とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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頑張るつもりですが、更新頻度が落ちるかもしれません。


112話:噛み合わない物語

「時には少人数、短時間で話を決めた方が効果的な場合もあるからな」

 

紅茶とビスケットの香りが鼻をくすぐる広い部屋で、最初に口を開いたのは女王だった。

 

「議題はフランスについてだ」

 

「フランスとは?」

 

「問題の発端はユーロトンネル爆破事故だ。私はこれをフランス政府による破壊工作であると判断した」

 

広い部屋の中、バラバラに置かれたソファにそれぞれ離れて座る。

だだっ広い部屋、どう考えてもスペースの無駄。一人一つのソファで座る王室の四人もそう。

狭いソファで二人座る上条とインデックスと、仕事相手だと言うのに椅子に座れない神裂と垣根。側近である騎士団長はいいとして、どうやらイギリス王室は椅子不足なようだった。

 

「証拠は?」

 

「そのために禁書目録を招集した。ことに、フランス系ローマ政教の術式が使用されていれば正しく解析してくれるだろう」

 

「この問題の構図はイギリスとフランスの諍いではなく、イギリス、学園都市とローマ、ロシア正教の対立と考えるべきよ」

 

女性達の言い争いに近いディベートが始まる。

しかし熱が上がる討論の最中、垣根の中で何か違和感が生じる。

なにか、忘れている気がすると。

 

何を忘れている?何を見落としている?

膨大な記憶を巡り、ようやく思い出す。つい先程起きたことを。

 

──そういえば、テロリスト殺っちまった。

 

ゆっくりと顔を上げる。後先考えずやってしまったと、今更後悔しても遅い。

 

テロリストのせいで高度が下がった飛行機を、()()()が着陸して欲しくないがために魔術を使用した。

その痕跡から誰を追うべきかがハッキリとした経緯がある。

 

つまり、あの一連の事件は犯人を辿る有力な証拠の一つ。ムカついていたからと言って一人で解決するのは悪手だったか。

未来を先読みして行動する。

確定した未来を逆算して行動を起こすのは少々面倒かもしれない。そこだけに目が行って、やりたいことに集中できなくなる。

大変な作業だ。特に、関係のない人間には一切興味を示さない垣根には。

 

「……内部の諍いじゃねーの?最近物騒だったしな」

 

ならばせめてものの罪滅ぼしだ。自分の口に任せるしかない。

どんなデタラメでもいい、真犯人と首謀者にたどり着けるよう話を変える。ついでに情報を引き出す。

それが『垣根帝督』としてできる最善だろう。

 

「ほう?確か学園都市側の護衛だったか。にしては少々おしゃべりじゃないかい?」

 

「学園都市でも起きたからな、内部犯の大きな事件が」

 

「十月にあった事件か。あれって結局犯人捕まってないんだっけ?」

 

事実を伏せた真実に近い言葉。犯人が分かっている状態は酷くもどかしく、この程度でしかヒントを与えられない。

内戦を起こす人物がこの場にいることも、その先に内戦を起こしたい人がいることも、全て知っているというのに。

 

けれど教えることは出来ない。

立場と興味の問題。全て知っていると知られたらイギリスだけでなく学園都市にまで狙われ追われる。それでなくても大切なもの以外興味のない垣根には事実を教える義理などない。

 

「フランスかイタリアかロシアかって考えるのもいいが、候補の中に自分たちのことも入れといたほうがいいぞ。裏切り者がいない確証なんてないだろ」

 

「……確かにそれはあり得る仮説だが」

 

「つーか『犯人はアイツです、証拠はこれから探します』ってのがおかしいだろ。判断は証拠が集まってからでいいだろ。議会をするにしても、交渉するにしても、犯人が違ったら飛んだ笑いもんじゃねーか」

 

考える知識を動かし、口からそれらしい言い訳を作り出す。

なんとしてでも方向を修正しなければならない。でなければ面倒が更に面倒になる。

 

それもこれも彼女のため。いかに彼女を怒らせず、失望させず、なんのしがらみも、不安もなく垣根の元に帰ってこさせるため、円滑にこの物語の一部を終わらせるか。

それだけが望み。

出なければ今頃目の前の首謀者(キャーリサ)を殺している。

 

「っ!失礼」

 

誰もが口を閉ざした広い室内、けたたましく響いた着信音に神裂が頭を下げる。そのまま後ろを向いて電話をとると、控えめな声で話し始める。

 

電話が来ることは知っていた。けれど来るとは思わず思案する。

本来ならばその電話は武器を輸送する四人組を発見したことを伝えるもの。

しかし、垣根がテロリストを音沙汰なく撃破したことで、主犯供は飛行機に干渉することはなかった。

干渉しないということは必要悪の教会(ネセサリウス)に気づかれないということ。

 

電話の主も内容も、全く見当がつかなかった。

 

「どうやらスコットランド地方のあたりで魔術師同士の争いがあったようです」

 

「それは今回の件に関わるのか?」

 

「アックアの襲撃の可能性、そしてその魔術師たち、魔術結社予備軍『新たなる光』が発掘作業をしたのちにイギリスに向かったとの報告がありました」

 

「その発掘した何かをロンドンへ持ち込み破壊活動を行うといったところかしら」

 

顔には出さぬが、神裂の報告に唖然とする。

魔術師同士の争い?アックアの襲撃?聞いたことのない話ばかり。

犯人はすぐ分かった。自分がずっと追っていた少女のせいだと。

 

