が、変態的に垣根くんや他キャラを愛でる悪趣味な垢なのでフォローする際は十分お気をつけてください。
記憶が流れ込む。
見えるのは赤毛の男の不敵な笑み。木の隙間から見えた光の粒子と、滝のように真っ直ぐ地面に落ちる長い金髪。
「赤毛の男に連れていかれた、か」
フィアンマの腹立たしい笑みに小さく舌打ちすると、ぎゅっと膝あたりのズボンを握る。
倉庫の中の適当な木箱の上、座り心地の悪さと不愉快な状況に苛立ちが増していた。
そんな垣根を見上げるように、姿が瓜二つの白い生き物がふてくされながら地面に座る。
黒い目玉と赤い虹彩。中が見えない真っ黒な口腔から溜息を吐き出して、50は嫌そうに口を開いた。
「接続完了っと……マスター:垣根帝督に設定……はぁ、なんで俺が男の下につかなきゃなんねーんだ」
「同感だな。なんで俺が自分そっくりの部下を連れ歩かなきゃならねーのか理解不能だ」
ようやく道を外れた下位個体を回収できたと安堵するも、垣根そっくりの口の悪さと思考に呆れてしまう。
狭い倉庫を照らす小さな電球と窓の外の光に目を細めて、二人は同時に大きく溜息を吐いた。なんだか居心地が悪い。
「あーぁ、保護対象早く戻ってこねぇかな。つまんねー」
「仕方ねぇだろ。今頃あいつは天空の城で囚われの姫君やってんだ、文句は攫ってったクソ野郎に言え」
床に座りながらぼんやりと窓から空を見つめる下位個体の姿に、垣根も窓の外を見つめる。
眩しい空の光が窓から溢れ、柔らかく垣根たちの体を照らす。
しかしそこにあるのは異様な風景だった。
空に浮かぶ十字の星。様々な教会や聖堂が連なり、重なり、生まれた天空の聖域。
彼女はきっとあそこにいる。
あの金髪のお姫様は、何かの理由で赤毛のムカつく男に攫われた。
そしてそれは原作にはない行為。理由は分からない。
けれどフィアンマが彼女を必要とした事実だけがこの場にある。
サーシャ=クロイツェフの代わりか、彼らも知らない魔術的儀式の必要素材か。解釈は色々あるが、彼らにとって大切なのは、彼女に害を与えたという真実だけ。
その理由があれば、フィアンマへの対応が明確に決まる。
「行くのか?」
「いや、先にこっちに目を通す」
ムカつく敵に殺意を必死に抑えながら、話を変えるよう50の手にある鞄に視線を移す。黒いスーツケースは地面に置かれ、ホテルに入った直後のように開けっ放しにされていた。
なんの変哲も無い鞄の中にあるのは大量の書類。
英語やフランス語、あまり見ない書類の数々を垣根は怪訝そうに見つめて、その中の一枚を手に取った。
「何なんだ、この紙の束は」
「保護対象からのプレゼントだよ。喜べマスター」
「あの女、ロシアまで事務作業しに来たんじゃねーぞコラ」
乱雑ながらある程度法則性を持って鞄の中に突っ込まれた紙束に素早く目を通し、イライラしたように垣根は呟く。
有名飲料メーカー、ダム、水源、軍事施設、発電所。経営委任やらアドバイザー就任やら、法則のない適当な企業の名前と、その最高権利者の権利譲渡についてが書かれた紙を不思議そうに見つめて、簡単に片付けをし始める。
この中にもしかしたら彼女につながるヒントがあるかもしれない、とそんなことを考えながら。
「話は聞いていたがあいつはなんなんだ?国を跨ぐスーパー女社長にでもなりたいのか?」
「マスターってば分からねぇの?」
「あ?」
「食を抑えれば飢餓になる。水を抑えれば食糧不足に紛争勃発、清潔も失われて、民は困難に陥る。民が困難に陥れば、上は頭を下げざるをえない」
彼女の思惑が詰まった書類に少し言葉が詰まる。
命と立場に関わる大切なものを奪えば、逆らうものは誰一人としていない。流石のアレイスターだって、ここまで権力を広げた脅威に対して、交渉を持ちかけられたら断らないだろう。
無謀にも、彼女は馬鹿げた夢見がちな作戦でアレイスターに立ち向かっている。
