とある科学の肉体支配【完結済み】   作:てふてふちょーちょ

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前回言い忘れましたがこの長編には
・メンヘラヤンデレ度120%アップの怖い天羽さん
・優しさデレ120%アップのアホの子ツンデレ垣根くん
・なんだかんだ仲の良い超能力者の皆様
・ドギツイ下ネタ
・吐き気を催す甘さ
・面倒くさくてややこしい人たち
・天羽さんがなんだかんだ認められて持ち上げられているような描写がある(一応根拠というかこうなるよなぁって現実的に考えた結果です……)
・微妙に百合
・作者の挿絵(これはいつものことですけど)

苦手な方は閲覧をお控えください。


act2:あなたのためになりたいの

天羽彗糸の異常な思考を知ったのはアイドルになる少し前、愛の告白をした日の事だった。

 

好き。

付き合って。

 

そんな言葉をぶっきらぼうで短い、垣根らしい文章で伝えただけ。そこにそれ以上の意味はないはずなのに、真夜中の公園で、街灯をスポットライト代わりに佇む彼女はどこか冷たい笑顔で笑っていた。

 

「あたしとセックスしたいの?」

 

言葉に隠さず彼女は淡々と言い放つ。

街の灯りが美しい深夜二時。セーラー服を翻し、彼女はいつも通りの笑顔を見せる。

 

「……はぁ!!?」

 

「何驚いてんの、そういうことでしょ?」

 

笑うと目が細くなる可愛い癖が今日ばかりは恐ろしかった。

 

「だって、あたしにはそれしかないもんね」

 

「……お前はいつもそればっかだな」

 

「そう?」

 

なんの疑問もなく、話を続ける彼女は正しく狂人と表現するにふさわしい異常者。

 

第六位、肉体の支配者(ドミニオン)

彼女は自分を含めた全ての生き物の肉体に干渉し、支配できる神様のような人。

その能力は医学の分野はもちろん、対人の分野で輝く。

特に性的な意味での。

 

だって彼女は完璧なのだ。

男が望む理想の女にも、女が望む男にもなれる肉体の柔軟さ。

床上手な処女、経験豊富な男、そのどちらにもなれる特異性。

そして何よりも、彼女に触れられずとも感じたことも無い快感を生み出せる能力。

 

彼女の力は本能を刺激する。欲求に訴える。

彼女は中毒性の高いジャンクフード。

手軽にドーパミンを出せる合法な麻薬。

 

それが彼女に求められてきたこと。

彼女が誰かのために出来ること。

存在理由。

 

「でも、そうか。あたしこの体なら垣根くんを幸せにできるんだ」

 

「んなわけねぇだろ。そんな理由で俺がお前を選ぶと思うか馬鹿」

 

「思うよ。だって、あたしみんなに嫌われてるもん」

 

だから彼女は愛を素直に受け取らない。

垣根の感情を決めつけて、突き放して、自分だけが愛情を与える側になる。

 

「垣根くんも嫌いでしょ?」

 

「嫌いなら好きなんて言わねぇよ」

 

「どうかな?人は案外打算的だ、あたしみたいにね」

 

その異常な思考回路が気持ち悪い。

不気味な感覚をもつ彼女が気色悪い。

 

「それに、普通の人はこんなデカくて可愛くない女選ばないんだよ垣根くん。選ぶとしたら性行為目的くらい」

 

「本当にそう思ってんならテメェは大バカ野郎だな」

 

「うん、あたし馬鹿だから」

 

彼女はコンプレックスの塊だ。

自分を惨めだと思って、だから求められる分野で勝負を仕掛ける。

認められたいから。求められたいから。自分という存在を認識できるように。

 

「でもね馬鹿でも分かるの。あたし、垣根くんが好きって。幸せにしたい、この体で垣根くんを笑顔にしたいの」

 

可哀想な女。

気持ち悪くて、気色悪くて、くだらない思考に囚われた馬鹿な少女。

 

そんな少女が好きだった。

 

「大好きだよ、垣根くん。あたしをいっぱい使って、いっぱい幸せになってね」

 

恋とは障害があればあるほど燃え上がる。

それは事実である。

 

「……俺も、同じくらい好きだぜ」

 

上から目線の大胆な感情の告白に彼女は一体何を思っただろうか。

 

この日から、二人の戦いが始まった。

 

彼女は体を武器に誘惑する。彼の()()のために。

彼は理性を盾に彼女を愛でる。彼女の()()のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今日、いつも通りのアイドル生活が続くとある七月のこと。

戦局を大きく変える風が吹いた。

 

超能力者(レベル5)でドラマだぁ?」

 