──何かしでかしてやがる。それもとても大きなことを

 

彼女への想いとややこしい感情が膨らむ。一刻も早く見つけなければならないと、焦りが募る。

思いがけない情報に胃が煮えたぎって仕方がない。

 

「……なるほど、ではこうしよう。ユーロトンネルの件を騎士派に、内敵である魔術結社予備軍の調査と撃破を清教派に。ただし禁書目録はこちらの調査のために別行動とする。それでいいかね?」

 

あっけなく修正は行われ、(原作)通りにことが進む。思いがけず同じ方向に修正され、自分の頑張りが無駄になったのは少し腹立たしかったが、それでも確実に良い方向へ進んでいる。

彗糸の動向が分かっただけでも幸いだ。

 

「で……ぶっちゃけ俺は何をしたらいい?」

 

「とうま、事件が起こると行かなきゃいけないっていうのはとうまの悪い癖だよ」

 

全て解決、方針が決まった、と思ったところで今まで黙っていた上条がおずおずと手を挙げる。

二人がけのソファでインデックスと並んで座る彼の顔はどこか真剣だった。

 

「いや、いいんじゃないの?必要悪の教会(ネセサリウス)だって、人員不足なんだろ?」

 

「い、いえ……民間人を危険に晒すのは得策とは思えません」

 

「そうか……そうだなぁ……民間人なら無理に協力してもらう必要はない……」

 

「お、ラッキー!じゃあここでのんびりしてよっかなぁ!」

 

()()()面倒事を避けられる、神裂達の会話からそう感じたのか上条は目の前のローテーブルからクッキーを一枚手に取る。

 

「ただし!国益を伴わぬ人員の滞在費用については、後日別途で請求させてもらうことになるが、構わないな?」

 

「えっ」

 

「何、悪趣味な高級ホテルのスイートルーム二、三部屋分と思ってもらえば、安いもんだろ?」

 

だが上条当麻は不幸である。手にしたクッキーは彼の口に入ることはなかった。

 

「案外安いな、払えば?」

 

「払っていただけるんですか垣根様!?」

 

「なんでお前の分払わなきゃいけねぇんだよ。俺は普通に帰るからな」

 

縋るような可愛くもない男の上目遣いに呆れてため息を吐く。

大した情報はなさそうで、深入りするつもりもない─というより、立場上できない─事件、このまま退出しようと背を向け扉へ向かう。

 

「そういえば君は護衛だったね?」

 

「まぁ、そういうことになってるな」

 

「なら彼に着いてくのが護衛の仕事だとは思わないか?」

 

これはあくまでもイギリス国内の問題。

上条が呼ばれたのはインデックスを連れてくるためであり、大きな戦力としては見られていない。たとえどんな異能を打ち消せるとはいえ、彼はただの学生である。

銃で撃たれれば死ぬ、頭を殴られれば死ぬ。人を殺すことも、テロを起こすこともできない『一般人』だ。

 

しかし、垣根はどうだろうか。未元物質という貴重な能力を持ち、国ひとつ滅ぼすことくらいなんてことない狂人。

学園都市ならまだしも国外での能力使用、それも任務以外での使用は大きなトラブルになる。

そこに殺人、物損、テロ、その他諸々が起きれば学園都市、そして妹からも痛ましい目で見られるのは確実。

 

このまま上条について行けばアックアにはたどり着き、物語に関わるはずの彗糸にも近づける。

けれど、それを可能にする権限が今の垣根には無かった。

 

しかし、一つだけ道があった。

 

「……ド派手に暴れていいなら、構わねぇぜ」

 

女王からの許可。

それ以上に強い免罪符はない。

胡散臭い、柔和な美しい彼の笑顔がその思惑を示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

淡い光が零れる街灯の下、暗くなったロンドンのパブにて、黒髪の少女が温かいフライドポテトを口に入れた。

 

『いよいよ試合開始って感じ?キーパーはランシスに任せたわ』

 

聞こえる仲間の通信に耳を傾けながら油臭いパブのカウンターで頬杖をつくと、またひとつフライドポテトに手をつける。

トリコロールのスポーティな衣装と、傍らに置かれた大きな鞄、そして顔の横の髪だけが黄色い彼女は、人の多いパブだと言うのに目立っていた。

 

『えへ、準備オッケー!ふふ、魔力、くすぐったい、ひひ』

 

『とにかく、私らハーフが速攻で決めて、さっさと終わらせよう』

 

通信を聴きながら皿に載ったフィッシュフライに胡椒をかけると、通信相手は一向に喋らない彼女に不満げな声色を向ける。

 

『ちょっとレッサー?あなただってハーフの一人だっていうの、忘れてない?ヘマしたら承知しないから』

 

「しませんよ。でもどうせなら、フォワードがいいですよね」

 

大船の鞄(スキーズブラズニル)の準備は終わってんの?せっかくあれを発掘したんだから、入れ物にも気を配ってもらわないと!』

 

「分かってますって。今日イギリスを変える、そうでしょ?」

 

まるでゲームを楽しんでいるように、四人の少女たちはクスクスと笑う。

足元に置かれたよくある量産型の大きなカバンを横目ににんまりと口角を上げた。

 

「私たち、新たなる光が」

 

彼女達の瞳に星が瞬く。

輝く()()()に導かれ、少女達は今日、革命を成す。




主人公が一向に出てこない……
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