それを鼻で笑ってしまうのは、呆れか、恐れか、彼自身にも分からなかった。
「……目的は、上との交渉か」
「上も何人か洗脳してるけどな。でも命綱を握ってるのは確かだ」
彼女は確実に垣根帝督の願いを叶えようと駒を進めている。
水を奪い、交通を奪い、電力を奪い、情報を奪う。全て奪えば、交渉の席につけると疑わずに。
「これも、俺のためだと言いたいのか。こんな、意味のないことを」
「そうだよ、これが彼女が導き出したマスターの幸せに対する最適解ってわけ」
しかしそれが正しいことなのか、不思議でならなかった。
本当に垣根のためになるのだろうか。本当に彼女は垣根の幸せを願っているのだろうか。
読解力も共感力もない、理解力に乏しい少女の短絡的な作戦に眉を下げる。
彼女は考えた。原作の垣根帝督が追い求めたアレイスターとの直接交渉権があれば、好きな人が幸せになれるのでは無いかと。
彼は考えた。幸せになれなかった女と、幸せを求めた男が寄り添えば、欠けた何かが満ちて、二人で幸せになれるのでは無いかと。
哀れだ。彼女も、自分も。
双方の幸せを考えた結果、片方は潰れて、片方は失う。互いに信じる幸福が違うことは何よりも苦しい。
抱えている感情は同じはずだというのに、思いは通じ合わない。
哀れと言わずに、なんというのか。
「幸せって、こんなんじゃねぇだろうに」
「それは本人に言わなきゃダメじゃねーの?言わねぇと、
「願いなんぞ、ただ隣にいればいいだけだっつーのに、ここまでややこしく幸福を拡大解釈しやがって。捕まえたらリードつけなきゃダメだな、これは」
紙を眺めて、肩を落とす。彼女の考えが知りたい。
今までの彼女の行動が予測できる紙束をじっくりと、かつスピーディーに目を通して、淡々と思考を整理する。
垣根のための権力。上に掛け合うための手札。
しかし妙な違和感がある。
彼女が制圧したのはヨーロッパの主要国。物語が起きたフランスとイギリス、そしてイタリアなどの水道局やダム、電力会社、運送会社、携帯会社、大手メーカー。
50の言葉と記憶通りなら、それぞれの政治、上議員あたりも制圧していると考えられる。
素直に恐ろしい。正直言って、怖いくらい彼女は盤上でキングを追い詰める準備をしていた。
けれど同時に思う。
権力など、しかも他国の権力なんて、アレイスターとの交渉に果たして必要だろうか。
世界征服と言わんばかりに権力を広め、多くの国の首を絞める。それは確かにすごい事だ。
しかし、それがアレイスターとの交渉で切り札になるかどうかは分からない。
学園都市の技術力ならば、海外から輸入しなくても、海外の手を借りなくても、学園都市内の人々を生かすことなど容易い。
水なら作り出せばいい。海外メーカーの商品も、もっと出来がいい似たような商品がすぐに開発される。
彼女のやっていることは学園都市には意味がない。
無駄だ。
他国を制圧しようと、学園都市には全く関係のないこと。
彼女のしていることは直接交渉権を手に入れたとしても、交渉を有利に進めることはない。
その事実がとてつもない違和感として垣根の心に残る。
今になって思えば、完璧でないにしても、彼女は無駄を省こうと努力してきた。
『
『
他人の代わりに物語を進め、イベントを進め、必要なヒントを疑問にもたれない程度に教えて、早く事件を終わらせる。
それが彼女のポジションであり、疑惑を持たれぬギリギリの役回り。制約や不安の中で、彼女はできることをして早く物語を終わらせようと画策する。
だというのに、この紙はなんだ。無駄ばかりの意味のない代物、アレイスターと交渉するにはいささかピントがずれている。
他国との外交を有利にするような権利や地位は、アレイスターには通用しない。
「こう言っちゃなんだが、直接交渉権を手に入れるのにこれって必要か?意味がないつーか、これじゃまるで
まるで学園都市を手にした後の外交を考えているようだ。
