とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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117話:準備段階

「インデックス!どこにいるんだ!」

 

林の中、暗鬱とした暗がりを男一人背中に抱えて上条当麻は歩く。ただひたすらに会いたい少女の名前を叫びながら、歩く。

しかし自分よりも背が高く、かと思えば細身な友人を持ち歩くのもそろそろ体力の限界だった。

 

「クッソ、垣根が起きてくれれば上空から探すんだけど……起きろー!!!」

 

「……やかましい」

 

とうとう我慢の限界に達し、背中ですよすよ寝息を立てていた友人を地面に落ろして肩を揺さぶる。

眠そうにうっすら目を開いて、片手で頭を支えると彼はため息交じりに呟いた。暗がりでも分かる彼、垣根帝督の整った外見が同じ男としてなんだか腹立たしい。

 

「気絶しとる場合じゃねー!!インデックスと天羽探すぞ!」

 

「あもう……うっ、ストレスで胃が……」

 

「大丈夫そうだな、ほら行くぞ」

 

ゆったりと立ち上がる垣根に頷いて先に行こうと再び進む。

しかし、進もうと足を出した僅かな瞬間、殺気と呼ぶべき気配が体をちくりと刺す。冷たい空気に乗った誰かの視線が痛かった。

 

「おや、探し物かい?」

 

気配がする方へ顔を向けると、誰かが鼻で笑うような軽薄な声色を吐き出す。

そこに居たのは知らない男だった。垣根に引けを取らない色男で、背も高く、細身。肩につきそうな赤毛と夕日のような黄金の瞳が夜の暗闇でも目を引くその人は、どことなく垣根と似ていた。

 

「……誰だ、テメェ」

 

「右方のフィアンマ、といえばわかってくれるかな?」

 

「右方?」

 

「神の右席ってやつだろ、ほら、アックアとか」

 

切れ長の綺麗な目が?細身な肉体が?全体的に暖色だから?

いや、違う。

もっと根本的なところ。精神の方。

関わってはいけない、そう感じさせるなにか。

恐ろしさを感じさせる何か。血の匂いを感じる何か。

きっと彼らは同類だ。

 

「なんでそんな奴がのこのこと俺の前で喋ってる?目的はなんだ」

 

「無意識か計算か、俺様の手助けをした奴がいてな。どんな奴か見にきたんだが……どうやらもう離れたらしい」

 

警戒心を強めて、鋭く睨む。フィアンマと名乗った男はその眼光を気にも止めずに辺りを見渡す仕草をして肩を竦めた。

探るような目付きに体が強ばる。何か言いたげな表情から、目的を察することは難しく、緊張が走る。

 

けれど、相方はそうは思わないようだった。

少し眉を動かして、黒い瞳を細める。なにか気づいたようだった。

呟いた声は酷く低い。

 

「あの馬鹿……宮殿の方も何か細工したのか」

 

「誰を思い浮かべてるかは知らんが、そいつのおかげですんなりと霊装が手に入った。ありがとうとでも伝えて置いてくれよ」

 

得意げな顔で笑うフィアンマに思考が引っかかる。大切なのは誰が手伝ったかではなく、何を手伝ったのか。

突然でてきた霊装という言葉に、自然と興味が惹かれる。インデックスが関わっているかもしれないと、嫌な予感が上条の脳内に鳴り響いた。

 

「霊装だと?」

 

「すごいぞ、見るか?」

 

訝しげに聞き返すと、彼はニンマリとあくどい笑みを浮かべて手のひらを上に向けた。その上に浮かぶのは小さな筒状の貴金属。筒を囲むように取り付けられたアルファベットが書かれたダイヤルロックそっくりな装飾がひとりでに動く。

 

鍵を開けるような動きをするその霊装は厳かにかちかちとアルファベットを並べ、薄暗い夜が動くような大きな音が鳴った。

 

その音は土から響いていた。地響きを起こし、何かが勢いよく地面から現れる。

大きな音を轟かせ、硬い土を割って現れたのは白い亡霊。

探し続けていた生きた亡霊だった。

 

「インデックス!?」

 

ガラス細工のような美しい緑眼は光を失い、虚ろな表情をした小さな白いシスターが現れる。ずっと一緒の時間を過ごして来た、インデックスその人。

求めていた探しびとにようやく会えた高揚感と、いつもの明るく可愛い姿とは全く違う姿に不安で心臓が脈打つ。

 

