とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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誰だお前!回です


act6:黄金の輝きに価値がある

一日の撮影は終了し、割り当てられたホテルの一室で天羽彗糸は小さくため息を吐いた。

 

(水着、嫌だったのかな)

 

ベッドの上でスマホの中の画像を見ながらもう一度ため息を吐く。

赤い水着の自分と、その他の女性陣と一緒に撮った自撮り画像は目に溜まった水分で少し歪んで見えた。

 

自分のアカウントに掲載するために撮った画像は、自分で言うのも躊躇うほど綺麗に写っており、胸の谷間もハッキリ見えている。

どこからどう見てもエロくて、男向けの体をしているのに。

 

(垣根くんは、小さい方が好きなのかな)

 

不安が膨らむ。

彼に必要とされなければ、彼の隣にいる権利が無くなるのだ。

 

ずっと一緒にいたい。隣で笑顔みたい。

そのためには役に立つしか道はなかった。

 

「あ、そうだ。テレスティーナさんから貰った……これだ」

 

ふと思い立ち、別のアプリを開いてスクリーンに指を滑らせる。

テレスティーナから安全の為にと貰った鍵のアカウントを開いて、撮影中のドラマの公式アカウントへ飛ぶ。

 

十月、秋クールから始まるドラマの番宣、オフィシャルティーザーやポスター、アー写などが投稿されているアカウントには、垣根と天羽、主人公二人で写ったものがあった。

当たり前ではある。主人公なのだから。

 

(画面の中だと笑ってくれてるのにな)

 

かっこよく微笑む垣根の姿に目が眩む。

画面の中の自分が酷く羨ましかった。

 

なにか恐ろしい感情が自分の中で渦巻いている。あの日以来、おぞましい感情が心の中で目覚めて、酷く気持ち悪い。

 

恋は支配。

それを認めるのは酷く悔しかった。

 

「あら、SNS?珍しい」

 

「食蜂ちゃん!どうしたの?」

 

静かにベッドに顔を埋めていると、がちゃんと大きな音を響かせてドアから金髪の少女が現れた。

スマホから顔を上げると、大きな荷物を持った友人、食蜂操祈の姿が映る。がらがらとスーツケースを転がして天羽の隣に座ると、スマホの中を覗き込んだ。

はちみつの香りがふんわりと舞って、なんだかどきっとしてしまう。

 

「作戦の続きよ!露出度の低い色気ある服装なら、あの人も褒めてくれると思って、色々持ってきたのよ」

 

「褒める……別にそういう言葉が欲しいわけじゃ……」

 

「いいから、次の作戦に移りましょ?」

 

「でもさぁ、さっきもなんもなかったし、やる必要もうないでしょ」

 

どこか楽しげにスマホから目を離すと、今度は持ってきたスーツケースに視線を移す。

彼女の口ぶりはどこがご機嫌で、なにか企んでいるかのよう。

あまりにも普段とかけ離れた姿に疑問を持つも、スーツケースを開けていく彼女の後ろ姿にそれを聞くことも出来ない。

 

「いいえ、結構いい線いってたわぁ。垣根さんの目が怖すぎてちょっと嫌いになりかけたもの」

 

「そうかなぁ、垣根くんいつも目つき悪いから……」

 

「だから次は正攻法でアタックするわよ」

 

「はぁ……どんなの?」

 

「乙女アピールできる夏の風物詩って言ったら、一つしかないでしょ?」

 

スーツケースから取り出したのは一枚の布。色とりどりの柄が入った薄手の布は、普通の洋服とは違う寸法で繋がっていた。

 

とても涼しげで、鮮やかな布。彼女の言葉にその意図を理解すると、二人顔を見合わせて頷いた。

しかしその考えに大きな不安ばかりが増す。

 

そんなテコ入れであの少年が振り向くとは思えない。

 

「仕掛けは終わったわ、あとはあなただけよぉ」

 

小さな紙を置いて食蜂が微笑む。今晩行う余興の招待状、そこにかかれた字を眺めながら困ったように眉を下げることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マネージャーとの簡単な打ち合わせも終わり、あとは休むだけ。ホテルの廊下を進み、渡された鍵で宛てがわれた一室を開く。

広いバスルームに柔らかいシングルベッド。リゾート地に相応しい部屋に踏み入れると、その違和感に足が止まった。

 

「話し合いの機会を設けるとは言ってたが……」

 

