とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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このあいだのスーパーネコの日は2が沢山つくので第二位の日って聞いたんですけどマジですか?


115話:本音

「我らの(アザ)、全て終わりました」

 

「はーい、ご苦労様」

 

静かになった林の中、暖かい煙を吸って、吐き出す。パイプに通る甘い煙が空に向かい、一本の線になる。林の奥で明かりがついた街に煙が向かう。

紅茶のような甘い香り。上品な煙の香りが風に乗って50の鼻腔をくすぐる。

クラクラ、倒れて当てられる様な甘い香りだった。

 

「アザって、痣?」

 

「『力』って意味。だって支配者はあたしでしょ?」

 

「相変わらずの教祖様スタイルだな。こんなロリの何がいいんだか」

 

「信者は彼らだけじゃないでしょ?ねぇ、愛しの下僕(50)

 

敬礼する警察官たちを満足げに見つめる少女に頬を膨らませて50は見下ろす様に隣に立つ。妖精の様に声を潜め、小さく口に含んで笑うさまは植えつけられた感情を刺激する。

作られた生き物は母親に逆らえない。

尤も、彼らの関係は母子よりもおどろおどろしいが。

 

「……それで、あいつどうなんの?」

 

「ん?あぁ、保護してもらうの。そっからは知らない」

 

吐き出した煙に嫌そうな顔ひとつせず、銀色の大きな鞄を提げた白い少年が呟く。

そらした視線の先にあるのは先ほど敬礼をして去っていった屈強な警察官達の背中。彼らが運ぶ担架には赤いドレスを着た美人なお姫様が眠る。

先ほどマスターが撃破した第二王女キャーリサ、その人。

 

昏倒した第二王女を連れていく静かな男たちの異様な雰囲気が気味悪い。何事も無かったかのように、王女だとも気が付かない彼らは黙って連れていく。

なんとも異様な雰囲気だった。

 

「それで、見回りはどうだった?」

 

「あー、宮殿は誰も居なかったぞ」

 

「じゃあ女王様方はもう連れてかれたのね」

 

盛り上がった木の根に座る少女(マスター)の吐く煙が天に昇る。50の足元で満足気な顔をする彼女が異質な存在に見えて少し怖い。

人工生命体なんかよりとても怖い生き物。それが彼女。

 

「そんで何がしたかったんだ?いらないクビ突っ込んで、イギリスの内政奪って、国そのものを洗脳して教祖になって、何がしたい?」

 

「言ってるじゃん。彼の願い、叶えてあげたいの」

 

鞄を握る手に力が篭もる。純粋無垢な輝く瞳に恐ろしさが増す。

簡単に愛を言い切る彼女が生き物として恐ろしい。それが本心であることも、ただ人間としておかしかった。

 

彼女にはそれしかない。垣根帝督を救うことしか未来が見えない。

彼の呟いた言葉を受け止めたつもりで動いている。彼女にはもうそれ以外の想いは心になかった。

 

足も取られ、能力も奪われ、体も奪われた齢十六の子供。一番になりたかった幼い少女が全て失い、精神が崩れるのも至極当然なのかもしれない。

 

哀れな子供に乾いた笑いが零れる。頭のおかしい人間を前に笑いが堪えられない。

生き物らしくない思考が面白くて、だからマスターとして認めてしまう。このイカれた脳を見てみたくて、言うことを聞いてしまう。

植えつけられた思考(恋心)がまるで自分の意思だと言わんばかりに。

 

「……マスターは健気だねぇ」

 

「でも、本人は望んでねぇんじゃねぇの?」

 

ため息交じりに笑う乾いた声を遮るように50と同じ男の声が静かな林に響く。湿った草を踏む革靴の耳障りな音と低い声。

振り向かずとも白い二人にはその声が誰のものか分かってしまう。

 

「……待つこと(ステイ)も出来ないわけ?」

 

「それはお前だろ駄犬。方向音痴すぎて家に戻れないのか?」

 

「あたしの家はこの世界にないよ」

 

「俺の隣がお前の居場所だろ」

 

同じように高い背、同じように整った顔、同じ声と同じよう仕草、同じ体。

違うのは色。茶色い髪と黒い瞳。白い体、白い髪、赤い瞳と黒い眼球を持つ50とはまるで違う。

 

