない私にここまで気を遣わせていたなんて……。

 

 

 大虚(メノス)百体討伐は思った以上に大事だったらしく、魂魄消失事件の報告を待っている山本総隊長の下に呼ばれた程である。ちなみに会話をするのは今回が初めてだ。

 

 「浦原陽葵、第七席。今は有事故に、直ぐという訳にはいかんが……その武勲に相応しい報奨を用意しよう」

 

 総隊長からそう声をかけられた私を見て夜一様は嬉しそうに微笑んでいた。

 出世できる事は嬉しいけど、このあとの兄貴たちのことを考えると……どうも素直に喜べない。

 

 「浮かない顔をしておるのう。喜助がな、妹を頼むと煩いのでな。彼奴(あやつ)がいつになく真剣な顔をするものじゃから。儂に出来る限りのことをしてやっただけじゃよ。まさか、こんなに早く機会が巡ってくるとは思わんかったがのう」

  

 夜一様が強引に私に武勲を立てさせた理由を話した。

 まさか――兄貴は魂魄消失事件の話を聞いたときから自分が瀞霊廷から居なくなることまで想定して私のことを夜一様に――。

 

 兄貴はそこまで私のことを――。

 

 そして、この日……兄貴はもちろん。誰も帰ってこなかった……。やはり、漫画と同様に兄貴は嵌められてしまうのだろうか……。

 

 

 ◆月◎日 くもり

 

 夜が明けたら兄貴と鉄裁さんは捕まる。四十六室に……。

 藍染の根回しは完璧だろうからそれは覆せないだろう。私には何もして来ないのが不思議ではあるが……。

 やはり、私は兄貴や夜一様から離れたくない。彼は色々と考えがあるのだろうし、私を巻き込みたくないと思ってるんだろう。でも、私は出世なんかよりあの二人のために動ける方が幸せなんだ。

 

 だから、私はあの修行場に向かった。彼らが来るのを待つために――。

 

 「驚いたっスね。陽葵ちゃんがここにいるなんて。夜一サンに聞いたんスか?」

 

 兄貴の言葉に首を横に振る夜一様。彼女も私がここに来るとは思ってなかったみたいだ。

 虚化した平子さんたちや、研究中の特殊な義骸など……尸魂界から現世に逃げる準備は整っている。

 

 私もついて行きたいと二人に力説した。しかし、彼らはそれを許してくれなかった――。足手まといだからだろうか……。

 

 「違うっスよ。藍染惣右介が陽葵ちゃんを恐れてるからっス。一度、瀞霊廷から脱走すると簡単には戻って来れない。危険ですが陽葵ちゃんには藍染サンの計画を食い止める切り札としてこっちに居て欲しいんスよ。もちろん無理にとは言いませんが……」

 

 兄貴……、私のことを買い被り過ぎだって。でも、何か私のことを認めてくれてるみたいで嬉しい。

 

 「百体もの大虚を討伐したお主は英雄じゃ。喜助の罪を問われるようなことにはならんじゃろう。二番隊……儂の抜けた穴を埋めてほしい」

 

 良く考えたら、私までいなくなったら砕蜂が一人だしな。何だかんだ言って友達付き合いも長いし……。

 一護たちが百年後にこっちに来たとき……二番隊だけでもサポートに回ることが出来れば或いは藍染を破面編の前に倒したり出来るかもしれない。

 二人に諭されて、私はこっちに留まることにした。いざとなったら藍染だけでも刺し違えてでも倒す覚悟で――。

 

 夜一様……、百年後にまた会いましょう。ついでに兄貴も……。

 

 

 ◆月☆日

 

 兄貴たちが消えたという話で瀞霊廷は大騒ぎになる。もちろん私も尋問された。分からないって言ったら特に突っ込まれなかったけど。

 隊長格が何名も居なくなるという事態は重く護廷十三隊にのしかかる。先の大虚討伐の功績をもって、私は二番隊の副隊長に昇進した。隠密機動に属さず二番隊の隊長格になったのは異例中の異例らしい。ただ、隊長にはさせられないらしく、なりたいなら別の隊に行ってほしいと言われた。

