とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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秋が終わりそうなんですけど、結局垣根の季節っていつですか。


105話:襲来

プルタブを引き、開いた缶からコーヒーの香りが広がる。

手先から伝わる温かさに上条当麻は少し顔を顰めた。

 

「暑ちぃ……アイスのが良かったかな……」

 

地下にいる火照る体に夜風が当たることは無い。暖かい風呂上がり、スパリゾートの建物の前で缶コーヒーを啜ると白い息を吐いた。

 

「夜風にでもあたりに来たんですか?」

 

「え?あぁ、地下にいるのすっかり忘れてたよ」

 

ぼーっと突っ立っていると、不意に後ろから話しかけられる。

風呂上がりだからか少し頬の赤みが増した五和が愛嬌のある笑顔で彼の隣に立ち止まった。

 

「でしたら少し歩きませんか?」

 

「あ、でもインデックスは?」

 

「屋台の食べ放題コーナーを駆け回っていましたけど……」

 

「そっか、じゃあ迷子になることもないだろ」

 

風のない地下空間で困ったようにふたりは笑い合う。

缶コーヒーを飲み干して、たわいもない世間話を続けながら二人きりでスクリーンの下を歩く。眩しい街灯に少年と少女の影が伸びていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはチャンスだな」

 

その姿を眺める複数人の影が人混みにいた。

染めた黒髪をワックスで固めた男が思春期の男女を遠巻きに見つめる。嬉しそうに彼らを眺める彼は、何故か胸元に小型扇風機を四つもつけていた。

 

白地に赤の十字が染められたオーバーサイズのシャツと同じように緩い青のジーンズ。

ヒッピーファッションを彷彿とさせる服装の男は鼻歌交じりに腰に手を当て若い男女のあれこれを見続けていた。

 

「どう思います?教皇代理」

 

「ん?『夜のデート大作戦』?なかなか良い雰囲気じゃねぇーのよ?」

 

「……後方のアックアです」

 

教皇代理と呼ばれた男、建宮斎字は近くの男に呼び止められる。

男の、仲間の一人の呆れ顔に気がつき上条たちから目を離すと気の抜けた顔はすぐに鋭い目つきへ変わった。

一般人に紛れる他の仲間たちの緊張感が空気を伝い、重苦しい。

 

「“侵入の形跡はない”、と学園都市からは報告を受けちゃいるが……」

 

「やはり信じられませんか」

 

後方のアックア。

彼らの護衛対象、上条当麻を狙う刺客の名前で、建宮ら『天草式十字凄教』の教皇、神裂火織と同じ聖人と言われている男。

 

そんな男が学園都市を欺き護衛対象(上条当麻)の元へたどり着くのは容易であろう。

それに加え学園都市側のセキュリティは信用に値せず、キナ臭い。さらにいえば、学園都市は一国家とも言える存在、裏の考えから報告を渋っている可能性も大いにある。

 

「そもそも上条当麻一人のために、三方が策略を巡らせるってのは妙なのよ。まだ俺たちが知らない情報が隠れている気がするのよな」

 

「つまり、本気で上条当麻を護衛するなら……」

 

「ああ、そっちも含めて探ってみる必要があるのかも」

 

天草式にとって上条当麻とは教皇(神裂火織)の件もあり、好感がある。すなわち価値がある。

けれど他の組織にとっては同じではない。学園都市にとって、イギリス清教にとって、ローマ正教である神の右席にとって、上条当麻の存在がどれほどまでに大きいのか。

 

巨大な組織をいくつも動かすほどの何かが彼にあるのは明白。

しかしそれが何かわからず、頭を悩ませるだけだった。

 

「教皇代理、人の流れが……」

 

仲間の声にはたと気づく。確かにいたはずの人々が視界から消え失せ、話し声も何も聞こえない。

 

「俺としたことが、やられたのよな……」

 

魔術師ならば嫌にでも気がついてしまう。もう袋の鼠だと。

人払いの術式が組まれた中、威圧感を放つ大男の足音が誰もいない地下施設に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静かな地下街を二人きりで歩く。空調で整えられた暖かい気候のせいか五和の頬は熱を持っていた。