ベッドの上に不自然に置かれた布と、数枚の紙。

一度荷物を置きに来たときはなかったはずと記憶を整理しながら手を伸ばすと、紙に印刷された文字を目で追った。

 

一時間後に行われる余興の告知、及びその招待。

そしてもう一枚は、その布の扱い方について。

日本の伝統、浴衣の着付け方である。

 

「なんつー短絡的な……」

 

行われるのは全員参加の肝試し。

 

綺麗に畳まれたシックな色合いの浴衣を手に取り、小さく口角を上げる。

全員参加の文字を見つめ、着ていたTシャツに手をかけた。

 

「ほんと、馬鹿馬鹿しいな」

 

吐き出した言葉とは裏腹にどこかご機嫌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街灯が薄らと光るホテルの裏、舗装された地面があるとはいえ、木々が生い茂る道は薄暗く、幽霊といった類がでてきてもおかしくない雰囲気を醸し出す。

しかし、集った者と比べれば一切恐ろしさは感じない。

 

この場にいるのは軍をひとつ滅ぼせると言われる超能力者たち、そのすべて。

第一位から第七位まで。人によっては悪夢のような光景に比べれば、暗い木々を歩くなど肝試しにもならないだろう。

 

「ルールは簡単。この道をまっすぐ行って、反対側に出ればオッケーよ。一応スタッフが脅かしに来るけど、反撃しないように。ホテル側の好意でやってるから迷惑行為は慎んでちょうだいね」

 

懐中電灯を持って愛嬌のある笑顔を見せると、食蜂は集まった人達に釘を刺す。

友人の恋愛事情を隠すために全員集めたはいいもの、問題児ばかりの超能力者に肝試しは少し難しいかと今更になって後悔してしまう。

 

「それは分かったけど……どうしてこう勝手に二人組を決めるのかしら?」

 

「喧嘩するのが目に見えてるからよぉ」

 

「う……だからって、なんで……」

 

早速うるさく文句を言ってくる第三位にため息交じりに答えるも、何やら嫌そうな視線で見つめ返される。

 

この肝試しは天羽と垣根のペアを違和感なく溶け込ませる為、二人組で行う。

その結果、ほかの四名は食蜂が勝手にペアを作った。

麦野、御坂の女性二人組と、一方通行(アクセラレータ)、削板の余り物組。

ただ性別で分けただけだが、それでも何か言いたいことがあるようで、御坂たちは酷く嫌そうな顔で互いの視線を交差させる。

 

「文句言いてェのはテメェだけじゃねぇんだ、我慢しろ」

 

「そう言いながら参加するのな」

 

「ガキがうるさいからな」

 

「あー……なるほど」

 

だが珍しいことに、一触即発の空気を取り持ったのは第一位の一方通行。

手伝いに来たそれぞれのマネージャーたちを横目で見つめて、借りて来た猫のようにむすっとしながら近くの柵に寄りかかると、苛立ったように腕を組む。

いつもの一方通行からは考えられないお利口さに一瞬静かになるが、それでも悩み事は尽きないようで険悪な雰囲気は続く。

 

「でも一番心配なのは……」

 

「あ?」

 

「先輩に変なことしたらアンタ、snsで晒すわよ」

 

「脅しが現実的すぎる」

 

天羽に懐いている御坂にとって一番の心配は垣根。彼らの関係性を知らない部外者にとって二人のペアは地雷のよう。

犬のように仲良くしようと励む天羽を鬼のように拒む垣根。暴言を吐き、拒絶し、彼女の前ではいつも怒っている垣根が、二人きりで暗い道を散策するなど到底無謀だ。

 

そう思っていないのは本人の天羽と垣根、そして内情を知る人たちだけ。

思いが強すぎて奥手で面倒な二人だとは、何も知らない人たちは想像もできない。

 

「そういや天羽はまだ来てないな。どうなんだ主催」

 

「集合時間は教えてるし、そろそろくるはずだけど……」

 

その本人はどうやらまだ来ていないらしく、垣根はどこか落ち着きがないように辺りを見渡す。その様子は側から見たら苛立っているようにも見え、彼の素顔をよく知っている人から見たら浮かれ過ぎにも見える。

幸い、この肝試しは彼らの仲を知る食蜂が企画し、設営しているもの。スタッフはもとより、警備も彼女の手中、たとえボロが出ても外部に見つかることはないが、超能力者は別。

