静まり返った夜の町。その闇に紛れるように2人の男女が、へっぴり腰で逃げ惑う人を無様そうに見下ろしていた。闇と比例するように、その双方の瞳はどこまでも薄暗く、そして残忍な目付きをしていた。
「ねぇねぇ、先生ぇ。良かったの? アイツ、始末しておかなくて。絶対大した役にも立たないし、こっちが弱みをチラつかせたら何するか分からないよ?」
その目を外すこと無く、少女の方がやや不満げな声色を口の動きに乗せて奏でる。それはかなり不服を宿しており、半端な理由では納得のいかない事を主張していた。
男はその不満すらも理解していたかのようにさわやかに、されど冷酷に告げる。だからこそだと。
「俺が役に立つ奴をあんな扱いにする訳ないでしょ? だってあの子、あーでもしない限り言う事は聞かないし、悪巧み以外の成績が良いとも思えないしねぇ。まぁ、情報収集くらいの役に立てば良いかな」
「えー。じゃあ優秀な子に頼めばいいじゃん。例えば僕とかさぁ」
「生憎と自分で自分を立候補しちゃうような奴に任せられないよ。だって君、不都合な事があったら殺しちゃいそうじゃない」
「ひどーい! 僕だってちゃんと考えて行動するからそんな短気な事しないもん! 先生の不利になる奴なら考えるけど」
「…ホントそう言う所なんだよねぇ。君は」
呆れてそれ以上追求するのを止めたアーデンは、まだ納得していない様子の恵里に諭すように真の目的を告げる。
「俺は元々利用出来るものは何でも利用する主義なんだァ…。まぁ、皆大好き、愛ちゃんセンセー…だっけ? 彼女と一丸となってる生徒達を巻き込むと、後々容易ではないことぐらい想像がつくし、かと言って初対面の奴らを利用するにしても、尾ひれに何がついてるか分からない。けど情報不足。手詰まりな訳なの。俺達は」
「うん。それはわかるよ? センセーも愛子先生の事をそれなりに買ってたのは見ててわかるから。凄く不愉快だったけど」
「あーはいはい。話を脱線させないさせない。後で話は聞くからさ。
…まあ一応、俺達も下手には動けないわけ。けれどさ…
表沙汰になったら間違いなく首を跳ねられる奴なら、ある程度は使えるんじゃない?」
「! へへぇ♪ センセーも中々エグい事考えるねー。益々惚れ惚れしちゃうなぁ」
勇者であれば間違いなく逆鱗に触れるであろう発言を、2人は名案のように話の台に乗せていく。それはもう、戸惑いの欠片も見せずに。
アーデンはまるで、それが当然だと言わんばかりの開き直った顔つきでたんたんと話を進めていく。
「でもさー、一応ヤバいことしてるやつだとは言っても、周りは擁護しそうな位置の奴じゃない? 少しセンセーにしては思い切りが早すぎるんじゃない?」
恵里は疑問であったのだ。いつもは捻りに捻って結論を出すアーデンが、何故こんなにもはやすぎる段階で決断したのか。相手は幾ら腐りに腐ったやつだと言えど、立場的に下手に手を出せば良くない方向へ走り出す奴だ。迂闊には動けないと踏みとどまるはずなのだ。
なのに、何故。
「あー…やっぱそうなる?」
「うんうん。まぁ、そんな先生も好きなんだけど♪」
「まぁ、あれだよ。『スルーされた!?』だってあの子、どっちみち後戻り出来ないじゃない? 確かに今はまだ身を隠せるけど、ノクト達が帰ってきた時、それを保ってられるかな?」
「あれ、もしかして信頼してる?」
「信頼? 俺が? まさか。ただ俺はアイツらの事をよく知ってるから、そう思ってるだけさ」
吐き捨てるようにそう呟いた彼の眼は、光を宿しているような、無理やり闇を纏っているような、複雑な色をしていた。そのただならぬ色に恵里は少したじろいだものの、全てを理解したかのような微笑みを浮かべてそれを肯定する。
あくまで、何処までも惚れ込んだようだ。
「へぇー。なーんだ。僕こそが早とちりしてただけかぁ。先生はやっぱりきちんと考えてるんだねぇ。感心感心♪」
「どうせ腑抜けた事を言っても評価が上がる癖によく言う口だね。君は」
「あ、やっぱり分かってスルーしてたね…。…まぁいいや。僕を楽しませてくれたことで無かったことにしてあげる。…でも先生。それだけの理由じゃないよね?」
「あ、やっぱりバレる?」
「そりゃそうだよ。だって先生。アイツを見る時の顔、あの偽善者よりも怖いからね?」
「…まぁ、そうだろうねぇ。だって…
俺、アイツみたいな奴が一番大っ嫌いだからさぁ。」
ここまでで最高級にドスの効いた笑み。それに対しての恵里の顔は、いつもにも増して惚れ惚れとしていた。
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時は戻り、奈落の奥底にて。
