あと天羽さんが随分と持ち上げられています。(不本意な形でですが)
「天羽と喧嘩?」
「喧嘩っつーか、俺が一方的に怒ったら落ち込んだっつーの?ちょっと悪いことしちまってな」
ベランダから見える晴天が眩しいお昼時、ツンツンヘアーの少年を前に垣根は小さくため息をついた。
狭いワンルームで男二人、自販機から安く買ってきた黒豆サイダーを前に言葉を交わす。恋バナと呼ぶには少し一方的な会話を遮る蝉の音と、クーラーの効いていない部屋が少し鬱陶しい。
「ほー、だからこの上条さんに仲を取り持ってもらおうとアポ無しで来たんですね?しかもお昼から」
「どうせ暇だろお前」
「くっ、正解だ……!そんで何がどうして喧嘩したんだ?」
インデックスもおらず、上条が住む寮の一室で少年二人がダラダラと会話を続ける。ソーダ味の棒アイスを食べて、扇風機の風を感じながらローテーブルを囲む彼らは、どこからどうみても一般的で、普通の高校生だった。
「……晩御飯、作ってもらったんだよ。手作りの」
「殴っていいか?」
「話聞いてからにしろ童貞」
「話聞いてもらう奴の態度じゃねぇ!」
女人禁制の男子会、話すことはもちろん恋や女の話。青春真っ只中の垣根には普通の男子高校生のアドバイスが必要だった。
女の扱い方は知っているが、恋人の扱い方は知らない。しかも頭のネジが半数取れている狂人が恋人である垣根の場合は特に。
「でだ、問題はその食事中に起こった」
「なんだ、飯が不味かったのか?あるあるだよなー、メシマズ系ツンデレ暴力ヒロイン!そういう不器用なとこが可愛いわけですが、非オタにはちょっと刺激が強すぎるのも納得だわ」
「いや、飯は美味かったぞ?アイツ家庭科得意だし、俺のこと大好きだし、暴力は一切しないし……ツンデレではないとしても、恋愛面において不器用なのは認めるが、そういう感じの女ではねーな」
「は?処す?」
「処すな、話聞け」
会話にいちいちノロケを挟みながら相談を語る。つい先日の出来事を鮮明に思い出しながら語る内容はくだらないかもしれないが、垣根にとっては何よりも重大な問題。神妙そうな顔で淡々と上条のヤジをかわしながらあの日について語っていく。
「まー天羽が家庭科出来るのは何となく知ってたが……それで?しょうもねぇ話なら部屋から追い出すぞ」
「しょうもなくねぇよ。確かに食事は美味かったし、ありがてぇって思ってるさ……けどな……」
「けど?」
あの日、恋人に手料理を振る舞ってもらうという恋愛漫画あるあるのイベントが起きた日、垣根は彼女の姿に苛立ちを覚えていた。
別にご飯が不味いだとか、暴力だとか、言い争いとか、そんな些細な問題ではない。彼女自身の歪な考えに対する苛立ち。
思い通りにならない苛立ち。
そして最低な自分自身への苛立ち。
「アイツ……飯食ってる時ずっと、その……裸エプロンだったんだよ……」
エプロンだけの姿。いわゆる男を誘うための姿。
それは垣根が低俗で下半身にしか血液が回っていない馬鹿だと認識されているようなもの。
屈辱だ。
その他大勢の男と、
そしてその格好に一瞬でもやましい考えが浮かんでしまった自分自身が。
垣根帝督は天羽とはまた違った種類の狂人で、誰よりも自分自身に対する執着が強い。
彼という個人を見て欲しい。男というカテゴリじゃなくて、垣根帝督という唯一無二を見て欲しい。
簡単に言えば、垣根は誰よりも自分に誇りを持ち、不安定で、非常にプライドが高い男だった。
彼らの欲求は同じ。
自分にしか出来ないことで認めて欲しい。
他の男と違う本物の愛情を認めて欲しい。
彼の、彼女の特別になりたい。
それだけだった。
「……裸エプロン?」
「そうだ。目の前でずっと、布一枚でうろうろされて襲えとか、誰がテメェに触るかよってんだ。鬱陶しい」
「鬱陶しい……?」
「どうした、上条?」
しかしその承認欲求は一般人には理解できない感覚だった。
垣根の言葉に肩を震わせ、歯を食いしばる。
どう考えても、今この場で常識的な反応をしているのは上条の方だ。
