ノクティス達のガチ戦闘まではあと2、3話かかる場合がございます。もう暫くお時間を。
それでは、どうぞ。
「それはどういう事かな? 園部さん」
まさに今、勇気をだして考えを伝えた優花に、これまた恒例行事の如く突っかかる勇者。プロンプトの後押しは、彼女にとってどれほどまでに効果を発揮しているのかがわかる。昨日までの悩んでいた姿は一切感じられない。
「言葉通りよ。私は正直言って、この戦争に参加する程の覚悟も何も無いし、責任だってとれる自信が無い。
それに、本当は私のと同じ気持ちの人だっている筈よ。それを誰かさんが、無理矢理にでも潰したせいで、動けずにいるだけで」
何人かが心当たりがあるとばかりにぴくりと体を跳ねさせる。ここまで来ればもう一押しだ、とばかりに、一気に畳み掛ける。
「いい? 此処で私達が戦いを拒否しても、それは逃げじゃないと思うの。だって、責任が取れないことを無理にでも進める方が、その方が余っ程カッコ悪い気がするわ」
愛子は、優花の演説にポカン、と口を開けている。が、それは嬉しい誤算で、すぐに口の形をにっこりと笑いに変えた。
「だ、だが、この世界の人達はどうするんだ!? 皆で…」
「あんたは直ぐに、都合が悪くなるとこの世界の人達を引き合いに出すけど、それこそ脅しじゃないの?」
「は?」
「だって、そうでしょ? 本当は今にも人を殺す事を浮かべて、震えてる人だって居るのに、口を開けばこの世界の人が、皆で力を合わせればって。そんなの、一緒に戦わなければお前は卑怯者だって言ってるような物じゃない」
アーデンはこの言葉ににっこりとご満悦。あんだけ自分を悪者に仕立て上げたのに、まさかの勇者自身が脅してるじゃないかと、そんな事を言われればアーデンの性格上、笑わずにはいられない。
「ち、違う! 俺はそんな事…! そ、そうだ! アーデン! お前だな! まさかお前が園部さんを洗脳して、こんな事を言わせてるんだな!」
「えぇ? また俺? 嫌んなっちゃうなぁ。」
「惚けるな!! 皆を教え導く教師でありながら、なんて事をする!!」
「なんて事をしてるのはあんたでしょうが!!」
勇者は怯むしか無かった。自分はあれだけ園部さんを考えている つもり なのに、何故か悪いハズのアーデンではなく、自分に矛先が向けられてるのだから。
「アンタこそ何なのよ! その教え導く教師の4人の意見を全く聞かずに、勝手に話を進めたくせに!愛ちゃんがどれだけ自分を責めたか分かってるの!? こんな時ばっかり理想を口にするの止めてよ! お願いだからアンタは黙ってて!」
「うっ…」
完全に勇者は勢いを失った。だが、それでも反論しようと必死に言葉を考えていると、これまで何も言わなかった雫が、彼に向かって意見を述べ始めた。
「光輝。もういいでしょう。園部さんの意見を通してあげても。…本当は貴方が決めるべき立場ではないけれどね」
「し、雫。き、君はどうなんだ? 俺と一緒に、世界を救ってくれるだろ?」
「全く…また論点がズレてるわよ。
私は、そんな理由じゃないわ。ただ、ある理由の為に強くなりたいだけよ。今のままだと、心も身体も弱すぎるから。それだけ」
自分と同じ様に考えてくれてると思っていた雫にまで口を挟まれ、今度こそ、勇者は沈黙した。と言うよりも、これ以上余計な口を挟むならタダじゃ置かねぇ、といったグラディオラスの鋭い視線に気圧されたのもあるので、させられたといった方が良いだろう。
やがて、優花の言葉に背中を押された何人かが、手を上げる。
その人物は、宮崎奈々、菅原妙子の2名だった。彼女達も、愛子のあの状態を見て、自分達は果たしてこのまま行動を進めても良いのだろうか、と思い返し、このような決断をしたのだった。
「そう、取り敢えずは2人…か。今のままがいいって言うなら私は何も言わない。けれど、まだ潔く言いたい事を言えないままにしているなら、包み隠さずに申し出て欲しい」
愛子も、自分の中で言いたい事が纏まった様で、優花に続いて自分の想いを語る。
「言いたい事は殆ど園部さんが言ってくれましたけど、私からもお願いです。多分、私が何を言っても、意見は変わらない人達もいるかもしれません。
