これは、もうひとつのグランドオーダーの記録。

1 / 1
Fate/Grand Order 2 If story ~プロローグ~

 神代は終わり、西暦を経て人類は地上でもっとも栄えた種となった。

 我らは星の行く末を定め、星に碑文を刻むもの。

 人類をより長く、より確かに、より強く繁栄させる為の理──人類の航海図。

 これを魔術世界では『人理』と呼ぶ。

 

 人理継続保障機関フィニス・カルデア。

 

 文字通り人理の継続を保障するために創設されたというこの施設は、一般人にも分かりやすく言えば「世界の行く末を守るための組織」なのだという。

 

 人理などと言われてもちんぷんかんぷんだった魔術とは縁の薄い17歳の少年藤丸も、そのレベルまで噛み砕かれればいくら魔術世界に縁がなくてもどういう趣旨の組織なのかは理解できた。この世界の未来を守るなんて流石に胡散臭いとは思ったものの、そのための才能が自分にはあると懇切丁寧に説明されて、少しも舞い上がらない歳でも性格でも彼はなかった。

 

 行くだけは行ってみよう。藤丸はそんな軽い気持ちで、標高6000メートルの雪山の上に建つカルデアへと、足を踏み入れた。

 

 問題はその後だ。カルデアに入る前に行われた霊子ダイブシミュレートの模擬戦闘で疲れたのか、藤丸は廊下で熟睡してしまう。その時はフォウというリスみたいな謎の怪生物とマシュ・キリエライトと名乗ったカルデアの職員と思われる女性に助けられたのだが、カルデア所長による新人レイシフト適合者への挨拶の折、あろうことか所長の目の前で熟睡してしまい、藤丸はその場から放り出されてしまったのだ。お陰で藤丸はファーストミッションから外されてしまった。

 

 前途多難。マシュに介抱されながら廊下を進む藤丸は、こんなことでこの先やっていけるのだろうかと大分自信を無くしてしまっていた。

 

「ともあれ、所長の平手打ちで完全に覚醒したようでなによりです」

 

 腑甲斐無い自分を慰めてくれるマシュを見て、藤丸は更に落ち込む。なんだかここに来てからうっかり寝てしまってはこの人に介抱されるというパターンが続いている。違うんだ……。俺、本来だったらこんなに居眠りするような人間じゃないんだ……。そんな風に嘆いていると、その様子を見たマシュはクスッと吹き出した。

 

「はは……。やっぱりおかしいですよね……。こんなレムレム野郎の戯言……」

 

「いえ、いえ! 違います。馬鹿にしているとか、そういうわけではなくてですね。ただ懐かしかったんです」

 

 マシュの言葉に、藤丸は首を傾げる。

 

 懐かしい? 

 

「ええ。前にもこんなことがあったなーと、感慨に耽ってしまいました。決してあなたを馬鹿にして笑った訳ではないのです」

 

「???」

 

「あ、着きましたよ。ここが専用の個室になります」

 

 藤丸が疑問を口にしようとするが、その前に、どうやら藤丸は自分の個室に到着したようだった。

 

「ありがとうございます」

 

「いえいえ。このくらいなんてことはありません。長くこのカルデアいる者として当然のことです」

 

 お礼を言うと、マシュは手を振って気軽に応える。

 

「ええと、マシュ……さん?」

 

「マシュでいいですよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「先輩……? ああ、まあ、俺はカルデアの新入りですし、()()()()()()()()。じゃあ、マシュ先輩。質問してもいいですか?」

 

「冗談のつもりだったのですが、期せずして後輩ができてしまいました……。フフ。はい。藤丸くん。あなたの先輩。マシュ・キリエライトです。なんですか?」

 

 なんだか嬉しそうに綻ぶマシュにすこしどぎまぎしながら、藤丸は質問する。

 

「俺は今回外されてしまいましたけど、先輩は今回のミッションに参加するんですか?」

 

「そうですね。私は今回ファーストミッション、Aチームの一人として、このオーダーに参加します」

 

「確か……冬木……でしたよね」

 

「そうですね。通称特異点F。2004年。日本の一地方都市冬木市にて特異点反応を観測し、私達はその時代に向かってレイシフトを行うのです」

 

 過去に発生した問題を過去にタイムスリップすることで解決する。説明はされて頭では理解しているものの、未だに実感の湧かないミッションである。ともあれ、その疑問をとりあえず棚上げにしてでも第一に訊きたいことが、藤丸にはあった。