「ノロケなら帰ってくれませんかねぇ!?こっちが虚しくなるんだが!?」
「うるさ」
「なんだよ裸エプロンって!お前、どこぞの漫画の主役級チート悪役がこの場にいたら嫉妬から螺子伏せられるぞ!!??」
「はぁ?なんでだよ、飯どきに服着てねぇとか頭おかしいだろ」
相容れない二人の考えは徐々に声を大きくさせる。
羨ましい上条に、鬱陶しい垣根、彼らの考え方は全くもって違う。それがいつもなら面白いのだが、今回ばかりは双方譲れなかった。
「それは乙女の必死のお誘いだ!テメェそれでも男か!据え膳食わぬは男の恥って言うだろうがっっっ!!!」
「見える地雷踏み抜く奴がいるか!アイツにそういう行為ははえーんだよ!」
「そんなこと知りませんねぇ!彼女が頑張って「垣根くん喜ぶかな♡」って誘ってんのに、それを無下にするのか貴様はァ!!!」
上条の考えは確かに正論だ。可愛い彼女が相手を喜ばせようと恥ずかしがりながら素肌を見せる。一般的で普通の少女ならそれは一理あるし、それを鬱陶しいなんていう垣根はDV彼氏予備軍だろう。
しかしそれは普通の少女、および普通のカップル相手での話。
彼らはまともじゃない。
だから上条の言葉は垣根にとって不愉快なだけだった。
「んなこと思ってやってねぇんだよアイツは!大体アイツの奇行は基本誰かの入れ知恵だ。そもそもあの倫理観貞操観ゆるゆる女の誘惑がまともな思考してるはずねぇだろ!」
「笑止千万!女の子の背伸びした誘いを断った、それだけでテメェは万死に値する!というか、あの天羽に誘われて断る男なんて男じゃねぇ!アイツにどれだけの男がお世話になってると思ってんだ!」
「その通りやね、カミやん」
本質を理解していない戯言に苛立ちは増すばかりで互いに譲らない議論だったが、テノール歌手に匹敵する低い声が罵り合いを止める。
一体どこから侵入したのか、染めた青髪とピアスが特徴的な少年大きな荷物を背負って上条の後ろに力強く立っていた。
「青髪ピアス!?」
「うわ急に出てきた」
「そうだぞ垣根、お前はいま全男子を敵に回したのと同じぜよ」
「土御門……!」
そして垣根の後ろには金髪グラサンが目立つ少年。上条のクラスメイト二人がどこからともなく意地悪そうな笑みを浮かべ現れた。
突然の来訪に困惑しながらも、垣根たちは彼らの言葉を待つ。不敵な笑みで仁王立ちする彼らは得体の知れない不気味さを放っていた。
「天羽彗糸十五歳、俺らと同じ学校、同じクラスの女子高生で、尚且つ第六位を冠する
「マブダチって今日日聞かねぇな」
「嬉しいくせに」
「テメェの血肉で現代美術でも作ってやろうか?」
「何それ怖い」
垣根と同じくらいの身長で見下ろす彼らはそのまま語り始める。
グラサンを少しあげ、口を開いた土御門元春の目元は見えないが、口調からしてどこか真剣だった。軽口叩いて話題を変えようとしても、頑なに流れを掴んで話さないほどには。
「さて、そんな天羽の能力はなんだ?答えてみろ垣根!」
「終始このテンションでいくのか?あー、彗糸の能力は簡単に言えば肉体操作の能力だな。能力でも原石でもない神の御業と言われている第三の能力で研究しづらいから六位に収まってるとか」
上から指を差されることに少しムッとしながら与えられた質問に淡々と答える。初歩的な質問、造作もない。
特に彼女に関することなら書類は全て目を通しており、なんでも知っている。もはやこの感情は執念、執着と呼ぶべきだろう。
それでも別に構わない。最後に恋とカテゴライズするのは自分と彼女、他人がどう感じようが興味はなかった。
「答えとしては正解だが、俺たちが望んでる答えじゃねぇな」
「はぁ?」
「彗糸ちゃんの能力が肉体操作ってのは正解やが、抽象的すぎる。生き物の体に対してどんな操作もできる……体の動きを停めたり、感覚を鋭敏にしたり、DNA配列から変えたり、外見を物理的に変化したり、他人の体をジャックしたり、洗脳や催眠ができたり……考えうる体の全てを操作できるっちゅーのが具体的な能力なわけや」