土で汚れた彼女の異様な姿は嫌というほど見覚えがある。

魔道書図書館、その姿。

 

「はい、私はイギリス清教、第零聖堂区必要悪の教会、所属の魔道書図書館でs──」

 

「おや、整備不良かな?」

 

壊れたスピーカーのようにノイズを滲ませインデックスは汚い地面に倒れ落ちる。

気絶したのか、もう彼女の小さな口から言葉が発せられることは無い。

 

「インデックス!テメェ、インデックスに何をした!」

 

「知らんよ。知りたければその娘の製造責任者共に聞け」

 

慌ててインデックスに駆け寄り、体を抱き寄せる。土に汚れた銀髪が、月に照らされ輝いていた。

その様子を冷めた目でみつめるフィアンマという男に酷く憎悪が湧く。

 

「さて、俺様はちょっとロシアに行って素材を回収しに行かねばならん。それまでは禁書目録とその右手の管理はお前に任せておく」

 

その視線を嘲笑うかのように鼻を鳴らして、彼は夜闇に消える。

ふっと、煙のように消えた男の憎たらしい笑みがずっと脳内を蠢いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が昇り、イギリスにいつもと同じ朝が来る。

バタバタと騒がしかったロンドンは今日はやけに厳かで、酷く静かな空気で満たされていた。

小さな窓と大きなベッドしかない狭い部屋、そこにいるのは男二人と、老女ひとり、そして眠る少女だけ。

 

「奪われた霊装は安全装置だ。意識がないのはおそらく、安全装置起動に必要な『首輪』がないため負荷がかかったのだろう」

 

「安全装置?」

 

一人柔らかなシーツの上で眠るインデックスを見つめながら、上条は女王の言葉を繰り返す。

少し疲れた顔をした女王エリザードは、上条の言葉に小さく頷くと再び口を開いた。

 

「十万三千冊の魔道書を記憶したこの子に日常生活を送らせるための安全装置。基本的人権を保障するためのものだ」

 

「えーと、基本的人権って、どういうこと?」

 

「銃みたいなもんだ。『これは安全装置が着いている、だから一般人が扱っても大丈夫』っていうガバガバ理論。インデックスみてぇな魔術サイドの核兵器みたいなもの、安全性が確保出来なきゃ逃走防止に幽閉、四肢切断、殺害したっておかしくないだろ?」

 

エリザードの言葉に繋げるように上条の隣で壁にもたれて垣根はため息を吐く。

僅かに感じる苛立ったような彼の刺々しい雰囲気が少し怖い。

 

「その通り。極論的な『非人道的な防衛手段』を回避するために策定された霊装だ」

 

「まぁインデックスを魔導書図書館なんてものにした時点で基本的人権なんてないようなもんだがな。変なところで気を使うのは自分たちが反論なしに武器を持つためだ、優しいとか思わない方がいい」

 

不機嫌そうに腕を組んで垣根は俯瞰するように呟く。濁った黒い瞳は何かを蔑んでいるようで、強く握ったスーツは皺ができていた。

 

「辛辣だな」

 

「子供が犠牲になるのは学園都市じゃ当たり前だ。そしてそいつらを信頼しないことも当たり前なんだよ」

 

「……とりあえず禁書目録はこちらで預かる。フィアンマを倒さない限り、この子の安全は永遠に保証されないだろうが」

 

眉間の皺が消えない友人に困ったように聞き返すも、苛立ちが増すだけのようで低い声色は一向に明るくならない。

 

「それとは別件だが、ケイトという名に聞き覚えはあるか?」

 

「あ?なんでだ?」

 

「……いやね、イギリスに拠点を置く大手企業や国営組織がこの何日かで勝手に買収されていたり、権利を受け継いでCEOやら名誉顧問になっているやら、その名前で悪事を働いている子がいるようなんだよ」

 

重い空気に困ったように咳払いをしてエリザードが険悪な空気を収めるように話を変えようと垣根の方を向く。

含みを持たせたエリザードの言葉に眉をぴくりと動かして、垣根はさらに深く眉間に皺を寄せる。

買収、権利、などなど、大人な会話だなとぼんやり聞きながら上条は一切分からない事情に困惑しながら二人を見つめるしかできない。

それが正解なのかも分からないが、理解できない会話に茶茶を入れるのも躊躇われた。

 

