また、グラディオラスsideはこれから時系列がバラバラになる可能性があります。
ですので、今回の話を基準にして何処の話なのかを前書きにて載せるようにします。
また、今回の後半は雫さんとグラディオラスさんの成分高めです。
本編では香織が弱っている様子でしたが、絶対に雫も思う所があるだろうな、と考えてこうしました。
イグニスが自らを持ってノクティス達を救出に向かった直後、残された者たちは心の支えの1つを失った事により発狂と絶望に打ちひしがれていた。
メルドが必死に呼びかけ、勇者が鼓舞させようとするが誰も聞く耳を持たず、ただひたすらに叫びを上げて地獄絵図を生み出していく。
その様子に何を思ったのか、アーデンは生徒達を置いて先に脱出路をスラスラと先に進んで行ってしまった。
「…正に興醒め…だね。…こりゃ失敗だったかな」
「な! 何処に行く!!」
皆を見殺しにしたと解釈したのだろう。いち早く代表者の教師やメルドを差し置いて、アーデンに追いつき咎めていく。
此処でなら勇者に賛同する声を上げるブーイングが響くと思われたのだが、最早批判を上げる気力も失せたようだ。誰もそれに介入する様子は見られない。
「何処? 決まってるでしょ? 帰るんだよ。イグニスセンセから言われたの、もう忘れちゃった?」
「な…だったら何故生徒達を見殺しにして自分だけ助かろうとしたんだ!! お前のやっている事は大人として…いや、人間として最低な事だぞ!!」
「へぇ。それは確かだね。じゃあ最低なままでどうぞ。俺も救う必要も無い子達を無理に気負わなくてすむしなぁ」
「は…はぁ!?」
何度目かの冷気の様に包まれる空間。またしてもこの男は爆弾発言を残していくようだ。
だが、それを正論へとしてしまっているのも勇者一行の難点というものであろう。
彼を筆頭に項垂れていた人達も、自分を救ってくれない、教師なのにと怨みに怨みが籠った目をアーデンへとぶつける。
一方、お馴染みの2人と常識人2人、そしてアーデンの半身(自称)だけは何も咎めずにただ愉快そうにほくそ笑む教師を見つめていた。
「はぁ…そうやって俺を責めれば何とかなると思ってるの、いい加減ウザイんだよねぇ…。
じゃあ聞くけど、そうやってれば助けが来るの? あれだけ武器を求めて戦いだーって意気込んでたヤツらが、仲間2人脱落しただけでこの世の終わりみたいな顔してさ…
ホント…君達何しに来たの?」
「だけ…だと? 巫山戯るな!! 仲間が死んでるのにその言い草は何だ!! お前はそれでも」
「あー、もういいよ。今君達に何を言っても無駄だから。
精々そうやってロクデナシの様に這いつくばってなよ。偽善者共」
『!?』
まるで亡者。何時ものヘラヘラしたアーデンからは考えられないような、恐ろしく低い、ドスの聞いた声を浴びせられた生徒達は、壊れたブリキ玩具のようにピタリと全ての動きを静止してしまった。
それに次こそ興味をなくしたアーデンは、イライラした様子で1人の少女を見ると、今度は呆れた顔をしながら、
「…来たいなら勝手に着いてくれば良いんじゃない? そんなソワソワされてたら、コッチが困るんだよね」
「ホント!? じゃあ遠慮なく〜♡」
まるで呼ばれた子犬のようにドタドタと音をたてて、彼の半身(etc)中村恵里が当然のように彼の背中にしがみついた。それはもう聳え立つ丸太にがっつくように。
そして2人は、まるで後には誰も居なかったのように振る舞いながら出口を歩いていってしまった。
「…アーデンちょっとこれ…収集つく?」