しかし垣根の表面的で書類上の情報は土御門たちが求めている答えとは程遠い。
健全な男子高校生、考えていることはいつだって決まっている。
「ジャックとか洗脳って、彗糸は食蜂見たく水分も調節できるし、できねえことはねぇだろうが、練習が必要になると思うぞ?」
「それ今は関係ないねん!関係あるのはそう、体の全てを操れるって理論的事実だけ!」
「それがなんだよ」
「まだ分からねぇのか垣根。仕方がない、青髪!例のブツを」
「おうよ!」
困惑する垣根たちの前に青髪ピアスが背負っていたリュックサックをおろし、勢いよくチャックを開く。土御門の合図で開かれた鞄から取り出されたのは本の束。どうやら漫画作品のようで、それぞれ絵柄違う。
大体B5サイズの薄っぺらい本はどれも統一性がなくカラフル、しかし全てに同じ文言がついていた。
Adult Only、もしくは18禁と。
「なっ……!?」
「いいか垣根はん、彗糸ちゃんってのはなぁ、これ以上ないほどエロ漫画と親和性のある女神のような存在なんやで!!!」
俗にいうエロ漫画、それも素人が書いた同人モノ。その全てに絵柄の違う同一人物が描かれ、気持ちの悪いタイトルがつけられていた。
噂には聞いていたし、芸能人がそういった目で見られるのは分かっていたものの、欲望の結晶の前に少し吐き気を感じる。それも大事な女がモデルなんて尚更そう思わざるをえない。
「ロリ化!ケモノ化!調教!母乳!感度操作!まさに現代のサキュバスと言っても過言ではないほどエロに特化した能力者は彼女しかおらん!その結果!彼女を信仰する男子高校生は学園都市の約七割にも上るって噂や!(青髪調べ)」
しかし垣根の感情を置いてバカ三人組は力説する。
少年らしい低俗で希望に満ちた欲をブチまけて、およそ女には聞かせられないような言葉の数々でくだらない説明を語る彼らの目は非常に生き生きとしていた。
「イチャラブ甘々、能力乗っ取りからのドS向け調教快感責め、反対に能力フル活用のドM向け女攻め!そして何より年齢操作よる義妹ロリメイド!!……と天羽の能力には様々な『夢』がある。この事実は学園都市の男たちに大きな希望と夢を与えてるんだにゃー!」
「何より見た目が変更できるってことはな、130cmのロリ巨乳にも、ショタにも、なんなら両性具有にもなれるっちゅーことや。やから腐った女子も多いし、すけべ野郎にとってはまさに理想の相手ってわけや……!!なんなら作品の中ではオチや原因を担当する場合もあってな、天羽推しじゃないやつにも御利益がある!」
「分かったか垣根!お前の彼女はなぁ!学園都市に住む全ての男が垂涎するほどの女なんだぞ!だから大切にしろ!」
もはや一切理解不能な言葉で興奮する彼らは薄い部屋の壁を貫通するような大声で垣根に詰め寄る。くだらない話のわりに真剣な目をしているのは欲望に対する直球な思いだけでなく、クラスメイトとしての情や妹分への心配など、多少は清い感情があるからだろうか。
垣根も、天羽も、良き友人を持った。
全身全霊でふざけて、全身全霊でぶつかる良い友人だ。
普通を知らない垣根の模範。対等に、個人を見てくれる気のいいやつら。
彼らは垣根を『エリート様』なんて呼ばない。
能力の恐ろしさなんて忘れて、彼を男子高校生として扱ってくれる。
とても気のいい奴らだ。
「……あぁ、分かってるさ。アイツが男にとっても、女にとっても、性欲を満たすには都合が良くて完璧な存在ってのはな。だからテメェらが言いたいことはよぉーく分かる」
「垣根……!そうだぞ、だから俺らのためにもアイツに優しくしてやって……」
「で、それが遺言ってことでいいんだな?」
しかし良い友人とは決して善人では無い。地雷を悠々と踏み抜く彼らは今この場において最も愚かな選択をしているのは明白だ。
「………………ファッ!?」
ゆっくりと立ち上がり、白い翼を背に垣根は口を閉じた騒がしい友人たちを見下ろす。これから何が起こるか感覚と経験で理解する彼らの顔はみるみるうちに青ざめていき、ぼたぼたと汗が垂れた。