二羽の力を借りたノクティスとイグニスは、今までの行動速度が嘘みたいになるほどの速さで先を急ぐ事が出来ていた。何せ、チョコボは速いだけでなく、怪しい所を瞬時に見抜いて背中の彼らを導いて行くのだ。謎の声の主はとてもいい働きをしたものだ。
それに戦闘面でも、
「邪魔だァァァァァァァァ!!」
「クェェェェェェェ!!」
『グァガァァァァァァアォァ!?』
「ノクトォ…! 面倒なのは分かるがチョコボで蹴散らすのはどうなんだ…!? そしてチョコボものるな…!!」
今までは邪魔をされたくないがために殲滅する必要があった怪物達も、チョコボが強烈なタックルや蹴りを繰り出しながら押しのけていくのだ。普通であれば引かれるような行為だが、チョコボも乗り気なため、下手に口を出すことは危うい。
「クエ!」
「何? お前もやりたいのか!? 待て、不用意に突っ走るァァァァァァァァァァァ!!!!!」
「はははは!! イグニスのやつ、合わねー悲鳴上げてるわ! なんか新鮮だわ!!」
「クエ!クエェェェ!!」
駆け抜けながらどのようにしてイグニスの光景を見たのやら。余程気に入ったのか、駆け抜け終わってからもその事を必要以上に引き合いに出すノクティスは、後々不貞腐れたイグニスの機嫌取りをしながら下へ下へと進んで行った。
そうして振り回されるように進み続け、チョコボが反応を示したのが、余りにも大きすぎる雑草を備えた草原のような地帯だった。
その巨体の草を前に、虫がダメであるノクティスは間から沸くことを恐れて躊躇ったが、仕返しの如くイグニスがノクティスのチョコボに促し、ジェットコースター時の様な悲鳴の伸びが響き渡った。
と、その悲鳴に混じるように。
シャァァシャァァァと何か蛇のような声が、まるでノクティスの声に復唱するかのように辺りに聞こえてくる。
それはまるで、獲物を見つけたかのような。
しかし、それらしき姿はノクティス達の元へは現れない。寧ろ、遠ざかっていると言っても過言ではないのではないか。段々と、吸い込まれるように、その声も小さく、か細くなっていく。
「…なぁ、これって…」
「あぁ。チョコボ達も反応している。これは、先客のピンチ…だろうな」
冷静に聞こえ、遠ざかる声を分析する二人。その2人の決断を先取るように、チョコボが地を蹴り飛翔する。
目的は、求めてた再会へ。
と、行かせないのがこの迷宮の性癖なのか。
「何でこうなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
追う側は、追われる側へと激変する。ノクティス達が求めてるものへ辿り着くはずの手がかりは、自らを滅ぼさんとする凶器へと変貌してしまったのだ。
チョコボの足音がかき消されるような乱暴な地を蹴るリズムが、ドドドドと音を立ててノクティス達を四方八方から追い込む。
こうなった理由は単純、ノクティス達はただただタイミングを間違えたのだ。音の正体に追いつく頃には、正体の目的は既に消失しており、新たに現れた自分達こそを新たな獲物として認識した。
故にこの有様なのだ。
「チッ…消してやる…! 力を貸せ、夜叉王!!」
面倒に感じたノクティスは、対複数に有効な複製剣を率いる夜叉王の刀剣をその手に召喚し、剣の嵐を群がる化け物共に差し上げる。
嵐によって起こった血しぶきはやがて踊りを踊るように別々の無事な個体を巻き込み、雪崩のように軍隊が崩れていく。しかし、それでも意地のあるやつはおり、それらを踏み越えて口を開け、ノクティス達を捕食しようとかかる。
「多すぎだろ…!? どんだけいやがるんだコイツら…!!」
「相手は後にしろノクト! チョコボが気配の居所を掴んだ! あの切れ目へ向かう事に専念しろ!」
軍師は素早く目標を指さす。その先には、カパッと口を開けた縦割れの洞窟だ。この生い茂った木々を抜けた先にだらしなさげに待ちわびるその中に、微かながら生きる者の力を感じた黄色き鳥の仲間は、導くその足を、羽を駆使して全速力を出し切った。
裂け目へと近づいた彼等はその身体をそのまま裂け目へと入れようと走り続ける。しかし、近づきよく見た裂け目は、謎の凹凸のようなもので塞がれていた。チョコボは咄嗟に突撃を停止し、困ったように鳴き声を上げる。
「クェェェ…」
「これは…ハジメの錬成か!?」
「ふむ。どうやら、此処の切れ目から彼らも下へと進んだのか。そして、魔物の追手から逃れる為にこれを作ったか」
「でもこれじゃ俺らも入れねぇな…力づくで壊すか?」
「しかし、中の南雲達も巻き込まれるのでは…?」
「…ぐっ…」
あと一歩の所で思わぬ足止めを食らってしまった二人は、必死に打開策を頭に浮かばせていく。しかし、考えることさえも邪魔するような煩わしい足音がズンズンと近付く。
すると、
「クェェェェェェェェェェ!!」