「確かにその女を取っ捕まえんのが俺の仕事だ。だからと言ってその女がしでかしたことまで責任は取れないぞ」

 

「しかしお前の妹なんだろ?説明の義務くらいはあると思うが」

 

「いいや?()()()()()()()()()。それは別人だ」

 

「……ではその女はどこへ?」

 

「ロシア。おそらくフィアンマを追ってんだろうな」

 

「俺と目的地は一緒ってことか?」

 

「目的そのものは違うけどな」

 

険悪な雰囲気が漂って来た会話に聞き馴染みのある国名があがる。フィアンマが去り際に残した国の名前に、パッと顔を上げて垣根と目が合った。

どうやら考えている事は同じ模様。

瞬間と呼べる短い時間、互いに行うべきことを理解した。

 

「なぁ、しばらくの間イギリスの魔術師たちにインデックスを任せていいか?」

 

「いいが、少年はどうするんだ?」

 

「俺はフィアンマの野郎を、この手で殴りに行ってくる」

 

グッと拳を握り、一人静かに寝息を立てて眠るインデックスの綺麗な寝顔を見つめる。

 

救いたい。この少女を。好きな人を。大事な子を。

何も悪くないのに大人たちに利用され、制御を奪われ眠ってしまった彼女を、他でもない自分が救いたい。

 

「行こうぜ、垣根。ロシアまで!」

 

「言われなくても、そのつもりだ」

 

二人のヒーローが互いに視線を交差させる。

すべき事は決まった。あとは少女(ヒロイン)を起こしに行くだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

窓の外から見えるエッフェル塔と華やかな街並みに少女はため息をこぼす。滑るように前髪を切り落とすハサミの音が心地の良い。

戦争が始まるかもしれない世界で、こんなにも平和なのは少しありがたい。()()()()が多いのは変わらないが、少しでも負担が少ないほうがいいに決まっている。

 

とはいえ、後ろでSPのように待機する()()たちの視線はあまり喜ばしくない。

平和なはずなのに、どこか居心地が悪かった。

 

「終わりましたよ、我らの(アザ)

 

「どーも。やっと視界が見やすくなる」

 

貸切状態の美容室で虚ろな目をした若い男は出来栄えに満足したのか、ハサミを下ろして少女の服を守るスモックを外す。

地面までつく金髪と、マグマのように赤い瞳。大きな胸と女らしい体を隠す少し色褪せた長袖の青いワンピースと白いエプロン。

最後に白いリボンを二つ使ってカチューシャのように首元で蝶々を結ぶ。ピアスがない分寂しい耳元が、白いリボンで華やかに飾られ、ちょうどいい。

 

鏡に映る完璧な少女に思わず笑みが浮かぶ。

 

鏡に映った天羽彗糸の姿に、中身である50は嬉しそうに目を細める。鏡を見れば可愛くて色気ある女、すぐ下をみれば()()()()()がぶら下がっている。

男としてはきっと夢のような光景だ。

 

「後ろはいかが致しましょうか」

 

「あー、別にいい」

 

嬉しそうに喋る美容師の話を適当にかわしながら50はじっと鏡に映るマスターの姿を見つめる。自分が動けばマスターも動く、自分が笑えばマスターも笑う、自分が着替えれば、マスターも着替える。

鏡で見ると人形劇のようで面白い。

 

うら若き乙女にふさわしい清楚な服と綺麗な金髪が見ていて飽きない。体の持ち主の記憶から引っ張り出し、未元物質(自分の体の一部)で構成した世界に一着しかない服。

 

──マスターの脳内にこんな可愛い服の記憶があったとは思ってもみなかった。

 

そんな失礼なことを考えながら長い髪をいじる。記憶の中にあるのは露出が高かったり、今の時代にそぐわないセンスのものばかり。

背が高いため似合う洋服が輸入品や掘り出し物のある中古だけだからといって、なんともセンスが悪い。そのため記憶の中で見つけた大半の服のデータは使い物にならなかった。

少女らしく可愛い服の一着も着れないのかと疑問に思っていた中、唯一あったのがこのワンピース。

これだけは、普通に、それなりに似合っていた。

 