形勢逆転、その意味を理解できないほど彼らはバカじゃない。
「俺の女で妄想すんのをたとえ法や国が許そうが、俺は絶対許さねぇ。この意味わかるか?」
「か、垣根さん?目が、目がマジですよ?その羽をしまってくださると有難いのですが……???」
「悔い改めろ猿ども、性欲なんて考えられないほどの恐怖を植え付けてやるよ」
輝く白い翼を広げ、垣根は冷たい目線で、冷たい言葉で侮蔑する。目の前の有害図書、そして有害な友人たちを排除しなくてはいけない。
それはあの少女のため、自分のため。
腹立たしい野郎どもに鉄槌を下すのは自分の傲慢なわがままのせい。だがそんなことどうだっていい。
あの少女に不純な想いを抱くのは自分も含めて許せなかった。
「ふ、不幸だァ─────────────!」
爆発音が狭いワンルームに響く。ガラガラと崩れる戸棚と悲鳴のような叫び声を聞きながら垣根は眉間に皺を寄せ、肩を落とした。
苛立ちが増幅する。
埃っぽい空気が充満する狭い部屋の中、気絶した友人たちを見ながら何度目かのため息を吐いた。
落ちた本を何冊かカバンにしまって、好みじゃないのは全て燃やす。
(今日は早く寝よう)
帰り支度が済んだら玄関から明るい外へ出て、のんびりと帰路につく。そして汚れた服から着替えて、荷物をおいて、甘いお菓子を買って、彼女が待つ病院へと向かうのだ。
密かに獣から守った少女のそばで安眠を貪るために。
カメラに目線を向けてパソコンでコメントを随時確認する。綺麗な撮影部屋でたくさんの光を浴びながら笑顔で彼女はファンを喜ばせる言葉をスピーカーのように垂れ流す。
アイドル天羽彗糸の日常。
昼から配信は珍しいが、かなりの視聴者がいるようでコメント欄は滝のような速さで流れていく。
「そろそろ切りまーす。いつも通り週の真ん中くらいに歌枠か雑談枠で深夜配信するんで、また来てね?今日は乙でした」
おしゃれで、かっこよく、大人。それが今の彼女の売り込み方。落ち着いた口調と大人びた対応、それが
コンサートは月に一回程度、もしくはそれ以下か。主な収入はテレビの出演と作詞作曲の手伝い、ゲーム・歌・雑談の生配信、モデル業。アルバムを出す前はMVと音声収録、衣装の制作も加わる。
眠りを必要としない体だからこそハードなスケジュールに耐えられるが、本心ではやりたくなかった。
アイドルという職業は誰かを幸せにできない。誰かの感情を晴れやかにしても、足の動かない少女を助けることはできない、死にかけの少年に治癒の奇跡を行いこともできない。
やりごたえのない仕事だった。
疲れを感じない体が重い。
「……切った?」
「はい、配信終了の表示が出てます」
「相似くんありがとねー、こういうの苦手だからさ」
ふっと息をついてパソコンを閉じる。目の前の机で技術面の手伝いをしていた青年に小さく笑いかけると、細い目で呆れたように笑い返された。
染めた髪に耳を飾るたくさんのピアス。天羽と同じぐらいの身長と、体を隠す白衣や黒い革手袋。
マネージャーの一人、木原相似は淡々と機材の片付けをしながら天羽の言葉を聞き流しては、適当に返事を返す。
「貴女の技術班として雇われている以上、それ相応のことはしますよ。さすがに丸投げは困りますが」
「次のライブ、数多くんも技術班で入るんでしょ?こういうの相似くんに頼りっぱなしだし、たまには有給取りなよ?」
「機械いじるのは好きですからね、苦ではありませんよ。貴女は大っ嫌いですが」
「へー、すんませんあたしが雇い主で」
嫌いという言葉に少し胸を痛めながら撮影部屋から逃げるように出て行く。バレエブーツのヒールが床を蹴り、高い音が廊下に響いた。
甲高い音は悲鳴のようで、ひどく鬱陶しい。
「おい、配信中にクソガキきたからテメェの部屋通したぞ」
扉を開いて部屋から出ると、苛立った様子のテレスティーナと鉢会う。顎で天羽の自室を指して急かすような目線で見つめてくる彼女は、いつものぶりっ子をしていない。
「えー!今日来るって聞いてない!どーしよ、エロ衣装のネタないよ……取り敢えず裸で行けばいい?」
