とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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前回の一方さんのセリフが一方さんらしく変換されてなかったのを修正しました。申し訳ないです。


124話:第三の主人公

軍事用の大きな輸送車が揺れる。四人乗りの後部座席に少年が二人、眉間に皺を寄せてそれぞれの窓から白い外を見つめていた。

 

「はぁ……」

 

うるさい走行音に掻き消されてしまうほど小さいため息を吐いて、上条は雪景色を眺める。

元気になったり、落ち込んだり、とても忙しない。

 

「何落ち込んでんの?気持ち悪」

 

「なんだよ、落ち込んじゃダメなのかよ」

 

「ダメだ」

 

「理不尽……」

 

分かりやすく項垂れる上条の姿に呆れてぶっきらぼうに声をかける。足を組み、偉そうに鼻で笑う垣根に、上条は少し心が軽くなったのか乾いた笑みを見せた。

 

「インデックスにそんな顔向けていいのかよ?また心配かけんぞ」

 

「……でもさ、フィアンマの言う幸福な世界って、どんなもんなんだろって思わないか?」

 

俺様気質ながら、人を気遣える程度の器量はある珍しいタイプの超能力者。それでいて少し()()()()な垣根はそつのない簡単な励ましを続ける。

考えれば考えるほど沼に嵌っていく上条の姿に、なんだか昔の自分の姿を重ねながら。

 

「あのなぁ……いいか、世界の幸福なんて一つじゃないんだよ。ベンサムの功利主義を思い出せ。幸福とは悦楽、そして悦楽を生む全てのものはそれと比例して善であるといっただろ?」

 

「なんだそれ?」

 

「つまるとこ、フィアンマが言う幸福な世界なんぞあいつのエゴで、正義という快楽を貪るためのただの口実だ。だから、お前もお前のエゴを押し通せ。好きな女のためにな」

 

 

随分前、カブトムシ越しで聞いた彼女の言葉を繰り返す。善とは幸福、幸福とはエゴ。好きなことをして幸福になっているだけ。

拒まれたって構わずに、嫌という程幸福にしてしまえ(エゴを突き進め)ばいい。

それがあの女の思考、考え、核。

自分にその幸福(エゴ)が向けられるとは思ってもいない愚かな女の独りよがりな考え。

 

主人公(ヒーロー)の思考回路。

腹立たしいその思考回路はある意味正しく、ある意味不正解。

 

他人もそのエゴを貫くと知らないのならば、こちらもわがままを通せばいい。自我を見せればいい。

自分だけの幸福(エゴ)をこちらの幸福(エゴ)でねじ伏せてしまえ。

 

「好きって、いや、俺はインデックスのこと大事だけど、そんなんじゃ」

 

「うるせェ。窓から落とすぞ」

 

「脅迫かよ!」

 

しかし変な所に反論し、真っ赤になって上条はモゴモゴと垣根の言葉を否定する。

そこじゃない、と少し苛立ちながら上条の頭を叩いて鋭く睨む。言葉が一切響いていないのが腹立たしい。

 

「どんなに懐が広くても、好きじゃねぇ女と同居なんてしねーんだよバカ。ロシアまできて、意味ワカンねぇ強敵を殴ろうとして、世界救ってまで助けたいんだろ?そりゃ恋をすっ飛ばして愛だ、恋を経て強固になった愛なんだよ」

 

「う、やめろ……あいつを不純な思いで汚したくねぇんだよ」

 

「恋じゃなくて愛なら綺麗らしいけど?あの馬鹿曰く」

 

頑固さは彗糸と同レベル。

救世主とはどいつもこいつも潔癖症なのか。自分以外の()()に清らかさを求める思考はなんとかならないものか、呆れて言葉も出ない。

 

彼はインデックスが好きで、その思いが汚いものだと感じていて、そして自分自身が汚いものだと感じている。

彼女も同じ。垣根が好きで、その思いが汚いものだと感じていて、そして自分自身が汚いものだと感じている。

 

健気とはかけ離れた、自己肯定感の低さからくる自己嫌悪。

相手はその感情を求めているのに、隠してしまいこむ。相手の前では綺麗でいたいから、潔癖に汚いと思い込んだ感情を隠す。

なんとも哀れな人たちだろうか。

 

垣根とは全く違う思考回路で動く人たち。

何度も失いかけて、何度も手の中から零れ落ちそうだった。だから囲いたくなる、手綱を握っていたくなる。

守りたい、何かをしてあげたい。幸せになるためなら学園都市だって、世界だって敵に回す。

もう失いたくないから。

もう離れたくないから。

もう()()()()()()()から。

きっとその考えは幼い頃、大事な人を守れなかった反動。

そして多分、初めて誰かを自分だけの手で救えた故。

 