沈黙の後、呆れたようなプロンプトのツッコミが響くが、またもや誰も顔を上げることは無かった。
その様に等々痺れを切らしたメルドが、腑抜けた皆に喝を入れ始める。
「お前らシャキっとしないか!! 本当に此処で死ぬ気か!? 魔物に挑んで勇敢に死ぬより、誰かを庇って死ぬよりも、腑抜けて抜け殻のように情けなく死ぬのが望みなのか!? 」
生徒達はその発言で漸く少しばかり、ほんの少しばかり体をびくつかせて重い体を上げ始める。
まだ正気を失っている生徒にはグラディオラスが、一息入れの喝を入れ始める。
「どうやら、お前らは期待してた奴らにすらも泥を塗って、裏切りてぇらしいな。甘えが許されるとか思っんのか知らねぇが…確かに甘えは大事だ。だかな…
何時までも好き勝手やらかしたら、後は頼れる奴らが何とかしてくれると放棄すんのは止めにしやがれよテメェら」
その喝に、メルドとは違い顔を項垂れさせ始める生徒達。
「奮起させんのに落ち込ませてどうすんのさグラディオ…」
「い、いや? そうでもねぇぞ? 全員が今度は立ち上がった。何とかなったじゃねぇか」
「本当にイグニスはコイツに任せて大丈夫なのかなぁ…パワードGORILLAだy」
「いくら先輩でもそれ以上の発言はお分かりですね?」
「あ、なんでもないです。はい」
相も変わらずにグラディオラスの愚痴をすぐに察知して、凄く笑ってない笑みを見せつける雫は最早はよ付き合えの具現化となっている。
余りにも場の明るさの度合いがくっきりと分断されてしまっている状況を目にして、メルドは困惑していた。
が、こうしている間にも危険が忍び寄らないとは限らないので、生徒達が僅かばかりの奮起を起こした今のうちにせっせと脱出をはかるのだった。
余談だが、ここでも余裕があるのか愚痴しかたまらないのか、恵里がアーデンに引っ付いていたのを面白く思わなかった勇者が、恵里をあの悪魔から引き剥がすなどと騒いでいたのだが、どうせお約束で終わることは目に見えているので、何も言うまい。
結果的に皆は迷宮を脱出する事には成功した。
元の宿泊地であるホルアドに着くと、やっとこさ皆は全身の力が抜け、泣き出す者、崩れ出す者とそれぞれ居た。
勇者は真っ先にアーデンを血眼に探すが、彼は愚か恵里すらも見当たらない。
誘拐だと騒ごうとするが、何時もよりも冷静になっている龍太郎にまずすべき事を促され、渋々皆を宿まで誘導していた。
その一方で、
「…ふぅ。ホント、あんなのは二度とごめんだよ」
「あぁ。いらん筋肉使っちまった…」
「その割にはあまり傷を負っていませんよね…。やっぱり実力なんでしょうか…?」
「いや真に受けない方がいいよ八重樫さん。コイツ力だけはレベチだからさ…いやなんでもないです。ハイ」
鈴、雫、気を失っている香織を含めた常識人組は
皆からほんの少しばかり離れた所で各自休憩を取っていた。
全体に比べ、冷静に物事を判断出来る2人は、常に状況を冷静に見極めている先生とプロンプトの話、意見を良く聞いた方がいいと判断したのだろう。
「あ、あの…グラディオラス先生…」
「ん、どうした谷口。…あぁ。アイツらの事か」
「はい…3人とも…そんな事考えたくないけど、何かあったらどうしようって…」
と、鈴は物珍しく不安げにポツリと告げ出す。
やはり、救出が入ったとはいえ、未知の領域に崩れ去ってしまったクラスメイト達を目の当たりにしてしまったのは、かなり心に来てしまったのだろう。
もしここで一人ぼっちだったとすれば、泣いてしまうのではないかと言うほどに。