 

 何か? と、首を傾げるマシュに、藤丸はポツリと呟く。

 

「実は俺、その冬木市の出身なんです」

 

 その言葉に、マシュは目を丸くした。

 

「そう……なのですか。それは……」

 

「俺はもちろん実際に体験したことはないんですけど、2004年というと冬木市にとっては、ある災害が起こった年なんです」

 

「……冬木の大火災ですね?」

 

 はい。と、藤丸は頷く。未だ原因不明の未曾有の大災害。藤丸はその直接の世代では無いにしろ、今もなお、その大災害の爪痕は冬木市の至るところで見ることが出来る。死傷者500人を越えるあの災害が起こったその冬木の土地に特異点反応が観測され、何人もの魔術師がその現場に乗り込むというのは、出身者である藤丸からすると、「もしかしたら」という疑問が拭えないものであった。

 

 もしかしたら……。

 

「冬木の大火災は、何か得体の知れないものによる仕業なのではないか。今回のミッションで、冬木の大火災の原因が分かるかもしれない。あわよくば、それ自体を食い止められるかもしれない。藤丸くんは、そう考えているのですね?」

 

「は……はい! そうなんです! だから、ファーストミッションから外されてしまったのはちょっと惜しいことしちゃったかなーって思ってまして……」

 

 頭を掻きつつ恥ずかしそうに落ち込む藤丸に、マシュは頬笑む。

 

「そういうことでしたら、このマシュ・キリエライトにお任せください。未だ原因のつかめない謎多き特異点Fですが、今回のミッションではおそらくそういった根幹部分が重要になるとドクターも仰っていました。ですので、私は藤丸くんの力になれると思います」

 

 先輩ですから! と、豊満な胸を叩くマシュに、藤丸は私情を持ち込んでしまったことに少し申し訳なさを感じながらも頭を下げる。

 

「よろしくお願いします。先輩」

 

「はい。任されました」

 

「ちょっと、マシュ? あなたまだこんなところにいたの?」

 

 話もちょうど区切りがついたというところで、後ろから声を掛けられた。

 

 なんだろうと思って藤丸が振りかえると、そこには長い茶髪をツインテールにまとめ、眼鏡をかけたマシュと同じ職員服姿の女性が立っていた。

 

「あ、芥さん。おはようございます」

 

「おはよう。じゃなくて、そろそろレイシフトの時間でしょう? ただの付き添いとはいえ、レイシフト初心者だらけのAチームに召喚サークル設置のお手本を示せるのはあなたしかいないんだから。遅れないようにしときなさい」

 

「は……はい。あ、藤丸くん。こちら、私と同じくAチームに同伴する芥ヒナコさんです。芥さん。こちら、新人マスターの藤丸くんです」

 

「あ、藤丸です。よろしくお願いします」

 

 紹介され、藤丸は頭を下げる。ヒナコは一瞬藤丸の方に興味なさげな視線をやり、すぐに向き直る。

 

「マシュ、私、さっきAチームから外れたから」

 

「ええっ!? どうしてですか!?」

 

 マシュがあわあわと動揺しながら尋ねると、ヒナコは額に青筋を浮かべながら、

 

「あの新人出戻りクソドクターが、私がAチームに同伴するって聞いて、「本当に大丈夫? 霊脈(レイライン)確保するまでは自爆しないでね? 絶対だからね?」って五回くらい念押ししてきてムカついたから他の奴に押し付けたわ。別にあんなの誰が行ったって同じでしょ」

 

 と吐き捨てた。

 

「そんな! 誰が行ったって同じなんてそんなことないです! 芥さんには! ……その! ……えっと! ほら、経験とかがありますし!」

 

「フォローできてないじゃない! いいわよ。無理に言葉を絞り出さなくても! どうせ私のマスター適正なんてE-なんだから」

 

「いえ、ですがマスター適正は今回芥さんには関係ありませんし。いざというときの戦力として芥さんがいてくれるほど頼りになることはありません!」

 

「『戦力として頼りになる奴』なんて、それこそ誰が行ったって同じでしょう? 今回のミッションで代わりがいないのなんてあなたくらいなものよ。それすら、あくまでも今回だけだしね」

 

 いいからあんたはさっさと管制室に行きなさい。

 

 と、ヒナコはぐいっとマシュの背中を押す。

 