ですが、後からでもこの戦争に参加したくない、と考え始めたら、迷わずに先生を頼ってください。私は生徒を見捨てるなんてことは絶対にしません」
結局これ以上動く人は現れなかったが、この時の愛子の発言は、後にある生徒達の心に届く事になるのだが、この時はまだ何も知らずにいた。
「あー、すっかり討論になってしまったが、最後にお前さんたちのプレートも見せてもらって構わないか?」
「あぁ、その点についてこちらも聞きたいことがある」
一悶着が着いた後、ノクティス達はプレートの異常についてをメルドに相談したが、結局分からないで終わってしまい、自分達で少しずつ解明していくしか道は無くなってしまった。
それからは、トントン拍子で日が過ぎていった。参加組は、教官の教えを参考に訓練をハキハキとこなし、非参加の3人と愛子は、それぞれ王国で何やら情報収集や、人助け等を行っているようだった。
また、イグニスと愛子はそれぞれの日程が終了した後、情報交換や、現時点のそれぞれの生徒達の様子について話していた。参加側の生徒達の話を聞く度に、胸を痛める様な表情を浮かべる愛子を、イグニスは決して見放すことなく、再び元気が戻るまで励ましながら話し合った。
ある日の図書館にて、訓練の休憩時間を利用しハジメは、この世界の事や、錬成師について、魔物の特徴など、様々な事についての知識を身につけようとしていた。
そんな様子に何も知らない人達は批判的な視線を浴びせるものもいたが、決まって特定の人物が登場すると、顔を引き攣りながら知らないふりをする。その人物とは、4人の事だが。
「よ、ハジメ。熱心だな」
「あ、先輩方。お疲れ様です」
「この本の量は…。すげぇな南雲。学校でのやる気のなさはどこに行ったんだ?」
「いやぁ、あの時とは状況が違いますから。少しでも知識を身につけておけば、何かあった時に役に立てると思ったので」
感心したようにハジメを褒めたたえ、
「誰かさんも同じ位になってくれねぇもんかねぇ。な? ノクト」
「うっせぇな。最低限はやってんだろうが」
同時に訓練中も無気力に行う事が多いノクトへの皮肉を言い出した。それをよそ目に、ここに来た本題を話し始めるイグニス。
「それで、南雲。頼んでいた物の状況はどうだ?」
「あ、はい。大体の形は出来上がってます。後は、実戦で使えるように調節すれば完成しますよ。プロンプト先輩にも手伝っていただいたお陰で、予定よりも速いですね」
「いやぁ、俺とハジメが力を合わせればそのうちミサイルでも作れんじゃないかなって思ったよ! あ、調子乗ったわゴメン」
4人は、ハジメに武器の生成をお願いしていた。彼等は、訓練時はそれ用の武器を使って行っているが、イマイチ馴染まず、このまま戦闘に向かっても上手く立ち回れるか不安を感じていたのだった。
そこで、錬成師であるハジメに、自分達の武器を頼みに来たのであった。流石に1人だけに任せるのはと、技能に武器精製特化も言うものが備わっていたプロンプトを助手に入れ、なるべく性能の良い物を作ろうとしていた。
「それはそうと皆さん、良いんですか?貴重な休憩時間を潰してまで…」
「あ? 何言ってんだよ。後輩の為にその休憩時間を使って何が悪ぃんだよ」
「そうそう、俺達がここに来たいからここに来てるんだよ〜。折角だから一緒に情報収集しない? 1人よりも皆でやった方が捗ると思うけど」
「…本当にいつもお世話になってます…」
それから、次の訓練時間が来るまで、5人で役割分担をしながら、情報を集めていた。
そして、更に何日かが経過したある日。ハジメはまた休憩時間を活用して、情報収集の為に図書館へと向かっている道中、日頃の鬱憤を晴らすようにタイミングを見計らって現れた檜山達が、行く先を阻もうと立ち塞がった。
「よぉ、南雲、どこ行く気?」
「まさか、ヲタクは1人寂しくエロ小説でも読み漁りに行くんですか!?」
「うわ、キモー。いくら発散出来ないからってそれはないわー」
「せめて休憩時間くらい俺らみたいに有効活用しててさねぇと。なぁ?」
また絡まれるのか、と呆れてため息をつきながら、素通りしようと早歩きで横を通ろうとする。