そんな生徒を見ると、グラディオラスは自然と手を鈴の頭へ置き、安心させる為に行動する。
「心配すんな…とは言えねぇ。どうなっているか俺達には何も分からねぇからな。適当な事は言えねぇ…。
だがな…俺はアイツらが、どうにかなったんじゃねぇかなんては1つも思ってねぇ。
そりゃ崩れた時は混乱したが…冷静になった今なら、あそこまで窮地でも勇気を出して囮を買いでたアイツらが、簡単にくたばるとは思えねぇんだよな…
それに、あの時約束したからな。必ずイグニスが2人の手を引っ張り上げてくれる。
そう考えたら、また2人と会えるのも難しい話じゃねぇと思えてこねぇか?」
一見、何の根拠もないふわっとした意見に聞こえるが、グラディオラスにとっては一つ一つが信頼出来る理由であり、またそうやって元気づけられるものだから、
不思議と鈴も不安な心が取り除かれていく。
「…そう、だよね。あの時だって私を率先して助けてくれた2人だもん。なにより私達の頼れるイグニス先生が行ってくれるんだもん。根拠はないけど、きっと大丈夫だよね…! 」
「少し元気になったか?」
「うん! ありがとうラー君先生!!」
「相も変わらずセンスを疑うあだ名だなお前…」
そうも言うが、調子を取り戻した鈴に少し安堵した様子でグラディオラスははにかんだ。
「あー、嫉妬してる?」
「…いえ? だってこの状況ですよ? それは先生だって気を回しますから当然です。
ただ…分かっているのにすごく納得のいかないだけです。それだけ。はい」
「…そっかー。でも、早めにグラディオのとこに行った方がいいと思うよ。
多分、アイツも気付いてると思うけど…
君、大分心と表情の連携乱れてるよ?」
「…!」
本人達にしか分からない指摘に、あからさまに反応する雫を見て、プロンプトは目でグラディオラスに何かを合図した。
それに答えるように、彼もプロンプトに対して了承の合図をした。親友になると高度なアイコンタクトも可能な様だ。
やがて、とうとう疲れの限界を超えた全員は、力無くそれぞれのベッドにて眠りにつき始めた。
翌日、王都行きの馬車が到着し、まだ完全に疲れの取れない体を揺らされる事数刻。
やっとこさ生徒達は王国へとつき、心の底から安心を迎えた。
また、昨日まで姿を消していたアーデンと恵里は、王国へ着くと何事も無かったかのように混じっていたが、現状から騒がれる事は全く無かった。
勇者は別だが、龍太郎の監視が厳重な為、動くことがままならなかったらしい。
とはいえ、今回王国に戻ってきたのにはただの休暇等ではなく、とてもあの状態で訓練を再開など出来るはずもなく、生徒達のメンタルケアも兼ねて宿泊地も飛ばし、王国へと戻ってきたのだ。
それと同時に、ノクティス、ハジメの奈落行き。そしてイグニスが救出に向かった事の報告もしなくてはならない為、王国の帰還は絶対であったのだ。
とまあ、ここまでは綺麗事のように事が過ぎ去って行ったのだが、問題はここからだった。
「報告ですが…此度の迷宮訓練での緊急事態にて、2名の行方不明者、及び救出に向かった者が1名おります」
王国の連中は失踪者と聞いてどよめいたものの、その人物がハジメ、ノクティスであると聞いた途端に、安堵の息を漏らしたからだ。
「一人は南雲ハジメ。もう一人はノクティス・ルシス・チェラム。そして救出者がイグニス・スキエンティアであります」
「なんと…それは何よりであるな」
「…は?」
そこからは正に地獄絵図であった。