 

「そういや、他の天草式の連中は?」

 

「えっとですね、今も少し離れたところから見張ってくれていると思います。やはり女教皇(プリエステス)様がいてくだされば百人力だったんですけど」

 

しかしムードのかけらもない上条の言葉に熱は解けて上擦った声が口から飛び出す。

周りにいるであろう仲間たちのことを思い出しながら笑うも、二人きりのこの状況に何も思っていないのかと少し眉を下げた。

 

「やっぱり神裂ってそんなにすごいのか?」

 

「そうですよ!世界に二十人といない聖人なんですから!どんなトラブルだって女教皇(プリエステス)様がいれば一発です!」

 

「へー……となるとアイツも同じくらいなのか。こえー」

 

「え?アイツ?」

 

それでも嬉々として自分たちの女教皇(トップ)の素晴らしさを興奮気味に伝え出す。だが上条にはピンときているのかいないのか、別の人物を思い浮かべているようだった。

 

「車椅子、乗ってただろ?」

 

「彗糸さん、でしたよね?あのちっちゃい……」

 

彼の言葉に先ほど別れた車椅子に乗った真っ白い子供を思い出す。

南国の海のような煌めく鮮やかな緑の瞳と、おぞましいほど白い髪と肌。金継ぎした青磁を彷彿とさせるセーラーワンピースが似合うあの少女。

あの背の高い男前な少年の義妹だということしか知らない赤の他人で、興味のかけらすらなかったが上条の言葉に思わず足を止める。

 

「そうそう。アイツ元々はクラスメイトでさ、俺よりデカかったんだよ。コギャルってやつ?なんか、プールサイドでナンパ待ちしてそうな感じ」

 

「ク、クラスメイトですか……?そそそれは、えっと、仲が良かったのですか?」

 

「まー、仲良いと思うが。女子の中では話しやすいけど、たまに怖いんだよなー。常識がちょっと噛み合わないっての?高位能力者はみんなそんな感じなんだろうけど」

 

「な、仲、良いんですか……」

 

どこか嫌悪感を感じるも、何か放って置けない可憐な彼女が『大人』で、そして上条当麻のクラスメイトだったことに五和は酷く驚いていた。

それはいわゆる恋敵(ライバル)、という意味で。

 

クラスメイトならば五和よりも上条に接する時間は増え、愛情は湧きやすい。

出し抜かれている。魔術師の五和には掴めないポジションにいる彼女を恋敵(ライバル)と呼んで何がおかしい。

 

「アイツ前に神裂とやりあってピンピンしてたんだよなぁ。おっそろしい」

 

「えっ、ど、どういうことですか!?」

 

けれどもそんな考えは無駄である。上条も彗糸も()()()は立っておらず、上条に至っては彼女に全く興味を持っていなかった。

恐怖も、愛も、ただの不思議なクラスメイト程度。気にはなるが、放っておけないほどでもない、そんな一般的な男女の友情程度にしか思っておらず、五和が危惧するようなことは何もない。

 

「五和?どうかしたか?」

 

「い、いえ!なんでもないです、なんでも!あんまりひと気がないんだなって。せっかく綺麗な夜景なのに」

 

「まぁ、そうだな。夜の学園都市ってこんなもんだよ」

 

他の女の思い出に耽る上条をさみしげに見つめていると、静かな夜に冷えた空気が押し寄せる。

奇妙な静寂だった。

彼女ら二人以外、そこには誰もおらず循環するぬるい空気が頬を撫でる。

 

「それにしてはさっきから車も人も……」

 

緊張の中、音が一つ鼓膜を揺さぶった。

車のエンジン音も、人の吐息も聞こえない道に足音が響く。重い足音が立ち塞がった。

 

「宣告は与えた」

 

差し掛かった橋の先、低い男の声が空気を通り、五和たちの視線を奪う。

筋骨隆々とした背の高い男が静かに彼らを見ていた。しゃんとした背筋と凛とした立ち姿が放つ恐ろしく強大な存在感に誰もが口を閉ざす。

 

この男が『神の右席』の一人、後方のアックアだと、言葉も介さずに理解してしまうのだった。

 