オリジナル、垣根帝督。感情の動きが見えない冷たい表情で見下ろす彼にマスターはパイプの煙を吹き掛ける。

小さな口からゆっくりと吐き出した甘い煙に眉を顰める垣根帝督の顔を見て、マスターはどこか悲しそうだった。

 

「……面白いこと言うね。でも、この願いを邪魔させる訳にはいかないの」

 

白いパイプを口にしてマスターは50の目を見てまた逸らす。先に行け、そう語る瞳に頷いて宙に浮く。

他のナンバリングなら、保護対象(マスター)を置いて逃げるなんてしない。けれども彼は違う。

彼女の命令を聞いて、彼女の願いを叶えて、彼女のために働く。

それが50の生きる理由。逃げようがなんだろうが、彼女の命令は絶対。

そうやって思考が動く。

 

「なら逢瀬の時間としますか。お姫様?」

 

「言ってろ、色男」

 

大事な鞄を手にして、剣を受け取り彼は空を飛ぶ。灰皿代わりのお菓子の缶に入れた煙草の葉はもう香りがしない。

綺麗な翼を広げるマスターの背中を最後に、50は冷たい林を飛び去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もいない木々の隙間を縫うように翼を広げて少女が飛ぶ。その後を追って垣根もスピードを上げる。

二人の天使の鬼ごっこ。捕まりそうで捕まらないスリルに二人して楽しそうに挑発し合う。

昂った感情を吐き出して、溜まった想いをぶつけ合う。

 

「俺が居なくて寂しかったろ?今なら間に合うぜ?」

 

「寂しさなんて、覚えたことすらないけど!」

 

少し上昇し、垣根は逃げる少女向けて硬い羽根を弾丸のように弾き出す。

雨のように白い羽根が降り注ぎ、逃げる彼女の後を追尾する羽根のミサイルが少女の背中に大きな衝撃を与えた。

 

「ふぁッ!!うぐぅ!!」

 

「はは、変な声。喘いでんの?」

 

「ふざけてんじゃ、ッ!?」

 

「ふざけてんのはテメェだろクソガキ」

 

抵抗虚しく地面に落ちた白い体が呻き声をあげて白い涎を吐き出す。体の色と同じ色の液体が緑色のセーラー襟を汚し、白いワンピースに泥がはねる。

天使が穢されていく。その光景に薄く笑い、垣根は見下ろすように木の枝に降り立った。

 

「ッ、ぁッッッ!」

 

「なぁ彗糸、俺のこと嫌いになったか?だからこんな国まで逃げたのか?」

 

今日初めて彼女の名前を呼ぶ。言い慣れない下の名前がむず痒くて、恥ずかしい。

ただの名前だというのに唇がくすぐったくて不愉快だ。

 

「はっ、嫌い?そう、そうだね、嫌いかもしれない」

 

「……へー、言うようになったな。命の恩人に対してお前の口からそんな言葉が出るとは」

 

それは彼女も同じなのか、少し苛立ったような表情で目を伏せて翼を広げ立ち上がる。

動かない足を翼で器用に動かし、地面から数センチ浮いてフラフラと口元を拭うと、鋭い視線を向けた。

 

「体のことは感謝してるよ。こんな可愛い服も、綺麗な靴も、こんなの初めて着た。そこは、ありがとう。でもあたしはそんなものじゃ幸福になれない。分かってるでしょ?」

 

「……分からねぇな、テメェのイカれた脳内なんて分かるわけねぇだろ」

 

「あたしは、あたしを幸せにしてくれる人が好き。だからみんな好き。あたしを使って、あたしを頼って、あたしを踏み台にして、幸せになってくれる人達が好き。あたしを幸福にさせてくれる、この未練を叶えてくれるから」

 

生意気な緑の瞳が暗い夜に光る。土埃を払った髪が風に揺れ、月明かりをスポットライト代わりに彼女を照らしていた。

 

「でも、アンタは違う。代わりに死んだのに、全然喜んでくれなかった。抱いて、キスして、死んで欲しくないって、こんな不自由な体と不名誉な家族構成(肩書き)を押し付けて。馬鹿みたいに丁寧に扱ってさ」