権力者達が口から漏らすのは労いの言葉なんて綺麗なものではなく、無能と決めつけられたハジメと、度々強力すぎる謎の力を発動させていたと断定され、不気味がられていたノクティスが失踪と聞いて安堵する声、そして彼等を罵倒する者ばかり。
ハジメには神の使徒でありながら才の無い事を罵られ、
ノクティスに至ってはそれだけの力を持っていながら味方一人も傷付けずに済ませられなかった事を罵倒されるばかり。
いやはや、全くもっておかしい話である。
ハジメが無能。それは全くのお門違い。
彼の勇気ある行動。そして彼の機転の効く頭脳によって、どれだけの人達が救われた事か。
彼の活躍は無能等ではなく、寧ろ英雄として讃えられるべきものだ。
ノクティスの力不足。そもそも、転移者に戦闘を任せっきりにしている者が完璧を他者に求めるのもおかしな話である。
ノクティスのあの力がなければ、今頃勇者一行は2体のベヒモスの餌となって腹の中をさまようことになっていただろう。
メルドはその事を何度も説明した。今回の帰還は彼らの行動があってこそのものだと。
だが、まるでそれを認めるのを都合の悪いことだと、事実をねじ曲げる様に悉く意見を突きつけてくる。
ではなぜ勇者達の帰還がこんなにも遅れたのだやら。
活躍したのなら全員を守って当然やら。
そもそも救出に指導者が出向いてる時点でお涙頂戴の芝居なのでは無いか、とイグニスの行動さえも否定される始末。
好き放題言われ続け、雫は思わず手を出してしまいそうになる。が、グラディオラスに拳を握られて横に首を振られた事により、行動を控えてじっと耐え始める。
最初は抗議をあげようとしたが、グラディオラスが愚痴を零していた貴族の何人かを眼光で貫いて黙らせていた為、大人しく引き下がることにしたようだ。
また、偏見の正義感が今回は上手く働いたのか、その様子を面白く思わなかった勇者はその事を激しく抗議する。
流石に勇者直々に激怒されると思わなかった権力者達は、すぐ様謝罪及び罵倒を上げた者達の処罰を言い渡した。
しかし、グラディオラス達からすれば勇者の抗議にも不満があり、彼の脳内ではどうも、三人は死亡した扱いの様なのだ。
メルドが行方不明と救出と話したにも関わらず、
貴方方がそんなでは死んだ三人も報われないだとか、
彼らの最後の意志を無駄にする気かとか。
咄嗟にそのねじ曲がった反論にまた反論を重ねようとするが、権力者達は此処でも小癪な抵抗を見せ始め、
突然勇者の事を失った仲間、しかも無能等にも手を差し伸べる優しき勇者と褒めちぎって反論を無くさせ、
罵倒を撤回する素振りを見せつつハジメ達の評価は変わらないという、勇者の口封じの為だけの暴挙に出始めたのだ。
この収集がつかなくなり始めた状況にはグラディオラスも流石に行動に移すしかなく、
先ず間違った情報を垂れ流す勇者(無自覚)を咎め、
その後に
「これ以上俺達の生徒の勇気、そして意味のある行動を汚そうとするなら、生徒達のこれからの行動を考えさせてもらう」
と行き過ぎずの脅しをかけたことによって、やっとこさ権力者達の不審な動きは終止符を迎えた。
神の使徒である以上、全ての使徒が行動不可になるのは避けたいのだろう。かといって、彼らはエヒトが直々に召喚なされた偉大な使徒だと考えている。
手荒な真似は出来ないのだろう。
個人的にグラディオラスを暗殺すれば済む問題だと考えた者も居るのだろうが、雰囲気を見るに、グラディオラスとそれに連なる者達を慕っている者も多い。
彼を殺せば多くの生徒達が離脱する事も考えたのだろう。