「おいおい、無視すんじゃねぇ、よ!」
「グッ!!」
思い切り横から蹴りを入れられ、その場にうずくまるハジメ。何が可笑しいのか、気持ち悪い笑い声を浮かべながら嘲笑う彼等。
「うわ弱ー! 弱すぎて話にならねぇんだけどー!」
「なぁ、厄介なノクティス達もいねぇし、ここで南雲に稽古つけてやろうぜ!」
「良いじゃねぇか! お優しい俺達が直々に教えてやれるんだ、感謝しろよー?」
「じゃあ、やろうぜ!」
それをきっかけに、ハジメをリンチにしようとそれぞれが攻撃や魔法の詠唱を始める。
が、それも直前に彼らに地獄が訪れる。
「おい、何やってんだ?」
いつものように図書館に居るであろうハジメの所に行こうとしたノクティス達が、運良くその場に現れたお陰で、ハジメはそれ以上の攻撃を受けることが無かった。
「ゲェ!? ノクティス先輩!?」
「それだけじゃねぇ、プロンプト先輩とグラディオラス先生とイグニス先生もいやがる!!」
「ねぇ、俺達が居ることの事実確認なんてどうでもいいよ。何をしてるのって聞いてるんだけど?」
「イグニス。南雲にポーションを使ってやれ」
「了解した。南雲、口を開けれるか?」
イグニスはすぐさま技能、ポーションボックスにより何処からか取り出した謎の形の飲料水を取り出し、ハジメの口へと注ぐ。すると、ハジメを襲っていた蹴りによる痛みは自然と引いていき、すっかり回復した。
「あ、ありがとうございます。イグニス先生」
「話は後だ。とりあえず下がっていろ」
イグニスに再び軽く礼を言い、彼らの迷惑にならない位のところまで下がる。
「い、いや勘違いしないで欲しいんですよ。俺達は南雲に特訓させてあげようとしただけで…」
「特訓? にしては南雲がうずくまっているにも関わらず多勢で攻撃しようとしてたじゃねぇか。あれのどこが特訓だと言いやがる?」
言い逃れ出来なくなった檜山達は、苦し紛れに逆ギレする。
「い、いちいちうるせぇんだよ!! 事ある事に俺達の邪魔しやがって!! お前らやっちまえ!! どうせ強くなった俺達には先生だろうと適わねぇだろ!!」
そう言って4人は、ノクティス達を捻り潰そうと襲いかかってきた。だが、彼等は物怖じすらせず、プロンプトですら怯えた様子を見せない。余程に頭にきているようだ。
「流石にもうキレたわ。消してやる…!!」
「俺の友達に手を出した事、後悔させてやるよ…!」
「テメェら見てぇなガキは本当に世話がやける…。来いよ。その腐った根性ぶっ壊してやるからよぉ!」
「本来なら貴様らの様な奴等は相手するに値しないが、今回ばかりは例外だ。今晩の料理のメインディッシュにしてやろう…!!」
ここで、檜山達の血祭りレースが開催されたのだった。
やがて、騒ぎを聞きつけた香織達が、その場へと血相を変えて走ってきた。
「何やってるの!?」
香織達が到着すると、そこはもう悲惨な状態であった。
暴走を起こした檜山達が、傷一つ付けること出来ずにノクティス達に完膚無きまでに叩きのめされ、地に伏せていた。
「南雲くん!? 何があったの!?」
香織や雫はすぐ様、檜山達が原因で事が起こったという事をを理解し、近くにいたハジメに説明を求める。そして起こった事を全て話し終えると、檜山達を鋭い眼光で睨みつけた。が、空気を読まない1人が、全く別の人物を責め立てる。
「先生方! どういうつもりですか!! 檜山達をここまで痛めつけるなんて!」
「あ? 何言ってやがんだテメェ。南雲の話を聞いてなかったのかよ。先に喧嘩を売ってきたのはそっちだぞ?」
「だとしても、教師や先輩である貴方方が暴力でねじ伏せるなんてどうかしているにも程がある!!」
明らかに場違いな意見だった。確かに、暴力はいけないものだし、教師が生徒に奮う事などあれば体罰となる。
だが、そもそもそれはこの世界では通用など全くしないのである事を勇者は理解などしていなかった。しかも、彼等は身にかかる火の粉を振り落としたに過ぎないと言うのに。
「いい加減にしなよ。何度君は俺達を悪者にすれば気が済むわけ? もう少しその頭で状況を上手く整理しようと考えられなかったの?
