とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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色々端折ったので説明くさいし短いですが、まあ、蛇足みたいなものですから。


119話:お気に入り

「で、テメェはなンなンだよ」

 

「私は……とある方の伝言役です。伝書鳩とでも思ってくだされば」

 

「とある方?」

 

暗く冷たい施設の廊下。巨大な虫を前に、眉ひとつ動かさず一方通行は吐き捨てる。

素性の知れない、得体のしれない異形の昆虫に疑いを持つのは当たり前だった。

 

「……これなら分かってくれるでしょうか」

 

「ッ!」

 

ため息を吐くと、その昆虫はみるみるうちに人の姿に()()()()()()()

白い髪。白い肌。緑の目。大きな胸と、男よりも高い背。似合わないセーラー服。

 

あの夏、甘い言葉を囁いた悪魔。

あの十月、憎悪を撒き散らした自殺志願者。

 

憎らしい女の笑みがそこにあった。

 

「きっと、あなたは覚えてないでしょうけどね」

 

その真っ赤な瞳に映る白い人はずっと笑顔を絶やさない。

その笑みの下にあるのは冷たい感情。彼、カブトムシ05は決して目の前の最強が好きではない。立場上笑みを浮かべるが、後ろで重ねた白い手を強く握りしめ感情を受け流す。

 

マスターの憎悪の対象、保護対象の殺害対象、杠林檎の能力開発の元凶。

一歩通行。

その人への感情は決して良いものではなかった。

 

その感情を隠して一匹のカブトムシは身分を明かす。

ニコニコニコニコ。

胡散臭い朗らかな笑みが一方通行を見下ろす。約五センチの身長差が心地がいい。

 

「……ンで?仕事をかっさらって、なにがしてェンだ?」

 

「少しお手伝いができたらと、こうやって面倒を片付けているのです。気遣いですよ」

 

「嘘つけ。その目はお手伝いにきた優しい女がして良い目じゃねェぞ」

 

だが悪意や憎悪といった負の感情に敏感な一方通行にはその真意がわかる。ただの優しく美人な女ではないと。真っ白な外見とは裏腹に、その中身がどす黒いことも。

でなければ的確に、残虐に、武装した男どもの息の根を止め、なおかつ子供に見せないという計算で埋め尽くされた残酷ながら冷静な殺害方法なんてできるはずもない。

 

計算高くて外面がいい、顔だけの女。

それが一方通行の考え。

 

「……そうですね。私たちは私たちのお姫様を殺しかけた貴方のことは反吐が出るほど嫌いです」

 

「姫?あいつが姫とか末恐ろしいな」

 

笑顔の仮面を外し、冷たい緑眼でその生き物は一方通行を見つめる。端正な顔を歪めて嘲笑う。

一方通行のことなどどうでもよかった。彼の家族が死のうと、生きようと、悲しもうと。

関心などない。

別にマスターにも保護対象にも関わりなどない。興味はない。

 

「ンで?復讐でもしにきたのか?」

 

「それも面白いかもしれませんが、彼女が迷惑をかけたのも事実。私も、少し彼女に肩入れしてしまいましたしね。お手伝いをするのは保護者として当然です」

 

「ア?」

 

けれど彼女のためだと言うのならば、嫌悪も憎悪も気にしない。

汚い罵倒も、苛立つ視線も、気にしない。

 

「……簡単なクイズでもしましょう。貴方が殺してきた何体ものクローン、なぜ第一位ではなく第三位を?なぜそんな隠蔽したいものを全世界の研究施設に?なぜ幻想殺しを持つ特異な少年に喧嘩で負けた程度で実験は中止に?考えたことありますか?」

 

「なンでテメェがそんなことを……いや、あの女の仲間なら知ってて当たり前か」

 

「何か裏があると、もっともっと深い理由があると思いませんか?例えば、ミサカネットワークの悪用とか、打ち止めの権限を使用し──」

 

「テメェ、あのガキに何かしたら殺す」

 

再び笑みを貼り付け哀れな子供に道しるべを与えていく。しかしたったひとつの名前に過剰反応すると、カチリとチョーカーの電源を押す。能力使用モードに切り替わり、一陣の風が吹く。

獣のように必死になってたかが名前に過剰に反応するどうしようもない人。言葉を遮り、話を聞かない姿勢に優しさを保つのに飽きが来ていた。

 

「……人の話は最後まで聞くものだろうが、早漏」

 

「ア?今なンて」

 

「いいえ、何も!ですが人の話は最後まで聞いたほうがよろしいですよ。短気は損気と言いますでしょう?」

 

小さく呟いた男の低い声は幸いにも一方通行には聞こえなかったようで、取り繕うように笑顔を作る。

埃をはたき落とし、皺ひとつない白いセーラー服を整え薄っすらと目を細めて腹立たしい赤い目を見下ろす。

 