「しかし、こうも長いと不便では?」

 

「あ?後で結べばいいだろ」

 

鏡を眺めていると、不意に美容師が後ろ髪に触れる。突然のことで少し驚くが、教祖らしくあまり感情を出さずにバッサリと言葉を捨てる。

確かにくるぶしまで長い髪は、手入れも面倒で、歩くとき邪魔だろう。けど長いほうが良い。

そもそも本人の意思なく勝手に切るのは如何なものか。

 

「ですが」

 

「……テメェ、()()()を怒らせたいの?」

 

しかしその考えをわかっていないのか、美容師は否定されてもめげずに鏡ごしに赤い目をみる。美容師の瞳に輝く下僕の印(一番星)がとても眩しくて、なんだか腹立たしい。

マスターの印を持っているのが、好意を植え付けられた50の癇に障る。

思わず飛び出た低い声は、彼女の明るい声とは思えないほど怒気を含んでいた。

 

「あ、あぁ!お許しを!怒りをお収めくださいっ!愛してます、恋しております!あなた様が一番でございますっ!」

 

「……ほんとかな?」

 

「真実です!嫌わないでください!お願いします、お願いしますっ!」

 

「ふーん、じゃあ許してあげる」

 

地面に頭をこすりつけて謝る男を未元物質で作り出した白い足で踏みつける。

白いフラットシューズが男の汚い茶髪を汚す。見ていて気持ちがいい。

 

「あ、切った髪は燃やしておけよ。他人に渡したら次こそお前らのこと()()()()()()()

 

「仰せのままに!最愛なる(アザ)よ!」

 

「そういや進捗はどうなんだ?戦争が起きるまで時間ねぇんだぞ」

 

ため息をついて足を離すと男は顔を上げ、涙を流しながら笑う。気持ち悪い信者の顔に舌打ちを鳴らすと、鏡越しから後ろで待機する老若男女に声をかける。

フランスで新しく洗脳した(恋に落とした)国の重役、大手企業の社長、地主、その他。待ってました、と言わんばかりに主人の言葉に過剰によろこぶ彼らは異常だった。

 

「Aチームからの伝達ですと、フランス国内のダムと水源のある山は買収したそうです」

 

「他国も少しずつですが買収しており、マスメディア、水道局、発電所も抑え、CEOの名義は全て我らが主に変更しています。お好きに扱いください」

 

「この国の軍も政治も、全てあなたのものです」

 

嬉々として彼らは自国の征服についての報告を告げる。なんとも滑稽な人たちか、恋に落ち、思考能力を奪われ、盲目になった信者たちは自ら国を捧げる。

自殺を宣言しているようなものだ。たった一人の美人のせいで、国ひとつ奪われる。

 

彼らに施された洗脳は恋。一方的で報われない恋心。

自らの手で全てを捧げてしまうような盲目的な恋。

 

恋とは洗脳。だからたとえ洗脳が解けたとしても、それを洗脳だと認識しない。

たとえ正気に戻って全てを失ったことに気がついても、顔の良い胸の大きな理想の女に振り回された自分が愚かだったと気がつくだけ。法律上も、自分の意思で、自分の好意で全てを捧げたと判断されるため、彼らが不利になるだけ。

 

恐ろしい感情だ。セックスも出来ないアクセサリー以下の女に皆群がって、自分の全てを貢いでくる。

恋と呼ぶにはおぞましい光景。

 

「はー……洗脳とはいえ、愛する相手に自分の会社を贈るってやっぱ頭いかれてるな」

 

「我らの主が喜ぶならば、我々は命すら惜しくありません」

 

しかし、その感情に犯されているのは彼らだけではない。

 

「……それは俺もだよ」

 

リモコン片手に立ち上がる。

フランスは手に入れた。あとは勝手に盲目な信者たちが自ら身を捧げてくれるのを待てばいい。

まるで生き物を殺す寄生虫のよう。自分(カブトムシ)なんかよりよっぽど虫らしい。

 

魔性の女と呼ぶべきか。それとも邪神か。

 

全てを釣り上げる完璧な肉体と美貌で知らぬうちに洗脳し、恋をさせ、すべて自ら捧げるように支配する。

魔法にかけられたら最後、破滅まで一直線。最後は自死か永遠の発狂、その二択しかない。

 

 





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だがTS男だ
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