俺達よりも先に手を出したのはあっち。その前にハジメにイチャモンをつけて襲いかかったのもあっちだよ?」
「それは…。檜山達は南雲をどうにかしようとしていたんだろう。訓練すら真面目に行わず、図書館にばかり篭って読書に耽っているそうじゃないか。休みの時間であっても強くなるために訓練をするべきなのに、南雲は努力すらせずに怠けてばかりいるから、それを檜山達は直そうとしていたのかもしれないでしょう? それを止める方が可笑しいですよ!」
「ちょっと光輝! それはあんまりにもじゃ…」
「雫は黙っていてくれ! 俺は今南雲達と…」
止めに入った雫を振り払い、また説教に入ろうとした勇者だったが、それ以降は続かなかった。ノクティスが、とても目に捕えることが出来ない速さで勇者の顔面をぶん殴ったからである。
そのまま彼はゴロゴロとすっ飛んでいき、壁にぶつかった。
「な、何をするんですかノクティス先輩…」
「黙れ」
批判すらあげれなかった。それは周りも同じで、ノクティスの発言以降何故か誰も口を開けることすら出来なくなっていた。まるで、王の様な威厳に…。
「全てを知った様な素振りでハジメを語ってんじゃねぇよ。サボっている? 怠け? ふざけんな。ハジメはな、俺の数倍努力してんだよ!!」
《認めちゃったじゃねぇか!!》
思わずの自虐ネタにツッコミを入れてしまう仲間御一行。
「いいか?お前はまた忘れちまってる様だから、もう1回説明してやる。
ハジメは、俺達が戦いやすい様に、後ろから支えろってメルド団長にも言われてた筈だ。だから、ハジメが無理して前に出る必要はねぇ」
「な、何を言って…」
「それにハジメは、現時点で判明している魔物の弱点とか、様々な事を調べてくれてんだ。これを努力と言わず、なんて言えばいいんだよ?
悪ぃけど、俺はお前よりも、何を言われても自分のやるべき事を見つけて、胸張って生きているハジメの方が何倍も評価されるべきだと思う」
「なぁ!?」
「おいノクト。その辺にしておけ。明らかにオーバーキルだ」
止めると同時に、言いたいことを全て言いきったのか、ノクティスは勇者に背を向け、ハジメを連れて図書館へと向かった。
「お前にはハジメを責める資格はねぇ。悔しいなら責めるよりもその考え方を改めやがれ」
最後にそう言い放ち、真っ直ぐ歩み始めた。
「…クッ!!」
悔しさで何も言えないのか、納得がいかないのか、勇者は不機嫌な足取りで何処かへ向かってしまった。残された3人は、先程のノクティスについて疑問を浮かべていた。
「あれは…ヤベぇなんて物じゃなかったな」
「えぇ。私も、立っているのがやっとなくらいだった」
「怖かったぁ…。イグニス先生達も少し辛そうな顔してたもんね」
実はあれは口を閉ざさせるだけには留まらず、怯んでその場にへたりこんでしまう程の圧を感じたのだ。
今その当人は、ハジメと共に気楽そうに喋りながら情報収集しているのだが。
だが、異変はそれだけではなかった。
先程のノクティスの謎の圧が発動すると同時に、一瞬、グラディオラス達3人はありもしない記憶が頭の中を駆け巡った。
謎の化け物を相手に死闘する自分達、階段を登っていく一人の男を死守すべくなぎ倒して行く自分達。
役目を終え、眠った様に椅子に座る王、ノクティスを悲壮な顔付きで見つめることしか出来ない自分達。
どれもあった事の無い記憶の筈なのに、本当にそれを見届けたような感覚がしてしまう自分達を押さえ付け、ハジメを気遣いながら歩いて行くノクティスをすぐ様追っていくのだった。
王の復活は近い…。
如何でしたでしょうか。
ノクティス、無自覚ながら王の覇気を発動する。
でした。
また、今回愛子達が主張した事により、
普通よりも早い段階で戦争から身を引く人達が現れました。
それでもまだまだ意気込んでいるヤツらは多いですが…。
では、また次回。
番外編で、転生後のルシスの皆とヒロイン達の出会い(+α)を書こうと思っていますが、特に見たいのは誰でしょうか。人気順に書いていこうかなと思います。
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プロンプト×優花
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グラディオラス×雫
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イグニス×愛子
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アーデン×恵里
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ノクティスとの日常side