無意識に導き出した答えに違和感がストンと腑に落ちる。
そうだ、この得体の知れない違和感は、彼女の言葉の
「『必要なもの』って、まさか、直接交渉権じゃなくて……」
恐ろしい考えに、病室で呟いた彼女の言葉を思い出す。
『必要なもの、取ってくる』
なんの変哲も無い、日常的な文章にひどく大きな思惑と、おぞましい考えが潜んでいると、ようやく理解した。
「学園都市そのもの。彼女はお前に世界を与えるため、ここまで来た」
現実的で完璧主義の少女は全て手に入れるつもりで種をばら撒いた。
最高の未来を作るため、垣根帝督を主人公のポジションに移すため、彼女は誰よりも早く創約へ足を踏み入れる。
彼女の望みは一つ。
全てを蹴落とし垣根帝督を
その為ならば、彼女は罪を犯す覚悟があった。
空に留まる巨大な土の塊の上、上条当麻は少し焦った表情で近い空を見上げる。いくつもの教会や聖堂をかき集めて作られた天空の孤島に一人浮かぶその白い何かをじっと見つめていた。
白い体と百合のような頭部、そして氷の翼。
天使と呼ぶに相応しい異形の姿に体が冷えていく。おぞましい生き物を目にした恐怖に脳が冴える。
「天使、だよな?」
神々しい姿で空を飛ぶ生き物に声が震える。人知を超えた生き物は空を縦横無尽に飛び回り、空気を揺らす。
その異形を追尾する学園都市の戦闘機が風を切り裂く音が轟いて、早まる心音とともに熱風が体に響く。
その姿に暫し立ち止まる。
何をすればいいのか、あまりにも巨大な力の前に思考が動かなかった。
──天使の媒体、十万三千冊の魔道書の遠隔制御霊装、儀式場のベツレヘムの星、大天使ガブリエル、そして俺様の力を振るうのにふさわしいお前の右腕。
男の声が風に乗って上条の耳へ届く。嘲笑と蔑みの交じった軽快な声は酷く不愉快で、拳を握る力が強まる。
目の前の脅威に目が奪われて、時が止まったかのように世界が見えた。
天使は手を伸ばす。そして無機質な表情で雲の厚い空を手のひらで掴み取ろうと、手を開いて静かに見つめる。
それは指の隙間、空の奥、星の輝きを見ていた。
──必要なものは全て揃った、あとは羊皮紙の回収だな
男の憎い声に、天使が動く。
空の色が変わる。灰色の空は濃紺の天空へと姿を変え、星々が動き、線が繋がった。
線で結ばれた星々で作られたのは巨大な魔法陣。天藍の空が輝きを増して、地上を異質な光で満たす。
あまりにも恐ろしく、神々しい空だった。
「っなぁ!?」
変わり果てた空の色に体が硬直し、黙って天使を見つめていると突然空中で爆発が起こる。
天使を標的に放たれた戦闘機の攻撃が空で破裂し、天使の背中から生える氷の翼にぶつかった。
尖った翼はその攻撃を、その機体を、一振りで全て突き刺し三機の戦闘機を真ん中から貫く。飛び散った火薬の匂いと外れた機体のパーツが流星のように豪華な建造物に降り注ぎ、辺りを粉々に壊していく。
ここにいては危ない。
本能を頼らなくても明らかな危険に足が下がる。学生服を翻して、何をすべきか分からぬまま走り出した。
「あの天使をどうにかするには……ッ!」
彼にできるのは右手での純粋な破壊のみ。深く考えずに、己の拳を握りしめて彼は石畳を蹴る。
自分にできることを成す。憎たらしい男の企みを打破できると信じて。
空が不穏に光る。星々が線で繋がれ、曇り空が深い夜空に変わり、フィクションでよく見るような魔法陣へと星が位置を変える。
異常な空と、その空に浮かぶ孤島。学園都市でも見ない不思議な光景に珍しく
「オイ!どォなってンだこれは!」
廊下の突き当たりで先ほど別れたばかりの少年を見つけると、一方通行は速度をあげて半ばぶつかるようにその少年の元へ急ぐ。
男にしては長い茶髪と平均身長を優に超える長身、ロシア系が多い中だろうと一際目立つ顔立ちの少年は、一方通行の声に端正な顔を歪めてため息を吐いた。