 そ、それではまたのちほど! と、マシュは藤丸とヒナコに頭を下げ挨拶をすると、少し後ろ髪引かれながらも駆け足で管制室へと去っていった。

 

「…………」

 

 気まずい。藤丸は、なぜかジロジロとこちらを睨め付けてくるヒナコに、なにか話しかけた方が良いのか分からず硬直していた。出来れば早く自分の個室として割り振られた目の前のドアに逃げ込みたいが、なんだか妙なプレッシャーを感じて動けずにいる。

 

「雰囲気」

 

「……はい?」

 

「雰囲気がアイツに似ててイラッと来るわね。お前」

 

 なんだか変な因縁をつけられ始めた。

 

「あ……アイツとは?」

 

「なんでもないわ。ほら。部屋に入るんでしょう? さっさとしなさい」

 

 ドアの横の壁に寄りかかりながら、クイッと首をあげて入室を促すヒナコ。なんだろう。部屋に入りたいというこちらの内心を読み取られたのだろうか。

 

 同じ日本人同士ということで、出来ればこの人とは仲良くなっておきたい藤丸だったが、どうやらヒナコの方はそうでもないようで、目に見える拒絶を感じる。仕方ないので藤丸は、言われた通り粛々と部屋に入ることにした。

 

「失礼しまーす……」

 

「はーい、入ってまー……──って、うぇええええええ!? 誰だ君は!?」

 

 ドアを開いて中に入ると、何故か中に先客がいた。

 

「ここは空き部屋だぞ、わたしのさぼり場だぞ!? 誰のことわりがあって入ってくるんだい!?」

 

「えっ……!? 俺は藤丸立香といいま……じゃなくて! ここが俺の部屋だって案内されたんですけど! あなたこそ何者だ!」

 

 咄嗟のことに戸惑っていると、先客であるその人物はなにかを察したようで

 

「君の部屋? ここが? あー……そっか、ついに最後の子が来ちゃったかぁ……。それで、私が何者かって? どこからどう見ても健全な、真面目に働くお医者さんじゃないかな! わたしは!」

 

「ええ……」

 

 真面目に働くお医者さんは他人の部屋を勝手にさぼり場にしてベッドの上でパンケーキをつまんだりしないと思うのだが……。と、藤丸が胡乱な目を向けると、ちょっぴり赤みがかった長髪を適当に髪ゴムで後ろにまとめているその人物は、少し焦りながら

 

「いやあ、はじめまして藤丸くん。予期せぬ出会いだったけど、改めて自己紹介をしよう。わたしは医療部門のトップで名前は()()()という。()()()()()()()()だよ。フルネームはアレだけど、君と同じ日本出身だ。仲良くしてくれるとうれしい。藤丸立香(フジマル リッカ)くん」

 

 と、手袋をした右手を差し出して仕切り直した。藤丸は握手に応じる。

 

「あ、はい。ええと、よろしくお願いします。リツカさん」

 

「Dr.リツカと呼んでくれてもいいよ。みんななかなかそう呼んでくれないんだけど、わたしはそう呼ばれたい」

 

「え……と、ドクター?」

 

「そう! アイ アム ドクター! やったぞぅ! これでまたドクター呼びしてくれる人が増えた! 

 

 医療部門のトップなんて言うけど、その実態は二年前に正式に医者になったばっかりの新人ドクターなんだよねー、わたし。だからみんな舐めくさってわたしのことドクターって呼んでくれないんだよ。出戻りは肩身が狭いんだ……。今回だって、所長に「リツカがいると空気が緩むのよ!」とか言われて管制室から追い出されちゃったし……」

 

 しょんぼりと肩を落としながら愚痴る()()を見て、藤丸はマシュとヒナコの会話を思い出す。

 

「あっ、芥さんが言ってた『新人出戻りクソドクター』ってもしかして……」

 

「うっそ! ぐっちゃんそんなこと言ってたの!? うわーショック! ショックだよわたしは! まさか親愛なるパイセンにそんな陰口を叩かれていたなんて!」

 

 親愛の方向がやや気安すぎる先輩に向けて、リツカは嘆く。藤丸は無意識に何か忠告しなきゃいけないような気がしてきたが、何を忠告すれば良いのか思い当たらず頭を悩ます。その間にもリツカは『ぐっちゃん』という愛称らしい(どこからそんな愛称が?)ヒナコに怨み言を重ねていく。

 