あまり相手側も下手に動く事が出来ない事を理解したグラディオラスは、これからの武器として扱おうと心に決め、最後に暫くの生徒達の休暇を出す事を取り付けて発言を終わらせた。
尚、ここまでの間に名前が出た者以外の生徒達は一切口を開くことがなかった。
鈴を含めた何人かはグラディオラスと雫と同様に抗議をしようとしていたが、それ以外の生徒達は我ここに在らず、と言ったように現実逃避を行っていたようだ。
また、彼等はノクティス達を奈落に追いやった誤爆についても何も口を出さなかった。
メルドが報告の一環として、放った魔法の中に1弾だけハジメ達へ向かった魔法弾がある事は知れ渡った為、話題を切り出す必要は無い。
にも関わらず、誰もその事について話そうとはしない。
あの時は魔法の嵐が巻き起こっていた為、誰の魔弾がそうなったのかなど分かりもしない事だ。
だからここで下手に出れば、自分達が処罰の対象になる事を恐れたのだろう。
グラディオラス達は、これ以上下手に出ればノクティス達へも影響する事を考え、一旦は出しゃばるのはよした方がいいとしてここで本当に報告会は終わりを迎えた。
「貴方が知ったら…なんて言うかしら…」
そして現在に戻る。今も眠り続ける香織の前にて、手を握りながらずっと目覚めを待ち続けている雫。
そして、事の有様を知ったらこの眠り姫は何を思うのだろうか。
その恐怖が拭えないでいた。
いや、きっと恐怖はそれだけでは無い。
プロンプトからも指摘されたのを含めた様々なモノが渦巻いて、彼女を苦しめている。
握る手の逆手が拳をつくる。ワナワナと震えて恐怖を逃がそうと働いている。
1人で抱え込むようにしているその姿は、誰が見ても無理をしているように見えるだろう。
その彼女を前にしても、グラディオラスは動揺すること無く、何時ものように雫の肩を軽く叩く。
それだけで、彼女は気持ちが少し軽くなるような気がした。
やはり、彼女にとって彼は…。
「…ん…」
「かおり…? 香織! 私が分かる!? 香織!」
「…漸くお目覚めか」
握りしめて幾つ時間が過ぎただろう。
眠り姫はやっとその重い瞼を上げ、何も知らないような輝く瞳を顕にする。
「ん…しずく…ちゃん?」
「えぇ、そうよ。雫よ。香織、体調はどう? 長い事眠りっぱなしだったから…何処か具合が悪かったら言ってね」
「…うん。平気。それにしても、長い事眠ってたんだ…。どのくらい? …いや、えっと…」
段々と思考を巡らせているその様子に、何処か雫は焦っているみたいだった。
そして、まるでひとつの結論が認められないように、香織の焦点が段々と合わなくなってくる。
予想通りだと言わんばかりに、雫は香織の思考回路に埋め尽くされてるであろう結論から逸らそうと、会話を投げようとする。しかし、
「そうだ…。私迷宮で…それで…あれ? …南雲君は?」
「…っ!!」
香織の結論が見出すまでの時間の方が圧倒的に速かったようだ。
そこから彼女は取り乱すように見渡し、焦点の合わない目をじっと雫に集中させて訪ね始める。
「雫ちゃん。南雲君はどこ? 何処にいるの?」と。
まるで隠されたおもちゃを必死に探す子供のように。
まるで縋るものを無くした哀れな子のように。
「嘘…だよね? そんなの嘘だよ。だって約束したもん。絶対に私が守るって。あの時化け物が2体も現れた時だって、ちゃんと私が守ってたもん。だから南雲君は無事だよね? ここに居るよね? ねぇ…なんとか言ってよ雫ちゃん。訓練場かな? 南雲君は。ノクティス先輩と一緒に訓練でもしてるのかな…。そうでしょ? だったらお礼…言わないと…」