「うるっせーな、俺に当たるなよ」
眺める空はどう見ても非常事態だというのに、彼は特に焦るそぶりを見せずそのまま背を向け裏口へと向かう。
一方通行の顔など見たくないと一切視線を向けずにそのまま足を進める彼は、纏う雰囲気が先ほどとは少し違かった。
「なンだよ。変な空模様だってのに、やけに冷静だな」
「空に模様が浮かべるくらい俺だってできる」
「オマエは一体何と張り合ってンだ?」
くだらない会話を交わし、裏口から雪の中に進むと空の上から微かに振動が伝わる。
とても小さい、けれどハッキリとした振動。
ふと二人して上を見上げると、誰かが暴れて爆発でもしたのだろう、天空の島が僅かに欠けて砕けたビスケットのように細かく崩れていく光景が視界に広がる。
全体的落ちているのか、ただ一部が落ちているだけかは不明だが、天空に浮かぶ十字の島が形を崩しているのは確か。
「あーあ、世界遺産もビックリな歴史的建造物が爆発してんな。損害賠償が国家予算並みになりそうだ」
「上で何が起こってンだか」
「さぁな」
その光景を少年は少し睨むように見つめて顔を顰めると、何か気がかりでもあるのか、彼は再び背を向けどこかへと歩き出す。
苛立っていると、ほぼ初対面の一方通行ですら分かる雰囲気。今にでも雪景色を焼け野原にしそうなほど、目の前の少年は苛立っていた。
「オイ、どこ行くんだ。まさかあの変な空飛ぶ教会に……」
「お姫様はラスボスのお城で待ってるのがセオリーだろ?」
「はァ?お姫……アイツのことか?」
苛立ちながら立ち止まった彼の言葉に金髪と桃色を思い出す。彼の苛立ちの原因は、隣にいない女のせいのようだった。
苛立つほど彼はあの女を求めているのかと、凄まじい勢いで脱力感が一方通行を襲う。
「オマエ、女の趣味グロテスクだな……」
「喧嘩売ってんのかクソガキ。その妙に哀れんだ目を向けんなクソが」
天羽彗糸。
バターブロンドの髪と派手な顔、そして長身痩躯で胸だけやたらとデカい体。
彼が言っているのは、一方通行にとてつもないトラウマと記憶を植え付けた悪魔のような女のことだった。
その事実に目眩がする。
あの女か。あの目の前で首を切られて笑った女か。
彼らが
けれどまさか、その関係性が姫と呼ばせるほどのものとは思いもしなかった。
あまりにもグロテスク。信じられない。
「あの女を姫と認識する人類がいるとは思わなかったが、いるとこにはいるンだな、頭のイカれた
「地雷処理って、幼女の方が地雷……つーか犯罪だろ」
「ア?さっきの続きしてもいいんだぞ巨乳好きの豚野郎」
「はぁ、実質生まれたてのロリと巨乳なら後者の方が健全だろ。というか、胸だけで
戦争中とは思えないほどくだらない好みの女議論は、少年の面倒くさそうなため息で終わる。
確かに彼の言う通り、見た目だけでカバー出来るほどあの女の異常性や狂気は優しいものじゃない。
そう考えればプラトニックや純愛なのだろうか。経験人数五桁はありそうな見た目の男女だというのに、案外潔癖なのだろうか。
「……思わねェな」
「だろ?色々あんだよ、テメェも知らない数ヶ月の情ってのがな」
ヒーローが見た目に絆されていないのは確かだろう。
それはそれで何かおかしい気もするが、とりあえずは納得出来た。
しかし、どうも腑に落ちないと思考が巡る。一体どうしたら、憧れではなく恋慕を抱くのか一方通行にはさっぱりだった。
「ッオイ、まだ話は終わってねェぞ」
「俺は終わったと思うがな」
「待ちやがれ」
うんうん唸りながら悩んでいる一方通行を置いて少年は勝手に歩き出す。
ずんずん進んでいく少年の高い背にムカついて、思わず雪を足先で軽く蹴った。少し手加減はしたものの、勢いよく雪玉は飛び、茶色の頭に優しくぶつかる。
ぽすっと柔らかい音がして、茶髪を少し濡らす雪が赤茶色のスーツにシミを広げた。
イタリア製か、学生服に見えなくもない少し薄手でファッショナブルなスーツは雪に映える。