垣根の考えとは真反対、真逆をいく人たちの思考は全くといっていいほど理解できない。

どうしてこうも、救世主とは脳の構造が普通とは違うのだろうか。どんな考え方なのか理解したくもない彼らに、深い、深いため息を吐く。

 

「そうやって俺に都合のいいことを……」

 

「ま、お前がどうなろうが知ったこっちゃねぇが、感情や存在一つのせいで未来っつーもんは簡単に変わる。いつか取り返しのつかないことになっても知らねーぞ」

 

取り返しのつかないことになったのが()()()()()()垣根帝督である。

 

研究所で笑顔をくれた少女をなくし、かっこいいと褒めた少女を救えず、彼女が現れなかった本来の世界。

闇に飲まれ、世界を変えるために第一位の座を求めた。

 

そして取り返しがつかないほど落ちぶれた。

05が自分に成り代わり、自分は墓とも呼べない場所で死ねずに、()が思い出すまで永遠を眠る。

 

なんとも滑稽な最期だろうか。

理想(ヒーロー)になれず、結局自分は最も憎む男の二番煎じ。

望んで悪に堕ちたわけでもないのに。望んで殺したわけでもないのに。

望んで悪に堕ちた男に。望んで殺し続けた男に。完膚無きまで打ちのめされ、負ける。

 

負けたのだ、第一位に。

 

顔も、性格も、体型も、声も、彼女はきっと、垣根帝督の方が好みだと、一番だと、世間一般で好まれ、愛されるというだろう。

けれどそんなものはどうだっていい。

なんでも持っているのに、単純な脳の構造で、自分が一番誇りに思っていたもので負けた。

 

屈辱以外のなんでもない。

 

そして垣根すら知らないその屈辱を、彼女は知っていた。

彼女にそれを知られていて、守られてしまった。

 

そして結果的に、未来は変わった。

取り返しのつかないことになったのは彼女の方。

 

彼はよく知っている。

感情一つが、存在一つが、未来を変えてしまうことを。

 

「なんか最初に会った時と、変わったな、お前」

 

「……どこぞの馬鹿の受け売りだ」

 

あまりにも普段の垣根とかけ離れた言い分に目を微かに見開くと、少し嬉しそうに笑う。

のほほんと、何か勘違いされているようで少し癪に障る。

からかうような目線が腹立たしい。彼の思っていることなど見当違いの勘違いでしかないのに。

 

「あいつのこと大好きだな」

 

「今までの会話でどう解釈したらそうなるんだ?つか、俺の彗糸に対する感情は、飼い犬に対して思うのと近いから。愛ではあるがお前のものとは少し違う」

 

あぁ、やっぱり勘違いをしている。腹立たしい声色に、溜まった鬱憤を吐き出すが、彼の笑顔は相変わらずそこにある。

 

確かに、一億歩譲ってこの感情が愛だと認めよう。しかし彼が思うものとはかなり違う。

飼い犬に湧く愛情のようなものだ。

愚かでグズで馬鹿で俺のこと大好きで一途。そんな女に対する愛情は犬と同じ。ペットと同等。

そうだと決まっている。そうでも思わないと接していけない。

恋も愛も知らない子供(ガキ)相手に、重い感情はまだ早すぎる。

 

「……話聞いてたか?」

 

「べっつに〜?──んぎゃっ!?」

 

それらしい言い訳を並べたにも関わらず、上条は笑う。面白いものを見たと言わんばかりに歯を見せながら笑う彼だったが、急に止まった車の反動でシートベルトが腹に食い込んだ。

あまりにも突然の停止に二人して少し驚く。

だが話をうやむやにされたのは、垣根にとってありがたい話でもあった。

 

「な、なんだぁ!?」

 

「あ、あれを!」

 

ブレーキを踏んだ運転手が甲高い声で叫びながら曇った空を指差す。車を揺らす強い風と、天まで届く二本の黒い竜巻。

天災のような恐ろしい光景に唾を飲む。

 

一方通行(アクセラレータ)……」

 

中心地にいる人の名を呟いて、垣根は深く座席に体を預ける。

近づくクライマックスに、何か遣る瀬無い気持ちになるのはなぜだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

叫ぶ。

 

「もう抑えらンねェよ!あのガキの笑顔だけじゃ収まンねェンだよォォォ!」

 