 

「それがなんなんだよ、大切にされてなんの不都合がある?」

 

「あたしはお姫様じゃないの!ましてアンタの彼女でも、アンタのお嫁さんでも、妹でもないっ!いい加減にしてよ!」

 

大きな叫びとともに、彗糸は翼を広げ月を背に木々の上へ飛ぶ。少し折れた翼と、輝きが薄らぐ光輪が見ていて痛々しい。

切羽詰まった声が響いて、ぴりぴりと垣根の指先が痺れてその光景を見ることしか出来ない。

 

「気持ち悪いんだよ!アンタのおかしな言動も!ぐちゃぐちゃに掻き乱される感情もっ!ぜんぶ、ぜんぶ、意味分かんなくて、気色悪くて気味が悪い!」

 

精一杯の叫びが、身の丈に合わない愛の告白が、異国の空で響いた。

突然の告白に面食らう。彗糸を見上げたまま、目を見開いて彼女の言葉を理解しようと唾を飲む。

 

なんて理解力の乏しい、愚かな少女なのか。感情に振り回されて、馬鹿のように騒いで。

愛おしさなんて振り切って最早呆れしか出てこない。その想いを正してあげたい、その感情を治してやりたい。

そんなどうしようもない情がもどかしい。

 

「……お前、本当に馬鹿だな。自分の感情も理解できないのか」

 

「理解しようともしないアンタにあたしの何がわかるんだよ!」

 

翼を広げ、羽根が光る。垣根に対して当てつけのように同じ羽根を弾丸の如く弾き出し、鋭い羽根を降らす。二番煎じの覇気のない攻撃。未元物質の演算ができない彼女には垣根と同じ真似しか出来ない。

そんな彼女の言葉のように鋭くて、けれど純白な弾丸。

無我夢中に喚き散らす彼女にはもう手段は選べない。

 

だって知っているから。

どう足掻いても、第二位に傷一つ作れないことを。

 

「理解しようとしないのはそっちだろ!一体、何にそんな必死になってるんだ!その幸せは、誰がいつ決めたんだ!」

 

「あなたが教えてくれたんじゃん!死を回避したくらいで幸せになれないって、夢を叶えることが幸せだって、そうすれば()()()()になれるって……!!」

 

「──は?」

 

叫ぶ彼女の言葉に思い出す。彼女に小さな八つ当たりをした冷たい病室のことを。

 

なんと言った?なんと答えた?

学園都市などどうでもいいと、お前だけ見ていたいと、そして、夢など叶わないと、そう言った。

 

垣根の頬に冷や汗が伝う。その言葉は彼女を追いつめる言葉だったと、ようやく気がついた。

 

実の妹の為ならば何年会わずとも遠い国で勉学に励める努力の人。

願いを叶える為ならば好きでもない人に愛想を振りまける人。

勘違いした親の願いの為に幼い頃から無茶ができる人。

好きな男の為に死ねる人。

 

そんな彼女に吐いた弱音は、姉としての本能を刺激するのは明白。

もっと考えて発言するべきだった。

後悔しても、既に遅い。

 

「だからここにいるの!あなたが嫌がらない方法で、()()()()()()方法で、()()()()()()()方法で、あなたの願いを叶えるために!垣根帝督をもう一度胸を張って愛せるように!」

 

「ッうるっせぇぇな!!いつもいつも独りよがりな考えで!いい加減()()()()()()バーカ!!」

 

苛立ちと小さな後悔が押し寄せる。

降り注ぐ羽根を風で押し上げ、跳ね返す。大きな翼から吹き荒れる風は彼女に全ての弾丸を跳ね返し、小さな体に突き刺さる。

 

「ッッあぁ!!!」

 

折れた翼では支えきれず、ちぎれた翼では空は飛べず、彼女の体は墜落する。

高い呻き声と、土に落ちた軽い音が林の中でこだまして、ざわつく木々の音がやけにうるさい。

 

「テメェの飼い主が誰だか本当に分かってんのか?」

 

「ッぐ……勝手に言ってろ、どアホ」

 