「くっそー。ぐっちゃんてばあの姿のときは相変わらず陰険眼鏡なんだから……。こうなったらドクター権限を使って特に必要のないメディカルチェックを必要以上に差し挟んでやる! ぐっへっへ。人妻の身体を隅から隅まで診察してやるぜ……! 妻の健康を気遣ってもらえて項羽様もさぞお喜びになるわ!」

 

 なんだか目の前のドクターが断崖絶壁に向かって全力疾走しているビジョンが浮かんできた。身内要素が多すぎてヒナコが人妻であるという新情報くらいしか言ってることを理解できていない筈なのに、何故こんなにも明確なビジョンが浮かぶのか不思議だったが、ふと見ると、ドクターが目を真ん丸に開いた状態でこちらを向いて固まっていた。

 

 いや、正確には、こちらの奥を見て固まっていた。

 

「悪かったわね陰険眼鏡で。で? 陰口を叩いた私にお前は何をするって?」

 

 背後から何やら禍禍しい怒気が伝わってくる。そういえばあの人、この部屋から死角になるドアの横の壁に寄りかかった後の姿を見てなかった! つまり、ヒナコに今の会話は全て筒抜けだったということになる。触らぬ神に祟りなし。藤丸は瞬時に真横にずれて二人の間から退避した。

 

「あ……あやー……。あのですね芥先輩。ワタクシメは貴女様と項羽様の夫婦生活がより円満で末長いものになるようご助力申し上げようと愚考していた次第でして……。あの、決して邪な考えを抱いていたわけでは……」

 

「ほう? それはそれは殊勝なものね? その心意気は買いましょう。では殊勝なる後輩よ。先輩としてこの私の言うことは絶対服従ということでこれからはやらせてもらうけど、それでも問題は無いわけね?」

 

「そ……それは以前と大して変わらないのでは?」

 

「うっさい! とりあえずお前は購買で焼きそばパンでも買ってこい!」

 

「サー! イエス! マム!」

 

 ヒナコに怒鳴りつけられたリツカは、脱兎のごとく素早く部屋から退散する。突然の出来事に、藤丸は呆然と突っ立っていることしかできなかった。

 

「え……えーっと」

 

「お前が気にすることは何もないわ。アイツが勝手にこの部屋を横領していただけなんだから。お前はここでしばらく休んでいるといい」

 

 ヒナコは腕を組んでリツカの走り去った方を見ながら言う。

 

「……無いとは思うけど、またぞろ管制室が爆破でもされたら、対応できるマスターはお前しかいなくなるんだから」

 

「ば……爆破……ですか?」

 

 物騒な単語に藤丸は冷や汗を浮かべる。ヒナコは、はぁ……。と、ため息を吐くと

 

「戯れ言よ。気にするほどの事じゃないわ。ただ……」

 

 と、手を振って何でもないことのように冗談めかそうとする。

 

 しかし──

 

 ──振動が、部屋を揺らす。

 

 遠くで何かが爆発する音が──聞こえる。

 

「……今のって……まさか……」

 

「……ちっ。なんでこう、フラグっていうのは建ったらすぐに回収されるのかしらね! 大体万全を期して爆発物検査はしたっていうアイツの報告はなんだったのよ!」

 

 ヒナコは額に青筋を浮かべ、あせった様子でアラームの鳴り響く廊下を進み始める。

 

「あ、あの! 今の爆発って、管制室からですよね! 何か俺に手伝えることは!?」

 

「無い! お前は部屋に待機していなさい! 来ても邪魔なだけだから!」

 

 取り付く島もないヒナコの返事に一瞬躊躇するも、しかし藤丸は、ヒナコの後に続くことを止めなかった。

 

「俺も……何か手伝います! 邪魔になるだけかもしれない。でも! 人手は多分有った方がいいし、俺でも瓦礫くらいはどかせます!」

 

「……勝手にしなさい。崩落とかに巻き込まれても私は助けないからね」

 

「はい!」

 

 二人は、管制室に向かう。

 

 藤丸は思う。管制室にいたレイシフトメンバーや所長、それに職員の皆は大丈夫なのだろうか。

 

 藤丸は思う。さっき自分に親切にしてくれたマシュと名乗ったあの女性は、無事でいてくれているだろうか。

 

 焦る感情を抑えきれないまま、二人は、管制室に辿り着いた。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 その頃、管制室とは逆方向、電算室へと足を運ぶ人物が一人いた。

 