あの日見た少女の笑顔。

血の匂いと崩れたコンクリート、散らばった金髪と、睨む男の目。

吐き気を催す空気を破った大事な人。

打ち止めの太陽のような笑み、優しさ、愛情。

 

「全部、ぶっ壊して!片っ端からなぎ払いてェ!!」

 

もうすでに、甘いお菓子で止まる時期は過ぎた。柔らかな少女の暖かさでは、彼の感情を溶かすには熱量が足りない。

 

抱きしめて、愛情を注いでくれるヒロインじゃない。

殴り飛ばし、痛みを教えてくれるヒーローを待っていた。

 

「こンなもン作って喜ンでるような連中も!その恩恵を受けて幸せっつゥもん手に入れてる連中も!一人残らず!一人残らず!!」

 

「一方通行!!」

 

そしてその無意識の願いは叶えられた。

叫ぶ一方通行のしゃがれた叫びに重なった誰かの声、聞き覚えのある声に初めて、白い雪を真っ直ぐ見た。

 

「ッ!!テメェ、テメェら、なンで、ここに……」

 

黒髪の少年と、茶髪の少年。

自分を惨めに見せる、ヒーローの姿。

 

「なンで、なンで!なンでェェ!!」

 

足元に落ちた、何かの機材。もう何か分からない、分かりたくもない重い鉄の塊。

それを拾い上げて投げつける。細い腕とないに等しい筋肉が投げたそれは、猛スピードで風を切る。

重い一撃が、凄まじい早さで二人の少年を襲った。

 

「挨拶にしては物騒だな」

 

しかし攻撃は白い翼の前にスピードを失い、跳ね返され、そして砕け散った。

天使のように綺麗な男。

翼も、光る輪も、端正な顔も、余裕のある蔑みも、何もかもが腹立たしい。

一方通行の持つ黒い竜巻でできた翼のような紛い物とは違う。

白く輝く天使様の翼。

 

「妹達を全員救ったオマエも、女を颯爽と助けるオマエも、何もかもを救えるヒーローなンだろォが!」

 

二人のヒーローのご尊顔が憎い。その揺るぎない立場が憎い。

夢物語に出てくるようなご都合展開の誰もが羨むヒーローがひどく憎たらしい。

 

「なンであのガキだけが、何も悪いことなンかしてねェのに!なンでこンなに苦しめられなきゃならねェンだよォ!!」

 

彼らは打ち止めの物語に現れなかった。彼女のヒーローじゃなかった。

御坂美琴の、10032号のヒーローなのに。あのクソ女のヒーローなのに。

ヒロインのピンチに駆けつけて、熱い台詞で悪を制し、世界を守るのが彼等だというのに。

 

打ち止めの前には現れなかった。

 

「上条、お前先行け」

 

「はぁ!?お前、それは、」

 

「いいから、早く行け」

 

「……分かった」

 

隠すように片方の前に白い翼を広げると、茶髪の少年はまっすぐ前をみる。小走りでトラックへ戻っていく黒髪の無能力者の背中が鬱陶しい。

きっと誰かを助けに行くのだろう。

打ち止めじゃない、他の誰かを。

 

「つーことで、テメェの相手は俺だ。悪いな、第一位」

 

「ッ!!?うがァァっ!!」

 

薄く笑うと、茶髪の彼が翼を広げ白い波を作り出す。雪崩のようなそれは一方通行の反射をすり抜け、細い体に大きな衝撃を与えた。

胃液が食道を逆流し、雪の硬さが背骨を伝わる。あの右手でもない、ただの翼に殴られた。

単純な物理攻撃。一方通行の賢い脳みそでも何が起きているのか分からなかった。

 

「あ?なんだその顔、何が起こってるかわかってねぇって顔だな」

 

「なにッが、ァァ!!」

 

「テメェの反射は有害無害のフィルタを持ってる。じゃなきゃ目は見えねえし音は聞こえない。そのフィルタを上手く利用すれば、こういうこともできるってだけだ」

 

もう一度胃の奥を抉るような痛みが襲う。雪の上を回転するように吹き飛ばされ、埋もれるように雪の中に叩きつけられる。

痛みが背中からじわじわと広がって、もう何も考えられない。

 

目の前の天使に全てをぶつけないと、精神が保たれない。

 

「ッ、あのクソ女を救ったヒーローがァ!!誰にも理解できずに救えなかった女が救えるなら!そいつをちょっとはあのガキに向けてみろってんだ!!クソがァァァッッッッ!!」

 