「貴様の前にはいくつかの選択肢があったはずである。実行し、自分の命を預けるに足ると判断した選択肢がこれだというのか」

 

アックアは四つの小さな扇風機がついた首飾りを五和の足元へ投げると、残念そうに吐き捨てる。

乾いた金属音が静かな橋の上でこだまする。

仲間のトレードマークが汚され、地面に転がる光景に五和から言葉は出なかった。

 

「率直に言おう。もう少しまともな選択肢はなかったのかね」

 

「っう!?」

 

次の瞬間、アックアは姿を消し、突如五和に大きな人型の影がかかる。そして瞬きもできない僅かな時間、脳に轟くような衝撃が後頭部に放たれた。

眼前に星がチカチカと散らばり、揺れた視界いっぱいの地面に体が崩れ落ちる。一瞬の出来事に息もできない。

 

「五和!」

 

「この世界で起きている騒乱の元凶を排除しにきた。人の心配をしている場合であるか?」

 

吹き飛ばされた五和に気を取られ、視線が逸れた上条に淡々とアックアは呟く。その手には、どこから取り出したのか5mは優に超す巨大な棍棒(メイス)が収まっていた。

 

「一組織の全体が束になっても勝てなかった相手に、一人で挑んで勝てると思っているのであるか」

 

「私にも、意地があります!」

 

巨大なメイスに臆さず五和は態勢を立て直し、組み立てた二叉の槍を手にアックアへ走る。

しかし彼と目が合った刹那、脳が理解するよりも早く体に強い打撃をこうむった。為すすべなく五和の華奢な体は柱にぶつかり、苦い液が内臓から逆流し、息が上がる。

 

完敗だった。手も足もでないと、痛みで朦朧とした意識の中で思う。

護衛対象(好きな人)に迷惑と心配をかけて、何もできない自分の不甲斐なさや情けなさ。何よりも、自分の名前を呼ぶ彼の切羽詰まった声に喉を焼く胃液のせいでうまく言葉を返せないのが腹立たしかった。

 

「右腕だ。差し出せば命の方は見逃すのである」

 

攻撃が止まり、スクリーンに映った月夜を背にアックアは上条の前に立ち塞がった。

上から目線の強者の言葉は酷く不愉快で、今にも殺してしまいたい。痛みの中、辛い感情が五和の中に生まれていた。

 

「ふっざけんな!」

 

「そうか、それならばもう少し現実を知ってもらうのである!」

 

大きなメイスが上条の頭頂部目掛けて振り下ろされる。助けたい、そう思い手を伸ばしても五和の細い手は白い風に苛まれ、届くことはなかった。

 

「おいおい、夜中なんだからあんまはしゃぐなよ」

 

吹き荒ぶ風が晴れる。メイスと上条の間に立つ少年の茶色い髪が揺れ、鋭い眼光がアックアを見据えた。

しばし沈黙が場に満ちる。

眉目秀麗な背の高い少年、垣根帝督が強烈な好奇心と傲慢さを瞳に宿しながら立っていた。

 

「か、垣根ェ!?なんでお前ここに」

 

「俺に男なんぞ守る趣味はねぇが、ただ少し、世界の強さってやつを見てみたくてな。付いてきた」

 

「……好奇心は猫をも殺す。今なら見逃すのである、一般人」

 

「そう言われてもな、俺にだって立場とか、色々あんだよ」

 

視界を完璧な白が埋める。

 

強い言葉を吐き捨て、白い繭が彼の体に広がり、そして花開いた。

それは三対六枚の翼。

補正を掛けたスクリーンの月夜にも引けを取らない美しい白い翼が彼を守り、頭上で回る丸いの光輪が癖のある茶髪を照らした。

 

「熾天、使?」

 

「神の御使い様がテメェに引導を渡してやる。道を開けて死にやがれボンクラ」

 

轟音が風を斬る。羽ばたきで起きた旋風は鋭く尖った羽根をアックア目掛けて吹き飛ばし、風の音で鼓膜を揺さぶった。

 

その姿はまさに絵画の中の天使様。一介の魔術師(信徒)に、その姿はあまりにも眩しく、開いた口が塞がらない。

ただただ、何が起こっているのか理解するので精一杯だった。

 

