とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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今回と次回は一方さんの回です。
色々原作と変わっているので、ロシアに行く口実を作るための説明回なので、簡単に終わらせる予定です。


118話:学園都市にて

雲の厚い空が大きな窓からかすかに光を入れる。

学園都市に何軒も並ぶ高いビルのひとつ、オフィスビルの一室で男は口を開いた。

 

「お望みの品は何かな?逃走用の車?隠れ家?それとも両替かな?」

 

電気の点いていない暗い部屋で男は薄く笑う。()にやってきた客を鼻で笑うと、男は品定めするように視線を動かす。

広い机においたパソコンの淡い光が唯一の光源。暗い室内では客の人相はすこし分かりづらい。

分かるのは杖を突いていること、真っ白い髪をもっていること、病的に体が細いことくらい。

そして同じ闇に潜む人ということだけ。

 

「まぁ何があったかは聞かねぇよ。必要な物を言ってくれればいい」

 

「……雑貨稼業(デパート)さンよォ、アレも商品なのか?」

 

だんまりだった客は、広い部屋の一角に興味を示しようやく言葉を発する。

その視線の先にあるのは重い鎖で繋がれた裸体の女。部屋の隅に置いておいたそれをじっと黙って見つめる。

 

「ふーん、そっちに興味があるのかな?ただ悪いんだがあれはオプションじゃない、サンドバッグ──」

 

闇を知る人間ばかりがくる店にのこのことやってきた客だ、女を虐げるのに興味があるのかもしれない。

だが薄汚れて反応も悪くなってきたとはいえ、そのおもちゃは自分専用のサンドバッグ。断ろうとため息を吐いたところ、客は唐突に重い封筒を机に叩きつける。

金一封、女を一人買うための金がぽろっと開いた封筒から僅かに飛び出した。

 

「っ……おいおい」

 

「前払いだ。こっちもつまんない仕事回されてイライラしてンだよ」

 

「言っておくが殺すだけで七百万だからな。でもそんなガキのどこに興味が湧いたわけ?」

 

分厚い札束に僅かに驚くも、ここまで執拗に購入の意志を見せるということは暴行以上のことでもしたいのだろう。

例えば、殺人とか。

 

「……?アァ、そっかそっか、何か勘違いさせちまったみてェだな」

 

しかし、想像は結局想像でしか無かった。客の低い声に喉から出た乾いた音が返事をする。

 

「俺が買ったのは、お前の方だ」

 

そこから先の記憶はない。痛みと熱い呼吸に遮られ、思考することは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

血溜まりの中、客だった一方通行(アクセラレータ)はため息交じりに携帯電話に全てを報告する。

電話越しの満足気な声が気に入らなかった。

 

「一応終わらせた。クソみてェな仕事で退屈すぎたがよ」

 

鉄の生臭さが鼻を刺激する。しっかりとした作りの黒い革製のオフィスチェアが赤で汚れ、汚い血溜まりをフローリングに作る。

先程までペラペラと薄っぺらいことを軽薄に喋っていた男の面影はない。慣れてしまった死体の匂いが空気を汚していた。

 

「ア?必要なもの?息吸って吐くだけの肉塊の回収班と……あとは女物の着替え一式ってところか。サイズ?知らねェよ」

 

ちらりと鎖が外れた女子生徒を横目で見て強く携帯を握る。

小さく背中を丸めて自分を守るように体を抱きしめる非力な少女は痛々しい。

 

「回収班も、女の人員を回してこい。男が一人でも交じってたら、そいつの金たまを蹴り潰す」

 

机の上に置きっぱなしだったピン札の束を少女の足元に投げ捨てて踵を返す。

血なまぐさいこの部屋からすぐにでも出たかった。

 

「後は勝手に生きろ。残りの人生、成功するのも失敗するのもオマエ次第だ」

 

「貴方は……?」

 

カツカツと杖が床を叩く音が響く。少女の問いかけに足を止めることなく、ただ出口へと向かった。

 

「……悪党だ、クソッタレの悪党だ」

 

呟いた言葉が少女に届いたのかは定かではない。静かになった部屋を後にして暗い廊下を進む。

次の仕事が来るまでの無意味な時間がとても憂鬱だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗くなってきた午後、早めの夕飯と思い、ソースと絡めたパスタを子供用の小さなプレートに盛る。

()()焦げてしまったパスタと、綺麗に盛り付けされたサラダ、残っていた保護対象が置いていった作り置きのシチューの残り。

ソレらを自分の白い肌と同じくらい白い皿に盛り付ければ完成。

完成度はそれなり。満足するかと聞かれたら、多分する。

 

「ご飯できましたよ」

 

「……はーい」

 

配膳用のトレイに全て載せて、黒いガラスで出来たテーブルに並べ始める。

ワンテンポ遅れて返事をして、参考書やプリントから離れて杠林檎がテーブルに着いた。なにかに落ち込んでいるのか、いつも無表情の顔は僅かに曇っている。

 