「さて、お話は戻しますが、もし何か起きても、クローンゆえに治療が困難だったり、プログラムの問題に干渉できる人は多くありません。でも一定数、そういった子供を治療できる能力者はいます。そう、例えば体の全てを操る能力者とか」

 

「どンな怪我でも……」

 

「あのクローン達の健康を管理し、少しでも人間に近づくために保護観察をしているのは他でもない彼女です。貴方が殺そうとした彼女ですよ」

 

咳払い一つしてから簡単に、簡潔に、真実を話す。ただひたすらに残酷な真実を。

一方通行の顔から温かみが消え失せる。あの金髪を、甘い桃色を、赤と緑の瞳を、きっと思い出しているのだろう。

一生忘れられない女の恐ろしく明るい笑顔を。

 

「彼女ならばきっと、記憶障害も身体の副作用もなく一万ものクローンを本物の個性ある別の人間にできるかもしれませんね。貴方は正当防衛とはそんな人間を殺そうとしたのです。よかったですね、まだ彼女が生きていて」

 

「ッッ……!」

 

畳み掛けるように05は笑顔で告げる。少しだけ顔が青ざめ、あの日のことを思い出す姿がひどく滑稽だ。

苦虫を噛み潰したような顔で背の低い一方通行はぐっと強く杖を握る。どんな未来を潰しかけたか、どんな未来がありえるのか。大きな脳で計算して、唾を飲む。

 

「……それで、俺にその話をしてどうする。なンの意味が、オマエになンの得がある?罪悪感でも植え付けて、無理難題でもふっかけようと?何がしたい?罵倒したいのか?後悔して欲しいのか?復讐したいのか?」

 

「私たちの願いはただ一つ、彼女が喜ぶ世界になること。あの忌々しい男の鼻を明かしてみたいではないですか」

 

マスター経由でもらった保護対象の真実。それは台本の行方、この世界の行方。

三次元から二次元へ。現実から虚像へ。

救われない人間と、結局救われる主人公。同じ過去、似たような闇、そんなものを持っていたって結局主人公でなければ救われない、幸せにならない。

 

救われないのならば、この学園都市を作った元凶に反撃をしたい。

皆が幸せになる世界を夢見る彼女のために、何かをしてあげたい。

 

それが今回の邂逅。

垣根(マスター)の代わりに保護対象と対峙し、肉片全てを垣根たちに回収されたピンセットを奪えなかった一方通行。

砂皿緻密を雇わなかったがために殺されない上層部。

何も知らない。何も起きない。

それを防ぐための邂逅。あの場で死ぬつもりだった彼女の尻拭い。

 

「……それとこれはオフレコでお願いしますが、私は打ち止めに少々借りがあります。ですから、これから伝える言葉は決して貴方の為ではなく、とても勇敢なある少女のためです」

 

そして理由はもうひとつあった。

あの十月九日、小さな子供に怒られた。小さな子供に諭された。

杠林檎を連れ、怪物を止めに行った少女。彼女のおかげでマスターが死ぬことも、保護対象が死ぬこともなかったのかもしれない。

別に連れて行かなくてもマスターが勝手に生かせていたのかもしれないし、別に必要な要素ではなかった可能性はある。

けれど、あの小さな子供が間接的にでも彼女の生き死に関わると言うことなら、恩は返すべき。

 

「妹達はアレイスターの大きなプランに関わっています。戦争が始まるかもしれない今の学園都市でそのプランが発動される確率は高い。そのプランが起動したとき、司令塔はきっと大きすぎる負荷を追う」

 

だからポツリポツリと告げる。一方通行ではなく、その先にいる小さなヒロインに向けて。

 

「もし、打ち止めに何かあればロシアに行くといい。そこに彼女がいます。どんな怪我も、どんな病気も治すでしょう」

 

「オイ!待ちやがれ!」

 

必要なことだけ伝え、背を向ける。白い革靴が映える暗い廊下で振り返ることもせず出口へと向かった。

 

「では、私はこれで。残党狩りに行かなくてはならないので」

 

仕事はまだ終わらない。

もう少しの労働にため息をついて、ふっとその場から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血の匂いが充満する部屋でカブトムシ05はため息をつく。何人もの武装した男が彼に向かって銃を撃ち、敵意を向ける。マスターの姿に戻ったカブトムシ05の美麗な顔に向けて、弾丸が放たれた。

その敵意に呼応し、彼は間合いを詰める。人外のスピードに追いつくものはおらず、呻き声一つあげることもできずに、一人、また一人と倒れていった。

 

「ステファニーがいない今、何をしているのかと思ったらただ別の階で妨害工作とか……彼女がいないとサロンを占拠する脳がないんですねぇ」

 

打たれる弾丸は05を貫通することもなく、通り過ぎ、跳ね返り、潰される。銃を持つ人々は素早く革靴の底で骨を割られ、肺を破られ、心臓を抉られた。

どうしようもない暴君、人と呼ぶには異形な少年になすすべもなく命を絶たれていく。

 