「その翼、確かに天使の力(テレズマ)とよく似ている。貴様は何者であるか?」

 

「なに、ただの通りすがりの悪役だ」

 

鋭い羽根を巨体であるにも関わらず素早く躱しながらアックアは僅かに口角をあげる。ゴルフウェアによく似た白と青のポロシャツに羽根が擦れ穴ができたことに気がつくと、男二人の視線が交差した。

 

音が轟く。空へ羽ばたき飛び立つと、広げた翼は姿を変え、白い光線となって幾重にも橋を揺さぶり大きな衝撃波が橋を脈打った。

何回も衝撃が波打つ。

足跡もなかった設置された橋は今となっては無数の穴を開けられ、強い衝撃の痕跡を残していた。

 

「素粒子を変化させて……?物理法則がねじ曲がっているというのか?」

 

「おいおい、余所見してる暇はねぇぞ」

 

衝撃によって崩れた何箇所もの穴はそれぞれ違う変化を起こし、まるで違う物質がそれぞれぶつかったかのようだった。

 

何が起こっているのか見当もつかない五和たちとは反対に、アックアは脅威に顔を顰める。

ありえない現象が続く。垣根帝督というたった一人の少年が起こす全てが彼らには理解できなかった。

 

「ッなるほど、これは手強い相手であるな」

 

「そりゃどーもッ!」

 

空で瞬く翼が乱反射する細やかな光を地上へと舞い落とす。

ダイアモンドダストと呼ぶに相応しい光だった。

 

スパンコールのように輝く光の粒は、地面に降りると鋭利な結晶へと姿を変貌させる。

地底を貫くような美しい水晶が剣のようにコンクリートから生え、足の踏み場を無くす。

 

「だが私とて聖人の端くれ、貴様に負けるつもりは無い」

 

間一髪でその結晶の先端を躱し、アーチの頂上へ飛び乗るとアックアは強く垣根を睨む。

そして大きなメイスを一振すると、橋の下を流れる川から巨大な水の塊が浮き上がり、空を飛ぶ垣根に勢いよく発射された。

 

「俺がいるの、忘れてんじゃねぇーよ!」

 

何かが割れるような軽やかな音に水飛沫が飛ぶ。

塊は形を保てず結晶が残る地面に溢れ出し、無様にも浸水していった。

 

「少し休んで回復した。お前も無理すんなよ」

 

「無理って、この俺に言ってるわけ?」

 

「お前が怪我したら、天羽がまた泣くだろ」

 

少年二人は緊張感を感じさせない軽口を叩き合く。

男同士のよく分からない絆、そんな不確かな何かだけで彼らは隣に立っていた。膝を突いて、息を整えることしか今は出来ない五和には、到底超えられない光景である。

 

「……でも、脇役だってたまには良いところ奪いたいんだよ」

 

「は?」

 

「最後の言葉は交わし終わったか?」

 

二人の声はアックアの恐ろしい低音に掻き消され、誰にも聞こえなかった。

代わりに響くのは高い金属音。

振り下ろされた大きなメイスは上条を背中から殴り飛ばし、鈍い音が聞こえる。柵に引っかかった上条からは、唸るような悲鳴が小さく漏れていた。

 

「あぁぁうッ!」

 

「上条さん!!」

 

「そして、貴様の翼も強度は無限ではないようであるな」

 

「ッ、うがぁッ!」

 

上条のもとへ向かおうと五和がよろりと立ち上がると、すぐ横を白い物体が横切る。

甘い香りが鼻をかすめ、コンクリートに大きな衝撃を与えて投げ飛ばされたそれは、先程まで上条と言葉を交わしていた垣根だった

 

「且つ身軽でない。天使といえど、所詮能力で象られた装飾品か」

 

「……っけほ、掛かるGすら無視かよ、聖人ってやつは」

 

悪態を吐きながらゆっくりと立ち上がる垣根は舌打ちを鳴らす。

自分も怪我をして痛みがあるはずだと言うのに、彼は常に堂々と、余裕の笑みを浮かべていた。

 