「なんでそんな不服そうなんですか」

 

「別に……」

 

「言いたいことは早めに言う方がいいですよ?私は保護対象のようにフルパワーで怒りませんから」

 

マスターにはきっとできない芸当だろうなと、どこか冷静な脳が考えながら杠の伏せた顔を覗き込むように優しく諭す。どちらかというと、カブトムシ05は()の方に似たのかもしれない。

 

「……垣根と05のご飯って美味しくない」

 

意を決したように杠は顔を上げて、頬を膨らます。僅かに感情が生まれてきた彼女の顔は明らかに不満の表情をしていた。

 

「そ、れは……多分製作者(マスター)のせいです、ええ、そうに違いありません」

 

「切るのとか、盛り付けとか、作る手順とかは完璧なのに……なんで全部強火でやるの?」

 

マスターから受け継げられた料理能力。不満そうに黒焦げになったパスタのようなものを見つめる杠の顔からそっと視線を逸らす。

パスタに入っていた貝は無残にも黒く焦げ、油っぽい。

 

「……火力(パワー)こそ力なんですよ」

 

「せっかく綺麗にできてるし、天羽がレシピまとめてくれてたのに……なんで火をつけると()()()()()下がっちゃうの?虫だから火が好きなの?」

 

モゴモゴと口籠っていると、杠の冷たい視線が突き刺さる。彼女らしくない罵倒も相まって複雑だった。

マスターと()()な情報、技術、記憶を共有している05はもちろん料理の仕方もマスターからダウンロード、知識の一部として構築している。だから調理の際の癖や好みがマスターと同じになる。

包丁の入れ方、料理のさしすせそ、だしの作り方。知識は全て入っている。しかしマスターも05も、経験が追いついていない。

火を扱うと途端に血が沸き上がり、なぜかフランベをしたくなる衝動が掻き立てられる。これはもうそういう性格(設定)としか言えない。

 

「日に日に口が達者になりますね……成長だと喜ぶべきなのでしょうか」

 

「テレスティーナが勉強教えてくれるからかな」

 

「そうですね、悪いところも学んでるようで……」

 

ため息をついて、恐る恐るパスタに手をつける杠を見つめる。人工生物だというのに、日を跨ぐに連れ成長していく幼い子供に親心のような()()を感じてしまうのはなぜだろうか。

嫌そうにパスタを口に運ぶ彼女は05にとって、保護する対象だった。

 

「……天羽たち、いつ帰ってくるんだろう」

 

「今は……イギリスですね。十一月には帰ってきますよ。必ず」

 

「遅い……」

 

フォークとお皿がぶつかり合う音が広い部屋に響く。さみしい子供の声が大きく鼓膜にこびりついた。

誰であろうと、子供の悲痛な声は良心が痛む。早く、帰ってこないだろうか。

 

「それまでに色々、トラブルは解決しておきましょうか」

 

「どうしたの?」

 

「いえ、マスターに少し頼まれごとをされていまして。もうそろそろ出なくてはなりません」

 

杠を置いて椅子から立ち上がる。一人でご飯を食べる彼女に申し訳なさを感じながらも、今後の行動を出来の良い脳を稼働させて考えてしまう。

たとえ大事な少女でも、もっと大切な命令がある。

 

「なにするの?」

 

()()()をする輩に、少しお灸を据えに」

 

記憶を分け与えられた今の05はするべきことがある。

物語を円滑に進めるための下処理。他でもない自分にしかできない大事なこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な機械が広い地下に設置され、大きな音を反響させる。

都市外周の壁をなぞるように地下二百メートルもの奥深くに作られた巨大な輪っか。学園都市の科学技術が誇る世界最大の粒子加速装置が稼働する。

フラフープと呼ばれるそれは、学園都市内でも重要な施設の一つ。侵されてはならない場所の一つ。

逆に言えば、侵してしまえば『上』と交渉ができるとも言える。

 

「ココが爆破可能な状況であることで、統括理事会の思い切った行動を封じることができる、か」

 

「流石にこんな地下深くまでは誰も手出しできないだろうしな」

 

そんな巨大な施設の中で、武装した男たちが呟く。この施設は切り札、クソッタレな上層部に一泡吹かせるための前準備。

施設を占拠し、子供の人質を奪った。あとは交渉のみ。

迎電部隊(スパークシグナル)と名付けられた彼らは、愚かにも学園都市を敵に己の思想を貫こうとしていた。

 

「時間か」

 

そう誰かが呟いて、彼らは行動に移る。静かに地べたでひっ付き合う子供の群れに視線を向けて、足音を響かせる。

交渉のための人材。2ダースはいるか弱き少年少女たちが膝を抱えて彼らを見つめる。

殺害現場を動画に収め、交渉の手札にする。それが彼らの作戦。

罪悪感などとうになかった。

 

「せめてもの慈悲だ。目隠しをしてやれ」

 