「支離滅裂だな、第一位の頭脳が演算してたどり着いた答えがそれかよ」

 

「俺みてェなクソッタレの悪党が!今まで立ち上がってた方がおかしかったンだよ!ヒーローなンかなれる訳がねェだろ!何をどォしたって、俺は血みどろの解決方法しか選べねェンだよォォ!なンで俺がこンな事しなくちゃならなかったンだ!!オマエみてェなヒーローが駆けつけてくれたら、最初っからこンな間違いなンか起こらなかった!」

 

痛みが増す体に鞭を打ち、両足を広げて立ち上がる。

叫んで、想いを叫び倒して、背中で渦を巻く竜巻が目の前の男を殺すために蛇のように横から吹き飛ばした。

 

「イイなァ!あの女は!どンな災害を起こしても!どンな罪を起こしても!オマエみてェなヒーローが駆けつけて!好きを囁いて全部救い出してくれる!彼女自身もヒーローで、きっとテメェも、9932号みてェに!救われたンだろォなァ!!」

 

風で巻き上げられた雪が煙のように辺りを隠す。

見えない視界の中、ありったけの想いを叫ぶ。今の一方通行にはそれしかできなかった。

 

虚しいじゃないか、悲しいじゃないか。

彼等がいない。彼がいない。彼女がいない。助けてくれる光がいないから、大事な少女が守られない。

あの子だけが守られない。

 

「オマエらみたいなヒーローが駆けつけてくれたら!端っからこんな間違いなんて起こらなかったンだ!あのガキだって!あンなに苦しむことはなかったンだよォ!」

 

「いまだにその程度の理論に止まってんのかよクソガキ。どうやらあいつの言葉は届かなかったみてぇだな」

 

想いを乗せたいくつもの攻撃が躱される。背の高い男に冷たい言葉で見下ろされ、一方通行のプライドはもう砕けていた。

 

「言ってたろ?『思想に美しさなんてない。泥濘の中でひたすら模索し、もがき苦しむ、それは悪も正義も同じ』『テメェは悪なんてものに美しさを見出してそれを探究してるのか?』あの馬鹿に言われた言葉をきちんと理解してねぇ」

 

あの日、あの十月に聞いた言葉が一言一句、全くテンポで、口調で、再び一方通行に向けられた。

金色の悪魔の言葉を、まるで聖書の一節のように、大切に、強く呟く。気持ち悪い。

 

「好きな人のために人生を消費したい、好きな人の隣にずっといたい。好きな人のために世界を壊したい、好きな人のために世界を守りたい。二つ違う考えがあれば片方は悪になって、片方は正義になる。手段なんてどうでもいい、好きなやつのヒーローになりてぇなら!己のエゴを貫け第一位!!」

 

悪魔に毒された天使が一歩一歩と白い雪の上を歩く。

まっすぐ、黒い目が、見る。

簡単な論理で、確実に、しっかりと、一方通行の言葉を切り捨てて、その隙間に新しい価値観を、正論をねじ込んで行く。

 

いけ好かないあの女と同じ手法。

圧倒的なカリスマで、圧倒的な美しさで、圧倒的な言論で、真っ直ぐ、一方通行を殴りにくる。

 

「テメェが散々偉そうに語った美学とやらをかなぐり捨てろ!そのガキを救うためだけに汚くもがけ!悪だとか正義だとか、そんなつまんねぇもので世界を区切るな!特別なポジションも、御大層な言い訳なんかいらねぇ!幸せにしたい奴がいるだけでいいんだって理解しろ!!!」

 

悪を知り、悪のまま救って、悪から救われた、過去の悪役の叫びとともに一方通行の顔面に拳をぶつけた。

未知の法則を纏った、彼にしか作り出せない拳。もやのかかった拳が、今まで感じたことのないくらいの痛みを伴って一方通行の頬にめり込んだ。

一方通行の知らない法則で、反射の殻を砕かれ、頬に大きな痛みが響く。脳に達する痛みに、まぶたが重くなる。

 

叫んで、戦って、吐いて、もう疲れてしまった。

 

柔らかい雪の上に倒れると、少年の茶色い革靴が倒れた一方通行に目もくれず、倒れた少女たちの方へ迷わず進んで白い雪に足跡をつける。

その背中を最後に、一方通行の視界は閉じられた。

 




とある流主人公チェックリスト
垣根編
・不幸か:◎
・上条さんに殴られたか:◎
・敵を右ストレートでぶっとばしたか:◎
・ヒロインがいるか:◎
・ラッキースケベをしたか:△
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