 

 いつの間にか大虚百体討伐が二つ名みたいになっていて、逸話のような感じで瀞霊廷中に広まっている。周囲からさらに化物扱いされるようになっちゃってるし……。

 

 やはりというか、当然だが砕蜂は荒れた。兄貴と駆け落ちみたいに夜一様が消えたのは彼女に大きなショックを与えたからである。

 正直見ていられなかったので、私は強引に彼女を飲みに誘って小さな嘘をついた。

 

 「夜一様は瀞霊廷に迫りくる危機を回避させるために私たちを信頼して二番隊に残し、こちらを去っていかれた。必ず彼女は帰ってくる。私たちはいつ彼女が戻って来ても良いように二番隊を守っていこう。夜一様は砕蜂がいるから安心して出ていけると言っていた」

 

 なんてことを言った後、私は後悔する。悲しみに暮れる砕蜂がこんな言葉くらいで元気になるはずがない、と……。

 

 「なぬ! 夜一様が私に二番隊を……だと!? そうか! 信頼してるからこそか! 夜一様! 任せてください! この砕蜂があなたの二番隊を守り抜いてみせます!」

 

 背中に炎のエフェクトが見えるくらい彼女は燃えに燃えて覇気に満ち溢れた表情を見せる。

 ま、まぁ、何となく分かっていたよ。お互いに根が単純なのが似てるから……。元気になったのなら何よりだ……。

 藍染がヤバい奴ってことは絶対に黙っとこう。それが彼女のためである。

 

 

 ☆月◎日

 

 やる気になった砕蜂の成長は目覚ましく、あっという間に卍解(ミサイル)を修得して、隠密機動のトップまで駆け上がった。ちなみに砕蜂はこの卍解を気に入ってる。夜一様を卑劣な罠に巻き込んだ主犯にキツい一撃をくれてやるのだそうだ。

 ここで大前田希ノ進さんは引退。彼女が二番隊の隊長となる。つまりまたもや彼女と立場が逆転してしまったということだ。

 

 ともあれ、私が副隊長であること以外は漫画と変わりないと思って安心していた。

 しかし、彼女が隊長になったのと同時に意外な人物が二番隊に入ってきた。な、なんでお前がこっちに来るんだよ!

 

 「そら、陽葵さんに憧れとるからに決まってますわ」

 

 新しい二番隊の第三席となった市丸ギンはわざとらしいセリフと共に私に挨拶した。「また来ます」ってこういうことかよ!

 

 さらに彼の口から驚きのセリフが飛び出す。

 

 「なってあげましょか? 陽葵さんのスパイに。ボクは藍染()()に言われて陽葵さんを監視に来たから、二重スパイってやつやね。あんたの下に付く言うてんのや」

 

 あっけらかんとした表情で耳元で囁きながら私の監視に来たことをバラす市丸。そして、あっさりと藍染から寝返るみたいなことを言ってきた。

 こいつの腹も読めない。確かにこいつの目的は藍染を倒すことなのは知ってるから利害が一致するのは確かだが……。

 

 「別に信用せんでもええですよ。ボクが一方的に情報渡しますから。このこと、藍染隊長には内緒にしといてくださいね」

 

 こうして新生二番隊は新たな一歩を踏み出すことになる。

 漫画よりも精神的に安定しててやる気満々な砕蜂が上司で何を考えてるかわからない市丸が部下になったけど、一護たちが来るまで私は乗り切れるだろうか――。

 




※リストバンドで抑えた霊圧について

1/10で隊長の平均レベルまで落ちるけど、ほとんど完全に力のコントロールが出来るので、割と破壊を気にせずに動けるメリットはある。
1/5でも十分に化物。ちょっと気を抜くと大惨事。藍染が警戒するレベル。
全開にするとコントロールできない。瀞霊廷がヤバい。藍染はこの霊圧を感じて陽葵が卍解に至っていると錯覚した。
なんか逆界王拳みたくなってきた……。


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