「クェェッッ!!」
「! おい!」
「何を…!?」
2人の苦悩を察知したかのように、二羽の勇士たちが自らを見ろとばかりの挑発をし、ノクティス達から魔物を釘付けにして遠ざかって行く。
どういう訳か、ノクティス達には一切の興味を失ったように魔物達はチョコボを血眼になって追いかけていく。
そのチョコボ達の口には、魔物を誘うような魅惑の料理が加えられていることにイグニスは気付いた。
「…どうやら、時間を稼いでくれるみたいだ。…全く、勝手に余り物を取ったからにはお仕置をしなくては」
「…!」
「ノクト。確かに俺が出した不安だ。だが、あの子達が作ってくれたチャンスだ。逃す訳には行かない」
「…必ず戻って来いよ…。…ハァァ!!!!」
青いオーラに一瞬包まれたノクトは、糸を切るように力を解放し、ありったけの剣戟を突き、錬成物を壊す。そして、周りの魔物の様子を確認すると、中へと足を進めて出した。
中へと侵入すると、一つの存在向き合うようにしていた2つの存在の図が目にはっきりと映る。その中のひとつも、ノクティス達の記憶に当てはまる人物は一見見当たらない。しかし、銃をおもむろに2つの存在へと向け、何かを呟く男に対して、なんの躊躇もなく声を上げ、応戦の合図を広げる。
「ハジメ!!!!」
「…っ!」
呼びかけた声に過剰に身体を跳ねさせ、思考が停止した男に変わり、ノクティスは一刀両断するように闘王の刀を、二つのうちの一つの植物状の女形モンスターへと無慈悲に振るう。
断末魔を苦しげに発しながら消えていくモンスターを他所に、どこか呆けている男を心配するように金髪の女性とノクティス、そしてイグニスが近寄っていく。
「…随分と姿が変わったな。ハジメ。でも、ちゃんも見つけられて良かったわ」
「…誰? ハジメの…知り合い?」
「いや、お前こそ…違ぇ違ぇ。いきなりで悪ぃな。俺はノクティス。コイツの先輩だ」
「俺はイグニス。南雲の…俺の場合これは伝わるのか?」
「普通に先生って言えば伝わんじゃねぇの?」
「…! ノクティス…イグニス…って…」
彼らの正体に僅かに思い当たる節があるのか、金髪の女性は目を見開いて白髪の男…ハジメを心配そうに見つめる。
当人は感情のわからないように顔を下へと向け、ワナワナと身体を震わせている。その瞳には、果たして何を宿しているのか。
「直ぐに合流出来なくて…悪かった。ハジメ。けど、これからは隣で戦える。…一緒に帰ろうぜ?」
「…俺も、教師の身でありながらお前に手を差し伸べて、引き上げることすら出来なかった。それを償えるなら、共に背中を預けさせて欲しい」
震える以外に行動を示さないハジメに対し、二人は優しく、そして落ち着けるように語りかけながら手を差し伸べる。その行動に、ハジメがとった行動は…
銃音が辺りに響き渡った。湧き出る赤の音がやけに生々しく、また驚きを隠す事が出来なかった。
「…ハジメ?」
ノクティスは突如としてのハジメの行動に目を丸くする事しか出来なく、やっとの思いで口にした言葉は、銃音の残りで乗せられて行ってしまった。
「…い…ら…」
「…? な、ぐも…?」
「今更…何しにきやがった…」
「っ!」
「共に戦う? …肝心な時に居なかった癖に、何を馬鹿な事を…」
「…ハジメ、話を」
「聞く必要なんて無いだろ。
聞いて何になるんだ…?
もういいから…
俺の前から、消えてくれ…」
アーデンの、それ以上の荒んだ眼を、乱暴にノクティス達から背け、慌てたように後を追う金髪の女性と共に、荒れ果てた様子のハジメは先の闇へと姿を消した。
「…ハジメ…」
背後より香る、血の匂いだけが、その場を収めるように広がりきった。
ハジメは原作と現在違っておりますが、あの時ハジメの前に現れた奴がめちゃ関わっております。
ここからどうなる事やら…。
番外編で、転生後のルシスの皆とヒロイン達の出会い(+α)を書こうと思っていますが、特に見たいのは誰でしょうか。人気順に書いていこうかなと思います。
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プロンプト×優花
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グラディオラス×雫
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イグニス×愛子
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アーデン×恵里
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ノクティスとの日常side