「…香織!!」
どたっと鈍い音を立てて膝から崩れる。咄嗟に2人が支えるが、それでも香織の足は止まることをしない。
拘束を振り切る為に力を振り絞るが、2人に抑えられてはどうしようもない。
ただ赤子のように暴れるのみ。
「ねぇ…香織。聞いて」
「嫌…」
「違うの香織。よく聞いて」
「嫌よ…何も聞きたくない…南雲君に会うまで何も聞かないもん」
「香織…!」
「嫌ったら嫌ァ!! 違うもん! 南雲君は絶対に居る! だから違うの…!! 死んでなんか」
「落ち着け白崎!!」
ビクッと身体を震わせる香織。自身でかなり取り乱していた事を自覚した様だ。
グラディオラスの呼び掛けによって、少しだけ話を聞ける状態になった所で、雫が再び香織に告げる。
「…ごめんね。雫ちゃん。少し…うぅん。かなり取り乱しちゃった…」
「…いいえ。誰もそうなるわよ。
改めて言うわね。南雲君は奈落に落ちたわ。でも、イグニス先生が助けに向かってくれてる」
「…え?」
光を失いかけていた瞳に灯火がともり始める。
友人の口から聞きたくもない言葉が紡がれたかと思いきや、それに対抗する希望をも話され、唖然としてしまう。
「お前と同じように、イグニスもアイツらの生存を信じて疑わなくてな。飯に困らないから~とかの理由をほざいて飛び込みやがったんだ。全く…友人ながら無茶する奴だぜ」
「…そう、なんですか。先生が…」
「あぁ。なんでも、畑山先生と約束したらしい。全ての生徒を守るっていうな。
だから、残りの生徒を俺達に任せて、アイツらを救いに行ったんだ」
そこまで言うと、香織は徐々に瞳を潤わせ初め、頬に一筋の雫をこぼし始めた。やがて滝のように流れ始め、
心から安堵、そしてイグニスへの感謝の念でいっぱいになり、心のダムが決壊したようだ。
「そっ…か…よかっ…た…」
雫はそっと抱きしめ、彼女が泣き止むまで背中をさすり続けた。
その日の夜。
またもや皆が寝静まった訓練場にて、一つの素振りの音が木霊していた。
その正体は木刀。そしてそれを振るう人は雫だった。
彼女は、昼の泣き続ける香織の背中をさすり続けたそのあとの夕日。
その後の状況を話した時の香織の表情を思い出しながら刀を振っていた。
『そう…なんだ。王国の人も…誰も南雲君にそんな事を…』
『…許せないか?』
『…うん。だって、南雲君達がああしてくれなければ、今私達は此処に居なかった…。なのに…こんなのあまりにも酷すぎるよ…』
『…香織は、香織はどうしたいの?』
『…決まってる。南雲君が帰ってくるまで、私も強くなる。それで…南雲くんが帰ってきた時に、今度こそ守れるように…そして…皆を見返してやるように…だから2人共』
『なに?』
『なんだ』
『力を…貸して下さい』
『…勿論よ』
『おう。待つ者同士、協力し合おうじゃねェか。そんで、帰って来たら気が済むまでぶん殴ってやろうぜ』
『あはは…それはやりすぎじゃないですか先生…
でも…帰ってきた時は、いっぱい泣いて、いっぱい話して…
おかえりって、言ってあげたいです』
最後の一言の香織の笑顔が頭に浮かんだ時、雫はより一層鍛錬に力を入れた。
(あの時…香織は一切の迷いがなかった…
ただひたすらに、南雲君も信じた先での言葉を放ってた…)
その笑顔が、決意が眩しくて、
雫は力む程に腹正しかった。香織にでは無く、
それを黙って見てることしか出来なかった自分に。
(香織はあんなに弱っていたのに…それでも1つの信念を曲げる事は無かった…眩しかった…。
それなのに私は…!)