「はぁ、なんとも弱っちい、虫より弱いなんてなんて非力な生き物なんでしょう。と言うか、ドラゴンなんてものを聞いて、何がしたかったのでしょうか?」

 

血だまりの中でふっと息を吐く。その血の鮮やかに輝く赤色にあの少女の赤と緑の瞳を思い出す。

自分と同じ緑の目、血肉と同じ赤い目。生と死が入り混じる輝く瞳。

 

異国へ旅立った彼女の面影を、血生臭いこの部屋で確かに感じていた。

 

「……今頃、何をしているのでしょうか」

 

──幸せになるためなら、天羽に手を汚させてもいいの?

 

──大切な誰かを『自分』で幸せにしたくないの?ってミサカはミサカは最後に聞いてみる。

 

思い出す、あの日の言葉を。何がしたいのか自ら思考できなかったあの日とは違う。

これは彼女に頼まれたわけでもない。マスターに頼まれたのは事実、けれど、彼の心は彼女のために行なっていた。

 

「きっと、貴方のためならば私たちはなんだってできるのでしょうね」

 

仕事はまだ終わらない。

しかし不思議と気分は晴れやかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一匹の龍が窓のないビルの中で起動する何体ものホログラムでできたモニターを見つめる。

その龍の隣で円柱の巨大な水槽に逆さまに浮かぶ長髪の人間、アレイスター=クロウリーは呆れたように目を開けた。

アレイスターとよく似たシルエットのその龍は、どこまでも白く、軽い体を浮かばせモニターに映った垣根帝督の分身を観察する。

 

『なんだか楽しそうだ、昼ドラ並みのドロドロなロマンスが期待できそうだな』

 

「そんなに第二位が気に入ったか、エイワス」

 

眼球のない仮面のようなのっぺりとした顔でモニターを見つめる化け物を、アレイスターはエイワスと呼んだ。

 

螺旋のような輝きよりも一層輝く双翼と、頭上に浮かべた丸い光輪が薄暗い部屋を照らす。

彼はドラゴン。彼は天使。

二つの記号に対応する未知の生き物。アレイスターの良き理解者であり、指導者。

知識を授けた異次元の化け物は、モニターに映った第二位の白い分身に夢中なようだった。

 

『正確にはその分身だがな。面白いぞ?』

 

「はぁ……なぜそんなにも興味がそそるかも理解しかねるね」

 

表情には出さずとも楽しそうなエイワスに、アレイスターは眉に皺を寄せる。アレイスターは垣根帝督に興味がない。

確かにプランとは違って成長が見られ、影響が大きくなってきた。少女一人を補佐(サポート)として入れただけで、能力は飛躍的に伸びた。

だが彼は二番目。成長すればするほど、第一位の代わりを務める可能性が増えるだけ。

長期的に見ればプラン通り。

このまま伸びれば第一候補にもなりうるが、今はエイワスほど彼に興味はなかった。

 

『何を言う。その適応力、野心、能力、何を見ても興味深い。理不尽に全てを奪われても努力を惜しまず足掻き続ける者、そういうものに心奪われる。ヒーローと呼ばれる者にな』

 

「分からんな。それならばなぜあの少女を嫌うのか。お前のいうヒーロー像によく似ているじゃないか」

 

『あぁ、あの忌々しい愚か者か。あれは違う。ただの破滅願望持ちのメシアコンプレックス、弱者を縛り付け救うお遊びをする邪神。ドールハウスで自分好みのおままごとを繰り返す子供。まぁ、彼女がそれに気がついているか』

 

アレイスターとしては天羽彗糸の方が興味深い。愚直に願いを叶える努力をし、誰もに愛想を振りまき、全てを救う。エイワスの言うヒーローに当てはまる者。

しかしエイワスは気に入らないと言わんばかりに低い声色でモニターを見続ける。嫌そうな声色が不気味だった。

 

『忠告はしておく。あの女は私と同質だ。ちょっかいをかけるなら、相応の対策が必要だぞ』

 

「ご忠告痛み入る。そんなこと、私が一番よく知っているがな」

 

簡素な忠告にアレイスターは視線を逸らす。軽い反応にエイワスはただただ呆れてモニターの中で佇む少年たちを眺める。

数奇な運命を辿る少年少女。その姿に好奇心が疼く。

 

『……あの少女をにできる彼が、一番恐ろしいのかもしれないがな』

 

息を吐くように呟いたエイワスの言葉は誰にも聞こえることなく、暗い部屋に溶けていった。

 




来週はエイプリルフールですが、本編を進めるため去年のように偶像もどきは書かない予定です。
その代わり旧約が終わり次第スピンオフ的に偶像時空の話を十話くらい書く予定です。
もしかしたら来週そのアンケをとるかもしれません。
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