「ただの痴女ですよそれ」
「この間の裸エプロンも大差ねぇぞ」
「でも結局脱ぐし、服とかいらなくない?」
相似くんも加わり、学者三人で廊下を歩く。ヒールのせいで突出して背が高い天羽を挟むようにつまらない話をしながら研究室へと向かった。
一方通行には
垣根帝督にはスクールの面々。
御坂美琴には風紀員で後輩の白井黒子
麦野沈利にはアイテムの面々。
食峰操祈には派閥の子たち。
削板軍覇は分からないが、ともかく
天羽の場合、それは木原だった。この病院の冥土帰しも含まれるが、彼は保護者なのでアイドルそのものには干渉していない。
彼らは彼女のためにスケジューリング、交渉、技術開発、マネタイズ、その他諸々を行う。
金と暴力と謎の心地よさで天羽の支配下にある木原たちだが、この二人においてはもっとも重要な業務を任せられていた。
それは天羽と垣根の恋愛面のバックアップである。
「けれど前回の服装は一応男性が求める割合が高いものを選んだんですけどね」
「肌面積っしょ」
「バカっぽいので好まれるんでしょうねぇ。金太郎みたいですし」
「貶すんじゃねーっての」
なので基本的に天羽の
「やっぱ可愛いパジャマだろ!買ってやったやつ着ろよ!」
「テレスティーナさんが選ぶの可愛すぎるからエロいのがいい……あたしは好きだけどさ……」
「可愛いほうが男ウケいいぞ?」
「それは恋愛面においてでしょ?体の関係になるためには肉欲を煽る服の方が手っ取り早いじゃん」
しかし相似とは反対にテレスティーナはこの業務が好きだった。可愛い物好きなのは本当で、着せ替え人形を扱うようにいつも衣装を見繕ってくる。
しかし同じ趣味を持つ天羽でも垣根に対しての作戦では可愛いものは採用されないのでただテレスティーナの趣味に付き合っているだけになるが。
「あー、もう、ほんとにこの子は……」
「近々ドラマの撮影でプールにロケしに行くので、今日は控えめにしたらいかがです?たまにはそういう日があってもいいと思いますよ」
「……それもそうかな。とりま今日はお疲れ、あとは解散でいいよ」
木原たちをあしらって鍵のかかった自室にノックを三回して入る。何か言いたげな木原たちを置いて、アイドルではなく一人の少女としてドアを開けた。
笑顔を作って理想の少女を完璧に演じきる。
それが彼女にとっての愛だった。
「垣根くんお待たせー!……あれ?」
ドアを片手で閉めて辺りを見渡すが、そこに愛しの少年はいなかった。あの茶髪も、あの低い声も、高い背も見当たらない。
キョトンと首を傾げてもう一度周りを見渡す。けれどやはりいない。
目につくのは不自然に膨らんだベッドの上くらいだった。
「……寝てる」
盛り上がったベッドに近づくと、可愛らしい寝息が聞こえてくる。静かな部屋で、彼は薄いブランケットに包まって眠っていた。
随分と疲れた様子で、ベッドの上に腰掛けても全く起きない。安心しているのか、寝顔はとても安らかだ。
「必要なのは女体ではなく柔らかい毛布、か」
しかし気に入らない。
そのベッドは寝るためじゃない、彼の欲を受け止めるために買ったのだ。彼に天羽の体を使ってもらうためにここにあるのに、用途が違う。
一体何がしたいのか分からなかった。
どんな理想にも成れ、どんなことも受け止められるこの体を使用してもらえないのが怖い。
別に好きじゃなくていい、嫌いで構わない。
けれど天羽彗糸を認めて欲しい。彼の役に立てる、彼のために身を捧げられる。それを知ってほしい、そして使ってほしい。
大好きだから、彼しか見えていないから、彼に認めてほしい。自分にしかできないことで。
何か腑に落ちない。
「なんかなぁ……」
胸のあたりに汚い膿がたまる。
自分ではなくブランケットで体を温める少年の姿に、何か言語化できないおぞましい感情が浮かんで、心臓の奥に沈んでいく。
何か認めたくない想いが芽生えそうで、恐ろしかった。
そういうつもりで能力を考えたわけじゃないんですけど、よくよく考えたらそういう用途にぴったりですよね。っていう話です。