他の参加者に気付かれてはならない中、垣根の態度は少し不安だった。

 

「もしかして、あたしのこと言ってる?」

 

「あれ?天羽さんいた、の……」

 

「……は?」

 

そわそわと待ちぼうけをくらう垣根の後ろで、カランと下駄が鳴る。涼しい音と少女の声。

喜びを隠して振り向いた先、垣根、そして食蜂たちの目に知らない少女が写った。

 

「ど、どちら様……?」

 

「へ?」

 

地面についてしまいそうなほど長く、艶やかな黒髪、片目を隠す前髪。

超能力者の中でも低い背。

 

そこにいたのは見たこともない少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木々の間に挟まれて、懐中電灯の光を頼りに歩く。下駄の音と、偽物の蝉の声。

夏の蒸し暑さに汗が落ち、浴衣が肌に張り付いた。

 

「スタッフの姿ないねー。食蜂ちゃんが気利かせてくれたのかね?」

 

黒髪が揺れる。

 

「でも本当にお化け出たらヤダなぁ。あたしの能力じゃ、お化けはさすがに倒せないからなー、困る」

 

甘い香りと、甘い顔。

いつもの彼女と同じ、けれどその姿は全く違う。

 

「……彗糸、だよな?」

 

「そうだけど、なんか変?」

 

「いや、変つーか、もはや別人だよな?」

 

濡羽色の髪と瞳、身長は垣根と頭一つ分低い。青緑に赤と白の花の絵柄が咲いた綺麗な浴衣が異様に似合う大和撫子。

 

気持ち悪い。

 

望んでいたものと違う。

浴衣美人を望んでいたわけではないのに。現れたのは黒髪で、小柄で、儚い少女。

金髪で、背が高くて、胸がでかくて、似合わないと愚痴をこぼして不機嫌になってしまう、そんな愛すべき愚かな少女が来るのを待っていたのに。

現実は違っていた。

 

「なんで、イメチェンなんて、急にどうしたんだよ」

 

「だって、浴衣は小柄なほうがいいでしょ?」

 

「は?」

 

前を歩く少女が垣根の言葉に足を止める。知らない顔で、知った声で彼女はただ笑うだけ。

強烈な違和感と嫌悪感が垣根を襲う。

 

「それだけ……?そんなくだらない理由で、体格も、何もかも、変えたってのか?」

 

「ん?別に、それだけじゃないよ」

 

おぞましい思考は姿が変わっても同じ。下駄を鳴らし、垣根の前で笑みを浮かべて立ち止まると、その腕が垣根の腰を掴む。

目線がいつもと違う。

不愉快で、苛立ちが増すばかり。

 

「ねぇ、セックスしやすい身長差って、22センチ差なんだって」

 

「は?」

 

「垣根くんは180だから、158、ちょうど今くらいだ」

 

「……ッッ!!?」

 

「それとも、もっと小さいほうがよかったかな?」

 

つま先立ちでも今の彼女では垣根の目線まで届かない。いつもと違う。顔も、声も遠くて、心音が遠のく。

 

あの金髪がない。

あの眩しい髪が黒い色に飲まれて消えてしまった。

 

吐き気がする。そこに好きな女の姿はなかった。

 

「あたし、垣根くんのためならなんでもできるよ。だからなんか言ってよ!」

 

「っ!やめろ!」

 

知らない女に追い詰められて、体重をかけられる。あまりにも恐ろしい。

彼女のいらない配慮が怖くて、気持ちが悪くて、大嫌いだった。

 

その恐怖から少女の柔らかな胸を強く押し返す。浴衣の上からでも形が分かるほど強く体を引き剥がすと、少女の体はいとも容易く地面に崩れた。

綺麗な青緑色の浴衣が地面に汚れ、長い髪に土が跳ねる。背後のプールから聞こえるさざ波が静かな空気に反響して、心音が大きく耳を支配していた。

 

(やべっ!!)