更に身体に力が入る。最早振る以外に動作が働かない。
ただ空間に力の籠りすぎた一撃を、やけに放っていくしかない。
その度にまた不甲斐なさを感じて、力が籠る。
その繰り返しをし続けた途端だった。
「オイオイ…力み過ぎだ。そんなんじゃ鍛錬にもなんねぇだろうが」
「…!!」
ぴたり、と刀が前へ動かなくなる。
手元を確認すると、丸太のような腕が刀を静止しており、辿るとグラディオラスが立っていた。
「…すみません。起こしてしまったでしょうか」
「いや? 丁度俺も手が空いた所だったからな。丁度いい」
えっ…と言う言葉をあげる前に、なんの算段なのか自分の対面に訓練用の木製の大剣を携えながら立ちはだかり始める。
改めて立ちあうと巨大で、自分が三人は丸々埋まってしまうのでは無いかという感覚に包まれる。
「相手してやる。鬱憤が溜まってんだろ? だったら発散、手伝ってやるよ」
「! いえ、でも…」
「プロンプトにも言われたろ? 今のお前、危なっかしいんだよ。
て事で、少々手荒だが行くぜ!」
「えぇ!? ちょっと!!」
問答無用という猛激を必死に耐えたり躱したりしながら、突如として始まった戦闘を乗り切ろうと始めていく。
大振りな得物のため、どうしても動きが重めになるのを知っているからか、出来るだけ背後に回るように立ち回りながら攻撃を繰り出していく雫。
だが、どういう訳かグラディオラスの立ち回りは尋常でなく、回り込んだつもりでもいつの間にか体を吹っ飛ばされており、中々一撃を当てるのすら難しかった。
特に、今の雫であれば。
どんなに連撃を繰り出しても、まるで歯が立たないように全て打ち消されてしまう。これはもう、武器のせいには出来ない程に。
それに比べ、自分はグラディオラスの攻撃を嫌になるほどくらってしまう。飛んでは撃ち落とされ、回り込んでは吹っ飛ばされ、居合いになってはねじ伏せられ、距離を取れば詰められてねじ伏せられ…。
「どうした八重樫! いつもの半分も力が出てないぞ!そんな調子で白崎に力を貸せるのか!!」
「…!」
煽りによってスイッチが入り始めたのか、先程よりも攻撃に腰が入るようになった。
簡単に弾かれた攻撃が押し返せるようになり、背後に回った場合でも背中付近までに刀を持ってけるようになり、相手の猛攻も防げるようになっていった。
だが、そこからはその猛攻仕返しのリターンの連続だった。
うち返せても、攻撃を逆に当てることは何時までも出来ずに、模擬戦はグラディオラスの号令によって終わりになってしまった。
そして、静まり返った訓練場にて座り込んだ2人は、本題に入り始める。
「ふぅ…やっぱ体を動かすと汗ばむなぁ…ってそれどころじゃねぇな」
「…」
「どうした。迷宮から帰ってきてから…いや、トータスに来てからか」
「! 気付いて…たんですね…」
「そりゃあな。あんだけ人にしがみついてりゃ、検討もつくわな。そんで、南雲達が奈落に行ってからその不安に拍車がかかったと」
図星、というように雫は俯き始める。
途端に、雫の作ってきたしっかり者としての顔が崩れ始めていく。
「…本当は怖いのを我慢もしてたんです。
戦争に参加する事も…本当は逃げ出したかった。
だから、正直園部さんが別の道を作ってくれた時…そちらに行きたかった。
でも私は、光輝の幼馴染だから…彼の間違いを正しながら元の世界へ帰るために…そして…
貴方の背中を追いたくて、強くなりたくて戦う道を選びました…。
だから状況を良く判断しようとしてたし、アイツらがバカやらかそうとしたら…怒鳴ってでも止めようとした…。
けど、結局私の声は届く事がなくて…
それどころか…南雲君やノクティス先輩が行方不明になってしまって…彼等の罵声にもただ怒鳴る対応しか思いつかなかった…。
…結局私は臆病なだけだったんです…。ただ強くなりたいだけのに、正当な理由を付けて…。
あの時、ベヒモスに挟まれた時も…刀を持ち上げる事も出来ずに絶望する事しか出来なくて…。
私も…皆と同じく現実逃避を繰り返して…自分はしっかりしていると自分自身に暗示をかけていたに過ぎないのだと…!