集められたのは超能力者(レベル5)の面々とそのマネージャーたち。

簡素な作りの会議室で向かい合って、彼らは手元の資料に目を落とす。そこに書かれたのはとあるドラマ企画の資料。長ったらしい文で企画内容とスケジュールが書かれた資料には、珍しく超能力者(レベル5)全員の名前が印刷されていた。

 

超能力者(レベル5)だけでドラマって、しかも恋愛モノなんて……無謀でしょ」

 

「このメンツで集まって恋愛ってなンかのギャグだろ」

 

企画内容は恋愛学園モノのドラマ。一クールで終わる原作無しのオリジナル作品で、超能力者(レベル5)たちがそれぞれ主人公とヒロインの恋愛に巻き込まれるのがメインのストーリーラインとなっている。

超能力者(レベル5)全員が恋愛をする訳では無いが、それでも協力やら協調やらが苦手な超能力者(レベル5)たちには荷が重い。

 

「何より主役がなぁ……」

 

主人公とヒロインの欄にある名前に全員が気まずそうに目を向ける。

 

「……あたしたちかぁ」

 

ヒロイン役に天羽彗糸。主人公役に垣根帝督。

簡潔に、簡素な字体でそう書かれていた。

 

「えーっと、『かわいいコギャルと学校一のイケメンの恋愛モノ』……なんとまぁ、具体的な。確かにこの中だとあたしたちくらいしか当てはまるのいないけど……あたし背高いからいい感じの画面作れないと思うんだよね……」

 

「そこじゃねぇだろ」

 

隣合って座る彼らの嫌そうな顔に場の雰囲気が一気に冷める。

彼らは他の超能力者(レベル5)にとっては犬猿の仲のめんどくさい奴ら、恋愛ができるような人達とは認識していない。

 

「やらなくてもいいけど、女優業は初体験だし、やって見たらどう?」

 

「でもテレスティーナさん、可愛い系はあたしの売り込みコンセプト、路線が違うっていうか……」

 

「コンセプトより認知でしょ?これで色々な幅で活躍できるって知ってもらえれば新しい仕事につながるわ」

 

天羽のマネージャー、テレスティーナ=木原=ライフラインの言葉に少女は口を閉じると、垣根の方にちらっと視線を動かした。

その視線が垣根にチクチクと痛みを与えて抜けない。

 

この関係は絶対にバレてはいけない。それは双方共通で理解している。だが仕事でそういうことをする場合はどうなのか。

有名な監督、有名な脚本家、おかしいほど豪華なスタッフと豊富な予算。成功する確率が高いこの企画を蹴るのはこれからの仕事に支障が出るかもしれない。

けれど出るとしたら垣根と天羽の関係が発覚するリスクが跳ね上がる。

 

どうしてほしいか彼女は聞いていた。

垣根が第一の彼女だから、垣根のしたいようにさせる。発言を待つ。

それが分かっているから、少し面倒だった。

 

「でも人選ミスじゃない?まだ天羽さんと削板のほうが仲良いと思うけど」

 

「あ?」

 

「なんであんたが怒ってんの?」

 

御坂の言葉に若干苛立ちつつ、垣根は隣に座る天羽のつむじを眺める。

 

恋愛モノ。ドラマ。

 

確かに関係がバレるのは困る。しかし反対に考えればこれはチャンスではないか。

 

アイドルである彼らは表立って恋愛が出来ない。

だから逢瀬も病院という疑われる余地のない場所で行なっていた。病院なら能力の検査と言えば納得され、パパラッチされても忙しいから特別に夜間で検査をしてもらってるとか言えば炎上はしない。何より彼女の保護者(冥土帰し)は味方であり、かなり融通が利く。

逆に言えば、彼らは病院の中でしか会えないし、本心をさらけ出せない。

ドラマという言い訳があれば、堂々と二人でいられる。

さらに言えば、それがきっかけで仲良くなったというストーリーが作れる。

 

なにより彼女に恋愛的な感情を理解してもらえるかもしれない。常識的な恋愛の範囲を知れば、きっと考えも改まる。

 

かっこいい彼のまま、彼女にこの思いを理解してもらえる。

 

「……まぁ、お前がヒロインだろうがなんだろうがいいぜ。受けてやるよ」

 

静まり返った会議室で一番に口を開いたのは垣根だった。

交際がバレる危険性なんて、リスクとしては小さすぎる。

彼女に恋愛を理解してもらうため、自分の欲求を満たすためならそんなリスクは無いに等しかった。

 

「分かった、垣根くんがそういうなら……やろっか」

 

「……おう」

 