泥だらけになった肌を擦って、低空飛行で何とか逃げようとぎこちなく翼を振るう。ふらふらとどこかへ飛ぶ彼女にただ呆れてため息を着く。

 

「阿呆はテメェの方だよ」

 

木々の合間を地面すれすれに飛び、地面に突き刺さる羽根で出来た道を疑うことなく進む彼女の姿を追い、ゆっくりと湿った地面を歩く。

 

「っいゃああ!?」

 

「……やっぱど阿呆だな」

 

獣道のようなうっすらとした道。突き刺さる羽根で作られた道筋をなんの戸惑いもなく進む彼女に笑いが零れる。

湿った草木の擦れる音、その次に聞こえたのは可愛らしい子供の悲鳴だった。

 

「なにっ、なにっ、これ!」

 

「お前は未来が見える。どんな世界が広がって、どんな魔術が使われて、どんな能力が使用される。全部知っている。けど、知らないことのほうが多い」

 

「はぁ?」

 

声の聞こえた方に進む。薄暗い森の中で小さく聞こえる彼女の切羽詰まった甲高い声が虫の鳴き声のよう。

 

月明かりの下、そこに居たのは糸に絡まった哀れな天使様。

蜘蛛の巣に捕らえられた可哀想な蝶。

粘つく糸で身動きの取れない翼と腕。動かない足は無力で、逃げることはできない。

 

「俺の身長は知ってるか?血液型は?体重は?誕生日は?好物は?好きな女のタイプは?お前は本に書かれた内容以外は何も知らない、知ろうとしない。書かれてないものは大切じゃないからだ」

 

「……それが?」

 

「つまりだ、なにもかもを知っている傲慢なお前は筋書きにないことを予測できない。だからこうやって簡単に知らない罠に嵌る。俺が罠を張るような男と思っていないから。蜘蛛の巣をトラップに使うような男だと思っていないから」

 

落ち着いた垣根の声色と、見下す瞳に彗糸の興奮も落ち着いていく。

 

「糸だらけの蚕みたいで、可愛いんじゃねーの?なぁ、ちび」

 

「……緊縛好きのロリコン野郎。子供が好きならここにいないで杠林檎と仲良くしてれば?」

 

「俺的にはお前と仲良くしたいんだけど、ダメなわけ?」

 

いつもの彼女なら見せない酷く荒い口調と蔑むような目付きに苛立つ。

小さな頭に手を置いて、白く光る髪を滑るように撫でる。優しさこそが、彼女にとって一番の痛みだから。

 

「『動きを止めたきゃ殺せば良い。気に食わない物があるなら壊せば良い』それがアンタの考えなんでしょ?気に食わないあたしと仲良くして、なにがしたい?」

 

「何かしたいわけじゃねぇよ」

 

「じゃあなんなの?何をしにイギリス(ここ)まで来たの?」

 

「そりゃお前、お姫様を捕まえに来たに決まってるだろーが」

 

彼女も苛立っているのか、言葉の節々が強くなる。からかうようにそれを流して、髪を手に取る。

甘い香りがまとわりついた髪の毛は蚕の糸のよう。

 

「お姫様?それは()()()()()のこと?」

 

「お前以外に誰かいるか?」

 

「んふ、ふふふ、垣根くんって存外馬鹿だよね」

 

突然、鋭い瞳が優しく、柔らかく、髪を梳く手を見つめる。

傲慢で、万物を見下す腹立たしいその眼。強がる彼女に思わず小さく笑う。

可愛そうで仕方がない。なのに笑みが止まらない。

 

「……あぁ、本体のことなら、お前のチョーカーから接続先調べて迎えに行けばいいだけだ。残念だったな」

 

「想像力が足りてないよ、そんなに馬鹿だったの?」

 

「あ?お前の体はもう動きもしない、喋りもしない。このチョーカーがなくなったらこの体も壊れてしまう、植物状態の玩具だろ。そこに何を想像するんだ」

 

髪から喉を囲む白いチョーカーに手を伸ばす。

反抗しようと口を開いて喋る彼女の声を響かせる喉の動きがよく分かる。

 