 

「……そっか、キミはやっぱり体は求めてないんだね」

 

「は?」

 

「垣根くんにはちゃんと三大欲がある。食欲、睡眠欲、性欲。でもあたしが満たせるのは睡眠欲だけなの?食欲はあたしから言い出さないと欲しがらない。性欲は言わずもがなで、あたしに求めてるのはただ綺麗な布団を貸すだけ?」

 

浴衣についた土を気にも止めず、少女は立ち上がって力なく笑う。

 

やはり今日の彼女はどこかおかしい。昼のことも、いまも、何か切羽詰まっているかのような憔悴しきった目で垣根を見つめる。

哀れな姿に心臓が締め付けられて、まともな思考ができない。

 

「あたしが露出度をあげて、わざわざ手を出しやすいようにしてるのに、何もしてこないのはあたしにそれを求めていないから?あたし、役に立たない?」

 

長い前髪が顔を隠す。昔、出会った初めの輝きはそこになかった。

 

「あたし、垣根くんの役に立ちたいのに。あたし意義はベッドを貸すだけなの?」

 

静寂の中、ポツリと呟いた言葉が響く。

その言葉は何回も、何回も、垣根の心の中で反復された。少女の言葉に明晰な頭脳がついていかない。

 

そうだ。

彼女の機嫌が悪くなったのはあの日から。最後に病院の研究室を訪ねた日から。

ならばその日、その時、その行動に原因が必ずある。

 

「……お前、構って貰えなくて拗ねてたのかよ」

 

その日に行なったことといえば、ベッドの中で勝手に寝ていたことくらい。

 

ようやく腑に落ちる。避ける理由も、逃げる理由も、原因は垣根本人にあった。

女を不安にさせたこと。それに尽きる。

 

男としては最低かもしれない、とふてくされて地面を見つめる少女にため息をつきながら自己嫌悪に浸る。

彼女は誰よりも面倒で、愚かな子供。その思考を矯正すると豪語しておいてこのざまか。

 

乙女心が未知とはいえど、その感情が理解できればただの可愛い駄々にしか見えない。

理解できればもう恐怖はなかった。

 

「違う」

 

「だからイメチェンして関心を引こうと……案外乙女だな、お前」

 

「ちがうって!」

 

「違わないだろ?」

 

彗糸の手をとって、機嫌の悪い頬に手を添える。怒っていても、垣根の手を振りほどかない意志の弱さが可愛そうで、ぎゅっと心臓が掴まれるような感覚が広がった。

 

──キスのひとつくらいしてあげてみれば?

 

食蜂の言葉を思い出す。心音が二つ、重なった。プールから流れる塩素の匂いと彼女の香りが脳に浸透して、その言葉が嫌に大きく意識に残る。

 

心臓が縮む。唇から漏れた息が生暖かい。

無責任な言葉に気を取られ、顔が無意識に近くなる。

頬に触れる手がやけに強張り、後ろから聞こえる波の音が耳にまとわりついて離れなかった。

 

距離が近づく。

心音が高まる。

後戻りはできない。

 

しかし、甘い酸素は途端に苦味を増した。

 

「ァァァァァァアアアアッァァァァ!!!??」

 

静寂の中、二人の甘い空気を切り裂く叫び声が人工の夜空に響く。

 

結局、唇は触れなかった。

 

「お化けに怖がるとは!根性がねぇな第一位!!!」

 

「怖いのはテメェだァァァァァァ!!!」

 

「あんたたち待ちなさい!!!おいてかないで!!!」

 

「テメェら走るんじゃねぇぇ!!!騒ぐな!!!!」

 

超能力者たちの叫び声が爆速で通り過ぎる。白いのっぽを抱えた削板と、追いかける麦野から逃げる御坂。

電車のように目にも留まらぬ速さで消えて行く超能力者たちは、空気を全て入れ替えて走り去って行った。

 

空気がガラリと変わった。

もうキスだの愛だの囁き合う空気ではなくなって、取り残された二人は呆然と違い見つめ合う。

 

「……運がねぇな、俺もお前も」

 

「なに?」

 

「お前が心配しなくても、俺はいつものお前が好きだってことだ」

 

行き場のない手で体を引き寄せて、優しく包む。それぐらいしか今の垣根にはできない。

いつもの姿じゃないのが少し不服だったが、無機物に嫉妬したことは大きな進歩。

少しくらい、甘えさせてもいいだろう。

 

「……じゃあ、今度は布団じゃなくてあたしを使ってね」

 

「それは遠慮しとく」

 

それでもまだ思考は変わらない彼女に呆れつつ、腕に入れた力が微かに強まる。

 

もっとたくさん嫉妬しろ。

もっとたくさん悩め。

 

垣根帝督という男に、その全て支配されてほしかった。

 




浴衣実装してくれ
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