その答えに満足したのか、優しい笑顔で頷いた。垣根の目を見て優しく笑う姿は確かにヒロインらしい。

他の誰がなんと言おうと、垣根にとってこの配役は完璧だった。

 

「他の方は?降りる方がいるなら今のうちよ」

 

「はぁ……やるわよぉ。天羽さん一人じゃどんなオオカミに食べられるか分からないしぃ?」

 

「いいのですか?女王」

 

「いいわよ。どうせなら衣装提供もしちゃおうかしら?帆風、交渉よろしくね☆」

 

「分かりました、直ちに」

 

垣根たちが承諾したのが効いたのか、渋い顔をしていた面々がため息交じりに参加してくる。

面子は揃い、撮影は今月末から始まる。

どんな姿が見れることになるのか少しの期待を抱きながら、今日の会議は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

垣根と天羽は風のようにすぐさま帰宅し、残っているのは五人の超能力者(レベル5)とその付き添い。

企画にもう一度目を通したり、帰る支度をしたり人それぞれだが、彼らの話題はずっと変わらなかった。

 

「にしても、垣根さんが承諾するとは思わなかったわ」

 

「私情よりもビジネス優先にしただけだろ」

 

「計算高い方ですの。嫌いな方と恋愛模様を織り成すなんて、私ならお断りしますわ」

 

御坂とそのマネージャーの白井、そして近くで企画書を読む麦野は先程の会議での話を蒸し返す。

一方的に天羽を嫌う垣根が彼女の相手として恋愛モノのドラマに主演するなんて、それほどインパクトある話だった。

けれど、その話に耳を傾けていた一人はため息交じりに顔を顰める。簡易な椅子から立ち上がって冷たい目線を送る食蜂には、彼女らの話が信じられなかった。

 

「……本当にそう思ってるの?」

 

「何よ急に」

 

本当にそう思うのか?

毎回毎回天羽の隣を死守して、他の男と喋らないように導線を引いて、喋る度に耳を赤くして視線を逸らして、ずっと視線で追って、嫌な態度を取るくせして絶対に嫌いと言わない垣根を見て、本当にそう思うのか?

彼らの演技に騙される他の超能力者(レベル5)の姿がとても滑稽で、思わず鼻で笑ってしまう。

あんなにも分かりやすいというのに、世間も、目の前の格上たちも、全員騙される。

 

「なんでもないわよぉ、おこちゃま御坂さん」

 

本当に、真剣なんだなと思わずに居られない。

少しだけ、この場にいない二人が羨ましかった。

 

「喧嘩?買うわよ?」

 

「やーん御坂さんったらこっわぁーい!じゃ、そゆことで☆」

 

「あ、女王!お待ちを!」

 

うるさい同級生を無視して会議室を後にする。後ろを付いてくるマネージャーと共に廊下を歩き、その先で待っていた友人の姿に可愛らしく笑った。

 

「あら、待ってたの?」

 

「まーね。話したかったし」

 

「全く。帆風、ちょっとここで待ってなさぁい」

 

待っていたのはヒロイン、天羽彗糸。

彼女らは友人だった。

 

「この企画、食蜂ちゃんの案でしょ?」

 

「なんの話かしらぁ?」

 

「このレベルの製作陣を集められるの、限られてると思うよ?」

 

二人壁にもたれかかって仲良く言葉を交わす。

似たような見た目と似たような能力。考え方はまるで違うのにある程度仲が良いのは親近感ゆえか。

 

「……安心なさぁい、別に何か企んでるわけじゃないから」

 

「分かってるよ、食蜂ちゃんは良い子だから」

 

「わたしのことは口説かなくても良いのよぉ!もう!」

 

だが超能力者(レベル5)には珍しく人当たりの良い天羽によくかき乱される。アメリカ仕込みの直球的な褒め言葉は時々人の心理に踏み込み、簡単に絆してしまう。

それが彼女の良いところかもしれないが、同時に悪いところかもしれない。

アメリカよろしく彼女が囁く愛は挨拶と同じ。一体何人がそれを間に受けてきたのか。

 

「いい?お人好しでお馬鹿な天羽さんには分からないでしょうけど、今の所あなたの幸福力を願ってる人間が二人はいるの」

 

「え、でもうちの親は放置気味だったんだけどな」

 

「違うわよぉ!わたしと!垣根さん!よ!」

 

「そうなの?」

 

「そうなのよぉ!」

 

あまりにもお人好しで、あまりにも危機管理能力がなく、あまりにも一方的な考え方の彼女の呆れ、肩を揺さぶるように顔を見つめる。

おぞましい瞳の色が眩しい。

温かみのない瞳が怖い。

 