夜空の光と雪の反射光も相まって、振り向きざまに顔を顰めた美少年は何だか少し神々しかった。
「いってぇな。そしてムカついた。本当に今ここで無駄な喧嘩したいのかヒョロガキ」
「オマエが止まンねェからだろォが」
「時間が勿体ねぇんだよ。テメェみたいなクソに構ってる余裕はねぇ」
「だからァ、俺も行ってやるって言ってンだよ、理解力足りてねェンじゃねェの?」
高い背の少年を下から睨む。心底嫌そうな顔してる彼の感情など、一方通行にとっては些細なこと。
気にすることではない。
「……あのなぁ、テメェはテメェのお姫様守れよ。せっかくヒント与えてやってんだから」
「借りは返す」
酷く苛立った彼の言葉に負けず、一方通行は続ける。
打ち止めの近くにいたいのも事実。しかし、一方通行の暴走を止め、避難所まで案内し、
借りは作りたくない。
「嫌いな女と嫌いな男のイチャイチャ見て粗末なもん勃たせる異常性癖持ちの猿じゃねぇなら引っ込んでろザコ。返すつもりなら学園都市帰る時にしてくれ」
「テメェの名前も知らねェのにどうやって返すンだ」
「……いちいち面倒なやつだな」
苛立ちを隠しきれなくなった少年は乱雑に言葉を吐き捨てて、高い背で一方通行を鋭い目つきで睨んだ。
相当苛立っているようで、話を勝手に切り上げて、真っ白い翼を出す。
「垣根帝督。テメェの人生に一ミリも関係ない、ただの学生だ」
そう吐き捨てて、彼は空を飛ぶ。白い翼で夜空へ向かって飛び立った彼を止める言葉は喉に引っかかって出てこない。
垣根帝督。その名前に覚えがあった。
自分より弱くて、強い男だった。
流れる景色と、明るい照明。移動する大きな音が心地良いリズムでオレンジの座席に座る上条の体を揺さぶる。
「まさかこんなところにモノレールが走っているとは……一体誰が電気代を……」
猛スピードで動くモノレールの中で、上条は少し困惑しながら飛んでいく窓の景色を見つめる。
これが修学旅行のような楽しい出来事なら良かったのにと、あまり馴染みない二人席に体を預けてため息を吐いた。
一人、モノレールに揺られて基地へと向かう。なんとも寂しいものか。
けれど止めるべき野望のため、救いたい少女のため、彼は誰もいないモノレールの中で右手を握りしめる。
心音がうるさい。
緊張で体が窮屈だった。
窓を流れる景色も豪華で美しいが、ただ緊張が増すばかり。
「……あ、っ!」
ふと視線を誰もいない車内から窓の外に移すと、白い生き物の窪んだ目のような部位と
猛スピードでモノレールへと滑空し、無機質な表情で天使は上条当麻の方へと向かう。少しずつ、確実に、天使は流れ星のような驚異的な速さでモノレールへと突進した。
「ぶつかッッ……あれ?」
しかし真っ白な女体は視界の端から突如現れた銀色の何かに頭を貫かれ、地面へと突き刺さる。
長い剣のような銀色は前触れもなく天使の頭部を破壊し、白い体を地面に貼り付けた。突然の光景に食い入るように窓へへばりつく。
何が起こった、誰が何をした。
音速を超える攻撃に、疲れた思考は思うように動かない。
「──っ?」
違和感と脅威。藍色の空に現れた白い虚像の姿が上条の瞳に写った。
天使をいとも容易く薙ぎ払う上位の生き物。
背の高い少女の姿をした神様がそこにいた。
体と同じ長さの金髪を二つ結びにした、綺麗な神様。
雪よりも白いバレリーナのようなレオタードと、両足、右腕。円を描くコンパスのように鋭く尖った長い異形な足先。
二メートルを超す長身の神様は、底辺のない三角の光を頭上に乗せて、様々な光を集めているかのように神々しく光る。
太陽のような輝きを持った神様は、光り輝く不定形の瞳を持っていた。
目が合ったその瞬間、トンネルが窓の外と上条を隔てて姿を隠す。しかしその一瞬の邂逅で上条は悟る。
その神様はよく見知った少女と同じ顔をしていたことを。