そう思ったら…心の中のモヤモヤがどんどん大きくなって…。
それに比べて香織は…あんなに打ちのめされかけたのに、泣きじゃくって混乱していたのに…南雲君の無事を誰よりも信じていた…。私からしたら…眩しかったんです…。
…不甲斐ないと笑いますか…? 先生…」
「…」
グラディオラスは少女の叫びを静かに聞いていた。
常に強くあろうとしていた少女は、この迷宮の出来事で見るも無惨に叩きのめされてしまったのだ。
幼馴染の行いを正そうとするも叶わず、
しっかり者であろうとしても手を差し伸べることもままならず、
慕う者の背中を追い求め強くなろうとも、心の刃を折られてしまい、
友人の光り輝く姿と対照的に感じてしまった自分を卑下していた心に、とうとう限界が来てしまったのだ。
止まらない叫びを伝え終え、オルゴールの終わりのようにピタッと語る事を止めた雫は、虚ろな目で地面と睨み合う。
「…全く…何で俺の回りは抱え込む奴ばっかり何だろうな…」
「…え? わ…!?」
それを聞いていた教師は、ガシガシと自らの頭をかき、
少々乱暴に空いた手で雫の頭を抱き寄せた。
「あのなぁ…そーやって1人でどーにかしようとすっから自爆しちまうんだろうが。
暴走勇者を抑えられねぇ? 少なくともお前の度々の説教があったから行動を抑えられてる部分もあると思うが?
誰にも手を差し伸べられなかった? 馬鹿言え、お前の存在はその光り輝いてる白崎からすれば居るだけで手を繋ぎあってるもんなんだよ。
2人が行方不明になってしまったからって卑屈すぎだテメェも。
憧れの背中を追っても強さが追いつかずに心が折れた? 少なくとも自分を役立たずだと罵ってる内は強くなれねぇよ。お前はその土台に立ってねぇだけだ。
憧れを追い求める前に自分自身と向き合ってからにしとけせっかちが」
「え、あ、その、え…?」
厳しくも、自身を突き放さない言葉一つ一つに、狼狽してしまう雫だが、耳だけはしっかりと、どんなに狼狽えても彼の言葉を受け入れ続けた。
「あのな…俺から言っちまえば…今のアイツらは全員大馬鹿野郎共だよ。
人の話はロクに聞かねぇわ…反対意見を信念を持って押し切ったフリして後になって嘆き散らして考えを放棄しやがる奴ばっかだしよ…オマケにリーダーが猪突猛進型の阿呆と来た…。
頭痛まっしぐらだっつーの。
けどお前はよ、どんなに後悔しようが、折れそうになろうが、弱音を抱えながら必死に耐え抜いてきただろうが。まぁ抱え込みすぎてこうなってんだろうが…。
だから今度は、その溜め込んだ物を身近な奴らに吐き出しながら歩んで行けよ。
そうしたら、お前が悩んでいる物一つ一つが消化されて、背中にも追いつくんじゃねぇのか?」
辺りに甲高く短い声が木霊し始める。発生源はグラディオラスの胸の中。
溜めてるものを吐き出せというグラディオラスの言葉に、本当に全てを、身体が勝手に出してしまおうと働きかけているようだ。
「っわた…しの…今までの…行動…は…無駄じゃっ…なかった…んです…か…?」
「寧ろどうやったら無駄に感じたんだよ…。お前がいなかったらあのクラスの均衡感覚が一気に崩れてたんだぞ…? 良くやってるよ。八重樫は」
「…私は…! わた…しは…!!」
「おーおー、良く頑張ったな。気の済むまでそうしろ。頑張り屋」
もう、彼女を拒む壁は存在しなかった。
昼間の香織のように、或いはそれ以上に声を震わせながら、彼に抱き寄せられた中で泣き続けた。
その日の夜は、いつもに増して、潤いを纏っていた。
番外編で、転生後のルシスの皆とヒロイン達の出会い(+α)を書こうと思っていますが、特に見たいのは誰でしょうか。人気順に書いていこうかなと思います。
-
プロンプト×優花
-
グラディオラス×雫
-
イグニス×愛子
-
アーデン×恵里
-
ノクティスとの日常side