「いい?あなたには垣根さんと絶っっっっ対幸せになってもらうんだから!」

 

その瞳を溶かすためなら、食蜂操祈は目の前の少女の恋路に手助けする。

それが少女が幸せになるための唯一の手段だから。

 

別に食蜂操祈が死ぬほど優しい訳ではない。恋路なんて、派閥の少女たちならまだしも年上の超能力者(レベル5)の面倒なんて見たくもない。

 

「そんなにしてもらえるような人間じゃないと思うんだけどな」

 

「黙っていうこと聞いてなさぁい?あなたに返しきれない恩があるのよ」

 

天羽彗糸だけ特別だった。

彼女は特別を救った特別な人。

 

ヒーローは彼だけじゃなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血の匂い。救急隊員の声。倒れる彼の吐息。

 

「お腹に鋭い破片が刺さってるの。これだけでもなんとかしないとぉ……!」

 

ツンツン髪のヒーローの額に脂汗が滲む。

 

「分かっています!だけど現状では無理なんです。ショック症状で体が痙攣しているから、処置を施せば余計に傷口が広がってしまう!」

 

「病院までは待てない!麻酔力とかでなんとかできないのかしらぁ!?」

 

「ショック症状の原因は低血圧なんです。麻酔なんて使ったらますます下がる。ショック症状を止めるために彼の息の根まで止めてしまいかねない!」

 

少年の顔が歪んでいく。切羽詰まった救急隊員の横顔をただ見つめることしかできない。

 

「麻酔を使わずに痛みを消す方法があれば、この場で応急処置はできるかしらぁ?」

 

その顔をもう見たくなかった。

どんな手を使ってでも、目の前のヒーローを死の淵から引き上げたかった

 

「わたしは『心理掌握』超能力者(レベル5)判定の精神系能力を持ってるわぁ」

 

脳の水分を操ることで人の心を制御する能力。

血圧が下がり、水分のバランスが崩れた状態ではどう転ぶか分からない。

 

無理やり水分を操作して脳がどう影響を受けるかなんて、どんなに考えて、演算しても多様な結果がある。

 

もしかしたら半身不随になるかもしれない。

もしかしたら喋れたくなるかもしれない。

もしかしたら、もしかしたら。

 

もしかしたら、もう食蜂操祈を認識してくれないかもしれない。

 

大きなリスクと、大きな命。

 

それでも、どちらを取るか決まっていた。

 

「それを使えば──」

 

しかしその言葉を告げる前に音がなる。救急隊員の無線に通信が入る音。

すぐさま繋いで、決まりの言葉を告げて、何か驚いたように隊員は振り向いた。

嬉しそうな、安堵したような、この緊迫した状況下で見せるような顔ではなかった。

 

「安心してください!彼女が来ています!」

 

「──彼女?」

 

「そう、彼女!」

 

隊員が叫ぶように告げた言葉にぽかんと言葉が奪われる。

 

「身体の全てを操る支配者、白衣の天使。彼女の前には死体の一つもない、生命の母」

 

自信と、憧れと、尊敬を込めた隊員の瞳に誰かの姿が写った。

静かな学園都市にフラットシューズの音が響く。

血の匂いをかき消す甘いラズベリーの香りが広がって、暗い世界に光が灯った。

 

超能力者(レベル5)の一人、天羽彗糸、その人です」

 

眩しい金と甘い桃色のふわふわとしたポニーテール。

パステルピンクの優しいワンピースとナースキャップ。

高い背と女性的な体。

そして荘厳な赤と緑の混ざった異様な瞳。

 

真っ白な甘ったるい神様が、幼い顔で微笑んだ。

 

「その人が患者さん?」

 

その少女を前に死人などでない。そして、それはこのヒーローに対しても同じ。

 

血が引く。痛みが途絶える。息が整う。均一な心拍。

苦しげな顔はいつしか安らかになっていた。

 

「大丈夫よ、お嬢さん。少年は必ず助かるから」

 

眩しい笑顔が心を掴む。

天使なんて生ぬるい。食蜂操祈にとって、天羽彗糸はヒーローを救った女神だった。

 

その姿が食蜂の心臓に強く、強く残って離れない。





【挿絵表示】

本編でここら辺の描写することもなかったので。本編でこうなってるかはわかりませんが、食蜂の知らないうちに治ってるかもしれませんし、治ってないかもしれません。看護師なのに看護師らしいことさせなかったなと後悔してます。
本編で上条と食蜂が絡むことがなかったのであまり深く考えてませんでしたが、まぁ、こっちでは幸せになってもらいましょう。

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