「本当に?着せ替え人形を子供のおままごとで動かせるように、パペットを手に付けて、代わりにしゃべらせるように、人形は誰かが手にして初めて動くんだよ」

 

「50番のことか?それならすぐ後を追うし、お前をここで殺せば接続は切れる。能力だって、もう使えない」

 

「気づかない?虫にも人にもなれる変幻自在の奴隷と、脳の動かない空っぽの人形」

 

立場が崩れる音がする。彼女の言葉に顔が強ばり、嫌な想像が巡って、心音が響く。

大丈夫だと、心配するなと暗示しても、彼女の見下す笑顔に不安が押し寄せた。

 

「……まさか」

 

「彼の使命は至極簡単。本体に寄生して、あの体を戦地まで移動させること。接続なんて関係ない。残念、目的はもう済んだんだ」

 

「ッ、テメェ、ベラベラ喋ってたのは時間稼ぎかよ……!」

 

「アンタと同等の演算能力を持つ彼なら、あたしの脳を直接動かして能力を使うことだってできる。食峰操祈の心理掌握(メンタルアウト)も、結標淡希の座標移動(ムーブポイント)も。データさえあればなんだってできる。それがアンタの作ったちっぽけな虫の別の活用法だ」

 

心音が止まるほど、彼女の言葉が恐ろしい。

想像出来なかった。自分の体すら無下に扱う、駒として見ている彼女の思考を把握出来なかった。

 

彼女は上条当麻とよく似ている。

自分の体を使い潰すとこ、自分自身を駒として見ていること、自分以外の全てを救うこと。

気づいていたはずなのに。

優しくて甘い彼女にどこか手を抜いていた。話せば戻ると思っていた。好きなら隣に来てくれると思っていた。

 

でも彼女はずるくて、他人の感情なんてどうとも思わない。

共感性の乏しい愚かな女。

 

 

──本当に大っ嫌いだ

 

 

「『筋書きにないものは予測できない』だっけ?さっきの言葉、そのまま返してやるよ」

 

ぱきんと、音がした。首を触る手に力が篭もる。

最後の言葉を残して、その人形から音はもう出なくなった。

 

疲弊と愛憎。

白いチョーカーの残骸と、溶けていく少女だった白い塊だけが彼に残る。

ただひたすらに虚しかった。

追いかける気力も湧かず、ただただ黙って座り込む。もう愛されない気がして怖かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明るく活気のある街で、煌めく町の装飾にも劣らない美しい少女が賑やかな店が並ぶ道を歩く。

花の香りを纏う彼女は街を歩く全ての人の視線を奪う。その美しい外見に、誰もが視線を逸らせなかった。

 

「あの人、リアルラプンツェルって感じじゃない?」

 

「背高いし、モデルかな?」

 

地面に着いてしまいそうなほど長い金髪と、目元を隠すような前髪。一際目立つ170を超える高身長。

前髪の隙間から見える顔はアジアンのような、ヨーロピアンのような不思議な顔立ちで、天香国色と呼ぶにふさわしい。

 

「でもなんで男物?」

 

「確かに」

 

しかし着ている服は男物のスーツ。真っ白なスーツ、シャツ、セーター、靴。

どこか無機質な素材で出来たスーツは少女の年不相応に膨らんだ胸と、細くも女性らしい下半身、凹凸のハッキリした女性の体には全く似合わず。

変な想像や妄想が膨らむのも当然の話だった。

 

「あれじゃない?ホテルで取り違えちゃったとか」

 

「あは、それありえるかも」

 

馬鹿にするような英語と、やらしい視線が少女の体にいくつも突き刺さる。異国の言葉でも罵られるのは不愉快だ。

 

名誉のためにも服は変えた方がいいかもしれない。

足を止めて少し曇ったショーウィンドウを見つめると、血のように赤い瞳が前髪の隙間から見えた。

 

「脳みそに服のデータあればいいけど」

 

そう呟いて50はガラスに映った赤黒い瞳と見つめ合う。ポケットの中で握りしめたリモコンのひんやりと冷たい感触が熱を崩す。

面倒な視線から眠るマスターを守りながら、彼は険しい表情を浮かべてその場を立ち去った。




本編が鬱すぎてそろそろ逃げたいです
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