「とうとうやってしまったな。リツカ」

 

 何処からともなく、男の声が聞こえる。電算室へと足を運ぶ女は、特に動揺することもなくその声に返答する。

 

「別に、大したことはしてないよ。爆破なんて言っても小火みたいなものだし、やったことと言えばカルデアスとコフィンの接続を断ち切っただけ。レイシフトした人たちを冬木に閉じ込めただけだもの。管制室は大慌てだろうけど、然るべき処置を落ち着いてこなせば死者はでない」

 

「だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………」

 

 女、リツカ・アーキマンは、男の声を飲み込んで押し黙る。

 

「どうした? 言い返さないのか? 己の背信を、肯定するのか?」

 

 男は、そんなリツカに構わず言葉を続ける。

 

 リツカは、暫く黙ったのち、やっとその口を開く。

 

「別に、マシュを騙したのは悪いと思ってるけど、私はカルデアの敵になったつもりはないよ。カルデアの理念と、私の目的は同じだと確信しているもの。ただ、少しアプローチが違うだけ」

 

 リツカは言う。決意を、その瞳に宿らせながら。

 

「人理焼却の完全阻止? 人理の再編纂を成し遂げた英雄? ふざけるな。私は人理焼却を防げてなんかいない!」

 

 燃えたぎる炎を心に灯し、リツカは宣言する。

 

「ソロモン王を失ったこの世界が元通りなんかであるものか! ロマニ・アーキマンのいないこの世界が、本来の姿であるはずなんかあるものか! 認めない。そんな過去も、現在も、未来も! 私は認めない!」

 

 あなたもそう思うでしょ? と、リツカは何もない廊下の天井を見上げる。

 

「だからあなたは、もはやマスターではない私の唯一のサーヴァントとなった。そうでしょう? ()()()()()

 

「…………」

 

 今度は、男が押し黙る番だった。

 

 リツカは、電算室へと辿り着き、その扉を開ける。

 

「ここから強制的にコフィンの電源を落として、レイシフトメンバー全員を観測不能状態にする。ダ・ヴィンチちゃんが新しく取り付けたっていう安全装置が働くから命だけは保証されるけど、復旧には時間が掛かる。その間に、私達は単独顕現で冬木へのレイシフトを実行する。後は、計画の通り」

 

 ああ。と、ゲーティアと呼ばれた男の声が同意する。

 

「冬木の特異点を起点に、人理焼却の手順を逆順し、人理焼却そのものを()()()()()()()()()。リツカ、お前の功績、そのすべてを無に返す。お前はそれで、いいんだな?」

 

「ゲーティアがそれでいいのなら当然、いいに決まってるじゃん。私なんかが持っていても、何の意味もない功績だよ。それは」

 

 リツカは電算室のブレーカーを落として、足元に魔法陣を敷く。

 

「ドクターがここに帰ってくるなら、私はただの一般人でいい。名誉も栄光も要らない。あの人の笑顔が見れるなら、ただそれだけでいい」

 

 リツカは目を瞑り、かつての光景を思い起こす。

 

 だけど、その記憶は随分と、ぼやけて見えた。

 

「忘れたくないのに、忘れていく。こんなに辛いことってないよ。ゲーティア。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 誤った歴史を、修正する。

 

 そのためなら、何を敵に回したって構わない。

 

 例え、マシュを敵に回したって、構わない。

 

 最終的に、笑顔になれるなら、それでいい。

 

「レイシフト適合者は全員潰した。キリシュタリアさんもオフェリアさんもデイビッドさんもペペさんも、全員付き添いでコフィンの中だ。職員として待機してるカドック君には今契約サーヴァントがいないし、他のマスター候補はそもそも現在カルデアにいない。邪魔する人は、誰もいない」

 

「それはどうかな?」

 

 決意を固めるリツカに、しかしゲーティアは水を差す。

 

「他に誰か、いるって言うの?」

 

 リツカが問うと、ゲーティアは哄笑を上げる。

 

「忘れちゃいけないのが残っているだろう! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()A()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! どうやらあの二人、余ったコフィンと予備電源を使ってレイシフトを敢行しようとしているようだぞ? 今、アニムスフィアの小娘とゴルドルフの小僧が承認を出している」

 

 リツカは笑った。

 

「ちぇ、流石に所長と経営顧問は手が早いなぁ。伊達にピンチを乗り越えてないか。それに、あの子とパイセンが? あはっ! 何その組み合わせ、すごく面白そうじゃん!」

 