「す、すぐ手当します!」

 

「俺はいい、自分の面倒見ろ」

 

「ッ……!な、なら上条さんにっ!」

 

「おいッ、うろちょろするんじゃ──」

 

こめかみから血を流す垣根に駆け寄るも、触られるのも嫌だと言わんばかりの気難しい顔に踵を返し、上条の所へ向かう。

血を流し、荒い呼吸を繰り返す彼から視線を逸らさず、長い槍で地面を叩いて目を瞑った。

 

淡い光が倒れる上条を包む。

傷が癒えるまで力を、想いを込めて五和は魔術を使い続けた。

 

けれど

 

「ッッ!」

 

バキン、と高音が広がり、淡い光は力を無くし消え失せる。

右手に触れた癒しの魔術はその効果を発揮することなく壊れてしまった。

 

「ぁ、あ……」

 

「できねぇのわかってんだろ!助けたいなら病院連れていけボケ、それくらいしか今のテメェには出来ねぇよ」

 

なぜ、簡単なことにも気がつけなかったのか。垣根の怒号も放心状態の五和にはただの雑音にしか聞こえない。

 

全てを打ち消す特別な右手。どんな困難も打ち砕き、どんなしがらみもないギフテッド。

そんな神の寵愛を受けた彼はヒーローのようだった。

 

けれど現実は違う。全て打ち消すということは、何もかもを拒むこと。

悪魔の誘惑も、天使の慈悲も、神の運命も拒むその力は、癒しの手を自らの手で砕く。

そんな彼に、五和の癒しが届くことはなかった。

 

「垣根、そう、怒んなよ……」

 

だがヒーローは痛みの中立ち上がる。治らない怪我をかばいながら引き攣った笑顔で彼は一歩ずつコンクリートを踏みしめた。

 

「病院行かなくたって、大丈夫だ。ありがとな、お前ら」

 

「待っ──」

 

叫び。

少年の吐き出すような絶叫と、振り上げた右手の拳が空気を斬る。大きな男に強く握った拳だけを武器に、上条は走り出した。

 

「ぁおおおおがあああああ!!!」

 

だが拳は届くことなく、大きなメイスが上条の腹を抉る。

悲痛な声が偽物の空に響き渡り、吐き気を催す鉄の匂いと赤い飛沫が澄んだ空気に飛び散った。

 

恐ろしい光景だった。目眩が起きる血飛沫と鼻の奥を刺激する臓物の匂い。

上条の体がアーチの柱に押し潰され、ずるずると地面に倒れ最後にはピクリとも動かなくなった。

 

「……一日待つ」

 

「あ?」

 

「麻酔もなくここで引き抜かれるのも酷だろう。義手の準備でもしておくがいい」

 

そう吐き捨てて、アックアの姿は消えた。脱力感が五和を襲う。

膝をついてただ遠くに聞こえるサイレンの音をぼんやりと聴きながら、上条に近づく垣根の背中を見つめるしか彼女にはできなかった。

 

「それで、馬鹿みたいに負けたんだ?」

 

大きくなってくるサイレンの音に被さるように幼い子供の声が聞こえた。怒りを含んだ冷静な声に、上条のそばで立っていた垣根はぶっきらぼうに振り返った。

 

「だから行くなって行ったのにね」

 

「黙ってろクソ女」

 

白い少女のセーラー襟を勢いよく掴んで苛立った素ぶりで乱暴に車椅子から掴み上げると、途端に声は静まる。

たどり着いた救急車のサイレンが余りにも場違いだった。

 

最後に見たのは到着した救急隊に指示を出す中華風の気高い乙女と、それを抱える少年に見送られて救急車に乗せられるヒーローの姿。

悲惨な視界を遮るように、五和は小さく嗚咽を漏らした。




スピンオフを見る限り人知を超えた存在には勝てなさそうなので今回は敗北です。
林檎相手だからスピンオフでは勝てなかったとか色々理由づけはできますが、アックアさんは水タイプなので心理掌握も効かなさそうですし、そもそも人間じゃないから天羽さんの能力も効かないだろうし、酸素奪っても生きてそうだし、この結果が無難かなと。
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