「ッ!こんな計画がうまくいくもんか。お前たちの悪事が許されるなんてことは絶対にないんだっ!」

 

子供の群れから生意気な目つきをした少年を一人引きずり出して銃を突きつけ座らせる。黒い布で目を覆われ、数分後には喋ることすらできなくなる少年は、最後の叫びを喉の底から吐き散らす。

涙を溜めた目は布に塞がれ、何も見えない。

 

「俺は信じてる。絶対にお前たちを捕まえてくれるヒーローがいるんだって。みんな助かるんだ、助けてくれる人が絶対いるんだ」

 

「そうか、そんなヒーローがいたとしても、地下二百メートルでは間に合わないようだ」

 

少年の純真な言葉に男たちは下品に口を開けて笑う。夢見がちの子供の届かない祈り。哀れなガキの馬鹿馬鹿しい祝詞を笑う彼らはトリガーに指をかける。

安全装置なんてない。手段を選ばず要求を通す。それが暗部のやり方。

それがこの学園都市のやり方。

 

ヒーローなんて、所詮夢物語だ。

 

「まぁ、間に合うんですよねぇ」

 

だが少年の言葉は力となった。一瞬のうちに拳銃は分解され、男は硬い床に頭を打ち付ける。

あまりにも唐突だった。

どこからか現れたそれは、硬い防弾チョッキを貫いて背骨まで響く衝撃を打ち付ける。

圧倒的な武力。たった一人の能力者に彼らは慌てふためく。

 

「なっ、お前どこから、ッッガァッッゥ!??」

 

「我々、座標移動(ムーブポイント)のデータは取得済みでして」

 

男たちの野太い叫びを砕く衝撃が襲う。足で蹴って、足で踏み潰すだけ。だというのにそれが与える衝撃は人間の域を凌駕していた。

頑丈なヘルメットで守られていた顎は砕かれ、頭蓋骨は陥没、眼球は人知れずに破裂し、喉仏は潰された。

肺も、胃も、腸も、骨も、腕も、足も、睾丸も、何もかも、硬い防護服のなかで無残にも潰され、破裂し、かき混ぜられる。純粋な暴力で、彼らはあっけなく生き絶える。

頑丈なヘルメットと衣服が血が漏れ出すことも、死に際を子供達に見せることもなく、場を汚さずに息を止めた。

 

「さて、もう大丈夫ですよ。お嬢さん方も、お怪我は?」

 

少年の目隠しと拘束を外し、それは優しく微笑む。

それはどこまでも白く、美しくも儚い少年の姿をしていた。高い背、細くもしっかりした体格、初恋を奪い去る甘いマスク、優しい声色。

白の中で輝くエメラルドの眼が輝く海のように眩しい。

 

ヒーローと呼ぶに値する、そんな生き物が優しく彼らに微笑んでいた。

 

「……王子様?」

 

「ふふ、そんなに素敵な生き物ではありませんよ」

 

白く端正な顔に怯える少年に微笑むと、白い体の輪郭が揺らぎ、子供と同じくらいの大きさのカブトムシへと変わる。

彼なりの気遣い、白い人間より白くて大きいカブトムシの方が喜ぶのではないかといういらぬ気遣い。

だが驚くべきことにその配慮は正解だったようで、少年は興奮したように彼の体ほどのツノに抱きついた。どうやら、緊張はほどけたよう。

 

「カ、カブトムシだ!」

 

「はい、真っ白なカブトムシです」

 

「すごい!カブトムシのヒーローだ!すご──っ?」

 

子供の明るい声に彼は優しく言葉を返す。しかし、奥の廊下へ視線を向けるとまとう空気が変わった。

カツンカツンと響く音。誰かの息遣いに誰もが気がつく。

倒された仲間の増援か、突入したか。

 

「ア……なンだ、ソレ?」

 

「やっときましたか、少し到着が遅れたようで」

 

緊張が走る中、現れた人物は唸るような低い声で背の高いそれを睨む。白い髪と赤い瞳。人相の悪い顔と細い体をしたその人は、杖をついていた。

第三勢力とでも考えるべきか。怪訝そうな顔でその人は死体に囲まれ子供達に懐かれたよく分からない物体を見つめていた。

 

「……喋る、カブトムシィ?」

 

足を止めたその人とそれの目が合った。あまりにも大きく違和感のある虫に、現れたその人は首につけたチョーカーに手を添える。

危険は不思議と感じない。けれど不安はあった。

 

「初めまして、第一位」

 

その生き物の澄んだ緑の目は、怪物のように禍々しかった。

 




05と垣根が料理下手なのは偶像からの輸入です。
料理回を見る限り、ちゃんと料理できるのに火力がアホなんですよね。
なのでこの作品の垣根さんは『下処理や包丁の扱いは上手なのに、火力や目分量でたまーにやらかす』タイプの気まぐれコックさんとなっております。

ちなみに天羽さんは長年の子育て経験(妹)があるので料理上手です。
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