「そういう愉快犯的なところは変わらんなリツカ。岩窟王が共犯者などと嘯くわけだ。どうするリツカ? あの二人、ひょっとすると、ひょっとするかも知れんぞ?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()。それならそれであの二人に、人理焼却を未然に防がせてみるのも悪くない」

 

「なかなか貫禄ある態度だ。それでこそ私の共犯者にも相応しい。それは、誰の影響だ?」

 

「アラフィフかなきっと。黒幕の背中と悪の美学は、あの人から学んだ気がするよ」

 

「ならばその悪の美学をしっかりと身体に馴染ませておけ。我々が今より成すは人類愛。ただ一人の()()のために、世界の全てを書き換えんとする悪の所業。即ち『人類悪』だ」

 

「あはは! 私もとうとう打倒される側か! 人生どうなるかってのは、本当に分からないものなんだね! 気にしても仕方がないけどさ!」

 

 それじゃあいっちょう、行ってみようか! 

 

 リツカは宣言とともに、魔法陣を起動する。それは、自分が持つ夢を通してレイシフトを行うという体質を、ゲーティアが体系的技術として再現したものだった。

 

 リツカが手袋を外す。右手には、かつて彼女が人類を救う際何度も使用した、三画の令呪が輝いている。

 

 そして左手の薬指には、かつて魔術王がその両手の指に着けていたとされる、ソロモンの指輪と呼ばれる霊装が、たった1つだけはめられている。

 

 女は時を駆ける。自らの愛した人類のために。

 

 男は付き添う。自らの認めた人類の行く末を、見守るために。

 

()()()()の、人類の未来を取り戻すための戦いが、今再び幕を開けようとしていた。

 

 

 

 グランドオーダー、実証開始。

 

 

 

 

 終。

 

 




こんな話を読みたいなーと思ったので取り敢えずさわりだけ書いてみました。続きは一切考えてないので今のところ書くつもりはありません。誰か書いてください。お願いします。

わたし以外にも、こんな話いいな!って思ったら感想ください。是非とも好みを共有しましょう。続きは俺が書く!という提案でも結構です。

今回の主な登場人物の設定。

リツカ・アーキマン
27歳。人理を完膚なきまでに救った後、医科大学に進学。卒業し、医師免許を取得した後カルデアに出戻り。コネ入社で医療部門のトップになる。アスクレピオスだのナイチンゲールだのに手解きを受けているため腕だけは確か。尊敬する医者はドクターロマン。名前は偽名。
ロマニ・アーキマンを甦らせるためにゲーティアと手を組み、人理焼却の事実そのものを無かったことにしようと目論む。

マシュ・キリエライト
26歳。カルデア職員。現役ではないものの、過去の経験を買われて、今回のファーストミッションで新人の指導員に選ばれる。リツカが出戻って来てからの二人のゆるゆりとした仲は職員達の癒し。しかし、リツカは自分の計画に彼女を巻き込めないと、計画実行時に安全装置付きのコフィンの中で彼女を眠らせるという選択を取る。

藤丸立香
17歳。冬木出身。夢と希望に溢れる現実主義の少年。割とどんな環境にも適応できる性格をしている。人付き合いもよく、人たらしと呼ばれることもある。リツカと性質のよく似た男の子。不測の事態で一人ファーストミッションに参加することになり、その場に居合わせたサーヴァント虞美人と共にグランドオーダーに挑む。

芥ヒナコ(虞美人)
年齢不詳。カルデアの職員として常駐しているサーヴァント。ただし時計塔には、自身がサーヴァントであることも真祖であることも特殊な霊装を使って隠している。カルデアの最終防衛ライン。普段は項羽様と仲睦まじく暮らしている。項羽様と虞美人の契約者は現在オルガマリーだが、ファーストミッションにあたり一時的に藤丸立香とのサーヴァント契約を結ぶ。

その他人物設定

オルガマリー・アニムスフィア
人理継続保証機関カルデア現所長。

ゴルドルフ・ムジーク
副所長兼経営顧問。

ダ・ヴィンチちゃん
技術顧問。

キリシュタリア、オフェリア、カドック、デイビッド、ペペ
カルデア職員。今回はカドック以外はファーストミッションの付き添い。カドックはレイシフトサポート。

ベリル
???


みたいな感じでした。続き、気になります。(他力本願)






  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。